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歩く七不思議と都市伝説  作者: 柊 響華
桜の木の下には死体が埋まっている!?
3/21

亜鶴沙の回想

 白い無機質な部屋で僕は必死に話しかけた。


「ねえ、先生。桜の都市伝説って知ってる?」


 彼が答えてくれないのを知っていて僕は彼に尋ねる。


「聡一郎さんが言ってたのだけれど、桜の木の下には死体が埋まっているのだそうですよ。でも学校の桜の下を掘ってみたのですけれど、何も出てこなくてがっかりしました」


 先生は無表情にパソコンと向き合っていた。


「ねえ、先生。聡一郎さんの言ったことは本当でしょうか。それとも、やっぱり単なる都市伝説なのでしょうか」


 先生は僕の方を向きすらしない。

 先生は何も答えてくれない。

 僕は諦めかけて話題を変えようとした。

 その時ーー。


「亜鶴沙。お前は桜の霊を見たことがあるか?」


 先生は一切こちらを見ずに言った。

 けれど僕には先生が話しかけてくれたことが嬉しくて堪らなかった。


「ないよ。桜には霊がいるの?」


 僕が尋ねると先生はその質問には答えず。


「桜の中には確かに死体の栄養分を吸い取り、美しく咲くものがある。だが、全ての桜がそうではない」


 自分の話を続ける。


「私はその稀な桜を血桜と読んでいる」


「血桜?」


 その時、今日初めて先生が僕の方を向いた。


「そう。血を吸い上げて美しく咲く恐ろし化け物だ」


 先生は笑う。

 口の端を歪ませてーー。


「化け物……」


「そう、まるで吸血鬼のようだと思わないか亜鶴沙」


 吸血鬼……。

 人間の生き血を吸って生きる恐ろしい怪物。


「どうして?」


 僕が尋ねる。」


「16世紀に己の美貌を取り戻す為に、次々と若い女を殺しその血を飲んだ奴がいた。彼女は生き血を啜ったことから吸血鬼と呼ばれたが、まるでその女のようではないか? 自らの美しさの為に他者の血を糧とするのだから」


「でも、先生。桜の下に埋まっているのは死体であって、桜は人を殺したりしません」


 僕は反論した。


「そうでもない。桜の下に人間を生きたまま埋めるとどうなると思う?」


 それは少し的外れの質問に思えた。


「それは……。死んでしまいます」


 僕が答えると先生はその通りという風に頷く。


「そう。そしてその人間は桜の霊となり、桜を永久に美しく咲かせる為に側を通る人間を殺すんだ」


 そう言う先生の顔はとても恐ろしかった。

 先生は時々とても怖い話をする。

 僕はそういう時の先生が苦手だった。


「何故だと思う?」


 先生が僕に問う。


「分かりません。どうしてですか?」


「考えていないだろう。考えなさい」

 

「先生は意地悪だ」


 僕が膨れて言う。

 先生は僕が子供っぽいことをするのが嫌いだ。

 だから、普段は精一杯背伸びをするけれど、僕はまだ子供なんだよ、ってことを先生に分かって欲しくて。

 僕は時々子供っぽいことをわざとする。

 すると先生は不愉快そうな顔した。


「そういう子供っぽいことをするのはやめなさい。私は餓鬼は嫌いだ」


「なら、答えを教えてください」


 そう言うと。


「仕方ないな」


 先生はあっさり折れた。

 よし! 作戦成功。

 先生は後ろの、丁度僕の前に位置する大きな窓の方を見た。

 窓の向こうにはもう葉桜となってしまった桜の木があった。


「桜はね、寂しいんだ。だから、人間を連れ込んで寂しさをまぎらわせたいのだよ」

 

 答えが少しずれてる気がします。


「意味がよく分かりません。先生」


 僕が言うと先生はこちらに向き直って言った。


「桜はね、亜鶴沙。愛しい人間を待っているのだ。自分が愛した男が迎えに来てくれるのを待っているんだよ。だから、別れた時のまま美しい姿でいたいのさ」


 そう言う先生の顔は先ほどとはうって変わり穏やかな表情だった。

 そして再び窓の向こうを見る。


「けれど、一人で待つのは寂しいから他の人間を道ずれにするのさ。何ともはた迷惑な話だな」


「けど、先生。何故、男性なのですか? 桜の霊は皆女性と決まっているのですか?」


 僕は疑問に思い、聞いてみた。


「それはな、桜の下に埋めるのは皆生け贄だったからさ。生け贄は女と相場が決まっている」


 生け贄……。

 なら、彼女達も被害者なのではないか?


「いいか、亜鶴沙。間違ってもあの化け物どもを助けようなんて考えるなよ。まぁ、ないとは思うが血桜を見つけても絶対に近寄るな」


「どうして?」


「お前みたいなのが近づいたらその場ですぐに喰われてしまうぞ」


 そう怖い顔で言う先生。

 そして、僕の頬に手を伸ばす。


「亜鶴沙。私と約束しなさい。絶対に血桜には近づかないと。桜の霊と会ってもそれを助けようとしないと、約束しなさい」


 いつになく真剣な表情の先生に僕は気圧されて、頷く。


「分かったよ。先生。でも、もう一つ聞きたいことがあるの」


 先生は約束さえ出来れば満足とばかりに、手を離し再びパソコンに向かう。

 僕は構わず続ける。


「生け贄って言ってたよね。それは一体なーー」


 コンコン。


「相馬さん。そろそろお時間です」


 そこへ丁度、僕を検査へと呼ぶ看護師がノックをして部屋に入ってきた。

 僕は先生の顔を伺う。


「行きなさい」


 先生はその一言だけ言った。

 こちらを一切見もせずにーー。


「相馬さん。早く。もう準備は出来てるんですよ」


 先生に言われても尚、動こうとしない僕を見て看護師が急かす。

 僕はもう一度先生の顔を見る。

 先生はパソコンの画面を見たまま。


「……。それじゃあ、先生。また来ますね。さようなら」


 僕はそう言って部屋を出る。

 先生は最後まで何も言ってはくれなかった。




  * * * * *



「あれは、小学校1年生の5月のことでした。丁度今と同じ時期ですよ。先生ーー」



 あの時と同じく花が散り、葉桜となった桜を見上げ呟く。

 先生。

 僕は貴方との約束を破ります。

 ごめんなさいーー。


「おーい。何してんだ。早く来いよ」

 ずっと先の方で伸一君が手を振り叫ぶ。

「今行きますよ!」

 僕もそれに答えて叫び、伸一君の元へと走った。


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