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歩く七不思議と都市伝説  作者: 柊 響華
桜の木の下には死体が埋まっている!?
13/21

一先ず幕引きといきましょう

 お腹が空いたと言うわりに亜鶴沙はあまり食べなかった。

 野菜や魚がメインの病院食はお気に召さなかったらしい。

 不服そうな顔をしている。

「こんなの成長期の男の子が食べるものじゃありません」

 ほうれん草のゴマ和えを箸でつつきながら言う。

 俺はベットの脇に椅子を置き、そこに座って亜鶴沙の食事に付き合っていた。

「文句言わずに食べろよ」

 少しふて腐れたような顔をしつつも、箸を動かし始める亜鶴沙。

 俺はその様子をじっと観察しながら、亜鶴沙が目覚める前にある少女に言われたことを思い出していたーー。



 * * * * *



 あの時、振り向いた先にいたのは俺と亜鶴沙が通う

 清皇せいおう高校の制服を着た少女だった。


 黒渕くろぶちの眼鏡をかけた、おかっぱ頭の少女。

 彼女を見たときに何となく見覚えのある顔だと思った。

「そいつ、病院に運ぶわ」

 ぶっきらぼうに彼女がそう言うのと同時に、少女の後ろから黒いスーツを着た男が表れ、亜鶴沙を抱き上げる。

 そのまま、何処かへと連れていこうとするので、慌てて声をかける。

「お、おい! ちょっと待て。お前ら一体誰だよ?」

 俺がそう言うと、少女は無表情に言った。

「あなたには、関係ないわ。知らなくていいことよ」

 ーー知らなくていいーー

 また、それかよ……。

「ついてきなさい。病院に連れてくわ」

 少女はそう言って踵を返し、歩きだす。

「おい! 待てよ!」

 俺は立ち上がり、彼女の腕を掴もうとした。

 だが、男が俺と彼女の間に割って入りそれを邪魔した。

 俺は無言で男を睨む。

 身長は男のほうが高いし、がたいもいいが、ここで引き下がるような性格ではない。

 俺が睨みつづけていると、男が口を開いた。

「後できちんと説明する。我々のことも、彼のことも」

「だから、今は黙って付いて来いって言ってるのか?」

 俺の言葉に男は頷く。

 俺は少し考えて分かったと言う。

 男は俺に微笑んで、少女の後を追った。

 俺もその後に続く。


 * * * * *


 病院に着いた後、亜鶴沙を医師に診てもらい、俺も一応診察してもらった。

 腹の傷は少し後が残っているくらいで、完璧に治っていた。

 その後、病院の一室を借りて少女と話をすることになった。

「とりあえず、相馬亜鶴沙は今は眠っているだけで、どこにも異常はないそうよ」

 少女のその言葉に安堵のため息を漏らした。

 良かったーー。

「次に、民間人のあなたに説明の義務はないから話す必要はないと私は思ってるわ」

 少女は俺の目を真っ直ぐに見てきた。

「だけど、あなたは今一番危ない場所に立っているから特別に説明してあげる」

「やけに前置きが長いな。いいから話せよ」

 すると、少女は不機嫌な顔になる。

 少女が何か言おうと口を開きかけるが、それを男が遮った。

「我々は政府の人間だ」

「政府?」

 俺が言うとそうだという風に男は頷く。

「まず、自己紹介しておこうか。俺の名前は桂木かつらぎだ。こっちが葉栗はくりだ」

 紹介された少女ーー葉栗は不機嫌そうな様子を隠しもしない。

「俺達は政府の人間と言っても、どちらかというと公務員といった感じだ。ただ、年齢や身体能力に制限等はない。ある条件さえ満たしていれば例え幼稚園児だろうが、寝たきりの老人だろうとなることが可能だ」

 幼稚園児や寝たきりの老人でもなれるってどんな仕事だよ……。

 凄く怪しい。

 俺の内心を察したのか、桂木さんは今のは極端な例だと言った。

「流石に幼稚園児はいないが、寝たきりの老人ならいるがな」

 その言葉に驚く。

「その、ある条件って何だよ?」

 俺は訪ねた。

「それこそ知らなくていいわ。あなたには関係ないんだから」

 少女が口を挟む。

 また、それかよ。

「我々の主な仕事は異能力者の監視と駆除だ」

 桂木さんは話を続けた。

 いのうりょくしゃ?

