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聖杯の呪いですけど何か?  作者: KAMITHUNI
第1章 学生編
10/220

第7話 国王と出会いますか?

4個目いけたー!!

誤字・脱字があればご報告よろしくお願いします!!

「……ぁ……ぅ」


 なんだろ、体が全体的に重い上に痛い。

 なんで、俺はこんな所で倒れてるんだ?

 そもそも、俺は本当に倒れているんだろうか?


 ダメだ、体が痛すぎてそれ以外の感覚がない。

 しかも体を動かそうとしても全く動かない。

 本能的に自分の身体の異常を察知する。

 これは本格的にやばいっ!!

 やばい!!ほんとやばい!!

 ーー立たなくちゃ!!思い出さなきゃ!!ーー

 そうしないと何か【大切】な物がなくなる気がする!!


 俺は慌てふためくが、そんなことでどうにかなるはずもなく、現状の打破にはつながらない。


 クソッタレ!! なんでだよっ!? なんで、こんなことに……!!

 髪の毛に手を突っ込みたい衝動に駆られるが、指一本動かせない。


 自分の不甲斐なさだけが脳裏を過った。


 この前だって……あの時だって、同じだ。


 ーー本当に助けたかった者を救えず、ただ目の前の障害を蹴ちらすことだけの自身の中に蔓延る醜悪な存在ーー


 泥沼に陥る感覚を今でも思い出す。

 優しかった者や自身から零れ落ちたモノは、闇に消え、それは今、自らも呑み込まんと蠢めく。


 俺みたいな人間の結末はいつだって、マトモなものではない。


 ーー夢も希望もなく、【大切】だったものは闇に消えたーー


 ーー奇跡はなく、自らの信念も手から零れ落ちたーー


 ーー残されたものは、己が命のみーー


 定められた行く末は、失って初めて気付いた。


 答えを得るたびに【大切】を失うのなら、答えを得ることを拒否する。


 だが、自身から零れ落ちた物が、俺という存在の“答え”なら、それは自身の否定と何ら変わらない。


 自分を卑下するのは別に構わない。

 それは事実なのだから、言い訳のしようがない。

 醜悪で私怨を含んだ怪物であることは自分でも気が付いている。


 それでも、俺に残されたものは、それだけだ。


 残されたものを否定するということは、俺に残していった“想い”も、“絆”も、“夢”も……託された何もかもを否定することになる。


 それだけは許されない。


 歯をギリッと噛みしめる。

 力を込める。

 たとえ、指一本動かせなくても、動かせるまで力を込め続ける気持ちを押し出す。


 ……諦めない。


 諦めてたまるか……


 暗い意識でもハッキリと感じる灯りが、俺の左胸に灯る。

 残された光はハッキリと俺の中に残っている。

 纏わりつく闇を振り払えるだけの力がまだ残っている。


 ーー夢も希望もなく、【大切】だったものは闇に消えた


 ーー奇跡はなく、自らの信念も手から零れ落ちた


 ーー残されたものは、己の命のみ


 ーーそれでも、俺がまだ残っている!


