第二十八話 「初勝利、その他」
こんにちはいつもありがとうございます。
さあ今週も週刊ストーリーテラーの時間です。
今回はまた話が逸れました。
いつもなので仕方ないですが・・・
辺りは水を打ったように静まり返っていた。
かたや軍事強国イダヴェルにこの人ありと知られた(僕は知らなかったけど)ウルリック・チェスター。
かたや聞いたこともないエルフ。
チェスターの勝利を信じて疑わなかったイダヴェル軍だったが、結果はこの通り僅か2合で瞬殺である。
「それでは約定しかと守られますよう」
約定、つまり一日間撤退の猶予をくれというものだ。
先陣の副将は戸惑ってるようだ。
約束守るかどうかなんて元から期待していない。
チェスターを討てれば、この初戦の先陣を任されるほどの突破力は減らせる。
さっさと逃げよう。
僕は馬首を返すと一目散に逃げ出した。
「う、撃てえ!」
その動きに刺激されたのか副将は急に号令する。
弓隊が慌てて矢をつがえ撃ち始めるが統制が取れていない。
収束度も照準もイマイチだ。
僕は流れ矢に注意しながら悠々と引き揚げることに成功した。
「急いで閉門~!」
僕は砦に飛び込むと大声をあげた。
さっそく歯車がガリガリと回転し、鉄製の門が閉まっていく。
ここに鉄の閂がかかって出来上がりだ。
システムはウイラード辺境伯の街、ダシュワーの門と同じだ。
これならしばらく時間稼ぎにはなる。
チェスターとの約束?馬鹿言っちゃいけねえ。約束破ったのは向こうだぜ?
いやまあもともと守るつもりなかったけどね。
騎士成分の希薄な僕にはあまり正々堂々とかないよ?
崩壊の呪文はマイナーなのでそうそうは習得していない。
ましてや人間風情にはなあ!
と、悪い笑いを浮かべているとサラがやってきた。
「お見事でしたわ、メルレン」
「ありがとうございます。ってなにやってるんですか!?さっさと撤退してください」
「っ!せっかくわたくしが労おうと待っておりましたのになんという言い草!」
「だからありがとうございますと申し上げたではありませんか。なんにせよ後です後!残りのみなさんもとっとと逃げますよ!」
いろいろ仕掛けをする時間も惜しい。
魔法兵団もいるしな。たとえ普通の火弾でも1000発まとめて撃たれたらさすがに鉄門も溶解するかもしれない。
最終組と一緒にわらわらとジェルケルハイム砦を抜け出す。
先行している皆に追いつくべくまだ不機嫌なサラと馬を飛ばすのだった。
合流地点では砦の守備隊も集まっており、そこで別れることになった。
「では王都の守備をよろしくお願いします」
「奇策に溺れて命を落とさぬよう」
「ははは」
守備隊長なりに心配してくれているのだと思いたい。
これで僕らはまた身軽な100騎プラスアルファに戻った。
~アリエン・ワーデルガー視点~
チェスター将軍が討たれて、それは大騒ぎになってしまった。
相手の騎士はサイカーティスというそうだ。
宮廷騎士団らしい。
宮廷騎士団がこんなとこにいるなんておかしいと思ったけど、こちらの動きがばれて大軍が待ち構えている様子はなかった。
サイレン将軍によれば定例の視察かなにかでたまたま居合わせたのだろうということだ。
「宮廷騎士団はみんなそれほど強いのですか?」
「さあね、王の守護騎士達だから腕前は相当だと思う。たしか定数は30。バルディスの上位30人が宮廷騎士団にいると思っても間違いではないだろう。中でも女性ながら騎士団長を務めるゼフィア・エンフィールド、副団長のバルテルミ・ピアーズ、あとはザックラー・ウェズレイは有名だね」
女性!?そんなに強い女の人がいるのかあ。
「サイカーティスという騎士はその人達より弱いのでしょう?」
「さあどうだろうね。わたしはバルディスにエルフの騎士がいることは初耳だったし、サイカーティス卿の名前も知らなかった。でもチェスター将軍が手も足も出ないほど強いということだけは確かだね」
武術ではサイレン将軍よりも全然強かったチェスター将軍が、そんなに簡単にやられてしまうととても不安になる。
「僕達は勝てるのでしょうか?」
「大丈夫だよ、アリエン。チェスター将軍のやり方はまずかったんだ。何のためにバシュトナーク陛下が騎士の誇りなどいらないと言ったか。それはこういう事態を避けるためでもあるんだよ」
「つまり一騎打ちで死なないようにですか?」
