スリルが足りない…。そうだ、側室になろう!
とりあえず、生存報告がてらの作品です|д゜)ぺぺ、生きてますから~~~~っ(;´Д`)
麗らかな柔らかい光が溢れ、生命の躍動が最も感じられるそんな季節。
建国より500年ほど平穏を享受してきたあるひとつの大国で、国王の側室を選ぶ選定が行われていた。
-求む、側室。身分・年齢問わず。
希望者は、○の月×の日△の頃
王城内、中庭にて集合。
なお、服装は自由。
受付は城門で行うものとする。―
そんな張り紙が、国のあちらこちらで見られたが、実際にそこに赴くものなどほとんどが決まっている。貴族の娘たちに、裕福な商家の娘たち。稀に王都にやその近隣の村に住む庶民の娘などだ。
王都から離れれば離れるほどそれに赴こうとするものは、裕福なものに限られてくる。
旅にはそれなりの金がかかるというもの。それが、側室になろうかといううら若い娘ならなおさらだ。
しかしそんな中、国のはずれもはずれ、王政も大して関係のないとも言える村ともいえない平和な集落に住む一人の娘が、今まさに側室にと旅立ちなるために旅の準備をしている。そんな集落にいるくらいであるから、娘の家自体裕福とはかけ離れており、王都に住むものが見ればみすぼらしいともいえる格好だ。自給自足が基本の集落で、誰もが側室に選ばれるものかと思っている中、娘は淡々と準備を進めていた。
旅に出る金も捻出出来るはずもない両親が、そんな金がどこにあると娘を罵れば、金は要らぬとあっさりと言ってのけ、馬鹿にされるだけだとさめざめと姉妹が訴えれば、百も承知と聞く耳を持たない娘。しまいには兄弟が力ずくで止めようとしたところ、準備を済ました娘はさっさと玄関を潜って走り去っていた。
その娘の名はムーナ。ササ村のムーナ。若干周囲からは頭が弱いと思われている、側室になるには少し薹のたった娘でもあった。
* * * * * * *
「では、次の者」
城門で不審者を見逃さないようにと、ずらりと並んだ兵士たちに囲まれて、ある選定に参加するために列を成すのは、程度の違いはあれど綺麗に着飾ったうら若き娘たち。
しかし、受付まで来たはいいが、物々しい兵士に兵士に上から下、至る所から凝視され這々の体で帰る者も少なくない。
そんな中でも異彩を放つのは、埃に塗れた簡素な旅衣装を纏ったムーナである。そのムーナを周囲は嘲りの目を向け、嘲笑していたが本人は一向に気にすることもなく、のんびりと自分の番が来るのを受付の列に並びまっていた。
「名前と歳。出身地と家名があれば名乗れ」
貴族の娘ははほとんど通り、名高い商家の教養を持つものもまずまず通る受付は、庶民の娘には敷居が高くそのほとんどが脱落する中、ムーナの番が巡ってきた。
「ササ村のムーナ。25歳…。多分?」
ササ村はあまりにも辺境過ぎて、実は歳の数え方もアバウトである。しかし実際のところそれはササ村だけに限ることではない。王都から離れれば離れるほど、民衆の気質はよく言えば穏やか、悪く言えば適当になっている。そんな暮らしの中で歳を気にするものといえば、王都周辺のものに限られてくるというもの。
旅の最中で汚れてしまった顔を軽く傾げて、受付に答えるムーナに、それまで殆ど顔をあげることのなかった受付の文官が何事かと顔をあげる。
そして、ムーナの姿を見て納得すると、
「案内の兵士に従い、中庭に行くがいい」
と言い捨て、次の娘の受付を始めてしまう。そもそも、この選定に年齢や服装はあまり関係がない。そんなわけで、文官はムーナをあっさりと城門の中へと通したわけであるが、ムーナの動向を見守っていた兵士たちは軽く目を開き、列に並ぶ娘たちはありえないと悲鳴を洩らすのであった。
ムーナが文官に一礼し、案内役と思しき兵士のもとに向かい城門の奥に消える頃、見張りの兵士たちが目配せをし合いムーナの選定の合否を賭け合い、兵士に恐れ戦き列から外れたものの、諦めきれずにたむろしていた娘たちが並々ならぬ闘志を宿し、再び列に並び始めていた。