『ーーなら、立てっ!!』


 ……誰だ。


 俺は誰かの声が聞こえてくる。

 先程までに込めた力は霧散するが、光の灯火が消えたわけではない。

 生きる渇望を失ったわけではない。

 ただ、聞こえてきた声から懐かしさを覚えたからだろう。 耳を傾けてしまう。


『自分がそうしたいと願うならそうすればいいっ!! さすればお前は誰よりも強くなれる。だから自分で決めたことを諦めるなっ!!』


 ……あぁ、そうか、これは夢か。

 聞いたことがある……いや、聞き慣れた声に俺は静かに耳を傾ける。


『“諦める”ならば、それは、その程度のことだったということだ。そうじゃないというなら、立ち上がり自分の【大切】のために闘え!!』


 ーー強者は叫ぶ


 俺に立てと促し、ピクリとも動かなかった体を鼓舞するように喝をいれる。


 人々を助けるために、自らの命を投げ出す男の声は、ハッキリと俺の心に突き刺さった。


 全ての人を救いたいと望んだ男の末路は決まっていた。

 そんなものは男も理解していた。

 自分のために、その強大な力を使うことはなく、万人のためだけに、その強大な力と剣を奮った。


 だけど、その男は最後の最後に、【大切】な者の為に全てを投げ捨て、自らの命すらも悪魔に売り渡した。


 そんな男の声だからこそ、俺の心に入り込んでくるのだ。


 だから……


 再び、拳と脚に全力で力を込める。

 全てを賭して、この闇を突破するためだけに力を込める。


 あぁ、そうだよなっ!

 心の内でそう呟く。


 こんなところで立ち止まってられるかっ!

 俺は、2度と【大切】を失わないと“決意”したのだ!

 そして、俺は()()()()()()の背中を突破するっ!!


 何故か、その声の主は微笑んでいることがわかるが、その顔を確認する前に、その背中を追い越し、俺は“前”へと突っ切った。

 ……そうして、俺は覚醒する。


 ◇


「……ぅ……んぅ……っ……こ、こは?」


 俺は目が覚めて体を起こす。

 痛みはまだあるが、とりあえず動かせそうなので辺りを見渡す。


 見たことない天井が最初に視界に入り、ここは自分の来たことがない場所ということがわかった。


(……俺は、一体)


 何があったのか、どうして気絶していたのかわからない状況で、警戒レベルを最大限にあげた。


 というより、ちゃんとした状況把握が出来ていない上ですることなんてそのぐらいしかない。


 頭の中がゴチャゴチャになっているから、ゆっくりと思考して、こうなった経緯を思い出そうとする。


「ん?」


 手に柔らかい感触を覚えたので、左手辺りを見てみる。


「むにゃ、むにゃ……すぅー、すぅー……」


 そこには、俺の手を握ったままスヤスヤ寝ているサシャがいる。

 無防備にも男の手を握って、微笑みを浮かべた寝顔を晒す天然系お姫様がいたのだ。


 それを理解した瞬間、体に熱が迸る。


(えっ? 何この状況? どうなってんだよっ!?)


 俺は少し慌てるが少し落ち着いて考えた。


 あっ! そうか。


 俺は、あの時、数百の魔物の襲撃を退くことができた。


 そして……


 そこからの記憶がないので、たぶんだが其処で気絶したのだろう。


 それでサシャ達が気絶した俺を助けてくれたということだ。


 俺は納得した。

 その上で、感謝の気持ちが心臓の優しい鼓動と共に、じんわりと感じる温かさと共に湧いてくる。


 ……こういう時、どうすればいいのかわからないよな。


 どうすればいいのかわからなくて、ただ、この気持ちをちゃんと伝えたくて仕方がないという狭間で、結局どうしようか悩みに悩んだ。


 ええい! 男は度胸!


 覚悟を決めて、右手をサシャの頭に添える。


「んみゅ?」


「っ!?!?」


「んぅ〜……すぅー、すぅー」


「ほっ」


 変な声が耳に届いた時は驚いたが、一瞬の反応を見せた後は、直ぐに気持ちよさそうに眠った。


 ま、マジで焦った。


 焦りすぎてたためか、サシャが気付いていなかったことに思わず「ほっ」という息が漏れてしまった。


「っ」


 意を決して、再び離してしまった手をサシャの頭に置く。


「すぅー、すぅー」


 小気味好く聞こえてくる寝息を立てたまま、今度は何のアクションもなかった。

 そのことに、内心で胸を下ろす。


 そして、サシャのサラサラなブロンドヘアーをゆっくりとグシャグシャにならない様に撫でる。


 よく手入れされている事が伺える髪の毛だ。

 勿論、ドキドキしないわけがない。

 シャンプーのいい匂いが鼻腔をくすぐって来るし、他にも、そんな無防備な格好で寝られると、チラチラとパジャマ? かどうかはわからないけど、隙間からし、ししし、下着がみ、みみみ、見えてますシィ〜。


