第七話 「宿屋でフィーバー」
お気に入りありがとうございます。徐々に増えてきて嬉しいです。
まあまずは隊列で揉めたね。
どうでもいい派は寂しいことに僕だけ。
あとの三人、というかアル君と他二人が「誰を中央に置くか」で喧々諤々だ。
「騎士団の任務であり主命で動いています!メルレン様が中央なのが道理です!」
「まあ!わたくしは仮にもヴィクセンの者よ。身分からいっても真ん中に置かれるべきですわ」
「お嬢様は女性です。女性を護ってこその騎士ではないですか?」
お、ツッコミポイントだ。
「そのお嬢様も騎士じゃないでしょうか。そしたらランベールさんを中央に隊列を組みますか?」
「ランベールは侍女よ!主に護られる侍女がどこにいるというの!」
すいません、火に油でした。
結局アル君はすっごい不満そうにしていたが、
「まあまあアル君、この中で一番腕がたつのはわたしのようですし、わたしが殿をつとめますよ。アル君はランベールさんと先に立ってください。それにもし万が一のことがあっても、わたしだけ生き残っては道もわからず主命が果たせませんが、サラさん、ランベールさんがご無事であれば、親書を引き継いで主命も果たせようというものです」
そして編成された隊列が、前衛左ランベールさん、前衛右アル君、中団サラ、後衛僕。
この隊列には利点がある。
一番後ろにいるので、うるさいのが話しかけてこない。
そしてだ、サラはワガママだがいい女だ。
やつの髪がさわさわと風に揺られなんともいえないいい香りが…。
くんかくんか。
「ちょっと!殿を任せているのですから街道といえど気を抜かないでくれませんこと」
「失礼しました。いい風(の香り)だなと思いまして」
「ふん!暢気なものですね」
クールダウンだ来栖よ、適当になだめてくんかくんかしまくってやるのだ。
土埃で鼻毛が伸びそうである。
旅の速度は「やや速目」とオーダーしてある。
これはヌクレヴァータ襲撃までのリードタイムを考慮したものだが、言い訳として秋口には任務の首尾を持ち帰るよう言われていると軽く嘘をついた。
というわけで我が騎馬隊はだく足を基本速度とし、馬の疲労を見ては並足で進む。
しかし馬の疲労以上に看過できないものがある。
僕のケツだ。
どうも体重のかけ方がまだ不慣れらしく、超ケツ痛い。
往来でおパンツをずり下ろし、従者に膏薬を塗ってもらうようでは確実にイケメン廃業である。
ケツをかばって鐙に立つように乗っていたら、今度は足が鋼鉄かと思うくらいパンパンになった。
足のシェイプアップを考えている女子の皆さん、馬はやめとけ。
脂肪落ちても筋肉つくぞ。
カモン超回復。
で、だ。
「すいません。最寄の街で宿をとりませんか?」
真っ先に泣きを入れることになる。
すると自動的に
「情けないことですわね。馬に満足に乗れない騎士なんて、鳥が空を飛べないようなものではないかしら?」
嫌味いただきましたー!
M男ならごちそうなのかもしれんが、僕にその趣味はない。
しかも今の言い回しでなんとなく、某乳製品のCMを思い出してしまった。
『****のないコーヒーなんて』というアレだ。
懐かしのCM特集とかで見て覚えてる。
コーヒーカップを手にしたサラが決め顔で決めセリフを吐いているところを想像し、思わず噴き出しそうになった。
「あなたという人はっ!」
あ、キレた。
「せっかくこちらが心配して差し上げているというのに笑い出すとはなんという不謹慎な!」
え?心配してたの?セリフのどこをとってもそんな成分入ってないよ。
「失礼いたしました。なかなか上手な例えをなさるので」
「馬鹿にしているの!?」
「いえ、滅相もありません」
誰かたすけてー。
「お嬢様、この先にやや大きな街がございます。糧食の補充も兼ねて逗留することとしましょう」
「仕方ないわね」
ランベールさん、ありがとう。
「ご主人様、大丈夫ですか?宿に付いたら薬をつけましょう」
「ありがとう、助かります」
この世界の薬草は食べてHP回復する類のものではない。
ケツに塗って痛みを緩和するのだ!(違
街はファークスという街道町だ。
交易の中継地点としてはやや大きい。
王都より売買価格が安いため、ここでも物資の流通が多いのだ。
各種問屋も軒を連ねる。
無論探せば隊商の衛士も見つかるだろうが、正直どうでもよくなっていた。
ランベールさんも結構強い気がするし、パーティの武力は充分だろう。
道案内も間に合った。