さて、ムーナと言えば案内役の兵士に従い、城の奥へとずんずん進む。本当は滅多にというか一生お目にかかれなかったであろう城内をじっくりと見たい気持ちが山々であったが、下手に余所見をして間者と疑われるのを避けたい一身で真っ直ぐ前を見据えて歩いていた。その胸のうちはというと、側室になれば嫌でも眼に入るようになるかと他のものが聞けば目を剥くようなことを平気で考えているのであった。
あちらこちらをくねくねと進まされて漸く辿り着いた中庭は、意外と広く城門では入りきるのかをムーナの頭を悩ませていた娘たちが意外と悠々と思い思いに寛いでいた。といっても、明らかに東屋付近やベンチ付近には貴族と思われる令嬢たちに占拠され、次いで国王が登場するかもしれないと予想されるところには裕福そうな娘たちが。それ以外と言えば、広い中庭の隅に追いやられており、この中庭だけで素敵な格差を目の当たりにすることが出来た。
そんな格差も当のムーナにはあまり関係がない。例え、中庭に着いた途端その場にいた娘たちが話をやめ、ムーナを凝視した後、クスクスと厭らしく笑ったとしてもだ。何せ、ムーナはこの選定で選ばれる自信があるからだ。はっきりとした根拠のない自信ではあるのだが、本人はそれを露とも疑うことをしない。堂々とした態度で、中庭を突っ切ると、誰もをつけていなかった選定に来る娘たちにために用意されてい軽食や飲み物の置かれたテーブルを目指す。
そして、特に周りを気にすることもなく、その軽食や飲み物をガツガツと食らい出した。
ササ村から王都まで、最低限の食事を自給自足で賄ってきたムーナには、その軽食が何よりのご馳走に見えていた。むしろ、村では食べられないそれらは確かにムーナにとってはご馳走以外の何物でもなかった。
中庭についてからの指示はその娘もされてないなかったため、次の支持があるまでムーナはひたすら軽食を腹に詰める作業に没頭していた。次から次になくなれば、新たに運ばれる軽食はムーナの心をがっちりと掴み、ムーナを満面の笑みにさせていた。
ムーナの腹が軽食であったはずのそれで限界を訴えようかという頃、中庭を囲むように城門から移動してきた兵士が現れると、その背後から受付にいた文官が面倒くさそうに姿を見せる。
それに対し色めき立つ娘と、口をもごもごさせながら文官を見やるムーナ。文官は城に背を向け中庭を見渡せる位置に来ると、とてもそのような大きな声が出るとは思えない体格のくせに、中庭の隅々まで聞こえる声を張り上げた。
「これより、側室の選定にはいる。選定は至って簡単。馬鹿でもわかる、選定方法だ。そこの通路を抜けると、兵士が一人立っている。その者に着いて行き、陛下と面談をするだけである。合否はその際、陛下より伝えられる。なお質問等は受け付ける予定はない。すべては陛下のご判断で決まることを心得よ。次に選定に受かったものは今日より居城することが許される。一度帰りたいものは、面談後、割り当てられた部屋に付く侍女にその旨を伝え、その後派遣される文官に登城する際の書類を受け取り、手続きの説明を受けてから帰宅するものとする。最後に選定に落ちたものは、残念だがどんなに頑張ってもまたの機会が訪れることがないことを心に留め、兵士の案内のものと帰っていただく。それでは、これより名前を呼ばれた順に面談に進まれよ」
有無を言わせないそのしゃべりに娘たちは困惑を隠せないでいるうちに、一番初めの娘がその名を呼ばれる。びくりとその体を震わせて反応した娘に誰もが同情の目向けたが、心の底からの同情を送ることはなかった。
腹も存分に満たされ、春の暖かい日差しがムーナの眠気を誘い出した頃、ムーナの名が呼ばれ、ムーナは眠たい目を擦りながら示された通路に向かって歩みだした。
通路の先で待ち構えていた兵士の後ろを歩き、行き着いた部屋の中では、一人の男性とそれをぐるりと囲む兵士たちの姿があり、城門での受付よりもさらに威圧感を増した空気が辺りに充満していた。
ムーナは案内をしてくれた兵士に礼を述べ、部屋の中に入室するとじっくりと兵士に囲まれた男性と兵士たちを眺めた。
