第十九話 「メルレン隊の入隊儀式・後編」
前回掲載時にお気に入りや評価を結構いただきました。
嬉しい限りです。
稚拙な内容ではありますが、おつきあいくださいませ。
わあっという歓声というか怒号が上がる。
王都騎士団の問題児軍団をシメてしまったわけだ。
これからはヘッドと呼んで貰おう。ではなく、
「まともに攻撃入れられたのは久しぶりですよ」
「その割にゃ手加減してたじゃねえか。魔術もまだ出し惜しみかよ」
「あなただって本気ではなかったでしょうに」
「その出し惜しみの度合いを言ってんだよ」
手を差し出して握手する。
ケンカしたらマブダチの法則。友情、努力、勝利?
「ところでダンスタン殿の武器は魔術付与ありますよね?なんだったんですか?」
「ああ、どのみち当たらなきゃ意味がねえんだが、止血不可と麻痺だ」
おい。100%悪党武器じゃねえか。
握った手を放したくなった。
「次の相手は魔術出し惜しみさせてくれねえぞ」
「へ?次?」
めんどくさい連中は片付けたと思うんだが。
「当然、我輩にもご教授くださるのですよね?サイカーティス卿」
バクスター・ポロニアムがニコニコして立っている。
「ポロニアム殿もですか?」
「剣は騎士の嗜みたれば!我輩だけ座っているワケにはまいりますまい!」
ク、クセが強い・・・
バクスターはサーベルを抜いた。
「戦場ではエストックを使いますが、決闘の華はやはりサーブルッ!いざ華麗なる剣撃の調べを奏でましょうぞ!」
テンションが上げられない・・・これが戦術の一部とすればなんとも高等な精神攻撃。
「王都騎士団千人隊長バクスター・ポロニアム、参る!」
あ、速い。師匠に近いくらいだ。
キン!
まっすぐな最短距離を最高の速度でなんの駆け引きもなく打ち込んできた。
キャラと違って素直ないい剣筋だ。
そこからの連続攻撃も速い速い。
防戦一方になってしまう。これは魔術使わないとしんどいか?
いやいや、せっかくここまで来たんだし、たまには安易に魔術使わず純粋な剣技だけで戦わないと鈍っちゃう。
そう、こんな軽い理由で魔術を封じていたのだが、王都騎士団の面々は「バルテルミ、サラには魔術を使ったのにわれわれには使う必要がないというのか!?」というプライド的な問題で奮起またはヒートアップしているらしい。いや、それはあくまで後で聞いたのでこの時は知らなかったし悪気もない。
悪意のない行為なので性質が悪い。
僕はあくまで一生懸命もてる技量で誠心誠意バクスターと剣を交えていた。
(速いんだが、捌ききれないほどじゃない。搦め手も使ってこないし教科書どおりの綺麗な剣術だ。落ち着いて対処すれば・・・)
結局は経験の差が如実に現れる。ただし僕のじゃなくてメルレンの、だけど。
ダルタイシュや師匠ほどは剣の才能はない。けれど魔術抜きでも各国のトップクラスといい勝負にはなる・・・といいな。
大振りが来た。
よしこれで詰みだ。
攻撃を逸らせていなしてやると、バクスターの体勢が泳ぐ。
踏み出そうとした足を軽く払うと大きくたたらを踏んだようになり、転びそうになる。
(勝ったかな)
首筋へ柄を落としてやろうと振りかぶるとゾクっとした。
その瞬間、バクスターは驚嘆すべきボディバランスでぐっと踏ん張ると超低空から恐ろしくスピードの乗った突きを繰り出してきた。
(あぶな)
僕はサーベルでその軌道を逸らそうとする。
「無影剣」
バクスターが呟いた瞬間、剣は一瞬非実体化し、僕の防御をすり抜ける。
これが切り札か!コマンド発動の魔術付与で瞬間的に相手防御の内側に剣を突き込むのか!
直撃コースだ。高速化していく思考の中で状況を分析する。
空壁を発動させるか?いや、バクスターはそこまで読んでいる気がする。
魔術結界無効か破魔の魔術付与をつけてある可能性が高い。
防御系魔術はダメだ。となると回避か。間に合うか?
加速では発動してから自力で動く必要がある。無理だ。
発動がそのまま回避になる魔術・・・うーん死ぬよりマシか。
「爆裂!」
自分の足に向かって爆発系魔術を発動する。魔術防御力はある程度高いのだが。
「いてー!」
思わず素が出る。
血も出た。両足がズキズキする。
「メルレン!」
今まで余裕だと思っていたらしいサラからついに悲鳴があがった。
コンニャロー、ピンチだったじゃねえか。
怪我させない積もりだったのに、僕が怪我してどうするよ。
一旦間合いを取って向き直る。
正直宮廷騎士団の連中に比べれば落ちるとナメてた。
認識を改めよう。
バルテルミは本気でやってなかったのかもしれないが、こいつらは少なくとも真剣に勝負している。
こっちもそれに応えなければ失礼にあたる。
なんだ、どれくらい本気で行けばいいのだろう。
三体分身して真空っぽい衝撃波を放ってそれを後追いして突撃するとか、十八分身から36本のリング状の光の輪のようなものをブっ放しつつそれを目くらましにつかって本命の攻撃かけるとかしたほうがいいのかな?