 動揺しすぎだろ。


 とか思いつつ、とりあえずこんなシチュエーションで心が踊らない男はいない。


 とにかく、この優しいお姫様に感謝の気持ちを……ありがとう。と呟き、この子の為になろうと考えた。


 それを聞いていたのかはわからないが、サシャは俺の手を強く握りなおし、微笑みながらの寝顔を向けてきた。


 こりゃあ、起こすのは忍びないな……


 ◇


 暫くしてサシャが目を覚ましてかなり顔を赤らめて、あわあわしていた。

 その様子を微笑ましく見ているが、やはり落ち着くものだ。


 うん……かわゆすっ!!


 この前から、俺はドンドン変態化してきている気がする。


 とりあえず。


「これは、そ、その……っ!! そう!! 看病っ!! 看病ですっ!! 和樹様が心配で仕方なかったのです!!だから、それ以上でも、ないというかそうでもないというかゴニョゴニョ……」


 ……本当に何?この小動物見たいな人。


 一生懸命すぎて可愛すぎるっ!!持って帰りたいっ!! まぁ、帰る場所ないんですけどね。


「わかってるって。心配してくれてありがとうな」


 俺が笑顔でそう言うとサシャも笑顔で、はいっ!!と答えてくれた。

 その笑顔に、思わずドキッとしたのは秘密だ。


 可愛いは正義である。

 だから、このドキッは別に悪いわけではない。

 むしろ、俺をドキッとさせたサシャが悪いのだ。


 ……誰に言い訳して、サシャのせいにしてんだろうな、俺……


 こんな感じのやり取りをしていたのは、深夜。

 殆どの人が寝静まる時間帯だった。


 よって、これ以上は流石に迷惑になると思ったサシャは自分の部屋に戻り、俺はまた深い眠りにつくのだった。


 ◇


 次の日、俺が目を覚ましたのは昼過ぎだった。


「ーーふぁぁぁ〜!!」


 大きな欠伸を一つして俺は伸びをする。

 真昼間の日の光が高級感溢れる窓の隙間から差し込んできて眩しい。

 今日の天気も晴れ。

 ……とは言っても、この世界に来たのは昨日から。

 この世界の天気事情など詳しくあるはずもないので、比べようがないけど。

 差し込む日の光からして、気温も高くも低くもない程よいもので、九月特有のジメジメとした感じは感じられない。


「やっぱりここは、地球とは違うんだな」


 日本なら、九月の中旬でも肌に張り付くような残暑が続いている。

 でも、この世界に来てからは、確かに気温は九月の中旬と比べても変わらないが、湿度が全然高くない。


 この国特有の気候かもしれないが、中々に過ごしやすい空気であることは確か。


 ん? というか、何か引っかかりを覚えたんだけど……


 頭を捻って少し考えてみる。


 …………。


 ………。


 ……。


「ダメだな。 わからん」


 暫く考えてみたが、何一つ思い当たることがなかった。

 よくよく考えてみれば、この世界に来てからまだ二日程度。

 知識の浅い俺には分かりっこない。

 俺はそう思い、考える事を放棄した。


 さて、怠惰な俺が昨日いろいろあってだらだら出来なかったのでこれだけ寝ても罰は当たらない……筈。


 ……大丈夫だよな?……な?

 ちょっとぐらいダラけても罰は当たらないよな?


