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歩く七不思議と都市伝説  作者: 柊 響華
桜の木の下には死体が埋まっている!?
10/21

侵食、そして破戒

 先生が怒ってる。

 真っ白ないつもの診察室で僕は思った。

 先生は普段、自分の感情を表に出さない人だ。

 その先生が今、僕の前で怒っている。

 ううん。

 僕は内心で首を振った。

 違う。

 失望しているんだーー。




 僕がーー。








 間違えたからーー。




 * * * * *


 亜鶴沙の瞳が真っ青に染まっている。

 外人でもそうそういないようなブルー

 鮮やかな美しい青色。

 なのにそれは青空よりも濁った色、海よりももっと暗い深海の色のように感じられた。

 まさに深淵の色と言うにふさわしい、そんな色。

「亜鶴沙……?」

 亜鶴沙は俺の声に一切の反応を見せずに立ち上がった。

 すると、それに合わせたかのように辺りから無数の蝶が現れた。

 亜鶴沙の瞳と同じ色をした、青い蝶。

「何!? 何なのよ!! これ!」

 桜の少女が錯乱状態で叫ぶ。

 木の根は蝶に襲いかかる。

 蝶はひらりとかわそうとするが根の素早さに負けて、その羽を引き千切られ地面に落ちる。

 だが、蝶のほうが数が多いため減ることはない。

 むしろどんどん増えてきている。

 少女は辺りを見回す。

 そして、その目が亜鶴沙を見て止まる。

「貴方、一体何なの……?」

 その言葉に亜鶴沙は答えない。

 反応すら見せない。

 俺は痛みと出血で意識が朦朧もうろうとし始めていた。

 まずい。

 血が止まらない。

 視界が霞む。

 その時、青い塊が俺の前に現れた。

 それは一匹の蝶だった。

 蝶が傷口を押さえた手の上にとまると、羽をゆっくりとぱたつかせる。

 青い色の鱗粉が舞い散った。

 すると、痛みがすーっと引いていく。

 嘘だろ。

 血が止まり、破れた服の隙間から目に見える速さで傷口が塞がっていった。

 嘘だろう。

 木の根が動いたことだって、嘘みたいなのに。

 俺は夢を見ているのか?



 * * * * *



 懐かしい夢を視たーー。

 あの日以来ずっと見ていなかった夢だ。

 真っ暗な闇の中。

 ひとりぼっちの僕ーー。

 手を伸ばしても何も掴むことは出来やしない。

 伸ばした自分の手すら見ることの出来ない暗闇。


 僕は一人その場にたたずんでいた。

 すると、遠くに青白い小さな光が見える。

 それはゆらゆらと動き僕に近づいてくる。


 それは一羽の蝶だった。


 青い光を放つ蝶。


 僕の化身。


 蝶に向かって手を伸ばすと僕の指先に止まる。

 その部分だけが青い光に照らされ、その姿を見せた。

『ああーー』

 声を出してみても、その音が耳に届くことはないーー。

『またやったんだーー』

 思わず顔を両手で覆ってしまう。

 蝶は僕の手を離れる。

 上手く出来ると思ったのにーー。

 結局、また駄目だった。

 泣きたいような気がしたけれど、涙は出なかった。

 手を顔から離すとそこにはまた蝶が止まった。

 顔をあげるといつの間にか蝶は一羽だけではなくなっていた。

 青い光が僕を照らす。



 “約束を破ったな”



 今にもそう言う先生の声が聞こえてくるような気がした。

 けれどそれは妄想に過ぎず、相変わらず無音の闇が僕にまとわりついている。



『叱責の言葉すら言ってくれないんだね』




 恐ろしくなるほどの無音の中。

 青い蝶は瞬く。



『ごめん。真於まお



 謝ったって許してなんかくれないよね?


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