プロローグ
場面によって目線が変わります。わかりにくいですが、その場所と目線のキャラを間を空けて書いてあります。
ここは神奈川の山々に囲まれ、自然豊かな帯刀町という田舎町。
ここに江舞寺という平安時代から続くとされた、伝統ある一族がありました。江舞寺家には初代頭首(江舞寺真道)が築いた莫大な富と権力がありました。さらに、この家の者の多くは妖術や霊力といった人知を超えた力を扱い、ときに暗躍し、裏からこの国を支える重大な機関の役割をしていたのです。
そして、この代には五人の若者がいました。
長男、吹雪鬼
長女・千秋
次男・魁人
次女・桜
三女・向日葵
魁人と桜は双子で魁人は次期頭首に任命されていました。
桜には大切なモノが欠けていました。そして彼女には本人もまだ気づいていなかった、世界に滅び以上の脅威を呼ぶ力が眠っていました。
彼らは中学3年の終わりの日、非常なる運命によって家族を裂かれることとなる。そのことを、魁人は知っていたのだ。
庭では母さんが、玄関ではちぃが倒れている。今、廊下を歩いている男に倒されたのだ。その男こそが江舞寺の宿敵、永久の月が頭領、月平の神差だ。
さらには兄、吹雪鬼がやられる様を黙って見ていた。だが、この上には行かせない。
「動くな!」
俺は男に猟銃を向けた。こんなもの通用するとは思っていない。
ついに始まってしまった。俺はこいつが来る事をすでに知っていたのだ。やはり強い霊力だ。俺では敵わないか。
「やあ、頭首様のおでましか」
「何を言うか、俺はまだ頭首ではないぞ」
大かた、爺様は殺されたか
「お前の祖父、江舞寺恒人は我が組織によって殺害した。今からお前が頭首だ」
やはりか。爺様程の人間が殺される。もう引き返すことはできない
「申しおくれた。僕の名は月平の神差。我ら“永久の月”がここへ来た目的、知らん訳でもなかろう。大人しく姫の力を渡してもらいたい。それとも、あらがうか?」
(ドンッ!)
俺は男の頭を撃ちぬいた。しかし男の頭に空いた穴からは血は出ずに銀色の煙が出ていた。そして穴はみるみる塞がっていき、男は笑って俺に言った
「どうだ、初めてみるだろう。これも君たちの先祖がしでかした事なのだよ。君にはその罪を償ってもらうのもよいな」
効かないのは分かっていた。だが百聞は一見にすぎず、理解しがたい光景だ。俺は再度、猟銃を構えると、神差は二階の方を見た。
「どうやら、上にいるようだな」
まあ、あれだけの存在を隠すには無理があったか、しかし桜をこいつと接触などさせるものか
「いかせんぞ!」
俺は再度発砲する、それに対し男は手を翳し波動を放ち、俺は後ろの壁に打ち当てられた。
「なんの抵抗だい?妖術を奪われ、とった術がこれか・・・」
そうだ、こいつがここへ来たときより、この屋敷全体に結界が張られ、俺は妖術が使えなくなった。男は俺に銃を向けた。滑稽な話だ。お前はそんなもの使わなくても俺を殺すことなどできるのに、あえて俺と同じような武器によって俺を殺すか。
(バンバンバン)
3発の銃弾が俺の胸部に直撃する。当然生身だ。痛みが走る。だが、この程度、まだ死ぬほどのことでもない。だが、意識が飛びそうだ。
「しばらくここで待っていたまえ」
男はそのまま二階へ上がっていった。薄れゆく意識の中でその後ろ姿を見ていた。
(ドッカバキバキバキ)
大きな破裂音とともに男は天上を突き破り二階から打ち落とされてきた。
「フハハハハ、まさかすでにここまで力を宿していたとはな」
男は体中から煙をだし、埃払いながら立ち上がった。
「桜に何をした」