 最近、巻き込まれ体質に拍車が掛かってるから、変なフラグが立っていないか不安でしかない。

 ほんと、この世界に飛ばされてから碌なことがない。

 呆れ呆れに首を振って、嫌な予感を感じながら、大丈夫と呪い(まじない)のように口を動かし続けた。

 変な心配をするから『言霊が、ついてくるぅ〜』とか意味のわからん状況になるんだ。

 気をつけないとな。



 意味不明な心配をしながら、起きたからにはサシャたちに顔でも見せた方がいいかなっと思い立ち上がる。


 しかし……


「この格好じゃあな……」


 俺は、昨日の服を見て、流石にボロボロな事を確認しているが、現在着ている物は、恐らくこの世界での患者さんが着るような服を着せられている。


 なんだか、地球と似ている物に感じる。

 というより、殆ど同じ。

 病院なんて基本行かないから、よく分からないけど、これが地球であっても違和感なんて殆どないんじゃないだろうか?

 それ程に似たような質と見た目だ。


 唯一違うところといえば、留め具がないぐらいかな?

 てか、留め具もないのに、よくはだけないな、どうやってんだろ?


 俺はそんなしょうもないことを考えながらも、着れるものが無いかと探そうとする。


 コンコンコンッ


 おぉ、トイレ形式のノックじゃない。

 でも、別に目上の方じゃないから三回ノックはどうかと思う。


 どうでもいっか。


 えぇと? 社会常識だとどうだったけ?

 覚えてないものは仕方ない。


 扉をノックする音が聞こえてきたあとにサシャの声が聞こえてくる。


「和樹様。 起きていらっしゃいますか?」


 お、どうやら、俺が起きているのかを確認しに来たらしい。

 ちょうどよかったな。

 顔を見せようと思っていた俺としては好都合である。

 それに服のことも相談したい。

 とりあえず、返答第一でサシャに返事をする。

 それもできるだけ元気な声でしよう。

 心配をかけただろうしなぁ。


 昨晩の事を考えるに、相当心配してくれてるだろうからな。


「サシャか? あぁ、起きてるよ」


 だが、素っ気なく返答を返してしまった。

 あ、あれ?

 思ってた返事の仕方と違う。

 な、何で?


 頭がパニックになる。

 いや、わかっている。 わかりきっているのだ。


 単に恥ずかしがっているだけなんだ。


 顔が思いっきり赤くなっていることが自分でも分かりきっていた。

 向こうの世界でも、中々元気に返事をする機会なんて無いし、大きな声は滅多に出さない。

 そんな奴は……

 いや、いたな。

 俺が通ってた中学校に一人だけ、街道の目立つ場所で馬鹿みたいな大声で夜中に騒ぎ立てて、周りの友人と一緒に通報されないために注意したことがあったな。


 あん時は、かなりガチの方で通報されるかと思った。

 焦る。

 というより、受験間近な時期にやる行動ではないと、本気でキレた記憶がある。


 いや、それを俺にしろというのは怒りの元でしかないから、やっぱり大声での挨拶はいいや。


 とりあえず、俺の返事が返ってきた事を扉越しでも分かるほどの安堵感を醸し出している。


 やっぱり、めちゃくちゃいい子である。


 あ、涙が勝手に流れてくるな。

 肉親でも、ここまでの事をしてくれるだろうか?

 あの、研究にしか脳が回らない両親が、んな芸当が出来るわけがない。

 というより、あのトチ狂った両親がそんな事をしてきた時点で若干ビビるのは間違いない。


 頭に手を突っ込んで、心を落ち着かせる。

 これが俺の癖だ。

 基本は、頭に手を突っ込むと、何か落ち着いてくる。


「そうですか、よかったです。枕の横に着替えを置いていますので必要なら着替えて下さい。」


 サシャの優しい声色が俺の鼓膜を癒してくれる。

 あぁ、彼女は天使か。


 どうやら、俺の変態化は避ける事は出来ないらしい。


 視線を横にズラして、サシャの言葉の確認をする。

 ん? ほんとだ。

 気づかなかったなぁ。

 ちょうど、どうするか悩んでいたし、お言葉に甘えておくことにしておこう。

 なんか、上手いこと回りすぎている気もするが……

 まぁ、気のせいだろうな……


「あぁ、ありがとう。 ありがたく使わせてもらうよ。」


 そして、着替え始める……


 …………。


 ………。


 ……。


 ん?これって……


「制服じゃねぇーかっ!」


 着替えてから、バシッと自分の頭を叩く。


 いてぇ〜。


 そんな一人ボケツッコミはどうでもいい。


 俺が今、着てている物はこの国の学院の指定制服のようだ。

 昨日、馬車の中で見せられていたからよく覚えてる。


 それよりも、ここに来てまだ1日たっただけなのにツッコミ過ぎなんだよ!


