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歩く七不思議と都市伝説  作者: 柊 響華
桜の木の下には死体が埋まっている!?
11/21

白い部屋と少年

 目を覚ましたのは真っ白な無機質な部屋の中。

 いつもと同じ空間。

 先生の病院の中。

 硬いベッドが部屋の中央に置かれている。

 それ以外には塵一つ無い部屋。

 僕が目を覚ますのはいつもその部屋のベッドの上。

「また、戻ってきたんだ」

 ポツリと呟いた声がやけに耳に残る。

 孤独な空間。

「先生。早く会いたいよ……」

 どうして、先生はここに来ないの。

 そう誰かに尋ねたことがある。

 尋ねられた人物は、いつもは僕が何を言ったって何も話してくれなかった。

 なのに、その時だけは応えた。

「僕たちのことが嫌いだからだよ」

 それこそささやくような小さな声だったけれど、僕の耳にしっかりと届いた。



 * * * * *


 目を開けて、真っ先に視界に入ったのは白い天井。

 いつかの日に見たのと同じ光景。

 体を起こそうとすると、頭に鈍痛が走った。

「っう」

 痛みにうめき、起こしかけた体はそのままベッドに倒れ込む。

 とりあえず、そのままの体勢で辺りを見る。

 四方を真っ白な壁に囲まれ、置いてあるものは今僕が横になっているベッドとその脇に置かれてる1脚の椅子のみ。

 ここはどこだ?

 そんな疑問が頭の中に浮上する。

 記憶を遡り目が覚める前に何をしてたのか、思い出そうとする。

 途端に激しい頭痛に襲われた。

 思わず頭を抱えてベットの上でうずくまった。



 痛いーー。


 痛い痛い。


 痛い痛い痛い痛いい痛い痛い痛い痛いい痛い痛い痛い痛い痛いい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いーー。




 イタイ。


 イタイイタイイタイイタイイタイ。



 イタイノヤダ。



 僕じゃないもう一人の声がした。



「……黙れ」

 痛みを必死にこらえ、声を絞り出す。

 突き刺さるような激しい痛みと頭の中で響く叫び声。

 今更、わめき出すなんてーー。

「……っ。……ぁ」


 イタイヨォ。


 イタイヨォ。



 アノオンナァ。



 僕ニ何かシヤがッた。



 イタイ。



  いたいよぉ……。




「痛いの?」



 唐突に響いた現実の声。

 顔をあげると、女がいたーー。

 ベリーショートの黒髪に、全身黒い衣装に身を包んだ女。

 間違いない、あの女だ。

 あの女はドアの所に立ち、僕を眺めていた。

 苦しむ僕を眺めていたーー。

「一体、っ……何をしに、来たんだ?」

 痛みに呻きつつも問う僕に対し、奴は笑った。

「何しに来たと思う?」

 口の端を上げて笑う。

 まだ、少女と言って差し支えない年頃に見える女だが、その微笑みは蠱惑こわく的であった。

「ぼ、くを……笑いに、来たのか?」

 僕は痛みを堪えつつも、笑って見せた。

 すると、女は笑みを引っ込めて困ったように頭を掻く。

「何で、お前はそう卑屈なんだろうな……」

 淡々とした口調で無表情に僕を見つめた。


 コノ女、嫌イ。



 嫌いキライ嫌イ嫌イキライ嫌いキライ嫌イキライキライ。



 キライ。



 声が再び騒ぎだす。


うるさい……」


 騒ぐ声と女、両方に向けて言った。

 それに気付いているのか、女は無言で僕に薬を差し出した。

 小さな白い色をした丸い錠剤。

 僕はそれを拒むことなく受けとる。

 口に含み、水なしで飲み下す。

 そのまま、少しの間じっとしていると次第に痛みが引いてくる。

 痛みが完全に治まった頃、上体を起こし女と向き合う。

 改めて女の服装をしっかりと眺めてみる。

 女は黒のタートルネックと黒いスカート、黒いタイツという出で立ちをしていた。

 靴は黒いかかとの低いパンプスをはいていて、全身真っ黒。

 この女はいつもそうだ。

 髪も瞳も真っ黒で死神みたいな女だ。

「一体、何をしに来たんだ? まさか、僕に薬を渡す為だけに来たわけじゃあないだろう?」

 女を睨みながら再び問う。

 女は僕を真っ直ぐに見つめる。

 吸い込まれそうなほど、澄んだ黒い瞳。

 底無し沼を覗いているような気分になる。

 ずっと見つめていると、何もかもを見透かされてしまいそうだった。

 しばらく僕と女そのままは見つめ合った。

 数分の時が経過する。

 先に目を反らしたのは、女のほうだった。

「……胡蝶が復活した」

 女が言ったその言葉に僕は驚きを隠せなかった。

「今、何て言った?」

「胡蝶が再び現れたんだ。おまけにまた暴走したらしい」

 僕の問いかけに答えると、女はきびすを返し部屋の外へ出ようとする。

「待てっ! それは一体どういうことだよ! 」

 部屋を出る女を追いかけようと、ベッドを降りようとした。

 その時ーー。



「あっ!」



 バランスを崩してベッドから落ちた。

 大きな音をたて、全身を床に打ち付けてしまう。

 僕は先程とはまた違う痛みに呻いた。

「……つぅ。……ま、てよ」

 痛みを堪えつつ、声を絞り出す。

 だが、女は既に部屋の外。

 僕の声の届かない場所まで行ってしまっていることだろう。

 それでもーー。

「一体、どういうことだよ……。何で……」

 問わずにはいられない。

 何でーー?


 どうしてーー?


 そんな僕の独白がむなしく部屋に響いていた。


誤字脱字ありましたら、お願いします。

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