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第三話



 ラファエルの目が覚めたのは数日が過ぎてからだった。

 パチリと目を開けると視野の端に右腕をぐるぐる巻きに包帯を巻いて、真剣な表情で見つめるアレンの姿。


 どうしたのかと心配になるラファエルだが、断片的に思い出していきダラダラと汗が流れる。


「なぁ、ラファ……」


「誰にも黙ってて欲しい!!あの、森でのことは」



 アレンの言葉と被さるように大きな声を出したラファエル。

 手には汗が滲み出ている。


 ……やらかしてしまった!見られたのだ!確かにあの時は咄嗟で手を伸ばしたけど、まさか前に試した小さい炎よりも莫大な力が出るなんて、それにあろうことかアレンに見られるなんて。

 これが世間に知られれば、多分、十中八九勇者として上がらされる。

 こんな僕に勇者が務まるはずがない! 勇者は自信があって何事も1番前に立っているんだ! 後を追っている僕に……というか、魔王なんて怖いものと戦いたくない!!


 最後はヘタレな理由だが、前世持ちのラファエルにとって十分すぎる理由であった。

 誰もが勇者のように怖いもの知らずで正義感が強くて勇敢ではないのだ。 一般人のラファエルからしたら獣すら恐怖の塊でしたかないのに。


「ーーわかった」


 アレンは了承の意を示して縦に首を動かした。 ラファエルは安堵の息をついて、アレンの右腕を見る。 不甲斐ない顔だ。


「アレン、お前その怪我……ありがとな。 戦ってくれてありがとう。」


 精一杯のありがとうを伝えるラファエル。前世合わせて二十歳は容易に超えている自分でも卒倒するほど怖かったのだ。 アレンはそんな怖い獣から怪我までして守ってくれた。 1人逃げることも出来たのに、気絶している自分を放っておけなかったのだろう。 優しい、そして勇敢。

 ラファエルは勇者はアレンが合っているとこの時思った。


「ッ!ま、まぁ。ギリギリだったしな、礼を言うのはこっちだぜ。サンキュ、ラファエル」


 猫のように鋭い黄色の瞳が細められて柔らかくなった。 その表情に何とも心がズキンとしたラファエル。

 僕は何もしてないよ……アレンが戦ってくれていなかったら死んでたんだ。

 そんなことを思って、アレンに向き直る。


「アレン、その傷のこと大人には何て?」

「あ、あぁ。 獣に襲われただなんて言えないから転けたとだけ伝えてる。」

「そうか、アレン。 よく聞いてくれるか、俺は……引き篭もる」

「は!?」

「大人には獣と会ったときアレンが戦ってくれたんだと伝えるよ、僕はこの力が怖くて、もちろん獣だって怖かった。 コントロールすら出来るか分からないこの力はいつ何時(なんどき)出るか分からない。 こんな迷惑な力、世に出したらダメなんだ。 アレン、お前にこんなこと頼むのは、お前の気持ちを尊重してないことは分かっている。 ……お願いだ、アレンの栄光にしてくれ」

「……虚仮の栄光をでっち上げて俺に周りに讃頌されろってか?悪いがごめんだ!! ふざけるな!」


 バンッと壁を殴るアレンにビクッとなるラファエル、怒るのも当然だ。アレンは努力を惜しまない、無論自分が勝ち誇った物には鼻を高くするが、それを偽った栄光なんていらないに決まっている。 それを分かって言った最低なのは百も承知…ラファエルは自覚している。


「……僕は、お前になりたいよ」


 ラファエルは悲しい顔をしてアレンの左袖を掴む。 アレンは引きつった表情を見せて、振り払い立ち上がった。


「お前がそれを言うなよ」


 強気なアレンの今にも泣き出しそうな顔に、目を伏せるラファエル。 


「臆病者で、ごめん」


 ラファエルは「言いたければ勝手に言ってくれ。俺は聞かれたら本当のことしか答えない」そう言って荒々しく退出して行った。



 友達に頼むことじゃないよな。ごめん



 ラファエルの思いは(しずく)となってシーツを濡らす。


 ……無理だよ、あんな獣見たことなかったし安全な世界で生きてたんだ。 地味男子は空手の授業すら見学してたんだよ!


 自分のあるべき場所。 迷惑が掛からない場所に引きこもる。 それが今のラファエルにとって最良の選択だったのだ。



 程なくして侍女らがゾロゾロとやってくると、ラファエルは涙を隠して何食わぬ顔で侍女に言った。


「アレンの怪我は……大丈夫なのかい? 僕を守ったせいで、あんな」


 ラファエルがその端正な顔を俯き、震える。 もちろん、演技だーーー遊ぶと行った先に何かあったのだと、侍女に思わせるために。


「アレン様は右腕に大層な大怪我をされていました。 縫合して本日治癒魔法で治す御予定でございます。」

「そうか……」


 ラファエルはあえて深く語らない。 アレンが去り際に言っていたのだ、俺は聞かれたら本当のことしか答えない…と。


 ーーー僕を守った。それに嘘の偽りもない。


 ただ、自分の行ったことを棚に上げているだけだ。 我ながら卑怯だと苦笑した。



 侍女はラファエルに都合良く読み取ったらしく、アレンの家へ礼状と贈り物を届けた。


 数日しても大袈裟にならない。 アレンは黙ってくれたのだろう…ラファエルはホッと息をつくと、部屋の扉を見つめる。


 事前に連絡を取らずに訪れるじゃじゃ馬なアレンが、あれからシャルルドネ別邸に顔を出すことはなかった。

 己の為に放った言葉は一生の友を失う羽目になり、多少の悲しみはあれど後悔はない。



 ラファエルは着々とインドアへと成り下がって行くのだった。

次回は3/23の4時、5時、6時に投稿します。

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