「くすくす、気に入って頂けましたか?」


 サシャは、笑いながら尋ねてくる。

 勿論、可愛さは爆発。

 だが、今回ばかりは彼女の笑みが悪女……というよりS女にしか見えない。


 くっ! 男の心を弄びやがって。


 しかも、俺好みというのが又……


 ……。


「ま、まぁ……気に入ったのは気に入ったよ」

 制服は黒を基調にした軍式の物を感じさせ、ズボンは赤のチェック柄のオシャレな感じをも感じさせる。

 しかも、ちゃんと地球と同様にネクタイもあるみたいだ。


 それに、何と言っても動きやすい……

 なんか、こう、軍式制服って、なんか男心をくすぐられていいと思います。

 はいっ!


「そうですか。クスクスよかったです。あっ! そうでした! お父様が和樹様を呼んでいらっしゃるので、あとで謁見の間にお越しくださいね」


「おう」


 …………


 ………


 ……


 ……ん? 待って?!

 今、重要な事をサラッと言わなかった?!


「えっ?ちょっと待って、今なんてーー!」


 そんな俺の言葉を遮りってサシャは一言だけ言って扉から離れていく音が聞こえてくる。

 おいおいっ!


「それでは失礼し致します」


 とんでもない微笑みと爆弾を置いて去って行っちゃうサシャちゃん。


 お願いっ!

 ちゃんとした説明プリーズッ!


「ちょっと待って! ちゃんと事情を説明してくれっ! プリーズ説明!」


 そんな、俺の叫び虚しくサシャは扉の前から移動していった。


「えぇ〜?」


 いやぁ〜、何だそりゃ?

 俺にどうしろと?

 そりゃあ、行くに決まってんだけどよ。


 何ていうの? あんまし納得いってねぇから、そのまま行くのもなんかなぁ〜。


 仕方ないと諦めて、謁見の間に向かった。…勿論、場所など分からず、近くにいた騎士に場所を聞きながら向かっている…


 てかさ、なぜ俺がいきなりここの国の王様と対面しなければならない。

 昨日までの俺はただの一般人だったろうが!!

 それが今ではなんだ? 異世界転移? ふざけんなよ!!

 それだけでは飽き足らず、王と謁見ですか?あのクソ神ィ。今度あったら間違いなく殺してやる!!

 そんなことを思いながら謁見の間の扉の前の騎士に事情を伝えて、通して貰う。


『心中お察しします』という言葉を騎士の方から頂いた。もう、気のせいでいいよな?


「確認はできた。通ってもいいぞ。しかし、王と謁見するからには不遜がないようにな……(頑張れよ)」


 騎士に注意されて俺は扉をノックして名乗る。

 なんか、意味のわからん励ましをボソッと言われたが、俺は何も聞いてない!

 何も聞いてないんだ!

 たとえ、悪い予感がビンビンにしていたとしても、それは聞き間違いだ!


 自分に刷り込む様に、念じまくる。


 ✴︎聞いてない聞いてない聞いてない聞いてない聞いてない聞いてない聞いてない聞いてない聞いてない聞いてない………


 ✴︎決して宗教団体のお経ではありません。


 ◇


「本日、ここに呼ばれた宮部です」


 入った瞬間から感じてきた圧力。

 一人、王座に居座る王冠を被り、思ったよりゴージャス感のない服装で出迎える男。

 そして、その横にサシャの微笑みながらも、何処か真剣味の帯びた表情で立っている。

 周りにはこの国の重鎮の貴族……はいない。

 如何やら、邪魔の入らない状況で話したいということだろう。

 こちらとしても聞きたいことや、これからの事で話したいこともあるから有難い条件である。


 とりあえず、粗相の無いようにしてみたけど、これで間違っていないよな?

