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異界のストーリーテラー  作者: バルバダイン
第一部 「イダヴェル戦乱編」
3/65

第一話 「旅立ち」

作者が作った世界にくる話なので、急に説明始めたりします。

その辺はどうかご容赦を。

 目が覚めた。


 見慣れない部屋。


 いや、そんなレベルじゃない。


 まじでここどこ?


(自分の家)


「は!?」


 頭の中に不自然に浮かんでくる言葉。


 どうみても自分の家じゃないよ!


(古の森、北東部、所有者メルレン・サイカーティス、一人暮らし、両親は既に他界、兄弟なし)


 メルレンて・・・さっき僕が作ったキャラクターじゃないか。


 顔を手で触れてみる。


 うん、鼻が高い。


「なんだこりゃああああ!」


 いやまて落ち着け僕。


 これはきっとあれだ。密かに開発されていた完全没入型仮想現実体感ゲームだったのだ。


 ・・・そんなわけないな。


 てことはこれはゲームの中なのか?


 僕はそういった類のお話に出てくるように、このゲーム(?)でのメニュー画面とかを呼びだそうとした。


「メニュー」


 声に出してみる。何も起こらない。


「インベントリー」


 便利な道具箱も出てこない。


「それじゃあきっと普通に夢なんだな」


 お約束ではあるが頬をつねってみる。


「イテテテテ」


 醒めないね。


 なんかそんな気はしてたけど。





 やや時間をおいて状況を確認してみるとわかったことがある。


 ここは確かに自分の家らしく、寝る場所、書棚、煮炊きの設備、着替え、水甕などがある。


 細身の剣も一振りあり手入れも行き届いている。


 どういうわけかわからないけど僕はメルレン・サイカーティスの身体に入り込んでしまっている。


 人格は僕のままだ。


 ただしメルレンとしての記憶が情報として引き出せるような感じだ。

 略歴はこんなかんじ。


 約五五〇年前に古の森で生まれる。


 魔法に関して才を見せ、短期間で習得する。


 剣術にも興味を持ち、月の森の魔法剣士レイスリー・プロガーンに師事して、魔法剣士の技術であるところの「高速魔術」を習得する。


 二年前に故郷の古の森に戻る。両親の他界を知る。


 エルフの集落から離れたところに小屋を建てて住みはじめる。


 現在に至る。


 剣術や魔術に関して考えるとちゃんとやり方はわかっているようだった。


 そのうち自分が使っても違和感ないか試してみよう。


 いやそうじゃなくて、早く帰らないと。


 しかしながらその方法もないまま一日が暮れようとしていた。


 書棚には魔術の本、自分でまとめた剣術や魔法剣士の技術の記述などがびっしりと並んでいた。


 それらも明らかに日本語ではないがちゃんと読める。


 ざっと見てみるが元の世界へ帰れる魔術などは見つからない。


 メルレンの記憶にもない。


 お腹が減ったので台所で食べ物を漁ると主に木の実が見つかった。


 エルフは菜食主義者なのか?


 肉食いたい。


 これは僕の人格反映してそうだ。


 リンゴをかじりながら更に家捜ししていて肩下げ式の旅行カバンを発見した。


 獣の革をなめしたもののようで脂が雨をはじくのだろう。


 中を開ける。


「あ?」


 非常に場違いなものが出てきた。


「これは僕の部屋にあった……」


 ルーズリーフ(結構な量)、ルーズリーフバインダー、シャープペン、替え芯、消しゴムだった。


 バインダーには一冊分が閉じられていた。


 開いてみる。


 そこには日本語で、しかも明朝体でこう書かれていた。


『タイトル未定 主人公 メルレン・サイカーティス 作:来栖瞬』




 誰がこれを書いたのか。


 まったく思い当たらない。


 僕じゃない。


 まさか出版社?


 メルレンの名前は?


 数時間前に考えたものだぞ?


 この状況はなんだろう。


 サイバーエンターテインメントがこの状況を作ったのか?


 それもわからない。


 これはコンピューターゲームじゃない。


 ヘンなヘッドギア被ったりしてないし。


 まあいい。全部置いておこう。 


 僕の部屋へ帰る手立てを探さなくちゃいけない。


 そのためには何をすべきか考えるんだ。




 まず情報が足りない。


 置いてある本の類は専門書ばかりだ。


 ただ中に一冊だけ地図を見つけた。


 開いてみると、ここは本当に西の十王国の世界のようだ。


 見覚えのある地名、地形。


 街道については詳細に書かれていることから、この世界では一般的に流通している地図なのか。


 最寄の大都市はやはりバルディス王国の王都「麗しの都ヌクレヴァータ」だ。


 交通、物流の中心でもあるヌクレヴァータに行けば何かしらの手がかりがあるかもしれない。


 今はどのくらいの年代なのだろう。


 ゲーム開始時はイダヴェルによる大侵攻前で、眠り湖三国の同盟は締結後と各エピソード開始時期とほぼ近い。


 しかしそれだとメルレンは登場しないままメインストーリーは終了しているので、メルレンはメインストーリーには絡まないか、絡むほどの実力が無い、もしくは目立たないか、現在がメインストーリーが終了した年代なのか、だ。


 本編ではメインストーリーの「戦後」についてはほとんど触れていない。




 今はその時代なのか?


