第六十一話 「教員採用面接」
毎度おひさしぶりです。
長くなったので最後の面接は次回へ回します。
気を取り直して面接を続けよう。
「予算がなければ研究が立ち行かぬのも真実ですが、あらゆる研究において予算を惜しみ成果を陰らせることはナンセンスです」
「おお!心強いお言葉」
「しかしながら、研究がそれを続けること自体を目的とし、成果の望めぬ手慰みを延々続けることもまたナンセンスです」
「閣下の言、一々御尤もです」
「であるならば、ウクバル師の研究内容こそが肝要となるわけですが、現在どのような段階でしょうか」
ルバイヤート・ウクバルは暫し瞑目した。
これは捗々しくないヤツかな。
「段階としては構想をまとめ、現在の技術から拡張して、具体化を模索しておるところです。しかしながら…」
「…謂わば手詰まり状態と」
「お恥ずかしながら」
「差し支えなければ内容をうかがっても?」
「隠すようなものでもありません。魔術師というより人類の夢である治癒の魔術の確立です」
おお、マジかよ。
既に書いている通り、この世界で回復魔術、治癒魔術は存在しない。
神は僕らの世界と同様にいるんだかいないんだかよくわからないし、祈っても別になんかしてくれるワケでもない。
坊主(聖職者)が趣味で、また商売で拝んでるだけだ。
毒については植物由来のものなら、一部解毒剤が存在している。
生物由来については強毒であれば死んでしまう。
病気や怪我も同じくシャーマンドクターや中世程度の医者によって治療される。
治療魔術が実現できれば確かに画期的である。
「私は治癒魔術の確立には、身体強化魔術が1つのヒントになると考えています。人間の身体は、自然治癒力を持っており、この強化が治癒につながると考えています」
ルバイヤート・ウクバルの考えは正しい。
しかしながら漠然と自然治癒力を増幅するだけでは治癒魔術とはいえない。
必要なのは医術との連携、そしてこの世界では未だ認識されていない生物学の知識だ。
「師のお考えは恐らく正鵠を得ています。そして次の段階へ進む進む為の資源、環境、知識をわたしは提供できます」
「知識…とおっしゃられましたか?」
「ええ」
「なんたること!」
ルバイヤート・ウクバルは立ち上がって正しく絶叫した。
「閣下は問題解決の為の鍵をお持ちだと、そうおっしゃる」
「いかにも」
「天の采配とは斯くの如きなり!すぐさまバルディスへ出立いたしましょう」
そのまま部屋を出て行こうとするルバイヤートを慌てて押しとどめる。
「では代わりに魔術教師の任を引き受けていただけますか?」
「無論です!教師でも男娼でも竜殺しでもなんでもお引き受けいたします!」
僕らはがっちりと握手を交わした。
ここにラトロード学園魔術科教師一号が内定した。
知識と金を小出しにしないと、研究室に篭りっきりになるタイプだと思われるので十分に取り扱いには注意したい。
奇異の目で見るシェンカーに苦笑で返し、アル君に雇用契約書を出して貰う。
内容など見ずに慌しく署名するルバイヤートを見ながら、クスニフ師とアリエン議員に聞いてみる。
雇用契約書は予め確認してもらっているが、話の内容などにツッコミどころが無いかの確認だ。
「治癒魔術の確立に目星がつくとは驚きを禁じ得ません」
と、クスニフ師。
いやそっちかーい。
「あくまで発想の切り替えの方法を提案できそうだということで、なかなか簡単にはいかないと考えています」
「なるほど。それはそうですな」
いや多分、僕の予想では理解が早ければ数年で系統ができる。
試行錯誤はあるだろうが、僕が既に使える可能性もある。
しかしそれを口にするのはもちろん悪手。
アリエン議員がまんまるの目で見ているが微笑で返しておく。
「エルラン・フェイテルモです。ハーフエルフです。若輩の身で長命族の方にお目通りするご無礼をお許しください」
長身の美女が現れたと思ったら半エルフさんだった。
外見はほとんど人間族と変わらない。
長耳でもない。
寿命は概ね150歳くらいだが、個人差があるのでわからない。
長命族とはグレイエルフの異名だ。
エルフの間では通常こう呼ばれる。
知る限りは変態剣聖や性悪賢者や剣術狂いくらいしかいないので、全く畏怖と尊敬を受けるに値する種族だとは思えない。
「ただ長命を持て余しているようなものです。どうか気楽にされてください」
「縁あって魔術の才を授かり、帝国魔術団にて攻撃魔術を操ってはおりますが、児戯にも等しいものと恥じております」
うーん、堅い。
これは通常のエルフ社会ではハーフエルフは『半端者』扱いされて萎縮してる感じなのかな。
作中にハーフエルフ出てきてないからそういう感じわからん。
むしろ禁忌とされていて、両方の種族から疎まれているとか?
