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2016年/短編まとめ

全員の高校生活が楽しいと思ったら大間違いだからな、覚えとけ

作者: 文崎 美生

高校を卒業して自分の足で立つようになった。

常に何かの庇護下に置かれ、守られることはなくなり、社会人という肩書きを手に入れた。

あの頃を思い出し息を吐けば、その拍子に一粒の雫が落ちた。




***




別にいじめにあっていた理由でもなく、教室にいじめという行為自体なかったけれど、ただそこに存在するのが苦痛で堪らなかったのだ。

少ないながらに友人、と呼べる存在がいたはずだけれど、良く分からない。


時折鳩尾の辺りがひんやりとして、喉の奥が熱くなるような感覚で気分が悪くなった。

元々自分のペースでしか動けなくて、団体行動が苦手だから、学校言う狭い空間の絶対的な集団生活が嫌だったのかもしれない。

こぽり、小さな音を立てて零れた酸っぱい液体に涙を流したのは何回か、分からなくなってしまった。


母親は特に私に期待はしなかったけれど、特別何かを諦めた様子もなかったが、思春期真っ只中としては何とも言えない居心地の悪さを味わったものだ。

行きたくないなら行かなければいい、それを実行すれば出席日数がギリギリになったけれど、進級出来たし、卒業出来た。

ただそれだけが満足だった。


高校三年間は本当に長かったけれど、短いと言う同級生が沢山いたのを覚えている。

楽しかった、卒業したくない、ずっと一緒がいい、皆とまだ過ごしたい、そんな声の聞こえる卒業式に吐き気がした。

鳩尾の辺りが冷たくなって、込み上げた液体を戻すように飲み込んだ。


修学旅行も行かなかったし、学校祭なんて準備期間しか活動せずに当日は空き教室に篭っていた。

体育祭は出場しなかったし、部活にも入らなかった。

後悔はしてないし、寂しくも、悲しくもない。

やっとここから逃げ出せるんだ、そう思っていた、本当に、心の底から。


着慣れた制服を脱ぎ捨てたら、戻したはずの液体が込み上げて来て、洗面所に走った。

げぇ、おえっ、げほ、何度も何度も繰り返した行為だけれど、未だに慣れることはなくて、込み上げてくるものに身を任せるだけ。


「卒業おめでとう」なんて言葉と一緒に背中を撫でられて、視界が滲んだ。

やっと終わったんだ、って悲しさでも、寂しさでもない、開放感から涙を流した。

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