 メルレンの師匠がレイスリー・プロガーンであることからメインストーリーの時代とはそう離れていないことがわかる。


 といってもグレイエルフの寿命は長いのでまったく絞れない。


 誰かにあって「今何年ですか?」という間抜けな問いをしなくてはならない。


 エルフの里にいけばいいのだが、メルレンはコミュ障じゃないかと思うくらいに人間エルフだけど関係が希薄だ。


 知ってるエルフが父(他界)、母(他界)、族長(当時、多分他界)だけだ。


 レイスリーの元での修行が終わって里へ戻らなかった理由も「なんとなく」だったようだし、なんか性格に問題あるんじゃないのか?


 というわけで早速旅に出る支度を始める。


 冒険者おなじみのバックパック、謎の筆記用具が入った肩下げカバン。


 剣とそしてナイフ代わりに使える短剣も忘れない。


 バックパックの中には野営に使うシート、火打ち石、着替え、各種薬草、食器、保存食料、地図、魔術書少々、そして先立つもの統一貨幣。


 貨幣単位は各国共通で1金貨=100銀貨=10000銅貨で、1金貨10万円くらい、1銅貨なら10円程度の価値と思えばいい、手抜きとかいうな。


 日常通貨は銀貨、銅貨になるわけだ。


 手持ちであるのは金貨5枚、銀貨30枚、銅貨20枚だった。地味に重い。


 その重さすら今の周りの状況が現実だと伝えてくる。




 翌日。


 この世界でも恒星は太陽と呼んでいた。


 別にパラレルワールドの地球とか意識したわけではなく深く考えていなかっただけだが。


 ちゃんと東から上って西に沈む。これでいいのだ。


 太陽の向きで方角がわかるのはありがたい。そうでなければ地図が役に立たない。


 この森の南にはヌクレヴァータへ続く街道がはしっている。


 とりあえずは南を目指そう。




 

 気温と木の様子からいうと元の世界とおなじく初夏のようだ。


 何年の初夏か、が問題なのだが。


 メインストーリーの起点である西方暦(略して西暦)七八一年以前なのか以後なのか。 


 ちょうど話に出たので少しこの世界の設定の話をしよう。





 この物語はテーブルトークRPGの舞台としてデザインしたため大分ザックリしている。


 お話に登場する部分だけ掘り下げた。


 世界は大きな1つの大陸で形づくられている。


 西の十王国はその名の通り大陸西岸の十の国によって紡がれる話だ。


 大陸の中央部には「忘却の荒野」と呼ばれる不毛地帯があり、ここには古代に魔法帝国があった。


 魔法帝国は魔法により隆盛を極め、人間、エルフ、ドワーフの区別なく暮らしていたという。


 しかしあるとき大規模な魔法災害事故があったらしく一瞬にして魔法帝国は灰燼と帰し、それを伝える書物もなく、国の名前すらわかっていない。


 現代に伝わる魔術は魔法帝国の遺産の一部であるが、当時たまたま国を離れていた者の口伝によって残ったもので、過去の強大な魔術の片鱗でしかない。


 しかも忘却の荒野は当時の魔力の影響を残しているせいなのか、強力なモンスターが跋扈し人間達の侵入を拒んでいる。



 

 その後エルフやドワーフの一部は大陸の西側へ移ったが、大半は距離の近かった大陸東岸へ居を構え、少しの魔術と大いなる努力によって再び巨大な帝国を打ち立てた。


 これはいくつかの王朝を経て現在は平和的な王によって治められている。

 西の十王国物語の中で最も年代の早い第二巻「遥か東」の中でその辺が語られる。


 北の方にあるロガランド王国の王子ドミトリィが、父王を探す話だ。

 父王ハーシウスは忘却の荒野を踏破し、東の国と国交を樹立すると言って長く国を留守にするのだが、安否を絶望視されていた。


 やがてハーシウスの死を公的に認めドミトリィを王位に就ける戴冠式の日が近づく。 


 しかしドミトリィは父の死を受け入れられず、楡の森のエルフの戦士長アンデーヴァ、王家付の鍛冶師のドワーフであるガランド、王都盗賊ギルドの腕利きシュニッツらを巻き込んで東の国を目指す、という話。