「我々とは異なる能力を持った者。俗に言う超能力者のことを我々は異能力者と呼んでいる。奴等は時に人に害を成すことがある。それを防ぐことが俺達の仕事だ」

 何だが話がファンタジーの世界に寄ってきている。

 本当に漫画みたいな展開。

 でも、嘘だとは言えなかった。

 先程の出来事は全て実際に起こった出来事で、あれは正に超能力としかいいようがない。

「相馬亜鶴沙も私達の監視対象よ」

 葉栗が言った。

「彼は危険だわ」

「え……」

 少女は睨むように俺を見て言った。

「あの力、もし人にぶつかったらどうなると思う?」

 そう問いかけられてハッとする。

 根を吹き飛ばした力。

 あれがもし人間の体だったらーー。

 考えるだけでも恐ろしい。

「今はまだ、上の許可が下りてないから監視してるだけだけど、すぐに許可は下りるわ」

「どういう意味だ?」

 俺は桂木さんと葉栗を見る。

「上が相馬亜鶴沙を危険だと判断すれば、処理することになるだろう」

 桂木さんが俺の疑問に答える。

 処理……?

「処理って……」

 まさかーー。

「きっとあなたが考えていることと同じよ」

 少女は可笑しくて堪らないといった表情で言った。

「殺すのよ」

 その笑顔にぞっとした。

「殺すって……何言ってんだよ!」

 殺す?

 人をーー?

 亜鶴沙をーー?

「人に害を成す存在は人にあらず。異能力者は人間じゃないのよ。熊を殺すのと同じことよ」

「そんな……」

 言葉を失う俺に桂木さんは言った。

「安心しろ。まだ、許可が下りたわけじゃあない。異能力者だからといって全てが処理されるわけじゃない」

 そう言われても、手の震えが抑えられなかった。

 唇を噛みしめ、拳を握る。

「俺は……、亜鶴沙を殺させない。亜鶴沙は絶対に人を傷つけたりしない。もし、そうなっても俺が絶対に止める」

 俺は葉栗に向かって言った。

「勝手にすればいいわ。あなたが相馬に殺されそうになっても私は助けないから」

 葉栗はそう言って部屋を出ていった。

 俺は黙ってその後ろ姿を見つめた。

「葉栗はああ言ったが、一般人の保護は第一優先事項だ。みすみす殺させるようなことは基本的にあり得ない。それに、詳しくは話せないが相馬亜鶴沙は要観察対象だ。すぐに駆除命令が下りることもないだろう」

 桂木さんはそう言って部屋を出ていこうとする。

 俺はその背中に声をかけた。

「どうして、俺にそれを教えてくれるんですか」

 桂木さんは立ち止まって、顔だけこちらに向けた。

「友人なんだろう? 支えになってやれ。たった一人の存在に救われることもある」

 それだけ言って、部屋を出ていく桂木さんの背中に俺は礼を言った。

「ありがとうございます」

 桂木さんは俺の言葉に足を止めることなく、無言で去っていった。

  葉栗も桂木さんも部屋を出ていき、一人残された俺はその場にしゃがみこんだ。

 途端、全身が震え出す。

 震えを止めるように、自らの体を抱き締める。

 全身の震えが止まらなかった。

 葉栗の言葉で、一瞬考えてしまった。

 もしも、亜鶴沙が、死んだらーー。

 恐ろしくて恐ろしくて、震えが止まらなかった。

 体の震えが止まるまで、俺は部屋の中でずっとそうしてうずくまっていた。



 * * * * *


 病院の廊下を葉栗は桂木と共に歩いていた。

「葉栗。先程のお前の行動は問題だ」

 桂木がそう言った。

「あら。それはどの行動のことを言っているの?」

 葉栗は何のことか分からないといった感じで尋ねる。

「彼のことだ。彼が桜から攻撃を受けた時点で我々は介入すべきだった。下手をすれば、彼は死んでいたかもしれない」

 桂木の言葉に葉栗は笑った。

「あなたも同罪ではないかしら。ただ黙って見ているだけだったのだから」

 それに、と葉栗は続ける。

「そのおかげで、相馬亜鶴沙が異能力者だと確定したじゃないですか。異能力者を一人排除するだけで、一体どれだけの人間が救われると思っているんですか? たった一人の犠牲で大勢が助かるならいいじゃないですか」