「すこし違うね、個人の武力に頼る戦いをしないようにだよ。強い敵がいたら大勢で倒してしまえばいい。卑怯に思われるかもしれないけど、大事な部下を死なせてしまうよりは余程いいとバシュトナーク陛下はお考えなんだ」
そうか。正々堂々でもたくさんで倒してしまっても結局人が死ぬことには変わりない。
だから手段にこだわらず、味方が死なない方法を考えて行動しろと陛下はおっしゃってるんだね。
結局第一陣の兵は下げられてウォーレンナック大将軍の直率に入った。
繰り上がって第二陣が先陣を受け持つことになった。
兄上がいる隊だ。
兄上と話す機会があったら一騎打ちなんかしちゃいけないと言っておかなければ。
兄上が亡くなったら、僕も父上も母上もきっとすごく悲しむ。
でもサイカーティス卿とはどんな騎士なのだろう。
なにやらエルフの騎士だそうだ。
エルフ!僕は一度も見たことがないよ。
寿命が人間より長いってことはたくさん修行しているんだろうね。
ウォーレンナック大将軍なら勝てるよね。
なんといっても、あのバシュトナーク陛下の次に強いのだもの。
ウォーレンナック大将軍も怒ってはいないようだし、きっと大丈夫だ。
砦はその日の夜には門を開けることができた。
無人の砦は壁と変わらないので、身軽な部隊がよじ登って門を開けた。
ただ重い門を開け閉めする機械が壊されていたので、その修理に時間がかかったようだ。
砦は面白い形だった。
言ってみれば厚い壁。高さと幅は結構あるのに厚みはあまりない。
入ったと思ったらもう出口という感じだ。これじゃ確かにあんまり人数は入れない。
僕達15万人なんてとっても無理だ。
遠くから見たら大きい砦に見えたのに、なんだかハリボテみたいでガッカリした。
サイレン将軍は機能的で立派だと褒めていたけれど、僕はちょっとどうかなあと思った。
「この後はどういう道のりで行くのですか?」
「ルートは最短で行くしかないだろうね。ただ、いろいろな敵の拠点都市は無視していくわけにはいかない。まずはウイラード領ダシュワーを目指す。通りすぎて我々の後方を衝かれる可能性があるからには、ひとつひとつ潰していくしかないんだ」
というわけでダシュワーという大きな町へ向かって、その後は大きな町づたいに途中の町や砦を攻撃しながら王都を目指すのが基本だそうだ。
「ただしもう我々の侵攻は知られるところとなったので、敵の対応を見ながら臨機応変に行動する必要があるね。補給、そして地理は敵に利がある。ここからは一層引き締めていかないといけない」
そうだ。もし補給の輜重部隊がやられてしまうと僕達は現地で大量の食料など調達しないといけなくなる。
それはいわゆる略奪になる。
仕方ないとはいえ、きっと嫌な思いを敵も僕らもすることになる。
憂鬱になってきた。
「大丈夫だよアリエン、大事なものはしっかり守る。基本をきちっと覚えていれば大抵のことには動じなくて済む。あまり目先に囚われてはいけない」
サイレン将軍は優しく、でも強い調子で言った。
僕はそう言われるとなんだか落ち着いてしまう一方で、なんだか不安が大きくなってしまった。
~マウリシオ・ジレコ伯爵視点~
「伯爵様、こちらの仕掛け完了しました」
「ご苦労ご苦労」
ここの落石の罠は会心の出来だな。
発動に人手が必要なのが難点だが、2つの狭隘路間にある盆地という絶好の罠に適した地形。
あとはあの男がうまく敵軍をここへ誘い込むことができれば完璧だ。
あいつならやるだろう。
罠の仕掛けはごくごく単純で、入口側の谷と出口側の谷の双方に落石の仕掛けを作っておく。
間にある盆地は森に囲まれているので、この時期枯れている木が多い森に火をかければたやすく燃え広がる。
敵を一網打尽、にはしない。
盆地の大きさからいって罠にかけられる敵の数は多くて5000だ。
隊列が疎であれば3000というところだろう。
ここで肝心なのは落石の仕掛けは出口側を念入りに、入口側はまばらにするのだ。
必然的に敵は唯一の退路である入口側の隘路に殺到し逆走する。
これによって隊列は大いに乱れ、混乱が生じる。
ここに乗じて痛撃を与えて離脱するというわけだ。
ふふん、まだまだわしも衰えておらんな。
我が国の貴族は総じて行儀がいいが、それでも昔はつまらんことで小競り合いがあった。
先代王がまだまだお元気だった頃に事業に失敗した男爵が不正を働き、懲罰として宮廷騎士団が動いたことがあった。