「エルフ族で魔術団に入られる方は珍しいのですか?」
「いえ、魔術の才を持つ者が多いので、森エルフや丘エルフなども少なからずおります」
クスニフ師が更に挙手して
「ハーフエルフも数は少ないですが、在籍しております」
と、付け加えてくれた。
なるほど特に差別されていることは無さそうだ。
というかエルフの就職先に魔術兵団があるのかよ。
これは地元にしてメルレンの故郷たる古の森にもスカウト行かなきゃならないなあ。
「フェイテルモ師はどちらの御出身ですか?」
「はい。私はここ帝都の生まれですが、父は眠り湖に近い傘森の出身で若い頃から帝都、当時は王都でしたが、ウルでまじない師として生計を立てており、アトラーヴェイの前進であるイダヴェル魔術寮で教導師を務めていたそうです」
おいおいエース級の人の娘か。
「しかし父は魔術の戦争利用に反対し先帝に投獄され獄死しました。私はそれについては父の考えもわかりますが、先帝の御怒りもわかります。お恨みはしておりませんが、御代が変わった機会にお暇を頂こうと思いました」
なるほど、やはり思うところがあるのは仕方ないよな。
「そんな折に、あのヴィドマー大師を退けた長命種たるメルレン様、いえラトロード伯が人を欲しているとお聞きし、これはもう是非にと思いました!」
お、おう。
何故にキミはそんなに前のめりなんだい?
妙な圧を感じるんだけど。
「ご興味をお持ちいただきありがとうございます。何か私どもにご関心でもおありでしたか?」
「だって至高の存在ですよ!?エルフの頂点たるグレイエルフ!まさか生きてるうちに会えるなんて!帝都はおろか父の実家の森にもいないんですよ!?古代純血種の血を色濃く引くなんてロマンがっ!もし私と交配してもきっと優秀な子が産まれる可能性も!」
あ、コイツ血統マニアのダメな子だ…。
部屋にいる全員がドン引きして熱弁を振るうエルランを見ている。
しかも聞かなかったことにしたくなるようなことまで言ってたぞ。
「そ、そうですか。私はグレイエルフと言ってもはぐれ者でして魔術も剣術も中途半端な上に、一族とはほぼ関わりを持たずに生きてきまして、誠に申し訳ないのですがフェイテルモ師のご期待に添えることは出来ないかと思いますので、残念ながら今回のお話は…」
「…!!ちょ、ちょっとお待ちを。取り乱して申し訳ありません!私は新天地で若き才能を発掘し魔術の手解きをするという職務に大変意欲を感じています。どうか、どうかバルディスへお連れください!」
うわ、しがみつきそうな勢いだよ。
絶対やだ、こんな人。
と思ったらエルランの背後でクスニフ師が卓に頭を擦り付けて拝んでいる。
なんだおい、まさか厄介者なのか?
「ラトロード伯、これなるフェイテルモ師は大変な熱意と才能を持つ優秀な魔術師です。我々としても手放すのは苦しいのですが、本人の希望はなるべく叶えてやりたいと思っています。どうか汲んでいただきたく」
マジかよ。
これって強制?
