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就活と賄賂

神殿に着いたのはちょうど日が沈んだ頃である。神殿はこの辺では一番大きな(つまり、特別な儀式か、特別な買い物の時しか来ない)街の真ん中にどどーんと構えている。もちろん、街中では一番大きい。いつも村の人から豪胆だ、将来大物になるぜえ、と言われているエリーも乗り込むのに神殿の前を一、二度無意味に往復してしまうくらいには。しかし、これからの衣食住(間に合えば今日の夕飯も) がかかっている。ここでひいては一生の恥!エリーはかごをぎゅっと握りしめ、神殿の正面に進んで、門番に止められた。

「申し訳ありませんが、本日の祈りの時間は終了しています。またのお越しをお待ちしております」

エリーはびっくりした。神殿は24時間営業だと思っていたのだ。困った。これでは神官さんに会えないではないか!

「いや、でもわたしは祈りに来たのではなく…」

「はっ?」

途端に門番は訝しげな表情になって、エリーを上から下まで眺めた。そし鼻を鳴らす。

「物乞いか。さっさと帰るんだな!この街にいるより森にでもいたほうが食べ物にありつけるだろう」

物乞いとは失礼である。ちょっとばかり火事の余波で煤けただけなのだ。エリーは悔しくて地団駄を踏みそうになる。でも止めた。ここは落ち着くべきだ。森に行けとのアドバイスは森を知らないものだから出来るのだ。ガチンコ野生バトルではエリーに勝ち目はない。

「いいえ、わたしは神官さんに会いに来たのです。物乞いではない」

「は?どの神官だ?名前は?」

「知らない。一月位前、わたしの村に来て、神殿に勧誘してくれた」

「どこの村だ?」

「メヌエ村。半年に一回来るよ」

ちょっと待ってろ、と言って神殿の奥に門番が消えていく。あら割りと親切。待つ間暇ができたので神殿の前の大きな階段に腰掛けて木苺を食べ始めた。うん旨い。ジャムにしたら高く売れたのに。しばらく食べているとふと、自分以外の手が木苺を摘まんでいるのに気づく。ムッとして隣を見ると、暗がりでよく見えないが、男の人がエリーの横に座り、大切な木苺を盗み食いしている。許すまじ。

「これはわたしの木苺です」

木苺のかごをしっかりと自分の膝の上に抱え込む。はっきりと所有権を主張する。

「ああ、ごめんごめん。とても美味しそうな木苺だったから、つい」

あまり悪いと思っていなさそうな軽い男の声。しかし、エリーは聞き覚えがあった。これはいつもの神官さんの声!

「許せません、ので、わたしに神殿で働く権利をください。そしたら残りの木苺を差し上げましょう」

「おや…」

神官はよっと立ち上がると、神殿の入り口にかけてある松明の下まで移動し、ちょいちょいとエリーを手招きする。エリーは誘われるまま神官に近づく。神官近くまで行くと、彼はエリーの目線に合わせて腰を屈める。

「誰かと思えば…、僕の勧誘を断ったメヌエ村のエリーちゃんじゃないか」


かくかくしかじか。エリーが家を失って神殿に就活に来たことを伝えると神官は嬉しそうに笑う。

「いいよ、ちょうど人員募集してたからねえ」

神官はエリーの頭を撫でて、エリーが献上した木苺のかごから一粒とってぱくりと食べる。気に入ったようだ。

「…ただ、ちょっと下働きは今足りてるなあ~。きみ、他に何できる?」

ギクッ。エリーは心臓が跳ねた。えーとえーと。

「後は木苺狩りくらい…」

ふむ。神官の目が光る。ここは推し所かもしれない。エリーはここぞとばかりに演説した。

「月に一度お休みをいただけたなら森で様々な果物、木の実を集めてくることができます。もちろんわたしは恩を忘れない人間なのです」

「採用」

完全なる私欲である。ここは神殿ではなかったか。

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