表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歩く七不思議と都市伝説  作者: 柊 響華
桜の木の下には死体が埋まっている!?
12/21

起承転結で言うと転以上、結未満?

 ゆっくりと桜の少女へ向かって歩みを進める亜鶴沙あずさ

 少女は亜鶴沙を見つめたまま動かない。

 俺の位置からでは亜鶴沙が何をしているのか、よく見えない。

 蝶のおかげで傷はふさがったものの、流した血までが戻るわけではないらしく、貧血で意識が朦朧もうろうとしていた。

 かろうじて、意識を保っていられるのはいまだに傷が痛むからだった。

「いやぁぁぁぁぁ」

 突然、甲高い叫び声を上げて、少女は膝から崩れ落ちる。

 どうしたのかと思うが、亜鶴沙はただ少女の前に立っているだけで何もしていない。

 ただ、少女の周りに青い蝶が舞っていた。

 すすり泣くような声が聞こえ、少女の体は徐々に薄くなっていく。

 その光景に目を見張っていると、まるで花が散るように少女の体が一瞬にして消えた。

 本当にこれは現実に起こっていることなのかと、疑いたくなるような光景だった。

 俺は痛みを堪え、力を振り絞り亜鶴沙の元へと歩く。

 歩く度に腹の傷が痛む。

「……っ」

 亜鶴沙は少女の消えた場所を見ている。

「おい、亜鶴沙」

 声をかけると亜鶴沙が振り向く。

 振り向いた亜鶴沙の瞳は濡れていた。

 そこから大粒の涙がこぼれ落ちる。

 無表情に、泣いていた。

「亜鶴沙? どうしたんだ?」

 俺は戸惑いつつ尋ねた。

 亜鶴沙の瞳は先ほどと変わらない青い瞳だった。

 その瞳からポロポロと零れ落ちる涙。

 ゆっくりと唇が動き、言葉をつむぎ出す。

「…………なの」

「え?」

 聞き取れずに聞き返す。

 亜鶴沙は俺の目を真っ直ぐに見つめ、口を開く。

「悲しかっただけなの」

 よどみのない澄んだ瞳を向けて、はっきりと言う亜鶴沙。

 その瞳に気圧されて、俺は何も言えずにいた。

 亜鶴沙はゆっくりと瞳を閉じて、そのまま憑き物が落ちるように崩れ落ちた。

 慌ててその体を支えるも、傷の痛みもあって一緒に倒れてしまった。

 重い…………。

 意外に亜鶴沙が重い事実を知った。

 きちんと食べてるのか不安になるほど、細いのにこの重さか……。

 ……って、そんなこと思ってる場合じゃないか。

 どうでもいいことが頭に浮かび、慌てて現状どうするかを考える。

 病院なり何なりに連れていった方がいいと思うのだが、自分自身の怪我もあるし、またここにどうやって辿り着いたのかもよく分かっていない。

 つまるところ、迷子だ。

 仮に迷子じゃなかったとしても、正直今のこの状況で亜鶴沙を運べるとは到底思えない。


「しょうがないわね。手を貸してあげる」


 突然、声をかけられ驚き振り向く。

 振り向いた先にいたのはーー。



 * * * * *



 夢を視たーー。




 白無垢を来た女性とその傍らに立つ、愛しい人。

 白無垢は"私"じゃないーー。

 "私"は遠くからその様子を眺めてた。

 眺めることしか"私"には出来なかった。

 胸に込み上げてくる感情。

 それはーー。





 * * * * *


 瞳をゆっくりと開けた。

 視界に入ったのは白い無機質な天井。

 見覚えはないが、懐かしい場所とよく似ていた。

 ゆっくり上体を起こすと、激しく頭が傷んだ。

 あまりの痛みに頭を押さえる。

 しばらくそのまま目をつむり、痛みを耐えていると徐々に薄れていく。

 痛みが完全に消え去ったことを確認してから、改めて部屋を見回す。

 どうやら何処かの病院の一室のようだった。

 さほど広さはないが、狭くもない。

 何故、病室と分かったかといえばナースコールがベットの脇に置いてある。

 どうしてここにいるのでしょうか?

 僕は確か、伸一君と森にいたはずなのに……。

 そういえば、伸一君はどこに行ったのでしょう。

 部屋には誰もいない。

 僕ただ一人きり。

 ベッドから足を降ろして、ゆっくりと立ち上がる。

 少しふらついたが、問題なく立つことが出来た。

 そのまま、部屋の扉まで歩き扉を開けようとした。

 その瞬間、勢いよく扉が開き驚いた拍子に尻餅をついてしまった。

 扉の向こうにいたのはーー。

「伸一君!」

 僕は驚き半分、抗議の半分といった感じで彼の名前を呼ぶ。

「なんだ、亜鶴沙。起きてたのか」

 伸一君は複雑な表情で言った。

 その顔はどういう意味ですか?

 思ったものの口にはせず。

「なんだじゃありませんよ。いきなり開けるから驚きました!」

 そう抗議した。

「悪かったよ。まだ寝てるかと思ったから」

 伸一君は思ったよりもあっさりと僕に謝りました。

 どことなく普段と様子の違う伸一君に不信感を抱きつつも、僕は何も聞きませんでした。

 僕が彼に何も聞かれたくなかったからです。

 どうかしましたか? そう聞くのは簡単ですが、それが僕には怖かったーー。

 どこまでが夢で、どこまでが現実なのか分からなかったからーー。

 簡単に言えば、嫌われるのが怖かったのです。

「僕は寛大なので、許してあげます」

 僕は立ち上がりながら、そう言った。

「そうしてもらえると、助かるよ」

 伸一君は苦笑してそう言った。

「ところで、伸一君」

「何だ? 亜鶴沙」

 僕は至極真面目な顔で伸一君を見た。

 つられてか、伸一君も真剣な顔をする。

「お腹が減りました」

 そこで、盛大に僕のお腹がぐぅ~っと鳴りました。

「……そんな真剣な顔して言うことかよ」

 伸一君は笑って言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