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バタフライドリーム  作者: 海 潤航
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ありふれた成功

そんな二人に転機が訪れる。愛子のジャズピアノが話題になっており、メジャーレーベルから誘いが掛かったのだ。


愛子は喜んだが、それ以上に俊之は喜んだ。愛子のピアノの実力は誰よりも知っており、早く世間に認められる事を心待ちしていたのだ。


その夜、小さなテーブルに向かい合い、缶ビールで乾杯を交わした。


お互い涙ぐむほど、この幸せの予感に感動していたのだ。


愛子の小さな肩を抱きしめ唇を重ねる。愛子の白い肌と張りのある乳房、くびれた腰はどんな女性よりも愛おしく、何度抱きしめても飽きる事はなかった。


俊之の筋肉質で均整のとれた体は、愛子を求め続け、二人は明け方まで愛し合った。


愛子の話はとんとんと進み、CDは好評で仕事がどんどん広がっていく。俊之は誰よりも率先して応援し、雑用はすべて引き受けていく。


愛子の成功はどんどん加速していき、全国各地でのコンサートや海外コンサートも企画されていた。


住まいも4畳半のアパートから3LDKのマンションに変わった。舞台に多く出始める愛子の衣装も増えていき、愛子はどんどん美しくなっていく。


そんな愛子を俊之はまぶしそうに見つめる日々が増えていった。


仕事が忙しくなると、愛子のいない夜も増えていった。一人だと広すぎる3LDK。


すべての家具は愛子の趣味でおしゃれでモダンだ。


深夜、ラジオを聞きながら俊之は自分のただ一つの持ち物であるカメラの手入れをする。3本のレンズとボディを丹念に拭いていく。 


不意に涙が溢れてきた。涙はポトリとレンズに落ちる。


はっと気づき、急いでシリコンクロスで拭き取った。悲しみや寂しさの涙ではない。


九州人らしい気質の俊之は、自分のふがいなさに涙が出てきたのだ。努力は人一倍し続けている。


だがアシスタント仲間の中に、ちらほらと独り立ちしていく仲間も増えていき、成功の話も話題になる。


しかし、今の自分にそんな気配はみじんもなく先は全く見えてこない。自分一人で生活しているならまだしも、共に暮らしている愛子は成功の道を歩みはじめ、生活費のほとんどは愛子の支払いとなっている。


愛子は時々暗い顔をする俊之を気遣い、人一倍明るく振る舞う。それもまた、俊之の心を沈ませる原因になっていった。


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