神官と門番
「おおい、ちびっこ。メヌエ村はロイ神官の担当区だ。一等神官だから、面会はむず…って!ロイ神官!なぜここに!?」
割りと親切な門番が戻ってきた。ロイと呼ばれた青年は木苺がたくさん入ったかごを抱えたまま、やべっという顔をする。
「今は夕べの祈りの時間ですよ!貴方がいなかったら皆が困るでしょうに!」
詰め寄る門番にロイは目を左右にさ迷わせながら、ええとええと、と口ごもった挙げ句、ビシッとエリーを指差した。
「そう!彼女!彼女が来ていると聞いて!」
エリーはイヤな予感がした。この神官、巻き込みやがった…。
「彼女がどうかしたのですか?メヌエ村の者でしょう?お知り合いだったら面会は聖務の後にしてください!」
「いや、ちがうんだ!」
どうもロイはこの門番より弱いらしい。野生の本能で察知したエリーは、ロイの側を離れ、強者の元へそろっと移動を試みる。が、その前にロイにガシッと手を掴まれてしまう。
「彼女はそう!神官見習い候補なんだ!それでぼくが直々にお迎えに来たわけさ!」
聞いてないぞ、オイ。
とりあえず、急いでください!叫ぶ門番に背を押され、ロイは慌てて神殿の奥に走り出す。当然、手を掴まれたままのエリーは引っ張られていく。身長差とスピードが相まって、エリーはほとんど宙に浮かんでいる状態だ。
「くうぅ、今日に限って門番がシドだなんて!聞いてないよ!」
「神官さん、今どこに向かってるの!?わたしの採用は!?」
エリーは大声で叫ぶ。重要事項だ、どさくさに紛れて取り消されていないか確かめねば!
「さっき言った通り!きみは採用!神官見習いとしてこれから頑張ってくれよ!まずは…」
こんな適当な採用でいいのか?とエリーは思ったが、今回は好都合。ツッコミはやめた。ロイは神殿の廊下の正面の扉の前に立つ。装飾が多く、荘厳な雰囲気の扉である。あっ、ここ知ってる。真名式の時に入ったぞ。確か、大聖堂…。
「じゃあ、エリー。ぼくはいったん祈りを仕切らなくちゃいけないから、きみは一番後ろの席にでも座っててくれ。後で迎えに行くから!」
ヒソヒソ声で言ったロイは、まさかの放置…と呆然としているエリーに構わず、大聖堂の扉に手をかけた。