 間違ってたら、ただの痛い奴だし。

 その場で不敬罪で殺されーーグフんっ!

 消されるかもしれない。


 何も隠しきれてないけど。


 しかし、俺の最悪な考えになる事はない。



「……うむ、君が宮部 和樹か。 話に聞いていたよりも随分と礼儀正しいじゃないか」


「えぇ、和樹さーー宮部様は、私が王女とお聞きになっても分け隔てなく接してくださいましたので、ここまで御丁寧な方とは思いもしませんでしたわ」


 あの、サシャさん? 貴女は悪魔ですか?

 顔は女神と言っても過言ではないが、その微笑みとは裏腹に、俺を陥れる気満々ですよね。


 この豪胆な親父さん……国王陛下に何を吹き込んでくれてんだ。

 今だって、険しい顔を俺に向けてんじゃん?

 怖い! めっさ怖いわ!


 ピリッ!


「ーーっ!」


 本能が告げた。

 この場は危ない。

  今すぐ避けろ。


 俺は咄嗟にその本能の赴くままにバックステップでその場を離れる。


 そして、先程まで俺がいた場所には、爽快という言葉が過るほどの綺麗な突きが一人の騎士の槍から放たれていた。


「……っ!?……何っ!?」


 戦士は絶対の自信を持った一撃を躱した俺に驚きと殺意を含んだ視線を向けてくる。

 おいおい、この世界じゃこのクラスの殺気は当たり前ってか?


