間章その一『星波学園の人々』33
★美羽★
逆鬼ごっこ開始の鐘を聞いた時、私は後ろを取った琴野のヒノカからの攻撃を必死に避けている最中だった。
驚きと共に後ろを見ると、琴野も驚いたのか攻撃を止めて学園大門の方を見ている。
私はコウリュウに心の中で指示を出して、ヒノカの上に反転させて近付かせ、琴野の隣に飛び降りた。
「ちょっと、どう言う事!?何で逆鬼ごっこが始まってるの?」
私の問いに、琴野は学園大門に向けたまま眉を顰めた。
「わたしくしが知るわけないでしょ?………ですが、多分、副会長が代理をわたくしの代理を務めたのでしょう…………あの男、余計な事を……」
最後の言葉はぼそっと、私に聞えるか聞こえないかの声でのつぶやきだった。
よく分からないんだけど、琴野と三島さんには微妙な距離がある。
別にはっきり対立しているってわけじゃないみたいだけど…………って!そんな事より、早く逆鬼ごっこに参加しないと、夜衣斗さんが!!
そう思って学園大門の方向を見ると、予想以上に多い参加者の人垣と、『何故か動かない』夜衣斗さんの姿を確認して、私は目を瞬かせた。
普通は開始直後に逃げるんだけど………夜衣斗さん。何を考えているんだろう?
★???★
星波学園名物の一つ『逆鬼ごっこ』は、鐘のなった瞬間、普通の武霊使いなら全速力で学園大門から離れる。
だが、黒樹夜衣斗は動かなかった。
それどころか、ぼーっと空を見ている。
その意図が分からず、逆鬼ごっこに参加している者達や、登校中の無関係の学生や見物の学生まで、ざわつき始める。
そして、二度目の鐘。
それでも動かない夜衣斗に、逆鬼ごっこ参加者は一瞬躊躇う様に動かなかったが、誰かが上空から接近する赤井美羽・コウリュウに気付き声を上げた瞬間、武霊研究部に取られてなるものかと一斉に夜衣斗に向かって殺到し始めた。
その時、ぼーっと立ってるだけの夜衣斗がにやりと笑った事に、一体どれだけの人数が気付いただろうか?
殺到した逆鬼ごっこ参加者の先頭の手が夜衣斗に触れ様とした瞬間、ポンっと音を立てて夜衣斗は『小さい円盤』になった。
夜衣斗に向かって殺到していた者達の先頭は、すぐさまそれに気付き止まろうとするが、気付いていない後ろの者達に押され、終にはぐちゃぐちゃになって集団で倒れてしまった。