第二十一話 「出陣」
輜重隊の準備も整い、いざ出発の段となった。
ちなみに名匠グルミエが突貫工事で造り、王都付与魔術協会が涙目で付与したダナードの新しいグレイブは、不壊、火属性ダメージ追加という内容になった。結構高かった。
銘はいらないそうだ。
やっぱダナードシブいな。
銘無しということで「無銘の逸品」を推奨したが却下されたことを付け加えておく。
出発前には一応隊全員が謁見の間に集められ、王から激励の言葉をかけてもらったりした。
やんちゃばかりなので感激してるのはアル君くらいだったかもしれない。
僕といえば、ちょっと嫌そうだったが、大臣を数人引っ張りまわして避難の段取りや、帝国軍をヌクレヴァータで引き止めるための餌について打ち合わせた。
要はお宝大盤振る舞いである。
戦勝した軍はそれなりの見返りがないと暴れる。
具体的には食べ物、金、女である。
しかし国民をむざむざ差し出すわけにはいかないので、食べ物と金だけは敵が不満を募らせて不必要な破壊行動に出ないように、またバラまきすぎて不審に思われないようにうまく調整してやる必要がある。
あくまでもギリギリで逃げ出したので持ち出し損ねた様子を演出する。
魅力的な獲物を必要最低限。
このさじ加減にはやはり内政担当と充分話し合う必要があった。
そりゃ国庫を開放して敵にくれてやるのは惜しい。
懇々と説明し、不承不承であるが内容を受け入れてもらった。
帝国はここまででお帰りいただく。
避難先の北部地方、そしてマガニア領まで通すわけにはいかない。
そのための名分、つまり「王都制圧」という見かけ上の大戦果だ。
そこまでにゲリラである我々が充分撹乱、疲弊させ士気を下げる。
そしてようやく王都制圧までこぎつけた帝国軍に撤退を決意させるだけの仕上げをする。
まあ噛み砕いていえば、勝つ、ということだ。
部隊損耗率、補給の面で限界を超えさせる。
しかも厄介なことに自身の書いた呪縛『大きな被害』をできるだけ被害の少ない方法で実践しなければならない。
これはまあ仕掛けがあるからどうにかなるだろう。
戦は水物。
蓋を開けてみるまでは、まったくわからないともいえるのだが。
家を貰ったはいいが居つかない主ではあるが、留守中のことはカーマインさんによく頼んでおいた。
「次に帰ってくる時は、もうこの家はないかもしれません」
言っておく。
カーマインさんは頷いた。
「大戦も体験してはおります。メルレン様の策の根幹は優しさにあるのではないかと、このおいぼれめは愚考していますのでどうかご心配なきよう。国をつくるのは領土、統治、民でありますが、最も重要なのは民であるとメルレン様はおっしゃりたいのですね」
「そのとおりです。失われたものは作り出すことができますが、人は死んで元通りにはなりません。人がいなければ物を作り出すための技術も知恵も受け継がれていかないでしょう。ゆえにわたしはこの戦で最も守らなければならないのは人であると考えています。他は二の次です」
「お屋敷がなくとも、我ら一同常にメルレン様にお仕えしております。戦場で付き従うことは叶いませんが、お帰りになられる場所をお守りしておりますので、どうかご存分に働かれますように」
「ありがとう」
使用人たちが深々と頭を下げるのに見送られて、いざ出発である。
隊列はロズハーの隊が唯一戦力なので、その隊列に準じている。
先頭はクーリア・ダンスタンとバクスター・ポロニアムが務め、数名の物見がさらに先行する。
テスカ・ロズハーは二列目に陣取る。これは隊を率いる時は常に先頭に立つことから、本人は最先頭を主張したのだが、遊撃、邀撃をテスカが行ってしまうと隊の統率が不安なので実質の指揮をテスカが担当し、腕の立つ二人がそれに先んじる形となった。
隊列後列には輜重隊がいる。殿では背後を衝かれた場合に対処しにくいので中段やや後方くらいの位置になる。
殿はダナードとサラ、ランベールが務めている。
ダナードが構えて、二人は自由に動けるような形だ。百人隊長並みのポジションだから大抜擢だな。
僕はというと輜重隊の前で隊列中段中列だ。
まもられてるなー。
いやいや、一応全方位からの情報が最も均等に伝わりやすい位置になっている。
で、直率というわけでもないが、伝令でアル君、お客さん的なポジションでリュタンだ。
馬には当然乗れるのだが、お客さん的ポジションを強調するためなのかなんなのか、輜重隊先頭馬車の後部席で足をブラブラさせている。
見事なまでのやる気のなさだ。
結構口では頑張りますとか言うんだが、敵や怪物が現れれば泣き叫び、逃げ惑うのだからやる気あろうがなかろうが全く関係ないが。
一方のアル君は武者震いでもしそうな勢いで気合の入った顔だ。
「今から緊張していると疲れますよ?」
「しかし、初の実戦かと思うと」