どちらかというと、パーティメンバーが増えてこれ以上人間関係が複雑になっても面倒だ。
有り体に言えばうるさいからヤダ、以上。
宿は大きいところを見つけたが、程度は中程度でサラが文句を言っていた。
仕方ないので宿の中では一番いい部屋をあてがってやり、僕とアル君は安い部屋にした。
風呂はなく湯を張った桶を持ってきてくれるパターンだ。
ついてきた布をお湯に浸し身体を拭う。
「あー赤くなってますねー」
その後でアル君に薬を塗ってもらう。
このまま、ケツの皮剥ける、治るを繰り返していたら、やがてケツは分厚い表皮に覆われサイの皮膚みたいになりそうだ。
ふと思いついてアル君に声をかける。
「ありがとうアル君、お礼と言ってはなんですが夕飯後に宿の中庭で少し稽古をつけてあげましょうか」
「本当ですか!?嬉しいです!」
キラキラするアル君。
思わず膏薬を塗る手にも力が入ろうってもんだ。
いや、優しくしてください。
約束どおり夕飯のあとでアル君と稽古。
練習用の剣を持っていないので、実剣に鞘をつけたまま打ち合う。
明日木剣買わないと鞘壊れちゃうな。
「アル君はわたしと同じ細めのサーベルを使うので、戦い方はまったく同じです。上から叩き斬るのは剣の耐久性からいっても不向きです」
「はい!突くのがいいですか?」
「突くのは有効です。ただ甲冑を着込んだ相手と戦うときには継ぎ目を狙わなければなりません。動いている相手をピンポイントで狙うのは大変です。重装備の対人戦では武器を考慮する必要があるかもしれませんね」
「ハンマーとかメイスですか?」
「有効です。騎乗状態であればランスもいいですし、体重をかけて甲冑ごと貫くエストックもつかえます」
「他の武器を扱えたほうがいいですか?」
「選択幅は多いに越したことはありませんが、今は得意の武器の習熟を延ばしましょう。魔物相手、軽装の対人戦ならサーベルは充分使えます」
「はい!」
「さて、サーベルの有利な点はなんでしょう」
「小回りですか?」
「正解です。攻防の切り替えが速く、技術によっては攻撃の軌道を変化させることもできます。これが両手剣では自重が重く制御がしづらいです。では不利な点はなんでしょう?」
「んー間合いですか?」
「そうですね。リーチが短いので近い間合いまで入らないと攻撃機会がないこと。あとは軽さゆえに防御に技術が必要ということですね。では攻撃と防御、それぞれ有効なものを教えます」
メルレン先生はいきなりいいとこ教えちゃいます。
基礎はやってるみたいだし、いろいろ教えるの大変だしね。
昔の人は言ったそうだ。
『千招有るを怖れず、一招熟するを怖れよ』
言ったの李書文だけど。
「攻撃は突きにバリエーションを加えましょう。突き、と突き切りです」
「突き切りですか?」
「ええ、突く動作の最終段階において手首を使って切っ先を鋭く払います」
実演してみせる。
まず突き、そして突き切り。
「ああ!心臓を狙う突きを牽制に首を狙うのですね」
「バリエーションはいろいろできます。相手の攻撃のほうが早いと判断したら、相手の武器の軌道を逸らす、相手の手、肩を狙うことで自分への攻撃機会を奪うこともできます。突きの動作中の軌道変化の修練としてやってください」
「はい!」
アル君は早速サーベルを振る。
「あと防御ですが、重量のある武器で思い切り攻撃された場合、まともに受けると剣が折れてしまいます。この場合は回避するか、いなす動作が必要になります」
「いなす、ですか」
「相手の武器を狙う撃ち落としもいなしの一つになるかもしれませんが、今回覚えてもらうのはもう少し簡単です。要は斜め防御ですね」
そして構える。
「ではアル君、上段から打ってみてください」
「はい」
アル君は言われたとおり振りかぶって斬りかかる。
僕をそれを受ける時に武器を正対させず、鋭角の角度をもって受ける。
インパクトの瞬間に持続的に角度を変化させアル君の切っ先を地面へと落とす。
「あれ?」
「どうです?」
「手ごたえがありません」
「力学の応用で力の向きを変えるのです」
文系なので数学の成績は推して知るべしだが、合力、分力と三角関数くらいならなんとかなる。
「力学ですか!?面白そうですね!」
「興味ありますか?」
「はい!」
そこから何故だか木の枝がペンになり、地面がノートとなり、sin、cosの公式を覚えている限りアル君に教えることになった。
あれ?剣術どこいった?
