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歩く七不思議と都市伝説  作者: 柊 響華
真夜中のサブリミナル!?
14/21

起は既に

 薄暗い照明の店内には、スローテンポで眠くなりそうなクラシックが流れている。

 いくつかあるテーブルに客の姿は一人もなく、カウンターに店員とおぼしき男が一人。

 男はおおよそ飲食店の店員には相応しくないボサボサの髪に髭を生やしていた。

 気だるげにカウンターの中に置いた椅子に座り、ぼんやりと虚空を見つめる男の名は浅田。

 この店、『喫茶アサダ』の店主である。



 カランカラン、とドアベルの鳴る音が来客を告げる。

 浅田が開いたドアのほうを見ると、そこには見知った男の姿があった。

「桂木か……。久しぶりだな」

 男ーー桂木はこちらを一瞥し、カウンターに座る。

「コーヒーを」

 メニューも見ずにそう言う。

 浅田は客が来たなら仕方がないといった様子で、重い腰を上げカップを取り出す。

 作りおきのコーヒーをそれに注ぎ、桂木の前に置いてやる。

 目の前に置かれたコーヒーを見て、桂木が一言。

「豆から挽いてくれないのか?」

 淡々とした口調でそう言う。

「豆から挽いて欲しいなら開店一番でくるんだな」

 浅田はそう切り捨てる。

 桂木は特に何も言わず、無表情にコーヒー口に運んだ。

 その顔が途端、しかめられた。

「……不味い」

 カップを置き、呟くように言う。

 桂木の顔を見て、浅田は笑った。

「お前でもそんな顔をするんだな」

 そんな浅田を桂木は睨み付けた。

「わざとか?」

 そう聞く桂木に浅田はまさか、と言った。

「この味の良さが分からんとは残念だね。これがクセになるって一部に人気なんだぜ」


 浅田はニカッと笑うが、なるほど、と桂木は思う。

 店が閑古鳥の鳴いている理由が分かるというものだ。

「ところで、お前どうしてここが分かった?」

 浅田は笑ったままの表情でそう尋ねてきた。


「唐突だな……」

 桂木はそう言ったきり、答えないーー。

 浅田はその意味を理解し、舌打ちする。

「お前のとこの情報網を舐めてたよ」

 顔をしかめた浅田に対し、桂木は黙ったまま無表情を貫く。

 その様子を見て浅田はガリガリと頭を掻く。

 桂木はカップを見つめている。

 重い沈黙が二人の間に漂う。

「……葉栗ちゃんは元気か?」

 少し考えてから、浅田はそう聞いた。

「元気だよ。俺の手に余る」

 無表情に答えた桂木。しかし、声は柔らかかった。

 親しい者しか気付かないだろうわずかな変化。浅田はそれに気付き、頬を緩めた。

「思春期まっさかりだよな。姉貴のとこにも子供がいるが、大変だって言ってるよ」

「お前の甥っ子か?」

 桂木の問いにうなずく。

  「俺のコーヒーのファンだ。たまに店に来るぜ」

 このコーヒーの? 、と桂木は驚いた。

 それから暫し、世間話をして雰囲気がなごむ。

 昔に戻ったような錯覚さっかくに浅田はおちいった。

 けれどーー。

 それは所詮しょせん錯覚にすぎない。

夏樹なつきはここにはいないぜ」

 浅田の放ったその一言で、桂木は一瞬固まる。

「そうか……」

 桂木はそう言うと立ち上がり、財布を取り出しカウンターにコーヒーの代金を置く。

「また、来る」

 そうして、背中を向けて店を出ていく。

 ドアベルがカランカランと鳴って、後には静寂が残る。







「……もういいぞ」

 浅田がそう言うと、奥から十五、六歳といった年頃の少年が現れる。

「ごめん。叔父さん」

 申し訳なさそうな顔をする少年の頭を浅田は、くしゃくしゃっと撫でる。

「気にすんな。夏樹」

 ニカッと笑う浅田に対し、少年ーー夏樹は嫌そうな顔をした。

「やめろよ」

 そう言って手を払う。

 ぐしゃぐしゃになった髪を手櫛てぐしで直す。

 しかし、元から癖っ毛なのか、あちこち はねている。

 浅田はその様子を見て笑いながら、桂木の飲んだコーヒを片付け始める。

「学校はいいのか?」

 カップに半分以上残ったコーヒを流し場に捨てながら尋ねる。

「いいよ。どうせもうすぐ夏休みだし。今日も休む」

 その答えに浅田は苦笑する。

「姉貴が聞いたら悲しむな」


 もう何度聞いたか分からないその言葉を夏樹は聞き流す。

 今出たら先程の男と遭遇する可能性があるのだ。

 そんな危険は犯したくない。

 でも、と夏樹は思う。

 ここなら安全だと思ったけど、誤算ごさんだったな。

 まさか、叔父さんの知り合いに異能観測機関いのうかんそくきかんの人間がいるなんてーー。

 奴等からは何としても逃げ切らなくてはーー。

 そう決意し夏樹はカウンターの席に座る。

「コーヒー淹れてよ。叔父さん」

 先程、不味いと言われたコーヒー叔父にせがんだ。

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