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歩く七不思議と都市伝説  作者: 柊 響華
真夜中のサブリミナル!?
18/21

兎を探しましょう

 あちらこちらを歩き回って、僕はようやくお目当ての物を見つけた。

 それは例の桜を見つけた森の中に、忘れ去られたようにしてそこにあった。

 草木におおわれ、一瞬見落としそうになった。

 森の中にあるのは場違いとも思えるそれはーー。

 公衆電話。

 電話ボックス、とも言う。

 森の中にあるせいか、ガラス張りの長方形をしたボックスは緑色の(つた)が絡み付き、長い間使われていないことは明らかだ。

 携帯電話が広く普及してからは、まず使われることのなくなった公衆電話は徐々にその姿を見なくなっていった。

 ここにあるこれは、正に過去の遺物いぶつ

 と、言うにはまだ少し早いだろうか?

 小学生くらいの頃はまだあちらこちらで見かけたと思うのだが、最近はめっきりと見なくなった。

 実際需要もないのだろう。

 僕は草をかき分け、ガラス張りの電話ボックスに近づく。

 近くで見ると、取手の金具の部分が錆び付いている。ガラスも透明ではなく、若干くすんでいた。

 電話ボックス全体を覆うようなつたは、取手を掴みドアを力強く引っ張ると、思いの外簡単に千切れた。

 中に入り電話ボックスの受話器を取る。

 ガチャンと音がして、受話器が外れる。左手で受話器をもち、右手は電話の本体に手を置く。

 目をつむって、右手の指先に神経を集中させるとそこに青い蝶が顕現けんげんする。

 それから、少しして耳元にプルルという電子音が響く。

 繋がった……。

 その事実にホッとして目を開く。

 ゆっくりと羽を瞬かせる蝶。

 電話番号を押さなくても、電話をかけられるのは胡蝶の能力のおかげだ。当然のように硬貨も必要ない。

 仕組みを考えると法律に抵触するような気がしないでもないので、詳しくは考えないようにする。

 どうせ僕の力で電話をかけられるのは、限られた人物だけだ。




 蝉が煩く鳴いて、額から汗が流れた。

 電話ボックスの中は、密室で熱がこもっている。

 視界の端で蝶が瞬く。

 指先にかかる蝶の僅かな重み。いつもは煩わしいそれが、今は心地良く感じた。

 しばらくコール音が続く。

 僕がいい加減我慢できなくなった頃、相手はようやく電話に出た。

『……はい』

 決して幼くはないが、まだ大人になりきってはいない少女の声がした。

 懐かしい、昔と変わらない声だ。

「お……お久しぶりです」

 とても、久しぶりだったので少し声が上擦った。

 僕の挨拶に向こうは一瞬固まったようだ。

『……亜鶴沙?』

 少しの沈黙の後、怪訝そうな口調で放たれた言葉。

 僕は見えないのに、その言葉に頷いてしまう。

「お久しぶりです。……時雨しぐれ

 向こうは沈黙している。

 目の端で蝶が瞬く。

「回りくどいのは苦手なので、早速ですが本題に入ります」

『……』

 時雨は僕の言葉に応えないが、いつもそうだったので構わず続ける。

「亜津兎と話がしたいです。取り次ぎをお願い出来ますか?」

 心臓がバクバクと鳴っているのが分かった。

 ここで断られたら、僕にはもう手がない。

 すぐ近くで蝉が鳴いていた。

 けれど、その姿は見えない。

 時間にして数分の沈黙が一時間にも二時間にも思えた。

「……お願いします。時雨しか頼める人がいないのです」

 僕がだめ押しとばかりにそう言う。

 するとーー。

『……構わないよ』

 イエスの返事が出た。

 その言葉にホッとする。

『ただ、亜津兎がお前と話すかどうかまでは分からないし、保障は出来ない。それでもいいな?』

 その言葉に力強く頷く。

 頷いたところで、電話の向こうの相手には見えないのだが。

「はい。それで十分です」

『少し待っていろ』

 その言葉の後に保留音がなる。

 少ししてから保留音が止まり、人が出る気配がした。

「……亜津兎あつと?」

 時雨とはどことなく雰囲気が違うように思えたので、恐る恐る聞いてみた。

 否定の言葉がなかったので、それを肯定と捉え続ける。

「すみません……。急に」

 相手は応えない。

 沈黙を続けている。

 周囲でうるさく鳴いている蝉と酷く対称的だった。

「あなたにどうしても、聞きたいことがあるんです……」

 この間の深夜に起こった雑音ノイズーー。

 あれはきっと誰かの能力だ。

「亜津兎。君の蛆で、自分の意思を遠くにいる人物に届けることは可能ですか?」

 亜津兎なら、きっと僕の問いの答えを持っているはずだ。

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