第二十九話 「一方その頃的なこと③」
今週は仕事キツかったですがなんとか書けました。
次回からメルレン隊が活動しますよー。
多分・・・^^;
ジェラード・カーマインの巻
メルレン様は旅立たれる前に実に多くの、そして驚くべきアイデアを話されていった。
その多くは画期的、革新的でありまったく耳にしたこともないものでした。
「一部を除いてカーマインさんに取り扱いはお任せします」
そのように言われてしまっては奮闘せざるを得ません。
まずは新型馬車です。
これは従来の馬車の構造とは一線を画すもので『サスペンション』なる仕掛けが使われております。
客室、または荷台と車体を別構造にして、よくしなるように張り合わせた鉄の板を間に入れるそうでございます。。
グルミエに話をすると、若手の鍛冶師を連れてきてメルレン様と首を突き合わせながら試作や相談をしておられました。
どうやら目処がついたらしく、近々に試作車が出来上がってくるとのことです。
メルレン様をこれを戦後の観光用に使うと言っておられたのだが、もうひとつ腹案を授けていかれました。
「これで戦車を作りましょう」
「戦車ですか?」
聞いたことのない単語でした。
「ええ、弩弓は重量が嵩んで移動が困難ですし馬車に積んでも速度が期待できませんが、サスペンションを用いれば軽減されると思います。総重量は重くなりますが、馬が曳く時の抵抗が少なくなるためです」
と、言われても正直ピンとこなかったのでございます。
「馬用鎧を着せた4頭立ての馬車で、弩弓を積んだ馬車を曳かせます。射手の安全を図るために馬車は鉄板で覆います」
「それではひどく重くなってしまいませんか?」
「鉄板は矢を防ぐものなのでごく薄くてよいでしょう。四角ではなく涙滴型にすることで一層防御効果が高まります」
「はあ・・・」
これも急ピッチで試作と生産が進められており、イダヴェルの王都到達までには基礎訓練を終えてある程度の台数を配備する予定になっております。
ですが最初に完成予想の絵を見せていただいたのですが正直な感想は『異様』でした。
鱗鉄鎧に身を包んだ馬4頭が楕円に近い形の箱のような馬車を曳いております。
馬車からは後方に向け穴から弩弓の矢が飛び出しており、中には4人が乗り込んで矢の装填、弩弓の機械巻きを行うそうです。
狭い中での矢の装填がスムーズに行えるように、弩弓には横からフックで矢をすくいあげるような補助装置がつけられております。
照準はおおよそしかつかないが御者席で馬を操る者が、後方の指示に従って針路を修正して発射すると見てとれました。
騎士、騎兵とまでは行かなくても、機動力と破壊力を併せ持つこんなものが戦場を駆けたら、確かに脅威だろうということは容易に想像できます。
魔法兵団のない我が国にとっては火力はのどから手が出るほど欲しいものです。
この「戦車」はその一助となるのは間違いございません。
しかし、さすがに何百、何千と作るだけの時間はありません。
せいぜい30台くらいではないでしょうか。
それでも一定の局面打開力は見込めると思われます。
問題はメルレン様が一体どうやってこんなものを思いついたかなのですが・・・
これは聞かないでおくのがよいわたくしの勘が告げております。
次に驚かされたのは企画力です。
先に述べた旅行や、観光地の整備を一体化させた事業計画もそうでしたが、グルミエを商会で雇用した時の企画については既に反応が出始めています。
避難が進んで、我々も避難先であるエンフィールド公爵領の開拓地にむけて徐々に人員や設備を移し始めています。
そうして設備や道具に不足がある状況を差し引いても、メルレン様の行った宣伝(広告というそうだ)によってグルミエ工房はフル稼働状態が続いております。
もともとのグルミエの名声に加えて
『噂のエルフの騎士様が凄い剣を作った』
『ウェズレイ様がいの一番に斧槍を発注していたく気に入っているそうだ』
『ダナード様もグレイブを作ったらしい』
という評判が王都を駆け巡り、騎士でも裕福な者は争って武器、防具を作ろうとしてくださいました。
高級品の評判になってきたところで、メルレン様の指示でビラを配ったり、張り紙をしたりいたしました。
『王都の皆様にワングレード上質な武具をお届け。サイカーティス商会では有名マイスターのグルミエによる武具を各種取り揃えております。唯一無二の一点物からお求めやすいお品まで!