 桂木は葉栗の腕を掴み、立ち止まらせる。

 相対する二人。

「……痛いです」

 葉栗は桂木を睨み付ける。

 桂木は静かに怒気を含んだ眼差しで葉栗を見た。

「最近のお前の行動には目に余るものがある。これ以上続くようなら、任務から外すことも考える」

 そう言うと、桂木は葉栗の腕から手を話し、一人歩き出した。

 数歩遅れて葉栗も、歩き出す。

 その目は桂木をじっと睨んでいた。



 * * * * *



 用意された病院食を箸でつつきながら、僕は信一君の様子を観察していた。

 いつもよりも少しぼんやりとしているようで、何か考えことをしているようにも思えた。

「どうかしたんですか?」

 そう問いかけてみる。

 すると、信一君は驚いたようで肩がピクリと動いた。

「何でもねぇよ。それより、お前さっきから突っついてばっかで、全然食ってないぞ」

 ぐっ……。

 指摘されてしまいました。

「今から食べるとこだったんです」

 そういってほうれん草をつまむ。

 うう。激まずですね。

 喉が飲み込むことを拒否するので、咀嚼そしゃくを繰り返す。

 すると、苦味が口に広がり、さらに不味まずい。

「ぷっ」

 隣で信一君が吹き出す。

「何ですか?」

 彼を睨み付け、ようやく口の中のものを飲み込む。

「お前、どんだけほうれん草嫌いなんだよ」

 そう言って信一君は笑う。

「嫌いなものは嫌いなんです」

 僕はそう言って膨れつつも、いつもと同じようなやり取りに安心していた。

 我がままな願いかもしれないけれど、僕はもうしばらくだけこのままでいたい。

 今日、それを強く感じた。

 自分から動いたくせに、失敗したら、また元の日常を望むなんて勝手だ。

 助けるなんて、僕には出来なかった。

 おごってた自分が恥ずかしい。

 信一君を傷付けた、自分を許せない。

 信一君に嫌われるのが怖い。

 信一君に化け物って言われるかも。

 もし、信一君が死んでたらーー。

 そんな幾多の感情、思考が僕の頭の中をぐるぐると回る。

 でも、そんなことは顔には決して出さずにいつも通りに振る舞う僕。

 信一君だけは失いたくないーー。

「なあ。亜鶴沙」

 信一君が真剣な顔をして言う。

「何ですか? 信一君」

 一抹の不安を覚える僕。

 心臓の鼓動が速くなる。

「お前、なんか悩みとかあったら言えよ。俺が何でも相談にのるからさ」

 そう言って信一君はいつもみたいに笑った。

 何だ。良かった。

 僕はほっとして笑う。

「急にどうしたんですか?」

「何でもねぇよ。今日はもう帰るぜ」

 信一君は立ち上がると、椅子を端の邪魔にならないところに置く。

「じゃあ、また明日な」

 手を挙げ、部屋を出ていく信一君に僕もまた手を挙げて応える。

「また……」

 信一君が部屋を出ていくと、僕は箸を置き上体をベッドに倒す。

 良かった。本当に良かった。

 信一君が僕を化け物だって言わなくて。

 信一君がまた明日って言ってくれて。

 自分が化け物だって言われなくて、ほっとしている僕には誰かを救うなんて無理だ。

 ごめんなさいーー。

 頭の中で先生の言葉がよみがえる。

「お前の力で救える者などいない」

 ベッドの上でキツく手を握りしめた。























 都市伝説

 桜の木の下には死体が埋まっている!?


 ーー未完ーー

桜の都市伝説は一旦これで終了です。

誤字脱字があればお願いいたします。

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