「実戦というのが、国対国の戦争のみを指しているのならそうでしょうが、ここにいる人間の多くは初の実戦ですよ。対人戦または一般的戦闘ならアル君は既にデビューしてるじゃないですか」
「あー、そういえばそうですね。盗賊と戦いました」
アル君はやや緊張を解いた。
「我々の目的はおもに敵をイライラさせたり、不安にさせて精神的に疲弊させることです。イダヴェル軍はよく訓練された精鋭ですが、人間ですし敵地に攻め入ればいやおうなく緊張にさらされ続けます。そこを辛抱強く、いやらしくつっつきながら無事に生きて帰ることが任務です」
「・・・わかりました」
僕らはまあまあの人数の街の人に見送られながら目抜き通りを進んでいく。
「メルレン様~!」
アネカがブンブン手を振っている。
「アネカ、カーマインさん達と一緒にいろいろ頼みましたよ」
「任せてください!」
ガッツポーズを決めるアネカ。
門のところでは宮廷騎士団が総出で隊列を作っていた。
「捧げえ剣ッ!」
バルテルミの号令一下騎士団は最敬礼をとる。同輩と格下に対してする礼じゃないな。
事実上これがイダヴェルを迎撃するためにバルディスが出撃させる唯一兵力であるからの礼だろう。
そう唯一兵力なのだ。
この辺はいろいろとパニック起こすヤツもいそうなのであいまいにしてある。
残存兵力は可能な限り仕上げの一発の為に温存しておく。
戦力の逐次投入は愚策である、とわかっていても、まさか王都で全力戦闘とは我ながら出鱈目だなあ。
「メルレン、無事を祈っています」
「かならず全員無事で帰ってくることを約束します」
バルテルミとがっちり握手。
「おう、今俺は陛下に直談判して独立遊撃班の編成を願い出てるんだ」
ウェズレイだ。
「ちなみに独立遊撃班のメンバーは?」
「俺!以上だ」
やっぱな・・・
「陛下がお許しになるといいですね」
「そしたら会おうぜ」
いや、無理だろ。
派手ではなかったが、そこそこの見送りだった。
王都の門を抜け、いざ進軍開始である。
この世界について見通せる僕だが、そうそう都合がいいものでもない。
僕が知っているのは書いた範囲だけ。
大賢者(のようなもの)のところで身にならない問答をしたが、やはり謎だ。
僕がこの世界を作った、とするといろいろ辻褄が合わない。
補完されている部分が多すぎる。
サラ達やこのメルレン隊は誰一人僕が創造したものではない。
それがきちんとそれぞれの個性を持って、それぞれの歴史を持って生きている。
道端の石も草木も空を飛ぶ鳥も、僕が創造したものではない。
それらはデータなのかもしれないが、現実として感知できる。
そもそもデータの世界に紛れ込んでしまったのか、ホンモノの異世界に飛ばされたのかすらわからない。
もし神的なものがこの異世界を作って、これまでスポットライトっぽく僕に様々な主人公のドラマを見せてきた、としても納得いかない部分もある。
代表的なところではキャラクターの名前だ。
ゲルマン・ケルトの妖精譚をひっくり返したり、翻訳ソフトでいろんな語句を変換しては並べ替えてみたり。
3秒で決まる名前もあれば、2週間悩んだものもある。
それも神的なものがそう仕組んだと言われればそれまでだが、どことなく不自然な気がする。
僕に見せているのか、たまたま僕が覗き込んでいるだけなのかもわからない。
くそじじい(大賢者)は結果が同じならどっちでも同じとか関係ないみたいなことを言っていたが、違うと思う。
僕が造り出したものに神的補完が入った、神的なものが僕に見せている、場合は神的意志の介在がある。
覗き込んでいるだけの場合は意志は介在しない。偶然の産物、いや+超自然というかファンタジー要素だ。
問題は当然意志が入ってる場合で、それは神的目的というか企みというか動機みたいなものがあるはずだ。
どうせそんな人間以上のものは100%ロクでもない。
あのくそじじい(大賢者)以上に神嫌いな僕としては、どうも引っかかる。
そんなものが絡んでると決まったワケでもないのだが。
何故神嫌いか。
理由はくだらない。
高校時代の僕は人並みにひねくれていて、人並みに世の中に嫌気がさしていた。
そんなおり友達以上親友未満の友人から妙な相談を持ちかけられた。
内容は当時付き合っていた彼女のことだった。
何故恋愛経験値の低い僕のところに相談を持ってきたのかといえば、僕が当時(当時から?)理屈っぽく、小難しい話をさも偉そうにこねくり回すのが好きという、どうにも鼻持ちならない性格だったからだ。
「来栖!お前の頭のいいとこで頼む!」
えーやだなあ。痴情のもつれとか僕わかんないっすよ。
そいつの彼女は才女で学級委員なんかもやっちゃうマジメっこだった。
どちらかというと自堕落気味なそいつが付き合えたのは、皆さんお気づきかとは思うが・・・ルックスだろう・・・死ね!