 恐ろしすぎる。


「……お前、今何をしたんだ?」


 やはり騎士は絶対的に自分の腕を信じているようだ。

 余程、俺に躱された事が癪に触ったらしい。


 だが、ここで自分の手を晒すようなことは絶対にしない。

 むしろ、相手の情報がない以上、特に敵に自身の情報を与えることはしてはいけない。

 だから、この場で俺がすべきは相手の戦力の分析。


 頭を切り替える。

 相手の一挙手一投足を逃さないように見る。

 相手は俺が絶対的な一撃を躱したことによって動揺と興奮状態で冷静な判断が出来ない。

 魔力の流れが見える。

 魔法の構築がある。 身体強化系。

 構えは切っ先を俺に向けている。半身の状態。

 此方の返答を待っている様子。

 だが、警戒度合は上がっているように見える。

 それ以外の武器や魔法の動きは見られない。

 軽装。

 鎧は着ていない。 動きやすさ重視の狩人スタイル。


 そして、自分の状態。

 魔法知識ゼロ。 魔法の発動時間はかかり過ぎるために戦闘に置いて役に立たない。

 刀は置いてきた。 体術での対応が絶対。

 相手の間合いを掴み切る。

 至って冷静。 体の状態も良い。


 ふぅ、今の状況を一気に考えるのもシンドイな。

 かなりの集中力が持って行かれる。

 あぁ、体が怠い。 頭も重いなぁ〜。

 相手の質問には答えよう。

 だが、ここは正直に答えても問題は無さそうだ。

 相手はかなり動揺しているし、ここで正直に話しても余計な混乱を招いて自滅してくれるだろうと判断したからだ。


「何って、殺気を感じたから避けただけだが?」


 何気ない顔で答えると、不服なのか納得いかないといった表情で俺を見る。

 憤怒してくれて構わないぞ。

 怒れば怒るほど、首を締めるのは明白なんだからな。

 口角が吊りあがりそうになるが、ポーカーフェイスで何とか堪える。

 ここで口角を吊り上げると()()()()()()()に感づかれるかもしれない。


 勿論、その事に腹を立てた騎士は思った通りに憤怒し、顔を赤くした。

 お、青筋まで出てんじゃん。 よっぽどキレてんなぁ〜。


「答える気がないようだなぁ……だが、これならどうだっ!!」


 そんな顔されても困るんだけどな〜。

 そして、再び、俺に向かってくる戦士。


 だが、ここで油断する訳にはいかない。

 実戦において、油断は何よりの敵である。

 どんな相手にだろうと警戒をするに越したことはない。


 俺は再び集中して相手の動きと行動を見る。

 それによって浮かぶ光の道筋。

 これが、宮部火神流の極意の一つだ。


【氣】……筋肉の動き、視線の向き、空気の流れ、空間の歪みなどの情報を瞬時に判断し、敵の数や動きを予測する技能。


 前回の盗賊や魔物の時も同様に【氣】を使って相手の状況や動きを瞬時に把握することができた。


 普段なら、ここまで綺麗に使えることが無いのだが、この世界に飛ばされてから存外調子が良い。


 地球では、ボンヤリと相手の動きがわかる程度なのだが、この世界に来てからは空気の流れや、筋肉の動きがハッキリと伝わってくる。

 それによって生まれる予測は今の所は、正確無比。


 実戦は二度しか行っていないし、今回のを入れても三回程度だが、ここまで動きが明確に見えることは珍しい。


 騎士の攻撃。

 覇気の篭った強撃。

 横薙ぎで払われている。

 これを再びバックステップで回避。

 続けて騎士の攻撃。


「ふんっ!」


 ブォン! という剛風が顔前数センチを通り過ぎる。

 鬼気迫るものを感じるほどの突き。

 先程の横薙ぎから早々に戻した槍を直ぐ様に突きに転換した時のスピードは舌には舌を巻くぜ。


 集中力を高めて、それを僅かな所作で回避する。

 脇腹を掠めながら槍は通り過ぎる。

 直ぐにその場から離れる。

 相手の好きな間合いには入らないように慎重に、しかし迅速に離れる。


「ち! やぁっ!」


 部が悪いと判断した騎士は無理矢理にでも間合いを掴むために前進。

 これも予測通り。

 身体系の能力を魔法で底上げしているが、何もしていない俺の方がまだ動きが軽やかだ。

 やはり、この世界では俺の身体能力が異常なのは明白だな。


 新たな確認を終え、さらに相手の動きを観察して伺う。


「く、そがぁぁぁ!」


 闇雲ではないが、それに近い連撃が俺を襲う!

 速い!

 縦、横、突き、袈裟斬りを何度も何度も繰り返す。

 動きが観察されていると気がついた騎士は手数を無理やり増やしてきた。


 ーーっ! この手数は!?


「ぐっ!」


 直撃は無いものの、何度もなんども刃が俺の肌に擦り傷を作り上げる。


「ふ、はっはっは! やはり貴様など三流なのだ! これで貴様の小細工も通じまい」


「ーーっ」


 高笑いを浮かべ、余裕が出てきた様子の騎士様。

 俺は慌てた。 その様子も騎士にとっては嬉しいようだ。

 あぁ、手数が多いな。

 部が悪いな。

 これはーー


 そして気づく。


 俺ではない。


 サシャでもない。


 国王でもない。


 気づいたのは騎士。


 何に気づいたか?


