湖のある町へと
太陽の光が水面に反射して、宝石のように見える。
近くへ歩いていくと心地よい波打ち音が聞こえる。
ここは海ではなく湖だけど、私はこの湖が好き。
磯の香りはしないけど、山の木々が風で奏でる音が優しい気持ちにさせてくれる。
日の当たる所は暖かくて、山の影になっている所はひんやりとして気持ちいい。
私は今いるこの場所が好き。
私は両親に連れられて、この湖のある町に来ている。
それまでは、ビル群の並んだ都会の方で暮らしていた。
大きなビルが立ち並んでいて、大勢の人達が行き来していた。
私はその中で一人歩いていると、知らない人達が大勢いる中、一人疎外されているような孤独を感じていた。
しばらくすると、半月状に掛けられたアーチ状の階段がビルの間に見え、私はそこに足を踏み入れた。
通行している人達の数はまちまちで、ゆったりとした段差の階段を、上まで半弧を描いて上がると開けた広場のような場所に出た。
広場の端には手すりが付けられていて、下を覗き込むと道路が垂直に見えるようになっていた。
車が足元を潜ったり、出ていったりしている。
広場を見渡していると、いろんな人が各々の好きなようにくつろいでいた。
あっちの方では、30代近いおじさんが柵にもたれながら携帯で会話をしている。
小さい子が広場を横切るように走り去っていく。
杖をついたおじいさんがベンチに座って休んでいる。
私は広場の中央近くまで来て、そのまま立っていた。
暫くじっとしていると、強いビル風が吹いてきた。
私はその風を肌で感じながら、ここでない何処かにいたってたいして変わらない風に違いない、と考えていた。
今は、この自然に囲まれて感じる爽やかな風は、どこか私の心をそっと優しく慰めてくれているように思える。
あのビルの並んだ街と同じ国にあるとは思えないほど、心が落ち着くところだった。
それでも、人知れず感じていた孤独感は、完全に消えた、という訳ではなかった。
私は、これまで転校した学校のクラスメイト達のことを考えながら、結局、これといって仲良くなった子がいなかったことを振り返ってしまっていた。
もしかしたらあの子たちの中には、私に気が合って友達だと思ってくれていたのかもしれないけど、私から積極的に心を開いて接したことは無かったかもしれない。
自分の心に閉じこもる、訳ではないのだけれど、かといってみんなに分かって欲しくて打ち明けたり、話したりはしなかった。
どちらかというと私は内気で、周りのみんなからは大人しい子、という印象だったのかもしれない。
そんなことを考えながら湖沿いの道を歩いていくと、私と同い年くらいの男の子が前方に見えてきた。
その子は、一人で何やら遊んでいるらしかった。
鬱蒼と茂った背の高い植物を木の枝で叩いていたり、湖に向かって石を投げていたりしていた。
私がその子のそばまで歩いていくと、男の子も私に気が付いたようだった。
何やら恥ずかしがってる素振りを見せながら、小さく
「・・・こんにちは」
と挨拶をしてきてくれた。
私は何やら嬉しくなり、
「こんにちは!」
と挨拶を返していた。
するとその子は、ぼぅーっとした感じで私の顔を見つめかえしていた。