男爵は抵抗し、戦力として駆り出されていたわしも幾許かの戦果をあげることができた。
いくさなんぞあれっきりで、あとはせいぜいオーク討伐やトロール狩りくらいしか剣をふるうことも無くなったが、まだまだどうして動けるものだ。
しかしあのエルフの若僧は面白いな。
エルフだからわしより随分年上だろうが、昔あった山エルフよりもよほど人間の小僧くさい。
しかもどうも悪知恵が働くらしい。
少し話しただけでもまあ出るわ出るわ、策という名の悪巧みの数々。
あれは女たらしの顔もしているし、とんだペテン師かもしれん。
でもそんな悪巧みもイダヴェルのヤツらに仕掛けるともなれば痛快じゃあないか。
『クラシックな策ですが三十六の計略がありますよ』
知っていて当然という顔で言ったエルフの顔を思い出すと可笑しくなってくる。
楽しい。
間もなく命のやり取りになろうというのに、まったく楽しいじゃないか。
自分がつくづく軍人だというのを自覚するよ。
結局戦場以外は余禄みたいなものだ。なんとも業の深いことよ。
そういえばあの叛乱騒ぎを起こした男爵は責を受け領地と財産を没収され蟄居させられたが、その後自害したと聞いた。
まだ幼子もいたというのに惨いことだ。
商人に擦り寄って小銭稼ぎに腐心すればどうにかなったかもしれないが、名誉を優先させたというわけか。
くだらぬ、と切り捨てることはできんな。
価値観はひとそれぞれだ。
恥辱に塗れて生をつなぐことを是としなければ死を選ぶより外にない。
誇りを失わず死した、とでも言えば聞こえがいいのだろうが結局家名は地に墜ち、家族が離散したことは現実だ。
ポロニアム男爵と言ったか。
「伯爵様!次のご指示を!」
「応!」
昔のことは置いておき、今は目の前のいくさを楽しもうか。
~ランベール・ルーセッタ視点~
時間はあったはずなのだが、ついつい避けてしまった。
それはまたむこうも同じだったのではないか。
何度か視線が絡んだのだが、言葉を交わすことなく今日になってしまった。
では何故今日決心したのかといえば、それはメルレン様の戦いを見たからだ。
あのお方は自信があるのかないのかよくわからない態度でいながら平気で死地に赴く。
今日などは1対30000だ。
本人も言っていたが全く正気ではない。
見ているこちらの身が竦んだ。
そこにははっきりと「死」があった。
敵将を一刀で切り伏せ、飄々と帰ってきたメルレン様は顔色ひとつ変えていなかった。
わたしはそれが妙に腹立たしくなり睨み付けてしまった。
彼はそれに気づいたのか、こちらに向くと
「あはは、死ぬかと思いました」
と、いつもの調子だった。
正直カチンときた。
この人は命をなんだと思っているのか。
自分の命はそれだけの価値ではない。
その安否と行き先を案ずる全ての人々の祈りが乗ったものだとわかっているのか!
「メルレン様!」
言いかけて気がついた。メルレン様は細かく震えていたのだ。
「ははは、今頃になってようやく現実感が出てきましたよ。人一人切り殺して、数万の軍から逃げてきたんですね」
ずるい、何も言えないではないか。
そう戦場なのだ。わたしとていつ死ぬかわからない。
だから躊躇する間には行動したほうがいい。
わたしはある幕舎を訪ねた。
「夜分すいません」
声をかけると中から応じる声があった。
「どうぞ入られよ」
ヌクレヴァータ王都騎士団千人隊長バクスター・ポロニアムだ。
「ランヴェール・・・」
「まずはご挨拶が遅れましたことをお詫びいたします・・・兄上」
バクスターはわたしの異母兄だ。
ポロニアム男爵家は不幸だった。
身内でもあるし、そう言うしかないだろう。
バクスターとわたしの間にはもうひとり兄がいたそうだ。。
バクスターは先妻の子で、次兄とわたしは後妻の子だった。
弟は頭の非常にキレる官吏タイプだったそうだ。
わたしは兄たちと年が離れていたため記憶にないのだ。
父は病に罹った。
珍しい病で症状は非常にゆっくりと進行していくが、なかなか治らない。
徐々に弱っていく父のもとに後継者争いが発生した。
当然継承権はバクスターにあるが、義母はどうしても我が子を後継に据えたい。
父は病床にて悩み、次兄になるべく多くの遺産を渡してやることで義母を宥めようとした。
そして事業を興し失敗した。
父は焦り、性質の悪い商人と通じてしまった。
禁制品、つまり麻薬の栽培と販売に手を染めたのだ。
そんな父を義母は見限った。