宿から漏れる明かりを頼りに蛍雪の功を積む僕たち。
そこへランベールさんがやってきた。
「探しました。こんなとこで何をやっているのですか?」
「さんかくかんすう、です」
と、得意げなアル君。
やや慌てた様子に見えるランベールさんへの返答としては多分間違っている。
「何かあったのですか?」
「はい、メルレン様たちの後に夕食をとっていましたところ、酔客にからまれまして」
そんなの二人でなんとかしなさいよー。
「ええと、サラ様がなにか失言でも?」
「はい、『下賎の者と同じ空気を吸っていると吐き気がします』とおっしゃられて」
「酒場中敵に回したわけですね?」
「はい、お嬢様でも20人を相手にはできません」
「わかりました!」
状況がつかめたので走り出す。
「アル君!抜刀を許可します。ただし殺しちゃダメですよ」
「はい!」
「痛めつけたあと裸にひんむいて売り飛ばしてやる!」
酒場に入ると恐ろしく物騒なセリフが聞こえてきた。
見渡すと20人近くが殺気立っており、サラは壁際に追い詰められていた。
ただしサラの足許で4人が悶絶しており、帯剣していないのに大の男4人を仕留めたということか・・・恐るべし。
しかしサラの実力を見て、残りは油断を捨て慎重に構えている。
一部は刃物を持っているようだ。
「アル、ランベール!状況が切迫したら攻撃を許可します!」
「メルレン様は!?」
「主に話をつけます!」
言って素早く厨房近くの宿の主人まで駆け寄る。
「主人!これはどういうことか!」
「いや、オレも見てるまにこうなってしまって」
騒ぎが大きくなりすぎてオロオロしている。
脅しとくかね。
「宮廷騎士団、しかも主命を帯びているのだぞ。ましてはあちらの令嬢はヴィクセン伯のご息女。なにかあってはお前の首一つではおさまらん」
「あああああ!オレはもうおしまいだあ」
「主人、わたしがなんとかして場を収める。人死にも出ないようにする。ただ多少の被害には目をつぶってくれ」
「本当か!?頼む、なんとかしてくれ!」
「わかった」
よーし、言質とったねー。
見れば、アル君とランベールさんがサラのもとまでたどり着き抜刀して構えている。
これで完全な膠着状態に陥っている。
ぶつかりあえば双方無事ではすまない。
お互いわかっているので動けない。
時間もありそうだし、いっちょ魔術でもぶっぱなしますか。
とは言っても触媒もないし、あんまり派手なのかましても宿がなくなっちゃうな。
んー。
「主人、大きめの水桶に水を運んでくれ」
「へ、へい!」
主人は奥へひっこむ。
僕はテーブルの上に立つと詠唱を始める。
(威力は低めに・・・)
瞑想すること20秒、魔術回路が繋がる。
現象化は右手の指先より。
「水もってきました」
発動を待機。
「では、床に水をぶちまけてください」
「へい!」
ザバーっと水が床に広がり酒場中水浸しだ。
「サラ!アル!ランベール!椅子かテーブルの上に乗ってください!」
アル君とランベールさんがハっとしたようにこっちを見て指示に従う。
「なぜですの!?」
サラは馬鹿だ。
「なんでもいいから!」
20人のうち何人かが僕に気づき向き直る。
「ちゃんと説明してくださいませんか!?」
あーじゃーもーいーや。
食らえ。
「雷撃!」
バリッ!
右手から紫電が走り床の水に放たれる。
「うわっ」「ぎゃあ」「きゃああ」
威力を調整した電流が水に乗って床を駆け巡り、一瞬で20人を昏倒させた。
一部女性の悲鳴が混ざったが気にしないでおこう。
電圧の割に電流を低く設定しておいたのでだれにも怪我はなかった。
やけどもないようだ。
宿も燃えなくてよかった。
調整し損ねて被害が出たら、うやむやにして逃げようと思ってた。
自信?そりゃあありましたよ。
でなきゃサラに食らわせたりしませんよ、ドキドキ。
宿の主人はモップで床の水を拭いている。
「この人たちは放り出していいですか?」
「ああ、明日になりゃ頭冷えてるだろうよ。穏便に済ましてくれてありがとうな」
町の衛兵に引き渡されるか、王都に連行されると思っていた主人だが、僕は事を荒立てるつもりはなかった。
だって悪いのほぼサラだもの。
「いえいえ、聞けばこちらにも非はあるようですし。彼らに奢ってやっておいてください」
銀貨を数枚主人に渡す。
「わかった。代わりといっちゃなんだが、宿代はタダにしとくよ」
「ありがとうございます」
僕はアル君と二人で宿の庭に気絶した男たちを置いてくる。
寒くない季節だし風邪ひくこともないだろう。
しかし早速のドタバタである。
先が思いやられる。
すっかり遅くなってしまったが寝るとしよう。
その時ガチャリと部屋のドアが開いた。
立っていたのはサラだった。
「メールーレーンー」
あ、キレてる。
ゴゴゴゴゴっていう書き文字が背後に見えるようだ。
「初めて名前を呼んでくださいましたね。光栄です」
「よくも電撃などを食らわせてくれましたね・・・」
アル君はサッとベッドを出て僕から距離をとった。
あれ?従者はあるじの盾にならないとダメですよ。
「お怪我もないようでなによりです」
「……」
無言で近づくサラ。
「ぎゃああああああ」
まだ寝るには時間がかかりそうだった。
宣伝とかしないとダメでしょうかね。ツイッターあまり使う気しないしなあ。いい宣伝方法あったら教えてください。