商品の一例。K様ご注文による完全注文生産ロングソード 金貨150枚。細部にまで意匠にこだわり、付与まで厳選した匠の逸品
店頭商品。グルミエが全工程に渡り厳しく監修し、その確かな眼で選りすぐられた確かな匠の技を受け継ぐ業物各種。銀貨50枚より』
店頭にはグルミエの名前と紋章をあしらった幟を立て、武具には同じ紋章の刻印を入れ、さらにはグルミエ本人の手によるものは銘を刻むという段階的な差別化を行いました。
このような販売戦略によりたちまちグルミエの知名度は高まり、多くの人に工房を訪れていただきました。
ここまで露骨に名前を売る商売を見たことがありませんでしたが、メルレン様は「ブランド商法ですよ」と言われていました
人との関わりを嫌うエルフが商売に通じているなど初めて聞きましたが、これも詮索はしないほうがよろしいでしょう。
次に農業にまでその知識は及んでおりました。
我が国、というより常識とされている農業は肥沃な土壌を探すところから始まり、草原を焼き払い農地を開墾する焼畑農業といわれる方式です。(メルレン様の言によると、ですが)
肥料は牛糞、馬糞、鶏糞が用いられるが、民家に近いところでは悪臭による苦情があるためあまり使用されておりません。
作物の出来が悪くなると耕作地は数年から十数年作付けをやめて、土地の力を回復させます。
ところが、これに関してもメルレン様はアドバイスをくださいました。
「あまり詳しくないのでうろ覚えですが」
前置きをして話した内容はまたもや聞いたことないものでした。
「肥料として糞を撒くのはいいが、臭いの関係もあるので鶏糞がもっとも適しています。鶏糞、大豆から油を絞ったあとの粕、陸稲の糠、魚や獣の骨を細かく砕いたものを土中に埋めるとやがて発酵して暖かくなります。これをあまり熱くなりすぎないようにかき混ぜるなどして管理してやるとよい肥料ができます。臭くなく、乾燥させてしまえば1年は使用でき、少量ずつこまめに畑に撒くだけですぐに作物の生育が良くなる・・・はずです」
開拓地からの報告では早速効果が目に見えてでているそうで、作付け期間の短い葉物の収穫量は明らかに増えていると報告を受けております。
「これを商品にしてもよいのですが、基本的には製造ノウハウを文章にして安く、大量に売ってください。収穫量の上昇は国力の上昇に繋がります」
メルレン様の言いつけに従い、「サイカーティス式肥料作成法」を安く販売し始めました。
まだ実際肥料を作成して収穫に結びついている人数が少ないので反響はあまりありませんが、実績が出てくるにつれこの製法は爆発的に広がっていくと予想しております。
個人的捕捉として、比較的都市部で農業を行っている農家向けや、趣味で園芸をやっている個人向けに郊外で肥料を一括して大量に生産し、完成品の販売を計画しております。
王都の近くとエンフィールド領開拓村近くの二箇所を考えている。
これは自活している時に考案したものではないかとも推測されますが、やはり見当もつきません。
あきらかに王宮勤めの農政官が長期間かけて考案し、実用化するレベルの内容です。
他には水車の利用について検討を指示されました。
現在は水車の回転で臼を挽く製粉用として利用されていますが、メルレン様の提示された内容では、クランクなる仕掛けを作り回転運動を往復運動に変換するそうです。
これによって脱穀や製材にも応用できるということです。
また水路の拡充と併用してより高い土地への揚水が可能だと図を描いて説明してくださいました。
自在に水を利用できることからミクラガルド等で栽培されている水稲が生産できる可能性があるそうです。
麦とは違う耕作期になるので食糧の安定供給に期待が持てます。
また網などで捕獲した鱒などの川魚を人工的に作った池に放ち、餌をやって増やすという計画も示されました。
海まで距離がある王都では川魚は貴重な水産資源です。
餌は余剰になった小麦粉、肉や魚の廃棄部分、油粕などを乾燥して粉末にしたものでいいそうです。
実験が成功したら、階的に池を増やし時期に応じた出荷や燻製施設を併設して保存食の作成などにも着手したいとおっしゃられていました。
