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歩く七不思議と都市伝説  作者: 柊 響華
桜の木の下には死体が埋まっている!?
7/21

桜の都市伝説

 しばらく、川沿いを歩いているとようやく橋を見つけた。

 だがーー。




「おい、亜鶴沙。」

「何ですか? 伸一君」



 僕らの視線は目の前の橋に向いている。


「これを渡るのか?」



 僕がその問いに答えるのには、少し間が空いた。


「ええ。そうですよ。ここしか向こう岸に渡る手段はないんですから」



 そう言う僕の前には木製の今にも落ちそうなくらいオンボロの橋がある。

 確かにこれを渡るのにはちょっと勇気がいるが、これを渡るしか向こう岸に渡る方法はなさそうだ。

 僕らは自然とお互いの顔を見る。

 そしてーー。



「「最初はグー! じゃんけんぽいっ!!」」

 どちらともなくじゃんけんをする。

 僕が出したのはチョキ。

 対する伸一君はーー。

 すべての指を開いている。

 パー。

 僕は思わずガッツポーズをする。



「やった! よしっ! 勝った!」

「くそー。負けた」

 がっくりと項垂うなだれる伸一君に僕は言う。

「伸一君が、先に渡って下さいね」

「くそっ。覚えてろよ。亜鶴沙」



 その台詞は聞き飽きましたよ。

 伸一君。

 僕は心の中で言う。

「お前、何を笑ってんだよ」

 伸一君、不機嫌そうです。

 ふふっ。

 何だか楽しくなってきました。

「別に。さぁ、早く渡って下さい」

 分かってると言わんばかりに伸一君は僕を睨み付け、恐る恐る橋を渡り始めた。




 * * * * *



 結果。

 橋は以外に頑丈で全く何の面白味もなく向こう岸に渡ることが出来た。

 てっきりマンガなんかでお馴染みの、橋が落ちて川にドボンな展開を創造していただけに、ちょっぴり拍子抜けだった。


 まぁ、何はともあれ無事に渡ることが出来て良かった。

 ちょっと残念だったけど。



 そんな僕の内心を察したのか伸一君は。

「お前。俺が落ちれば良いのにとか思ってたろ」

 ギクッ!

「そんなことないです。酷いですね。僕がそんな風に見えますか、伸一君」



 僕は真剣な表情で彼を見つめましたが、伸一君は僕のことをジトーっと睨み付ける。

 ……うん。

 無視しましょう。

 僕は伸一君を置いてスタスタと歩き出す。



「おい。亜鶴沙! 待てよ」

 伸一君は僕を追いかけてくる。

 伸一君は僕の少し後ろをついてくる。



 僕らはそれからしばらく無言で歩いた。

 僕は何となく感じていた。

 この辺りに漂う不思議な気配をーー。

 僕は自然と手に力が入る。

 どことなく漂う緊張感。

 空気を読んでか伸一君はずっと黙っていた。



 しばらくそのまま歩いていると、ふわりと甘い香りがした。

 思わず手で口と鼻をおおう。

 匂いは先に進めば進むほど強くなっていった。

「おい、亜鶴沙。この匂い一体何だ?」

 伸一君が匂いを感じ取れるということは、それはつまり余程その力が強いということだろうか。

 僕の歩調は徐々に速くなる。



「おい。亜鶴沙。待てよ」

 その時、風が強く吹いて僕らの視界を一時的に奪う。

 目を開けると少し先のほうに木が見えた。

 それを見て僕は走る。

 伸一君が僕の後に続く。

 後ろのほうで何か叫んでるようにも思えたが僕は無視した。

 今見えたのはあれはーー。




 視界が開けた場所にその木はあった。

 桃色というよりは白に近い色をした満開の桜の木。

 まるでその桜を恐れているかのように、遠巻きに木が周りを円状に囲っている。

 桜の周囲には木どころか草もほとんど生えておらず、荒れ果てている。

 それにも関わらず桜の木は満開の花びらを咲かせているのだ。

 まるで、桜がこの場のありとあらゆる生命を吸い取ってしまったかのようだ。




「伸一君、見てください。桜が咲いています」

 僕が呆然としつつも言うと真一君は言った。

「あり得ないだろ。おい。今はもう5月だぞ。回りの桜はもうとっくに葉桜だってのに」

 伸一君は僕よりもずっと呆然とした様子だった。

 僕は伸一君の顔を見た後、再び桜を見る。

 そして僕はその木に近づく。

「あっ! おい」

 伸一君は慌てて僕の後についてくる。




 桜の木が生えている場所は丘のように緩やかな傾斜がついていた。

 ちょうど、桜が頂上に位置する場所にある。

 僕は桜の真下までやって来た。

 そしてこの手で桜の太い幹に触れてみる。



「おい、触ったりして大丈夫なのかよ」

 伸一君が心配そうに言う。

「意外と怖がりなんですね。伸一君」

 僕は彼に向かって微笑む。

「ばっ。ちがっ。そういうわけじゃなくて」



 僕はごにょごにょと言い訳してる伸一君をほっといて桜に向き直る。

 幹はひんやりとしていて冷たかった。

 僕はしばらくそのまま触れていたけれど、何も起きないのを見て手を離した。

 いつの間にかあの甘い匂いも消えていた。

 僕は踵を返して来た道を戻りだす。




「あれ。帰るのか?」

 伸一君は僕の後を追ってくる。

「帰りましょう。僕は少し自分のことを過信していたのかもしれません」

 僕の言葉に伸一君は首を傾げる。

「どういう意味だ?」

 僕がその言葉に応えようとした、その時ーー。






「あら、もう帰ってしまうの」





 凛と澄んだ少女の声。

 僕らは驚き、同時に振り返る。

 すると、先ほどまでは確かに誰もいなかったはずの場所に少女は立っていた。

 ついさっきまで僕らが立っていた場所のすぐ横ーー。

 桜の幹に手をかけ、僕らを見ていた。

 薄紫の着物を着て、長い髪を風になびかせながら、僕らを見下ろしていた。



「ねぇ、もう少しだけここにいたらいいわ。私とお話しましょう」

 そういって少女は微笑む。

 桜よりもずっと濃い桃色の髪をなびかせてーー。

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