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バタフライドリーム  作者: 海 潤航
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俊之の人生

マンションを出た俊之には何も考えはなかった。


負け犬の様な気持ちのままで、日本にいたくないと思った。必ず成功して愛子の前に立ちたかった。


有り金をはたいて、単身でアメリカに渡った俊之は、生活のために何でもやった。


ある三流タブロイド紙のアメリカの犯罪を暴露する企画に参加した俊之の写真は見事なスクープをおさめる。


持ち前の運動神経と恐れを知らない神風精神は次々とアメリカの犯罪を暴露していった。


ニューヨークタイムズに「忍者カメラマン」という記事が載ったのが、渡米して1年後の事だった。


愛子の事を忘れた事など一度もなかったが、成功を思う気持ちの方が強かった。


日本で成長していく愛子にふさわしい、地位を持つまで日本に帰る気にはならない。


さらに危険でエキセントリックな仕事を好んで選んだ。雲を撮り続けていた俊之とはまるで別人だ。


優しさより、今は強さが心地よかった。これもまた、俊之の心の持つ力だったのだ。


それから3年後、ある程度の知名度を得たとき、日本で愛子が結婚したのを知った。


俊之は驚き絶望をする。


酒を浴び麻薬に手を出した。ぼろぼろになっていく俊之に手をさしのべたのは、同じ仕事仲間の日系の愛子によく似た女性だった。彼女に支えられながら、1年後に仕事に復帰する。そして俊之はアメリカに永住する事を決意した。


その後、自然写真のドキュメンタリーを専門に活躍した。また日本的な感覚を前面に出した心象風景の本を出し、数々の賞を受賞。


彼の写真人生は絶頂期になる。


しかし、最初の結婚に破れ、その慰謝料で彼は無一文になってしまう。


それでもアメリカで生き延びてきた。ある時街のCDショップで、中古のCDの中に愛子のCDを見つけた。


20年前に発売されていてすでに廃盤になっていた。そのジャケットの中の愛子の笑顔に俊之は動揺する。


結婚の失敗も俊之の愛子への慕情が原因だったと思っている。不意に望郷の思いがたまらなく沸きだし、1週間後、アメリカの生活を精算して日本に戻る決意をした。


俊之55歳の冬の初めの季節だった。


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