確かに人材はいくらでもほしいが…。
「わかりました。熱意を持っていただけるのであればありがたいです。フェイテルモ師、よろしくお願い申し上げます」
「あ、ありがとうございます!………いつか搾り取る」
聞こえてるぞ!!
パル・クォーラー・キリアムか。
付与術師くらいまともな人が欲しい。
付与術は緻密な作業が要求される職人技だ。
物品にさまざまな形状の魔法陣を彫刻していくのだが、魔法陣自体があまり見えるところにあると、材質にもよるのだが耐候性に問題が出る。
わかりやすく言うと剣の刃にルーン文字がある剣とかゲームで見るけど、実際は研いだらすり減る。
ロマンもナニもあったもんじゃないが、現実はそんなもの。
だがしかし、メルレンになってある程度この世界の魔術式を見てきて疑問があった。
これをこの人に提案して、ルバイヤートみたいに釣れないかなあ。
「お目にかかれて光栄です、ラトロード伯爵」
「こちらこそ、キリアム師。腕の良い付与術師は国の宝。我が国においで頂ければありがたい」
キリアムは首を横に振った。
「私など凡百の才しかありません。イダヴェル最高の付与術師と呼ばれるアンシュリー・フォーザ大師などはゴマの粒の上に魔術減衰の陣を描けるのです」
いや、もうそれネタ技術じゃん。
「たしかに精緻の極みですね。しかし、私には魔法陣や魔術書式を効率化する秘策があります」
「効率化ですと?この形式と手順を何よりも重視する魔術書式において?」
「ええ、私のような魔法剣士が用いる短縮詠唱とは全く異なる方法で、詠唱使用魔術では決して成し得ぬ効率化の手段があります。これを使用すれば師の技術に多大な利があると思います」
「付与術は確かに専門の修練を要する技術です。それが劇的な進歩を得られる手法をお持ちということですね」
「はい、幸い我が領内にかのグラン・グルミエと名高いグルイヤール・グルミエも工房を構えておりますので、師の腕を振るっていただくのに良い環境かと」
僕が考えているのは要はプログラム的な手法だ。
一行目からひたすら術を書き連ねて行くのではなく、初期設定をして同じ命令はルーチン化して文字総量を圧縮する。
書くことが減れば、当然難易度も下がり、書ける内容を増やすことも可能だ。
時が経てば技術が流出するだろうが、開発元のアドバンテージを最大に活かせるようにいろいろ頑張ってもらいたい。
なので当然ここで口にすることは無い。
クスニフ師がお耳ダンボで聞いているのだから。
「大声で喧伝する内容とは思えませんので、もしご助力願えるのであれば国許に戻り次第お話しいたしましょう」
「魔術師範の件ですね。私に伝えられるものなど付与刻印くらいしかありませんが、それでもよろしければ是非に」
「付与術は魔術の基本に忠実でないといけません。基礎魔術理論の教鞭も是非キリアム師に執っていただきたいと思っております」
貴重なまともな人に頼みたいんだ!
「私でよろしければ」
常識人ゲット。
「ウーワレク・ザヒアと申す。魔法剣士を志す者です」
おお?強化術担当の人はなんとこのレア職を目指してんの?
「それはそれは。なんと申してよいのかわかりませんが、一応現在世界唯一魔法剣士を名乗らせていただいております、メルレン・サイカーティスです」
「今日の日を一日千秋の思いで待ち焦がれておりました。第一人者であらせられるレイスリー・プロガーン師の武勇を聞き及び、唯一の御弟子であるサイカーティス師に是非薫陶を授かりたく」
なるほどー、お師匠のファンか。
尋常の立ち合いなら無双と言われたお師匠だもんなー。
気持ちはわかる。
厨二心が刺激されまくるよね。
でも、だ。
まともにやりあえばダルタイシュやラザルス大師匠の方が強いし、ちょっとした搦め手を使ったイダヴェル第二軍前指揮官のデュラハンにはあっさりやられるし、なにより数で圧し潰されれば個人の武勇なんかどうってことないんだけどなあ。
「ザヒア師に問います。武を求め、何を得んとします」
「武の高みを目指すこと。鍛錬と探求の結果を身に宿すこと」
「得た武を用いて覇を見んとしますか」
「武の高みはひたすら己の裡にのみ在るもの。求道につきます」
なるほど武人。
いやマテ、お前魔術師じゃねーのかよ!