 簡単だよ。



 ーー全く()()()()の動きで泳がされていることにだ


 俺の口角がつり上がっている。

 思い通りすぎた。

 思い通りすぎて笑いが抑えきれない。


「さて、ここまで思い通りに動いてくれてありがとう」


 目と鼻の先。 槍の軌道にいる筈の俺は無傷だ。

 刃は目の前で停止しており、騎士が其れを緩めたわけではない。

 刃が止まっているには明確な理由がちゃんと存在しているのだ。


「なぁ、あんたは俺を追い詰めた気になってただけっていつ気づいたんだ?」


「っ!」


 騎士の生唾を飲む音が此方にまで聞こえてきた。

 これが格の違いだと言わんとばかりの俺の物言いと殺気に怖気がついてきたようだ。

 誰を相手にして、誰に喧嘩を吹っかけたのか……漸く気がついたようだった。


 ゆっくりと、しかし、確かに騎士の視線は俺のすぐ横に向けられる。

 信じ難い事実が目の前にあり、人がそれを目撃した時の顔がこれなのだと俺は初めて知った。


 少し笑いを堪えるのに必死だったが、相手にとってはまさに笑えない状況なのだ。


 その状況は、簡単に説明すると……

 騎士が放った右の払いは俺に当たる前に謁見の間にある柱の一つにぶつかり、その場で停止した。


 これが力の弱い相手ならここまで柱に刃が食い込むことがなかったから、そのまま流れて俺が切り裂かれていたかもしれない。


 だから口角が吊り上がった。

 ここまで完璧にハマるとは思ってもいなかったからだ。


「……はぁ……はぁっ……貴様っ!! 本当に何者だ!!」


 息を切らしながら睨みつける戦士。

 やはり先程の連撃は余程スタミナを削ってたらしい。


「おい、戦闘中に喋っていていいのか?」


 ま、この状況で聞くのも野暮だが、俺が戦士に向かって忠告してやる。

 これが、俺の()()()警告だ。

「もういい、すぐに殺してーー?! 何っ!?」


 俺はそいつが喋っている間に槍を引き抜き、投げすてる。


「さっきのは忠告だそれが聞けなかった時点でお前の負けは確定した」


 俺は純粋な惰力で相手に蹴りつけるっ!!


 踏みしめる大地。

 口を噛み締め、力を下半身に伝える。

 左脚を軸に、右脚を相手の尾骶に狙いを定める。

 寸分の狂いもなく当てる様に調節する。

 相手に悟らせないように素早く弾くように蹴り出す。


『ーー宮部火神流 体術 中伝ーー』


「ーー“炎尾(えんび)”っ!!」


 炎を纏ったような蹴り。

 “宮部火神流 体術 初伝”の『炎尾』を騎士の尾骶に叩き込む。


「ゴフッ! 」


 たった、それだけで屈強な騎士が立ち上がる事が無いと、その場にいる全員が理解した。


「ふむ、なるほど、実力は本物か」


 そう言って、俺に目線を送る人物……っ


 普通、異世界の王というのはただのデブでジジイのイメージがあるがアースガルドの王は違う。

 高身長で肩幅が広く服の上からでもわかる筋肉の形の良さが物語っている。

 そう、さっき俺が戦ったやつより強く。

 それでいて、“王”という風格が出ている。

 まさに、生まれ持ってついていた“強者”である男であると物語っている。


 そんな相手に、一発目から喧嘩を得ることはないだろう。


 再び膝をつき、相手に敵対の意思は無いと神妙に伝える。


 だが、相手は思ってたよりもラフな感じで髭を撫で始める。

 ん? あれ? イメージがちょっとーー


「ふむ、よいよい、そんなにかしこまらなくともよい、娘と接する時みたく接しってくれ」


 えっ?それはつまり、タメ語で喋っていいということだろうか? このおっさん、もしかして雰囲気よりもフレンドリーか?


「お!! そうか、じゃあ、この喋り方にさせてもらう。 ふぅ、堅苦しいのは苦手なんだよっ!!」



「うむ、神経の図太さも娘から聞いていた通りのようだな。がっはっはっは!! うん、儂は、お前さんを気に入った!! 学院の入学、許すぞ!!サシャ!」


 王様がそう言うとサシャは喜び俺はテストされていたことに呆れていた。


 やっぱり、あの戦士の強襲なんかはそういう意図があったらしい。

 こりゃあ、一杯食わされたかな?


「もう知っておると思うが、名乗らせて貰おう、儂がこの国アースガルド国王 クルセイド・アースガルドだこれからも楽しませてくれ。宮部和樹!!」


 俺はそんな軽い王と謁見したのであった。




本当、いつになったら王国を回れるんだろう(・_・;

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