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へっぽこ聖女の魔物討伐

「待ってくださいね! お願いですから待ってくださいね!」

 私は引け腰になりながらもなんとか杖を振り上げ、今まさにそれを打ちおろそうとしている。そんな私の目の前にあるのは、青白いゼリーのようなプニプニフォルムのスライムという最下級魔物。ようするに一番か弱いクラスの魔物らしいです。彼に言わせると雑魚とかなんとか……いけません、そんな言葉を使っては。

 彼と言うのは今まさに私の後ろで待機している戦士。簡素なアーマーに大きな大剣を担いだ男性、名前を教えてくれなかったので私はそのまま戦士と呼んでいますが、実際の名前はあるらしいです。

「聖女様~。いい加減スライムくらい自分でなんとかしてくださいよ~」

「そんなこと言ったって魔物は危ないんですよ!? 怖いんですよ!? こんな小さな魔物でも人を殺めることができるんですよ!?」

 きっとこのスライムでも顔に張り付きでもしたら窒息死……恐ろしい!!

 具体的な死の恐怖を感じて、足がガタガタと震え始める。それを見かねた戦士が、後ろで溜め息を吐いたのが聞こえた。

「大丈夫ですよ。スライムが攻撃したところでダメージ1が関の山。馬鹿みたいに防御積んでるんですから、聖女様にいたってはダメージ0ですよ」

「でも~」

「でももへったくれもないでしょう」

 私は魔物は危険なんだという認識が強すぎて、防具は最上級、魔道具にしたって被ダメージ減少、魔術ダメージ無効、物理ダメージ半減という、戦士に言わせれば鬼防御と言われている装備らしい。ですがこれでも私は安心できないんです。

「もしこのスライムが物理防御を無視した攻撃をしてきたらどうするんですか? 私の体に穴が空いてしまいますよ?」

「そんなスライム今のところ発見されてませんから。それにこのスライムは本当に何もしません。平たく言えば無害な魔物です。それをわざわざ練習台にしてるんですから。早くやっちゃってください」

「む~」

 いい加減面倒なのだろう、戦士の言い方が厳しい。でもそうか、人畜無害なら私にも……人畜無害? なら何故私はこの魔物を倒さなければいけないの?

 もう一度スライムを見る。青白いゼリーのようなプニプニフォルム。その姿が、なんだかとても愛おしく感じてきてしまう。

 いけない! これは魔物……これは魔物なんです!

 自分に言い聞かせてみるが、なんだかスライムが泣いているように見えてきてしまい、私は自分が行おうとしていたことが間違いであることに気が付いた。

「ほら早く片付けて」

「この子を片付けるなんて! 何を言っているんですか戦士!」

「はい!?」

 この子は守るべき存在。これは聖女としての私の務め。いかに戦士とはいえ、守るべきものを殺そうだなんて……私が許しません!!

「人畜無害で何もできないこの子をただ一方的に殴るなど、人徳に反します! そのような行いは私が許しません。直ぐにでも森に帰しましょう!」

 私は杖を放り出し、スライムを抱きかかえて戦士に訴える。プニプニとした感触ににヒンヤリとした肌触り、これが人に危害を加えるなんて考えられない!

「あの聖女? 今回の目的忘れてませんか? あなたが魔物を討伐するために、魔物に慣れてもらおうとしているんですよ?」

「ならもう慣れました。この子に限った話ですが。そうですね。もしこの子が良ければの話なのですが、家で飼うことにしましょうか。名前はスライムなんでラムちゃ――」

「聖女、それはいけない」

「なぜです?」

「その名前は世界に反するからですよ」

 なんでしょう? 名前を決めるのは難しいのですね。

「とにかく。この子は家に持ち帰って――」

 その時だった、スライムちゃんが私の腕を振りほどき、飛び降りざまに腹部を押したのです。プニっとした感触しかありませんでしたが、それが何かは察せました。

「そんな……何故なんです! 私はあなたを思って――」

「…………」

 スライムちゃんは私をジッと見つめた後に、ゆっくりと森の方に這っていきました。

「人間と魔物は相いれない、あなたはそう言いたいのですね。『俺と仲良くしちまったら、他の魔物をたおせないだろ……』なんて優しいスライムちゃんなの!」

「いや、あいつ何も喋ってないでしょ?」

「わかりました。私はあなたとの約束を守ります。必ずや魔物を討伐し、この世界に平和をもたらします!」

 見ていてください、スライムちゃん。私、やり遂げてみせます!

 決意を新たに、私と戦士はまた新たな魔物を討伐する旅を進めるのです。

どうも、みずたつです。


今回、お試し短編ということでへっぽこ聖女の魔物討伐を書きました。

もし評価よかったら連載の方に回したいと思いますので、

よければ評価してやってください。

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