身体強化からの近接戦闘を得意とする珍種と見た。
でもそんなの非効率なんだよ。
「あえて言わせていただきます。魔法剣士はグレイエルフにしか修めることはできません」
「それも聞いております」
「修練方法は実に単純。あえて秘匿することなどありません。お望みであればこの場でお伝えします」
「なんと!」
これにはザヒアだけでなく、クスニフ師やアル君まで目を見開いた。
「『心に祭壇を作る』という言い方をしますが、具体的に言うと必要な魔法陣を心の中で一瞬で描き上げます。ある程度の術者であれば通常の作成手順を記憶しているので、心の中で描いていくことは可能でしょう。ただし一瞬で細部にいたるまで完璧に全体をイメージすることはなかなか難しい」
「確かに。修練が必要そうですな」
「はい。方法はこれも単純で、ひたすら魔法陣を描き、よく見て覚えて忘れぬようにして、頭の中に再現する訓練をします」
「道理ですな。どれくらいの鍛錬で修得できるものなのですか」
「単純な着火の魔術であれば、イメージを固定するのに一月はかかりません」
「おお!では…」
身を乗り出すザヒアを手で制す。
「座して瞑想していれば、です。目を開いたまま空中にイメージを結像させるのは困難です。師匠で十年、わたしはセンスがあったのか八年でできました。いったんコツをつかめば次からは最短半年まで短縮できます」
「一朝一夕にはいかぬというわけですな。おおいに奮い立ちます」
「そして動きながらこの作業を一呼吸に足らぬ間で完璧に行えるようにします。武術の素養があれば十年ほどで可能かもしれません」
「完成までに二十年とは…」
「いえいえ。ここからはこの技術を実際使えるようにする鍛錬です。目の前の相手と真剣勝負をしながら、通常の立ち合い同様に武技を凝らし、駆け引きし、周囲にまでに気を配り、先を読みつつ、不意に備え、その上で魔力を練り集中を切らさぬように魔方陣を描き、その瞬間で最適の術式を選択し、最適のタイミングでここしかないという箇所へ一瞬で術を発動するのです」
「…」
「修練に終わりはありませんが、ごく精密な魔力の操作、剣術との絡め方の工夫、ひととおり私が『得た』と感じるまでには500年の時を要しました」
「500年とは」
「これがグレイエルフにしか修めることがかなわぬという主な理由です。ただ、私の見立てではザヒア師が求める形を体得するまでに、そこまで長大な年月を要することはないと思われます」
「本当ですか!?」
ザヒアも他の面々もひたすら驚きっぱなしである。
「お見受けするところ、ザヒア師は剣術、魔術ともかなりの研鑽を積まれておられる様子。されば、魔法剣士としての修練をごく単機能に絞れば可能かと」
「そのような手法がおありなのですか!」
本来魔法剣士は器用貧乏みたいな戦闘スタイルなので、手札を恐ろしく沢山用意し相手の対応を迷わせる、または誤らせるのが本来の姿だ。
しかし使える魔術が少ないなら隠しダネとしてここ一番まで秘匿し『ただの剣士だと思ってたのに近接戦闘中に魔術だと!?』という大きな隙を作ってそのまま決めきるというスタイルもアリっちゃあアリだ。
見ればザヒアは土下座スタイルになっていた。
「サイカーティス大師!お願いいたします!是非道をお授けください!」
「大師とはちょっと気恥ずかしい。弟子ではなく、わが校の教鞭を執っていただけるのであれば、修練方法などは惜しまずお伝えいたします」
「この身、どうかお使い潰してください!」
いやブラックじゃねえし。