不正で蓄えた財を持ち出すと、次兄を連れて行方をくらました。
まだ赤子だったわたしは置き去りにされた。足手まといだったのかもしれない。
噂では父に麻薬取引を持ちかけた商人と駆け落ちしたともいう。
そして、王都へ禁制品の取り扱いを密告したのだ。
絶望した父は半ば自棄となった。
不正を認めてもどうせ家は取り潰される。
ならば戦いの中で倒れたいと、王家に反旗を翻したのだ。
バクスターも子供ながら戦場に出て父と命運を供にしようと考えた。
しかし父に止められ、麻袋に押し込められ夜陰に紛れて逃がされた。
バクスターはこの時、わたしをしっかりと抱きかかえてくれたそうだ。
しかしすぐ追っ手に捕らえられ、王都に送られた。
その時はすでに父は男爵位を剥奪され、与えられた一室で自害したという。
通常反逆罪といえば即時処刑なのだが、先王はよくよく事情を調べたようでそれをしなかった。
自害をする機会を与えてくれたということだった。
わたしたち兄妹にも王は寛大だった。
「朕に恨みを感じていないのであれば」
と前置きしたうえで、騎士見習いとしてバクスターを取り立てると言った。
わたしは侍女の教育を施し、いずれかの貴族家へ奉公してはどうかと言った。
わたしたちは父を愛していたが、父が間違ったことは充分わかっていた。
捕まれば処刑されると思っていたし、父も首を落とされたのではなく自害だったと聞いて、王の温情に感謝した。
それからすぐに、東部の有力貴族ヴィクセン伯爵にサラ様がおうまれになり、わたしは事情を知って胸を痛めていたヴィクセン伯爵のご厚意でサラ様のお側付きとなるべく乳姉妹として引き取られていった。
わたしが将来どこへ出ても出自で損をしないように、ルーセッタの姓まで与えてくださった。
ヴィクセン伯爵はなにも隠さずわたしにすべてをお話になり、そのうえでわたしに将来を選ばせてくださった。
しかしわたしは大恩ある伯爵様、わたしをとても大事にしてくださるサラ様に報いるべくヴィクセン家への忠誠を誓った。
ヴィクセン伯爵は義兄バクスターの存在も教えてくれ、機会を見つけて会うように奨めてくださった。
しかし温情を賜ったとはいえ、反逆貴族の子。
わたしたちはそれを負い目にし、それまで一度も連絡すら取り合っていなかった。
「久しいなランベール、と言ってもお前は覚えておらぬか」
「幼かったもので記憶はありませんが、深く深く感謝しております」
わたしは深々と頭を下げた。
「不自由はして・・・おらぬようだな」
「兄上も壮健そうで何よりです」
そして二人とも押し黙る。
「ランベールよ、われわれは不幸と幸運を人の何倍も経験して生きている。一時は生まれを嘆き腐ることもあり、また誹謗にさらされることまあった」
「わたしなどひたすらに幸福であったため申し訳なく思います」
「いや、お前とて己の出自を知った時はその身の不運を嘆いたであろう。そのことを理解したからこそ今の幸福を感じ取ることが叶うのだ」
「それは重々承知しております」
「うむ。それさえ心得ておけばよいのだ。我らは最早貴族家としては再興など適わぬが、人としての生を幸福まで否定されたわけではない。こうして非常に心躍る人物に会い、またお前とも再会できた。お前は今日戦場を目にして、心残りを失くすために我のもとへ来たのであろう?」
さすがに兄上、正確に見抜かれていた。
「はい」
「もっと我らが隊長殿を信じるがよい。彼は死する覚悟など求めておらぬゆえ」
カラカラと兄上は笑う。
「そうですね」
「ああ、そうである」
わたしは単に緊張していたのだろうか。
今となっては唯一の肉親である兄と話すことでそれを和らげたかったのか。
「我はもう開き直った。反逆者ポロニアムの名は消せぬ。ただ剣のみで汚名を雪ぐ。お前とも仲良うするぞ」
「別に嫌っていたわけではありません。初対面に近いのでどう切り出したものかわからなかっただけで」
「ははは!今宵は良き夜なり!こうなれば皆を呼び集めささやかながら戦勝会と我ら兄妹の再会を祝そうではないか!」
でも兄上はメルレン様にあっという間に酔い潰された。
今は幸せ。
それでいいのだ。
読んでくれていつもありがとうございます。
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次回はせっかく話がそれたのでまたもや逸らします。




