可能性の話
「どういたしましょう?17歳でこれだけの容姿ならば相当才能がありますよ」
「いや、しかし…。わが神殿から出す候補はすでに決まっている…」
何やら興奮したような神官たちの話は先ほどからずっと続いている。エリーは放置されてボーッと突っ立っている。そこに神官たちの話し合いに加わらなかったロイがエリーに話しかけてくる。
「エリー、きみ、ほんとに17歳なのかい?見た目はサミエルと同じくらいだよねえ…」
ロイは上から下までエリーを眺める。エリーはちょっとムッとする。
「いちおう聞きますが、サミエルさんはお幾つですか?」
「ん?この間12歳になったかなあ」
つまりエリーは11、12歳に見えるということだ。ロイはうーんと首を傾げながら、エリーを観察する。首の上の辺りで切り揃えられた茶髪と、くりっとした青い瞳。頬はまだ成長しきっていない、子どものようにふっくらしている。身長はせいぜいロイの腰くらいだ。うーん、どうみても。
「17歳には見えないよ」
エリーは無言でロイの腰に拳をぶつけた。
「17歳です!真名式を受けてから、秋が10回過ぎました!間違いありません!」
大声を上げたエリーに部屋中の注目が集まる。エリーは構わず叫ぶ。
「なんなんですか!人が気にしていることを、そんなに繰り返して!」
涙目のエリーにロイは慌てたようにぶんぶんと両手を振る。
「いや、エリー。違うんだよ!年齢より若く見えるのは神官としては最高の素質のひとつなんだ!」
「もう神官さんの言うことは信用できません!いいです!わたし、街で仕事を探します!別に神官になろうなんて思ってもいなかったし!」
エリーの言葉に今度は部屋中の神官たちが慌て始めた。
「いや、きみほどの才能の持ち主を放り出すわけには!」
「むしろ、それだけの才能でなぜ今まで無事でいられたのか!」
「誘拐されるとか、売られるとか、そんなことがあってもおかしくありませんよ!」
次々と恐ろしい可能性を指摘され、エリーの涙は引っ込んだ。そしてこの場で一番信用できそうなエルザ神官を恐る恐る見上げる。エルザ神官は溜め息をついた。
「この子は何も知らないようですし、わたくしから説明をいたします。皆は聖務にお戻りなさい」