よくある恋愛相談と大きく内容が違ったのだが、通常恋愛相談といえば彼女の心変わりだとか、浮気だとかそんなものだろう。
その話も大きくいえば心変わりだった。
正確にいうと心変わりではない。そいつは最初から二番手扱いだったのだ。
何の二番手なのか。
そう、神様だった。
彼女は実は敬虔なナントカ信者だったのだ。
しかも日本で言う敬虔な信者というものは8割がたいっちゃってる人か、いっちゃってる人の家に生まれた不幸な子のどちらかで、彼女は後者だった。
お母様がいっちゃてて、彼女は幼少の頃から本人には一切の選択の余地もなく洗脳(ふはは!謝らないぞう!)されていた。
普段その子と話していても何ら不審な点はなかったのだが、いざスイッチが入ると彼女は難攻不落の要塞と化した。
以下抜粋。
「キミはあいつより神様が大事なの?」
「聞くまでもないことです」
「あいつが結婚してくれって言ったらどうする?」
「信仰を保証してくれるなら承諾できます」
うん、信仰の自由は基本的人権として保証されてるから大事だね。
・・・無理だろこんなもん。
ちょっとイラついたのでその宗教の聖典をとりあえず読んでみた。
全世界で読まれているかもしれないその本は、僕にはツッコミどころしかなかった。
そして再戦。
「この%#*(諸事情により伏字、偉い人)は&?!(諸事情により伏字、四足歩行哺乳類)と+¥@(諸事情により伏字、四足歩行哺乳類)を分けるとか言ってるんだけど、これって善人と悪人みたいなことだよね。神は全てを赦すとか言っておきながら最終的に帰依しない奴は悪人とみなして最○の審○で皆殺しにするって脅してるんだよね。これが神様のすることなの?きみは正しいと思ってるの?」
「神の行いはすべて正しく、正しいことを決めるのは唯一神のみです」
・・・ダメダコリャ。
今は亡き有名コメディアンの決め台詞が頭に流れた。
価値観は人それぞれとは言うけれど、あんな空の彼方にいるキ○ガイを判断基準の中心に据えたヤツと会話が成り立つわけがない。
マルクスよ、あんたの言ったことを高校生にして悟るとは思わなかったよ。
曰く「宗教はアヘンである」
それは痛み止めや医薬品を指したものだとも言われているが、あえて言おう。
宗教は麻薬です。だってこんな廃人量産してんだぜ?
共産主義じゃなくたって迷惑だろが。
ふっふ、かくいう僕は思想と表現の自由に守られているのだぜ。
おや、誰かきたようだ・・・。
以来思った。
神不要。
あんなもん人間をダメにするだけのシロモノだ。
てめえの面倒ぐらいてめえでみるから関わるんじゃねえ。むしろ関わったらブン殴って泣かす。
ほかの人は知らんよ?
僕にはいらん。
そいつが「どうだった?」と聞いてきたので「ダメダコリャ」と言ってあげたのは言うまでもない。
んでなんだっけ?
