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歩く七不思議と都市伝説  作者: 柊 響華
桜の木の下には死体が埋まっている!?
9/21

覚醒

 迫り来る木の根が酷くゆっくりとして見えた。

 けれど、僕の体は動かずただそれを見ることしか出来なかった。

 根が僕の体を貫こうとした、その時ーー。

 僕の体は急に後方へと引っ張られる。

 その勢いで僕は後ろへと倒れこんだ。

 根が僕を貫き損ねて勢いが止まる。

「何やってんだ!!」

 僕はその声にハッとする。

「信一君……」

 信一君は根と少女のほうを見ながら後方に下がる。

「おい。立て、亜鶴沙。また、来るぞ」

 僕はその言葉に頷きつつ、立ち上がる。

 少女を見ると彼女は再び俯いて、その顔を手で覆い隠していた。

「いや。いやぁ。違う。違うの」

 少女は意味のわからない言葉を繰り返す。

 その間にも根は次々と地面を突き破り、僕らを襲う。

「亜鶴沙! こっちだ!」

 僕は信一君に手を引かれて逃げる。

 桜から距離をとろうとするが、根に阻まれここから逃げられない。

「くそっ!」

 信一君が毒づく。

 どうしよう……。

 このままではまずい。

「あの人はどこにいるの? 私、覚えてるわ。忘れてなんかない」

 少女は首を振る。

 彼女を落ち着かせないと。

 でも、どうやって?

 考えている間にも根は僕らを襲ってーー。

「亜鶴沙!!」

 突如信一君に突き飛ばされる。

「うっ。痛っ」

 尻餅をつき、手を擦りむく。



 ぐちゅっ。



 今



 凄い嫌な音がした。



 僕が顔をあげると、目に飛び込んできたのはーー。



 根が信一君から離れ、本体であろう桜の木の側へと戻っていくところだった。

 その先端に、真っ赤な血をつけて。

「うっ」

 信一君が脇腹を押さえて、その場に倒れ込む。

 その手が真っ赤に染まっていく。

「ーー!」






 * * * * *




 亜鶴沙と知り合ったのは高校生になってからだ。

 亜鶴沙は俺と出会う頃にはもう、学校では不思議ちゃんと呼ばれていて、近寄りがたい存在とされていた。

 こいつはいつも何を考えているのか分からないやつで、周囲からは薄気味悪がられていた。

 俺もそんな奴の一人で、でもある時気付いた。

 亜鶴沙は他人よりも少しだけ、感情表現が苦手なだけで、決して何も感じていないわけではないのだとーー。

 亜鶴沙はいつもぼんやりとしていて、危なっかしい。

 だから、俺が側で守ってやらなきゃって思ってた。

 ここについてきたのもそう。

 亜鶴沙は俺に隠し事をしている。

 亜鶴沙はいつも俺には関係ないっていう。

 でも、俺に側にいてほしいと言う。

 全く。

 我が儘な奴だ。

 根が亜鶴沙を襲った時、俺は迷わなかった。

 体が勝手に動いていた。

 亜鶴沙をほっとけない。

 こいつはほっといたら、どんどん誰の手も届かない場所にいってしまいそうなんだ。

 全く。

 世話のかかる奴だ。

 亜鶴沙は両目に溢れそうなほど涙を溜めている。

 泣くなよ。

 そんな泣きそうな顔するなよ。

 俺は平気だから。

 こんなのかすり傷だぜ?

 亜鶴沙……。




 亜鶴沙……?


 お前、


 目が……。






 * * * * *




 どうしよう……。



 どうしよう!



 信一君が死んじゃう。

 血が……。

 血が、どんどん出て。

 どうしよう……。

 どうしよう。

 どうしたらいい?

 信一君の手が真っ赤に染まる。

 信一君の顔が苦痛に歪んでーー。

 どうしよう?

 どうしたらーー。

 また……。

 失うーー。

 それは駄目だ。

 絶対に!!

 嫌だ!!

 やめて……。

 死なないで。

 失いたくない……。

 もう二度と……!




 * * * * *



 我々が物陰から見ていると、突如桜の根が地面から飛び出し、少年達を襲う。

 桜の根が少年の一人を貫こうとした、その時もう一人の少年が彼を突き飛ばした。

 突き飛ばしたほうの彼は知らないが、突き飛ばされたほうの少年の名は確かーー。

相馬そうま亜鶴沙あずさよ」

 隣で相方の少女が無愛想に言った。

「もう一人は知らないわ。恐らく一般人ね」

 そう彼女が言った彼は根に腹部を貫かれ、瀕死状態だ。

「助けなくていいのか?」

 あのままでは、恐らく確実に死ぬ。

 遠目なので詳しくは分からないが、腹部じゃあ止血は難しいし、出血も酷いだろう。

 仮に止血出来たとして、今の状態の相馬亜鶴沙にそれが出来たかは怪しいものだ。

 友人が刺され、酷く混乱しているようだ。

 錯乱していると言ってもいいかもしれない。

 正確には刺されたのではなく、貫かれたわけだがーー。

 まぁ、細かいことはいいだろう。

 さて、この後一体どうなることやら。

 隣の少女は何を考えているのか、無表情で現状を観察している。

 ……!?

 相馬亜鶴沙の後ろから根が彼を襲おうとしている。

 彼はそれに気付いていない。

 これは……。

 まずいのでは……?

 そう思った次の瞬間ーー。









 パァン!!






 ……!?




 突如響いた破裂音。

 それと共に彼を襲おうとしていた根が、破裂した。






 * * * * *



 ?

 亜鶴沙。

 お前の目……。

 青い?

 俺の見間違いか?






 !?




 亜鶴沙!!

 後ろに根が!!

 危ない。

 逃げろ。

 亜鶴沙は気付いてない。

 言わなきゃ。

 なのに、口が、声が。

 くそっ!

「あっ……う……」

 うめくような声しか出ない。

 逃げろ。

 逃げろ。

 亜鶴沙!!








「信一君」















 パァン!!







 乾いた音がした。



 亜鶴沙の後ろで根が弾けた。



 一気に。



 塵と化した。





 やっぱり。

 見間違いなんかじゃないーー。





 亜鶴沙の目が、





 深い深い、






 青色に染まっていたーー。


誤字脱字があればお願いいたします!

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