一応の見当として兵士に囲まれた豪奢な衣装を身に纏っている男性を国王だと認識しているムーナではあったが、よもやその周りを囲むのがただの兵士ではなく騎士だということには気づいていない。ムーナにとって兵士と騎士の違いなどこれっぽちもわからないためだ。だから、如何にこの体制が厳重であるかなど全く理解できていないのであった。
部屋に入室したものの、何をどうすればいいのかわからないムーナはとりあえず、受付で話した簡潔すぎる自己紹介をすると、国王と思しき男性が話すのを待った。
…ひたすら待った。
また眠気がぶり返して、まだ腰も降ろしていないのに立ったまま寝れるかもと思えるくらい待った。
「そこで寝るな。こちらに来て座れ」
漸く話かけられて、気が緩みまくっていたムーナがビクッと反応するのを男性は呆れた眼で見つめ、顎で面談のために自分の前に置かれた椅子を示す。それに従いムーナが椅子に腰掛けると、男性は改めて口を開いた。
「よく参られた。余が国王のオルズロク=サンである」
低く力強いその声はムーナの耳に心地よく聞こえ、目の前に座る国王と名乗った男ににっこりと微笑む。
一瞬ではあったが、国王を始めその周りを取り囲む騎士の纏っていた空気が揺らいだのだが、ムーナが気づくはずもなく、ニコニコと愛想を振りまいて側室への足がかりを作ろうとしてい。
国王はそんなムーナを興味深げに観察したのち、ムーナに対しての質問を開始した。
「ムーナと言ったな?そなたは何故側室になりたいと思ったのだ?」
漸く面談らしい面談になったきたと、ムーナはニコニコとした顔を引き締める。ここがムーナにとっての勝負どころだ。
「刺激が欲しいからです!」
「………は?」
ドヤ顔で言い切ったムーナに、一瞬何を言われたかわからなかった周囲だったが、ムーナ以外に唯一発言出来る国王が漏らした返事は凡そ国王とは思えぬ間の抜けたものであった。
ムーナはそれを気にすることなく、側室になりたい熱意を国王に滔々と語り始めた。
「私の故郷は王都から遠くは離れたササ村という所です。一般の方が王都からササ村に行こうとするならば、早くて三月…そうでない場合でも半年は覚悟しなければならないくらい辺鄙な片田舎なのです。だからといって、ササ村を卑下するわけではありませんが、まぁ良くも悪くものんびりとして娯楽がないところなのです。やることといえば…、農作物を育てたり狩りをする以外は食う・寝る・ヤる。お蔭さまで、子宝に恵まれた田舎ではありますが、成人と同時に村から離れる者も少なくありません。かく言う私も8人兄弟の六番目という、とても中途半端な立ち場であります。頼りになる兄や姉、可愛い弟に妹ではありますが、上と下に挟まれると両親もあまり私に構うことはありませんでした。それを寂しいと思う間は、兄弟が多いのでありませんでしたが、毎日同じことの繰り返しでとても退屈な毎日でした。そして、あれは確か二月ほど前だったほどでしょか?王都からの使いの方がわざわざササ村までお越しになり、今回の側室選びのことを広場にて発表なさったのです。その時私は、これだ‼と思いましたね!期限が残り二ヶ月と迫っておりましたが、私一人ならばまぁ行けなくはないかなと思い、村を出たのです。私が村から出れば、両親の負担を一人分減らせます。さらに、私が側室になれば、私は後宮の血で血を洗う憎愛劇を生で見ながらドキドキハラハラ‼うまくいけば家族に仕送りも出来て一石三鳥!?という感じで側室になりにきました」
もはや側室になることが決定事項のように言葉を締めくくるムーナに、国王も周りを取り囲む騎士たちも呆然とするしかない。まずどこから突っ込めばいいのか、悩む周囲をよそにムーナは仕事が終わったとばかりに肩の力を抜いて、椅子に背中を預けた。
「…ムーナよ、まずひとついいか?」
「はい?」
いろいろとぶっ飛んでいるムーナの衝撃からなんとか回復した国王は、片手で眉間をもみながら努めて冷静に口を開のだがを、そんな国王を理解できないムーナは首を傾げながら次の言葉を待つしかない。
「そなた、側室とはなにかわかるか?」