あ、そうそう僕は神じゃないという話だった。
だから世界の端々まで細かいところまで作りこむことはできないし、全ての出来事を知りうることもできない。
仮初めのエルフの肉体に宿った普通の人間だ。
アドバンテージはあらすじを知っていることと、この世界には無いかもしれない技術や知識や戦略なんかをちょっぴりかじるくらいには知っていることだ。
計画は練った。
しかしどちらかというと気楽に出発した今回の遠征。
攻めるわけでないので遠征ではなく、長駆しての防衛戦ということになるのだが、これはれっきとした戦争だ。
何が起こるかはわからない。
僕はあっけなく死んでしまうかもしれない。
自分の死に対しての現実感がないせいなのか、くそじじいの言ったことがいまいち信用できないせいなのか不思議と恐怖は小さい。
これもいざとなればわからない。
剣を手に追い回されれば、恥も外聞もなく泣き叫びながら逃げ惑うかもしれない。
いずれわかるだろう。
ルートだが、基本的にはまっすぐ国境を目指す。
が、街にはできるだけ寄って避難の呼びかけや、避難民の持ちきれない物資の買い上げなどを行う。
規模の小さい村などは、できるだけ小隊を派遣して同様にする。
王の直轄領が続き、サレイマン伯爵領の一部を通って、ジレコ伯爵領を縦断、最終的にウイラード辺境伯領に至る。
サレイマン伯爵領は既に撤収の準備が進んでおり、補給物資の受け取りの段取りを残してある程度だ。
問題はウイラード辺境伯とジレコ伯だ。
領内の被害が大きくなると予想されるため、今回一番の貧乏籤をといえる。
表向きは避難に同意しているものの、実際の作業は遅れていて、またイダヴェル侵攻に対してどのような行動を取るかが不明だ。
できればウイラード辺境伯の保有兵力は大きいので無傷で王都へ送りたいところだ。
ジレコ伯爵はもともとウイラード辺境伯の寄り子という地位で、男爵位から伯爵へと陞爵した経緯がある。
南方は魔物の棲息が多く、ジレコ伯爵は勇猛をもって知られ、陣頭に立ち領民の安全に貢献すること大であったそうだ。
国境付近の衝突レベルであれば、両貴族の騎士団でも充分であったと思われるが、今回は充分に準備された大軍だ。
お二方が聞き分けよければいいんだが、御前会議の調子だと期待薄だろうなあ。
で、もともとウェズレイが駐留していた南部の国境守備隊の拠点、ジェルハルケイム砦に入って根城にしたいところだが、ゲリラ戦になると想定されるので決まった基地を持たない方がいいだろう。
ありえない兵力差だ。まともに当たれば一瞬ですり潰される。
うまくやれるかな。
などと先行き不安なことを考えていたら、いつの間にやらサラが馬を並べていた。
「結局その馬を使っていますのね」
「最近はようやく慣れてきたようで、言うこともきくし怯えなくなりました」
「馬を怯えさせる人なんて初めて聞きましたわ」
「わたしもです。で、どうしました?隊列を離れて」
「まだ出発したばかりですわ。そうこだわることもないのではなくて?」
「そうは言っても軍人である以上軍紀というものがありますし・・・」
「ねえメルレン」
ん?なにやらただならぬ気配。
「・・・なんでしょう?」
「最近、わたくしの扱いがいい加減になってきているような気がするのですが!?」
「え!?」
あああ、メインヒロインだ!という主張をしにきたとそういうことですか!
というかもうちょいツンの方が好み・・・ゴホゴホ!そうでなくて、何言ってんだコイツは!?
「剣術を教えるといっては中途半端に投げ出し」
むう。
「陛下が魔術学校の校長の地位を打診してくださったというのに返答を濁し」
むう。どこで聞いたんだ?あ、バルテルミか。
「挙句お父様が・・・」
「・・・お父様が?」
サラはしばらく赤くなって下を向くとぶつぶつ何か言っていた。
「とにかく!」
「はい」
「もうちょっと自分の立場を考えなさい!」
「わたしは陛下より宮廷騎士団団長代行補佐および参軍、さらにこの南遣隊の隊長を拝命しております。その責務の重さは常日頃より大変感じております」
「そうではなくて!」
ふっふ、コイツ面白いなあ。
「あ、あなたにはあなたを頼りとする者が大勢いるということです!」
「それはありがとうございます。サラの言葉を励みとして任務に邁進いたします」
「・・・ううう。もういいですわ!」
からかいすぎたか。
「任務の間、しばらくはこれにかかりきりで他には用もありませんので、夜や時間があいたときにはまた剣術の稽古を再開しましょう。ランベールやアル君にも伝えておきます」
サラは立ち止まる。
「わかりましたわ」
「稽古が中断してしまい、申し訳ありませんでした」
気障に謝罪する。しかしこんな仕草もイケメンなら許される。
「わかりましたと申し上げましたわ!」
サラは怒りながらもどこか嬉しそうに隊列に戻っていく。
王都にいるよりは旅に出ているほうがのんびりしていていいなあ、なんて本当にのんびりしたことを考えながらサラを見送る。
旅じゃなくて戦争なんだがね。
一人ツッコミ。
今週はまたもや浜松の遊園地パルパルに行きます。
なんかわたしってホント遊んでばっかな気が・・・
いつも読んでくださってありがとうございます!
更新遅いですが、ちゃんと続けますよう!