 結局父王ハーシウスは長いこと当時の東の王国「レーデルニア」に厚く歓待され、長く滞在するうちに王族の権力争いに巻き込まれる。


 しかし、持ち前の武力、胆力で逆に自分が王位に就いてしまう。


 故国ロガランドとは段違いの国力に、次第にハーシウスは暴走し、全土に酷い圧政を敷く。


 旅の果てに変わり果てた父に再会したドミトリィは怒り、悲しみこれを討つ。


 旧王族の遺児を王位に就け、ドミトリィは失意のまま帰国、戴冠して王位を継ぐと。


 うん救いがないね。


 各話についてはまた今度。




 レイスリーと僕メルレンは魔法剣士だ。


 魔術も使えて剣も振れちゃうとは最強、な気もするがそんなことはない。


 魔術には詠唱がある。


 魔術使うなら剣士とかを前衛においてかばってもらわないと詠唱中にやられてしまう。


 魔法剣士はどっちかというと剣での駆け引きの中に小規模な魔法を一瞬で放つことにより攻防の天秤を大きく自分側に傾けるというどっちかというとイメージよりセコい戦い方をする。


 お、実験台発見。


 エルフのテリトリーを出たらしく、雑魚キャラの代表ゴブリンが三体、ゴブリンメイジが1体狩りをしているのに出会った。


 ゴブリンはいい具合に知能が低く、自分との実力差があまりにも圧倒的だとわからない限りは無条件で他者に襲い掛かる。


「ギイ!」


 というわけでこちらを発見するなり声をあげて襲い掛かってきた。


 内心ドキドキだが、メルレンの身体的には楽勝らしい。


 スラリと剣を抜き放ちゴブリンへと向き直る。


 前衛は棍棒を持ったのが二体、弓矢が一体、メイジはなにやら詠唱を始めている。


(三十秒で片付けないと魔術くるな)


 まずは前の棍棒二体。


 棍棒を思い切り振り下ろそうとしている左のゴブリンへ向けて踏み込む。


(おわ!速い)


 メルレンはなかなか手練れらしい。


 予想を上回る踏み込みができた。


 棍棒を振り下ろすのがスローモーションに見える。


 棍棒を握った両手に向かって剣を振るう。


「ギャ!」


 両腕を断ち切ってそのまま首を跳ね飛ばす。


 振り向くともう一体の棍棒が今振り下ろされようとしていた。


 向き直って剣を振るのも回避も間に合わない。


 しかし魔法剣士であるからこそ、こんな位置取りをした。


着火!(フリック)


 瞬時に魔力を収斂、開放。


「ギャアア!」


 ゴブリンの鼻先に握りこぶしより小さい火の玉がはじける。


 慌てて体勢を崩したゴブリンをやすやすと切り裂く。


(あと二体)


 飛来する矢を切り落として、弓矢ゴブリンのもとへ走る。


空刃(スライス)


 途中魔術を飛ばして弓の弦を切る。


 役に立たなくなった弓を投げ捨てて逃げようとするゴブリンを背中からバッサリ。


 ゴブリンメイジのもとへ向かおうとするが、残り時間が少ないことに気づく。


 しゃがれ声の詠唱はちゃんと魔術語で唱えられており、「雷撃(ボルト)」の魔術がまもなく現象化される。


 よし、ここは試運転もかねて本来魔法兵団とか対多数戦用のヤツいってみよう。


 すうっと息を吸い込む。


 これはレイスリー・プロガーンのオリジナル魔術(スペル)


 詠唱と発動を同時に行うのに苦労したらしい。


竜咆!(ドラゴンズ・ロア)


 魔術発動のキーワードは大音声となり周囲を揺るがす。


 魔道士が魔術を詠唱する場合、集中と詠唱する呪文の微妙な韻律の調整が必須になる。


 この竜咆(ドラゴンズ・ロア)は大音響でその集中を阻害するとともに、一時的に効果範囲の対象の聴力を奪う。


 要は耳がキーンとなるわけだ。


 聴力を奪われた状態では詠唱は不可能だ。


 正しく発動しない。


 と、そんなわけでゴブリンメイジも物凄く驚いた顔で硬直している。


 片付けた。




 いかにも悪役とはいえ生き物を殺したわけだが、それほど動揺はない。


 まあ見てくれ悪いし、正当防衛だし、そういった要因はあるのだが、主たる原因はメルレン・サイカーティスの記憶では当たり前のことだった。


 そういうものだと認識している、というふしがある。




 どうやらゲームじゃない。


 どちらかというと物語の中に迷い込んでしまったという方が正しい気がする。


 ということは死ぬときっとまずい。


 生存、帰還を二大目標に設定しておかないと。


 肩にかかったカバンを見る。


「この文房具が最大の謎であり、現実世界との唯一のつながりだよなあ」


 とりあえず「今何年?」の質問をするために人に会う。


 他の情報を得るためにヌクレヴァータを目指す。


 こうやって歩いていくとどれくらいかかるのかな。


(十四日間)


 ありがとうメルレン。

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