「なーに傷をつけるつもりはなかったさ。それより末の妹さんが見えないな。まだ学校かい?」
「教えると思うか?」
「いいや思わない。それより、君に話があるのだが」
(カタ)
二階から物音がした。
(ぺたっぺた)
這うような音がした。
俺はこのとき、絶望的なこの状況のことよりも、二階にいる大きなまがまがしい何かへの恐怖の想いが強かった。
「姫様のお出ましか・・・」
男は不気味な笑みを浮かべている。二階を見上げると、おぞましいオーラとともに、それを纏った桜が階段を這って降りてきた。それこそが俺の恐怖の根源だったのだ。妖力でも霊力でもない、まったく別の禍々しい闇のオーラ。邪気なんかの比にならない強大な力だ。これが桜の中にいた破滅の力なのか。男はそれを見て嘲笑うと桜を撃った。そしてそれは頭に直撃した。桜はうつ伏せのまま一階まで滑り落ちた。血まみれの桜に男が銃を向けると桜の血まみれの眼は男を睨みつける。そのとたん、男の左目が潰れたのだ。
「ッ・・・」
男は左目を抑えると、桜に手をかざし、黒い靄を放った。桜はそれをくらい、眠るように意識を失った。
「まさかこの体に消えない傷を付けられるとはな・・・結界もあと少しで切れるか」
そして男は無線のようなものを取り出し
「王将より伝達、作戦中止、撤退する!」
男は無線を切ると、指を鳴らした。その瞬間、家じゅうが火の海となった。そして男は桜を連れさろうとした。
「待て!」
男は後ろで倒れている吹雪鬼を見ると
「少々、計画とは違うが、僕が来たのは正解だった。1200年もの間ずっとこの時を待っていたのだが・・・今ここで長きにわたる忌まわしき定めに終止符を打つのだ!江舞寺魁人!現江舞寺家頭首よ!君とはまた会うだろう。またの機会にゆっくりと話したいものだ」
男は桜を抱え、炎の中を去っていった。俺はまだ体が言う事を聞かず、もはや一歩も動けなかった。
しばらくして、向日葵が帰って来た。外に集まる野次馬と燃える家、母さんの死体。それらを見て、泣きながら俺のもとへ来た。
吹雪鬼も目を覚まし、俺に寄り添う。俺はまだ行くわけには行かない。この二人には打ち合わせ通りに地下道を通って北に向かってもらうことにした。結界も消えた。俺はすぐさま体の傷を塞ぎ、地下へ降りた。
そこにある、術式に力を込めた。これによりすべての家臣の家に届くのだ。こっちの使命は成すことができる。本当はこれをするつもりはなかったのだがな、運命に抗うことができないという一般論の通りになってしまった。
「全分家に告ぐ!―――――――」
これで使命は果たした。桜は守れなかったが、これも計画のうちだった。俺はそれに背こうとしたが、失敗したんだ。あとは迎えが来るのを待つだけだ。常人はここには入れない。俺は眠るように意識を失った。
数分後、警察と消防隊が駆け付けて千秋は病院に搬送された。江舞寺亭の屋敷はほとんどが焼け焦げ、無残な姿へと変わった。そして母(栄恵)の姿は見つからなかった。
消防隊が引き上げたのち、意識を失っている魁人の横に立つのは中国に滞在中のハズの父(智人)。そしてその腕には赤ん坊を抱え、魁人を見下ろしている。この後、智人は魁人を連れ中国に戻った。魁人はこれより10年、中国に身を潜めることになる。
数日後には千秋が眼を覚ますものの、それまでの記憶を綺麗に忘れてしまっていた。
さらに数日後には屋敷を抜け出した吹雪鬼と向日葵が最北の家臣の家、北海道の北澤亭に到着した。
これから話すのはこの出来事の十年先の話です。
タイトル回収するのがかなり先になります。キャラが多くなるので混乱させてしまったら申し訳ありません。