彼は考える。彼女のことを。
次の日から何度も何度も海斗は百合をパートナーに誘うが断られてしまう。
そして今日も――――
「なぁ、西條ー。パートナーになってくれ。頼む!」
「何度も言ってるけど、私はあなたとパートナーになる気はないから…。諦めて。」
「諦めねーよ。これこそ何度も言ってるだろ。」
「……私にこだわる意味は無いと思うけど…。」
「意味ならある。」「……何?」
「それは今は言えない…けど、俺とパートナーになってくれたら教える。…どうする?」
「………馬鹿みたい。」去っていこうとする。
「あっおいっ!待てよ!」百合の腕をつかむ。
「私にこだわっていたらパートナー決定期間を過ぎてしまうんじゃないの?」
「それはお前も同じだろ。」
「でも………。」
「他に理由でもあんのか?」
「…………」
「…………」
二人の間に沈黙が続くと思われたが、雰囲気に合わない声が間に入ってくる。
「ねぇ、二人ともー。空気が重いんだけどー。」
「…んだよ、入ってくんな。…幸助。」
「いやいや、そんなに睨まないでよ。俺はちょっとでもこの空気を変えようと思っただけだよ。」
「それだけじゃねぇんだろ?」
「おー、さっすが海斗。…俺ね、思ったんだけど、二人ともパートナーになったら?」
「それが私は嫌だって言ってるんだけど…。」
百合が幸助を睨む。
「まぁまぁ、話は最後まで聞いてよ。…もうすぐでパートナー決定期間が終わるってのは知ってるよね?期間が終わったのにまだパートナーが決まってなかったらどーなるか、知ってるよね?…二人とも?」
「パートナーが決まっていない生徒は決まるまで戦闘訓練が受けられない…だろ?」
「そう。二人とも、そーなるのは嫌でしょ?だったらパートナーになればいい。…但し、1ヶ月だけね。んで、1か月後にもう1回百合ちゃんに海斗と本当にパートナーになるのか聞けばいい。」
「…それで、西條がいいって言ったらそのままパートナー、嫌って言ったらそれで終わりって事か…まぁ、俺はいいけど…西條は?」
「……分かった。拒否してもずっと付きまとわれそうだし…1ヶ月だけパートナーになってからあなたのことを拒否する。…そしたらもう付きまとったりしてこないだろうから。」
「分かった。まぁ1ヶ月だけでもパートナーになってくれるのは嬉しいから。1ヶ月、覚悟しとけよ。」
「…あなたがどれだけ努力しても結果は同じことだから。じゃあ……。」去っていく。
―――――――――――――――――
「いやー、良かったね海斗。後は海斗次第ってところかなぁ…。」
「そーだな、まぁ頑張るわ。」
「頑張ってー。…でも、一筋縄じゃいかないと思うよ。あんだけ嫌がってたんだし…。」
「あぁ。拒絶する理由があいつなりにあるんだろうな……。」
海斗は彼女のことを考える。自分を拒絶する彼女は何を思っているのか、なぜ彼女は"化け物"と呼ばれるようになったのか…全てを知りたかった。聞きたかった。彼女から。…けれど、そんな勇気はなかった。自分から聞いてしまったら彼女に本当に嫌われてしまう。だから、彼女が話してくれるのを待とうと思った。時間がかかってもいい。彼女のことならいつまでも待てるから。
――――――――――――――
ある扉を百合は開く。そこには椅子に深く腰かけた校長がいた。
「あぁ、来ましたね。聞きましたよ、海斗君とパートナーになったんでしょう?…良かったですね期間に間に合って。」
「ほんの1ヶ月だけだから。」
「1ヶ月だけでもいいじゃないですか。私の予想では1ヶ月後あなたは海斗とパートナーになることを望むとおもいますがねぇ。」
「…そんなこと、望まない。絶対に。」
「まぁ、それでもいいです。あなたには、一人では倒せない"魔"が必ずいる、ということを理解してほしいだけです。…この1ヶ月は海斗君と必ず協力し合うように。いいですね?」
「分かった…努力する。」
「そうして下さい。では明日から頑張って下さいね。」
校長室を出て自分の部屋へ歩く。
彼はまた自分のことを真っ直ぐ見つめてきた。誰もしなかったことを彼はしてくる。どうすればいいか分からなかった。優しい彼は自分のことを知った時、どんな反応をするのか不安だった。自分のことを考えてくれる人を失いたくなかった。失った時の怖さを知りたくなかった。
だから彼を拒絶したのに―――