宣伝と説教
結論から言うと、エリーは大聖堂で爆睡してしまった。さらに言うならば、ロイのお祈りの締めくくりの言葉に被せるように突然立ち上がったエリーは、木苺ジャムの宣伝を始めた…らしい。エリーには全く記憶がないのだが、大聖堂中の注目を集めた上に、仕切り役を放り出して喜んだロイからの一年分の注文を受け付けたのだそうだ。目が覚めたときはもう次の日の昼近くになっていて、エリーははじめましての神官たち大勢に囲まれ、説教されていた。
「全く情けない!いくら自宅が全焼しようと、大聖堂の中で、しかも祈りの最中に眠りこけ、あまつさえ、ジャムの宣伝など!前代未聞ですよ!」
一番年嵩の女性神官に怒られる。女性神官たちは祈りの時以外は、髪型はシニヨンで髪をベールで覆うのが決まりのようだ。エリーを囲んでいる女性神官たちを観察する。見たところベールは項まで、肩まで、背中までの三種類の長さがあり、一番年嵩の女性神官は背中まである。つまり、偉くなればなるほど、ベールが長くなる!
「なるほど!」
「何がなるほど!ですか!話を聞いていませんでしたね?!」
ますます怒られた。
「まあまあ、エルザ神官。それくらいにしてあげてよ」
そうっと割って入ってきたのはロイだ。この男、先ほどから3時間近くエリーが説教されているのを端から眺めてオロオロしていた。全く不甲斐ない!エリーは恨みを込めてロイを見上げる。
「この子も自宅を失ったその日にメヌエ村から歩いてきたわけだから…。そりゃあ疲れて寝ちゃうよ。こんなに小さいわけだし」
ロイは庇ってくれたようだが、こんなに小さいとは聞き捨てならない。エリーはたまたま成長期に栄養を取り損ねただけである。まだ伸び代はある!
「ロイさま!貴方も貴方ですよ!祈りの場に遅刻したばかりか、ジャムの注文をするだなんて!」
エルザ神官の標的はロイに移った。ロイへの説教は止めるものが居なかったため夕刻まで続いた。後で知ったのだが、基本的に夕べの祈りはロイが仕切っており、よくロイがいなくなるので皆が迷惑しているらしい。さらに、夕べの祈りが終わらない限り、夕食はとれない決まりだそうで。ロイのせいで空腹のまま待たされることになった他の神官たちの恨みは相当深かった。エリーも後に、同様の理由でロイへの恨みをつのらせていくことになる。
「…それで、貴女はこれからどうしたいのですか?」
エルザ神官はようやくロイへの説教を終え、エリーの方へ向き直る。エリーは首を傾げ、1拍おいて青ざめた。
「わ、わ、わたしはここで働きたくて…!あっあっそこの神官さんが採用って…!」
まさかここまできて採用取消なんてこと、ありえそうでこわい!なにせエリーは大聖堂で事件を起こしてしまった犯人(?)だ。放り出されてしまうかも!慌てて内定を貰っていたことを伝えてみる。エルザ神官は溜め息をついて、ロイの方へ向き直った。
「ロイさま、なんっにも説明なさらなかったのですね?」
いや、ほら急いでたから…。ぶつぶつもごもご言い訳をするロイにもう一度呆れた目線をやったエルザ神官はエリーを見つめた。
「エリー。今後に関わることです。真剣にお聞きなさい。そして自分で決めるとよいでしょう、自分の未来を」