お別れの日
もうすでにこっちに来て三日目の朝。
私は昨日のことを考えながら、今日あの子にあったらどうしようかと思い悩んでいた。
あの子はなんで、あんなことをして遊んでいたのだろう?
男の子に特有の事なのかな?
ある本では子供の一種の残虐性?みたいな文面を見たことがある気がする。
そんなことを考えながら、一階のリビングへと移動していた。
「あら、おはよう。調子はどう?」
お母さんが呼びかけてきた。
「おはようお母さん。昨日は、ごめんなさい。びっくりしてて。」
昨日はあのまま、寝てしまっていた。
心配したお母さんとお父さんに昨日のことを話したら、困ったような、苦笑いしているような表情をしていた。
お父さんが何か考えながら、話し始めた。
「例えば、虫の観察をしていて、虫の死骸を見て、何か感じることはある?」
私は、「・・・怖い、かなあ」
と答えた。
お父さんは、やさしく言った。
「父さんは、あんまり感じないかなあ。抜け殻、とは違うけど、悲しいとか、怖いとか、そういう感じじゃないんだよね。その子だって、カエルをそういう風に見ていたのかもしれないよ?」
私は、命あるものが奪われるという行為に酷くショックを憶えていた。
それが、カエルにも感情が同調していたからなのかな?
「○○ちゃんは、優しいね。」
そう言われて、私はハッとした。
私は、あの子にあんな酷いことを言ってしまったのに、優しいなんて、そんなことない!
でも、私は確かにショックで、ついつい言ってしまった。
「・・・あの子に、謝らないと。」
私は外へ出た。
また、顔を合わせたら、突然逃げ出してごめんと言おう。
そして、あの時はびっくりして、ショックで、それで・・・。
男の子はなんて言ってくるだろう。
私は勢いで駆け出したけど、男の子の方は・・・?
私は使命感と、不安と、迷いの中で、彷徨っていた。
****
「・・・あっ」
男の子を、見つけた。
彼も私のことを見つめている。
気まずい沈黙の中、私は彼のもとに近づいていった。
「昨日は・・・びっくりしてて・・・ショックで・・・」
すると彼は頭を思いっきり下げながら、
「ごめん!」
と言ってきた。
私は、びっくりして、彼のことを見ていた。
「昨日は、ボクが悪かったよ。そうだよね。可哀そうなとこをしちゃったんだもんね。」
私たちは、仲直りできたのかな?
私も、彼が何でそうしたのか分からなかった。
ただ、あのままお別れをしたくなかった。
「私ね、今日、帰るんだ。」
すると男の子の方もびっくりして、こっちを見つめてきた。
「そう、なんだ。・・・また、会えるよね?」
私は、「多分、・・・いつかきっと」と言いながら、不器用な仲直りをした。
****
別荘の前にお父さんの車がある。
今日、やっぱり帰るんだ。
そう思いながら、準備のできた車に乗り込んで、彼と窓でバイバイ、と手を振った。
車のエンジンの掛かる音がする。
しばらくするとゆっくりと車が前に移動し始めた。
私は、この短い期間のあいだ、何か見つけられただろうか。
何か、感じられただろうか。
そう思って、外の方へ眼を向けていると、ちょうど、あの湖の向こう側に、キラリと光る水晶を見た。
「ああ・・・きれい・・・」
そのクリスタルは、虹色に輝いているように見えた。
いろんな角度から見える色彩を、その一点に集めて。
七色の光を、携えて。