間章その一『星波学園の人々』37
★夜衣斗★
下駄箱の前にでっかいテディベアが、あくびをしながらでんっと座っているのが視界に入り、俺は思わず足を止めてしまった。
そのテディベアの膝の上には、ゴスロリ女が座りながらこちら、と言うか俺の周囲を飛び回っているソードサーバントを見ている。
………しまった!消すのを忘れてた………。
疑問符が浮かんでそうな表情をしているので、俺がここにいる事は気付いていない様だが………とりあえず、ソードサーバントをステルスサーバントの不可視化領域に入れる。
それにより、ゴスロリ女が、おお!って感じで驚き、テディベアの膝から飛び降りて、こっちに向かってダッシュしてくる。当然、その後ろをテディベアがのしのし追っかけてくる。
そろりそろりとその場から離れ、下駄箱に向かおうとしたが………どうも下駄箱には他にも待ち伏せしている逆鬼ごっこ参加者がいる様だった。
弓道着を着ている女の子(身長からして小学生ぽい)。エプロンを着用した男女(制服からして、中学生と高校生)。黒いローブを着た不気味な人(不明)などがいるのが下駄箱にいるのが見えた。
……これは………流石に………まあ、何となくこうなる事は予想していたから、鞄の中に上履きは入ってるから、どこから入ってもいいんだが…………どこから入ろう?………ってか、今の俺って、何だか泥棒みたいじゃね?………む〜。
★飛矢折★
なんだか外が騒がしい………。
登校時間だと言うのに、不自然に騒がしい外の音が気になり、あたしは思わず着替える手を止めてしまった。
あたしの動きに気付いた部活の先輩である朝日竜子部長が、窓から顔を出して外の様子を確認する。
「逆鬼ごっこ見たいよ」
逆鬼ごっこ………その言葉の意味に……無意識の内に身体が強張っている事に………気付いた。
あたしの様子に気付いたのだと思う。朝日部長は、優しく微笑んで、
「私ね。最近美味しい洋菓子屋を見つけたの。今度一緒に食べに行かない?」
「え?いえ……その、あたし、甘い物はちょっと……」
「じゃあ、ピザ食べに行こ?私、おいしいピザ屋も知ってるの」
「ピザですか……そうですね。いいかもしれません」
「じゃあ決まりね。そことピザね。とっても美味しいのよぉ〜」
そこから朝日先輩はそのピザ屋の事・昨日のテレビの事………他愛のない会話を一方的に続けてくれた。
………きっと朝日部長は、逆鬼ごっこが落ち着くまでここにあたしを留めておくつもりなんだと思う。
後輩の為って事もあるだろうけど、逆鬼ごっこに参加している武霊使い達を気遣ってもいるんだろと思う。
………部長に余計な気遣いをさせてしまった……早く何とかしないと……それにしても、この時期に逆鬼ごっこって………一体誰が?
そう考えた時、昨日の転校生の事を思い出した。
……まさか彼が?……転校二日目に逆鬼ごっこをするなんて、前例、聞いた事がない………でも、彼は武霊使いだって言うし……彼以外に逆鬼ごっこをする必要性のある武霊使いはいないはず………だとすると……大丈夫かな、彼。
いかにも軟弱そうな身体を思い出して、ふっとあたしは心配になった。
気が付くと、朝日部長の顔が近くにあった。
驚くと同時に、反射的に手が出てしまい、それを朝日部長はあっさり止めた。
「うふふ。恋慕の表情ねぇ〜」
っな!っち!
「違います!」
誰があんな軟弱そうな男に!
「むきに否定する所が余計に怪しぃ〜」
な!な!…………でも、確かに、気になってるのは確かなのかもしれない………でも、それが恋心だとは思えない………そもそも、あたし、生まれてこのかた恋をしたことがない様な………。
「お姉さんが恋愛のイロハ教えてあげようか?」
「結構です!」