こうした資源の創出と活用を模索して、ランドルフと魚料理をあれこれ考えていたのですね。
名産品は観光資源となり、雇用を生み、人を呼ぶことができます。
産業は連携して発展していくものです。
この他にもトランプというカードと、そのカードを使うゲームをいくつか披露していただいた。
これが素晴らしいの一言に尽きるのです。
チェス(※現代のチェスとは違うもの)と違って場所も取らずルールも平易。
それなのに戦略性が高いものが多いという。
最初に教えていただいた『ブルジョワ』や、上級者向けと言われた『ナポレオン』などはすっかり夜更かしをしてしまった程です。
これは売れる!と思ったのですが、メルレン様は、
「製造が容易なので模倣品はすぐに出るでしょうね。覚えているだけのルールをまとめておくので、カードとルールブックをセットで販売し、あとは需要を見つつ他の商人が大挙して参入したら生産数は減らせばいいでしょう。こういうものは流行り廃りがあるのでほどほどに手を出すのがいいですよ」
あまり頓着がないようでした。他にもゲームのアイデアはあると言われておりましたが、どれだけ多才なのでしょうか。
これほどの商材を並べられては、言われるままに売っていけば問題なく立ち行くかもしれませんが、わたくしの立場がありません。
効果的な利益とスムーズな販路拡大、生産の安定を確保すべく書類と格闘する日々が続きます。
メルレン様は騎士爵では収まらない方。
自領をいただくその日のために、このカーマイン粉骨砕身勤めさせていただきます。
アネカ・レイノルズの巻
わたしは今、生まれ育った王都ヌクレヴァータを離れ、お父さんお母さんと一緒にエンフィールド公爵領にいます。
『第11避難開拓村』というところで名前すらないんです。
王都からは馬車で5日くらいなので近いです。
でもマガニアへ向かう主要の街道ではなくて、内陸の鉱山地帯へ向かうまあまあの幹線街道から分岐して少し入ったあたりにあります。
マガニアへ向かう道は万が一バルディス軍が負けて、イダヴェルが侵攻した場合のルートになると予想されるため危険なんだそうです。
でもこっちの街道も鉱山町へ向かう商人を中心に結構にぎわっています。
開拓村は掘っ立て小屋が立ち並び、みんな畑で土いじりです。
これはこれで結構楽しそうです。
わたしは王都の近くの小さな畑しか見たことがなかったのですが、ここの野菜はなんだか大きいんです。
ちょうど今はホウレンソウを栽培しているようです。
ホウレンソウ!
栄養たっぷりでおいしいですよねー。
さっと洗ってサラダにしてもいいけど、わたしはやっぱり豚肉と一緒に炒めて食べるのが好きだなあ。
ホウレンソウはこの時期に採れるものが柔らかくておいしいです。
夏のホウレンソウは大きくなるけどちょっと硬いのでサラダでは食べられません。
でも、ここのホウレンソウは夏のものより大きく育っているのに柔らかいんです。
土がいいのかしら?と呟いたら、作っているおじさんが
「いいや、サイカーティス様の考案した肥料がいいようなんだ」
と教えてくれました。
メルレン様!?
あの方は騎士なのに肥料を作るの?
そういえばあの方は最初からわからないことが多かったわ。
フラっと王都に現れたと思ったら、いきなりバルテルミ様と意気投合して、ゼフィア様ともお知り合いみたいだったし、何日かの間にいきなり宮廷騎士団に入ったり。
最初はお顔が美しいのに気を取られたけど、あの人の一番の特長はそこじゃないわ。変わっているってことよね。
あととても強いこと。
宿の窓からメルレン様とダナード様達の喧嘩みたいな試合みたいなのを覗いていたんだけどデタラメだった。
見えないスピードで動くわ、隕石を落とすわ、2倍くらいありそうなダナード様を鎧の上から殴りつけてのしちゃうわ、どうなってるのかさっぱりだわ。
一番強いのはケンカじゃなくてお酒だと思ってるけどね。
わたしたちのうちは王都で宿屋さんをやっていたの。
帳簿がお母さんで、料理がお父さん、お客さんの相手はわたし。
他にもベッドメイクとかお掃除とか何人か従業員がいたのよ。
避難にあたってその人達も連れてきたんだけど、どうやらこの避難村で宿屋をやるらしいのよ。
掘っ立て小屋で?