冷静になったつもりでいた国王だったが、呆れた口調で投げやりに問いかける。それもしかたないと、周りの騎士たちは未知の生物でも見たかのような眼差しでムーナを観察する。
「側室が何か?…ですか」
国王の意図がわからないムーナであったが、きょとんとしたまま素直に答える。
「側室とは、まず子供を産まなければなりませんね。次、王妃様の代役をこなしたりしないといけない時もあるかもしれませんねぇ。現在、陛下には王妃も御子もいませんので、側室から王妃になる可能性はなくはないかとおもわれます。あとは疲れた陛下を癒して差し上げたり?他の有力そうな側室を蹴落としてみたり…、自分磨きに勤しんでみたりですかね?」
大まかなことは理解できていそうなムーナの発言だったが、最後あたりに不安を覚える国王。
「では、ではそなかが仮に側室になったとしよう。そなたのやらねばならぬことはなんだ?」
「それなら、簡単です。まず、側室同士の修羅場の観察。次に三食食べて昼寝をして、たまに入り込むであろう暗殺者のストーキングですね。あとは、周りの弱みを収集してなにかあったときにそなえます」
にこにこと若干の照れを表情に浮かべるムーナだったが、国王と騎士の気持ちは一つだ。
_______何故そうなるっ!!!!
そして、ムーナは最後の爆弾を周囲に投げた。
「陛下、私を側室にしておけば損はさせませんよ?陛下が望めば、このムーナ、王妃様を迎えられた折にはとっても役立ちますよ?」
今までの凡庸でいて、空気のよめない娘という態のムーナの空気ががらりと変わる。ニヤリと片側の唇を上げる様はまさに悪。すがめられためにも、黒い何かがキラリと光る。
「世の中、キレイゴトだけでは渡っていけませんよね?」
国王や騎士からすれば、慣れた雰囲気のものであったが、突然田舎からやってきたどこかのほほんとした未知の生物から発せられたせいか、一様に息を吞む。
「でも、人殺しはしてはいけないと祖父の遺言があるので、暗殺は出来ませんがね」
と言い終ると同時に、ムーナはまた照れ笑いを浮かべた。そして、
「ちなみに、陛下に嘘はいけないと思いますので言っておきますと、私の祖父は生きてますから」
と、今度は神妙な顔つきで言葉を締めくくった。
それ、遺言じゃないよねと誰しもが口にしかかっていたが、なんとか堪えていた。
国王であるオルズロク=サンは、今目の前にいる長旅で薄汚れた平凡な出で立ちの女に、並々ならぬ興味が湧いていた。だかしかし、それを素直に表せば、何やら相手の思う壺になりそうで、ぎゅと表情を引き締める。
最初こそどこの阿呆かと思っていたオルグロクだったが、女が話しているうちにあることに気付いた。女が側室になりたいのは、女自身が楽しむためということと、決してそこに女がオンナとして扱われるつもりがないことに。
目の前の女は確かにオンナとしてでなくとも使えそうではあった。先ほど女が見せた、黒い笑みは只ならぬ何かを感じさせ、その技量がどれほどのものかは正確にはわからないものの、ついている騎士の何人かが鞘に収まる剣の柄に手が伸びていたのを見れば、実力は程々に知れた。
まるで、掴みどころのないような発言をしている女ではあるが、その裏に潜む何かが己にとって不利のないものでないと根拠はないものの感じているオルズロクは、初めて感じる高揚感と自分の隣に女がいることで今まで感じたことのない面白さを得ることができそうだと感じていた。
女が側室になることで、女だけでなく自分も楽しめそうだとニヤニヤしたくなるのを抑えて、オルズロクは厳かに女に告げる。
「これより、我が居城に住まうことを許そう。そこの扉を開ければ女官が控えている。付き従い、今宵はごゆるりと過ごされるがよかろう」
オルズロクが示した扉は女が入ってきた扉とは別な扉を示し、女の退出を促すと、女は素直に退出し扉の奥へと消えた。
そして、次の側室候補を部屋に迎えいれるのだった。
* * * * * * * *
これは破天荒王と呼ばれ親しまれた一人の男と、守護妃と呼ばれ恐れられた女にお話し。その序章である。