メルレン様、というより凄腕執事のカーマインさんがサイカーティス商会という商会を始めたの。
これは自分で商店をやるわけではなくて、いろいろな商人や商店、職人や農家などに融資や投資をしたり、便宜をはかって手数料を得る商売のことね。
うちの宿屋、銀杏の並木亭もカーマインさんに勧誘されて商会へ入っちゃったの。
商品が流れる場合は売り上げの何%が手数料って決めるらしいんだけど、うちは宿屋なので上納金みたいなのは無いんだって。
つきあいのある商人や、メルレン様のお客様が王都に来た時には優先的にうちを紹介してくれるそうなので、いいことずくめ。
でもそれじゃあさすがに悪いのでお父さんは1年に1回決まった額を会費として納めると言ったそうなんだけど、カーマインさんは断ったそうよ。
「先の話になりますが、宿の方にも手伝っていただく商売がありますので、手数料はその時にいただきます」
と言われたらしいんだけど、一体どんな商売を考えているのかしらね。
で、話はもどって宿なんだけど、避難村で宿なんかやったって人は来ないでしょうに、と思ってお父さんに聞いてみると。
「本格的な建物はいらないけど、お客さんはある程度くるはずなので一応の体裁は整えてくれと言われたんだ」
と答えてくれました。
おまけに宿を建てる材料や大工さんも商会で面倒見てくれるそうです。
なんか避難してるんだか引越したのかわからなくなるわ。
でも、この村は王都に比べて空気もおいしいし、川も近いしいいところだわ。
各村10人くらいは王都守備隊の人が詰めてくれるので安心だし。
ここで宿をやれってことは王都に帰るのはまだまだ先になるのかしら。
イダヴェルが来て王都がメチャクチャになっちゃうことは避けようがないというのだけれど・・・
友達とも離ればなれになってしまったし寂しいなあ。
メルレン様なんとかしてくれないかなあ。
そんなわけで現在わたしは開拓村に宿を建てるべく大工さんのお手伝いをしたり、お茶を入れたりしています。
メルレン様、元気で帰ってきてくださいね。怪我とかしちゃいやですよ。
エレイン・ポールハートの巻
いろいろなことがとても不安です。
わたしの上司であり、指導役であるコックニーさんがいません。
わたしたちのご主人様メルレン様はとっても忙しいです。
今度は戦争に行ってしまいました。
なんだか王都が壊されてしまうんだそうです。
それじゃあメルレン様が負けて死んじゃうってことでしょうか?
「馬鹿をお言い!」
コックニーさんに叱られました。
執事のカーマインさんがおっしゃるには作戦なんだそうです。
王都が壊れるのが?
まったくわかりません。
このお屋敷も壊されてしまうのでしょうか。
どちらにせよ怖い敵軍の兵士が15万人も来るそうなので逃げなくてはいけないそうです。
コックニーさんはもう逃げてしまいました。
わたしはカーマインさんと一緒に逃げるのです。
それまでは来る日も来る日もベッドメイクの練習です。
このベッドも壊されてしまうのでしょうか。
どうせなら寝ちゃおうかなあ。
誰も見てないね。よし。
ぼふん
わーーーーーーー
さすがご主人様のベッドはふかふかです~。
わたしのベッドが板の間に思えるくらいですよ。
おまけにいい匂いです。
そた毎日わたしが洗濯してるんですもの。あたりまえです。
きもちいい~。
「エレイン、あまり感心できませんね」
え!?
ガバっと振り返るとカーマインさんです。
忙しいから帰ってこないと思っていたのに神出鬼没というやつです。
「す、す、すいません!カーマインさん!」
「コックニーから頼まれていますので、彼女がいなくてもしっかりしてくださいね」
「はい・・・」
「それと、わたしたちも一週間後には王都を発ちますよ」
えーー・・・、コックニーさんにしごかれる日が帰ってきてしまうのね・・・。
「わたしとランドルフとエレインで避難先へ向かいます」
「わかりました」
まだまだ、ご主人様のいない日が続きそうです。
きっとメルレン様がいないからわたしの練習にも身が入らないんです。
メルレン様かっこいいもんなー。
『エレイン、いつもありがとう』
とか言われたら、はうってなっちゃいます。
「エレイン?」
は!妄想の世界へ行きそうになってました。
「は、はい!大丈夫です!」
カーマインさんがなんか呆れています。
「ま、支度ができたらあとはベッドメイクの練習を続けてください。ただし今度は寝ないように」
「はい!」
今度王都に帰ってくるのはいつになるのかわかりませんが、せめてその時までには立派なハウスメイドになるぞー。
くじけないんだから!
いつも読んでくださってありがとうございます。
お気に入りもじわじわきてるのが楽しくて仕方ありません。
応援、罵倒、誤字脱字指摘、矛盾ツッコミなんでもお待ちしております。
よしグランツ6やるぞー!
遊んでばっかだなあ・・・