いや、できないけど。
「いやあ死ぬとこでしたよ」
「サイカーティス卿に一矢報いるためには出し惜しみしてはかなわぬと判断しましたがゆえ!勝負とは非情なもの。剣を持ちて向かいあえば、たとえ殺める気はなくとも悲しい結末を迎えることもありましょう。しかし一度剣に身を捧げると誓ったこの身、いつ散ろうとも惜しくはありませぬ!」
変なあんちゃんだが、ちゃんと武人なんだなあ。感心した。
「同感ですね。ですが、わたしはどうあってもここで死ぬわけにはいきません」
「我輩も功ならぬうちに死ぬわけには参りませぬな」
しかし、アレだな。宮廷騎士団の一、二を争う実力者バルテルミに勝った、ということにまがりにもなっているので、こんなとこで苦戦していてはバルテルミの立場にも関わろうというものだ。
やっちまおう。
さっき冗談で考えた某剣聖の技だが、簡略版なら行けるかもなあ。
ええとまず旋風を放って、加速、空壁で自分に防壁を作っておいた後、爆裂で一気に突っ込んで力ずくで行く。
つまり三体分身は省略。
よし行くぞ。
「ブレイク・・・!」
「メルレン様!」
ランベールから大声があがり思わずそちらを見る。
「・・・なんでしょう」
「よくわかりませんが、凄くイヤな予感がしました!その技の名前を叫んではいけません!」
・・・そうだった。イカンイカン。これが元の世界で人の目に触れる可能性もある。
迂闊だったな。では黙っていくか。
「旋風、加速」
バクスターに向かって旋風を放つもやはり破魔の付与があるのか転倒まではさせられない。しかし動きは封じられた。
加速状態になり、反射速度を2倍に引き上げる。
「空壁、爆裂」
文字通りの爆発的な突貫。しかし認識も加速された僕にはバクスターが僕の姿を油断なく捉えている様が見える。
(やはり直線的な攻撃は見切られる。ならば)
「幻体、幻体」
でくのぼう2体召喚。僕はその後からでくのぼうを押して行く。これって黒い星が3つのアレか?
バクスターが先頭のヤツを踏み台にしませんように・・・
後側のでくのぼうを引っ張って自分の横に置く。これでおかしな三体分身完了。
「空壁、爆裂」
もう一度爆発移動。今度はでくのぼう達と僕の中心を爆心にする。
バクスターの目の前で爆発する僕+でくのぼう×2。
1つはバクスターに正面から激突し、なんとか切り伏せられ霧散する。
もう一体はななめ方向に飛びそうになる、が僕が必死ででくのぼうを掴まえていたため結局先頭のでくのぼうにやや遅れるかたちでバクスターめがけてすっとんでいった。
バクスターはその乱戦の中でも僕の本体をしっかりと見ている。
(ううむ、なかなかごまかせないな)
ならば力任せに行こう。
フックしていた、でくのぼう2号を思い切りバクスターにぶつけた。
「うわあ!」
どうやら僕本体と武器に注意を向けていたので、まさかでくのぼうで殴りつけるとは思わなかったのだろう。
バクスターと僕とでくのぼうは勢いのままもんどりうって転んでしまう。
僕はその衝撃で武器を手放した。
でくのぼうもそのまま消えてしまい、あとに残ったのは体勢上のバクスター、体勢下の僕。
この辺はリアルラックの無さが炸裂している。
「メルレン殿、勝負ありと思われますがいかがか!」
バクスターは当然の勝ち宣言。
バクスターはマウントポジションで武器あり、対して僕は両腕こそ自由なものの身動きもできず。
降伏勧告も頷ける。だが
「お断りです」
ニヤニヤしてみる。
でもバクスターは短気ではないらしく、ぐぬぬとはならない。
「それではいたしかたないでしょう!怪我などされた時はひらにご容赦を!」
サーベルを振りかぶる。かすらせるつもりか、僕がなんらかの防御をすると思ってのことか刃をきっちり向けてくる。
殺気の乗りもいい。迷いなく攻撃に来るとはいい騎士だなあ。
他人事のように感心してしまう。
(ただ一本気だな)
結構流れで手の内を見せているのだが、まだまだ魔法剣士というものを理解していない。
剣つかわなきゃ剣士ではないというツッコミはこの際おいといて。
「空壁、爆裂」
今日何度目かのコンビネーション。
これもいろいろ選択肢はある。背中から爆発させて体勢の入れ替え狙うとか、空中で爆発させてバクスターの背後を衝くとか。
しかしこの場で選択したのは、この勝負を決めるべく放つ一撃であった。
「がふっ!」
高密度に集束した爆裂を肘の下に発生させ、僕は文字どおり自分の右拳を弾丸と化した。
それは狂気のスピードでカウンター気味にバクスターの顔面を撃ち抜き、一瞬で意識を刈り取った。
バクスターは白目を剥いて、ゆっくりと僕の上に倒れこんできた。
僕はそれをいたわるように抱き上げて、ようやくの勝ち名乗りを上げる。
「わたしの勝ち~」
途中からまわりが静まっていた。
だいぶいろいろやったので、魔法剣士的な戦い、いやそれどころか魔術を目の前で見ることがはじめてという者も多かっただろう。
皆息を飲んで見ていた。
大丈夫?ドン引きとかしてない?
勝ち名乗りからしばらくして、ざわめきがおこっていった。
それは賞賛と驚愕と畏怖をないまぜにしたような不思議なものだった。
それを破ったのは
「まだ、やれるっスか?」
ダナードだった。
「え?ダナードもやるんですか?」
意外だった。てっきりこれで終わりだと思っていたんだが。
「ちょっとギリギリ過ぎっス」
ん?どゆこと?乱戦になりすぎで僕があまり強くなさそうってことかな。
実際そこまでじゃないと思うんだけど。
「圧倒的内容が欲しいってことですか?」
ダナードは頷く。
「しかしダナードは格が違うのではないですか?圧倒的内容を見せるって・・・まさか!?」
小声で
「三味線弾くってことですか?」
今度は首を横に振る。そして右手の人差し指を立てた。
「自分に苦戦してるようでは作戦自体危ないと思うっス」
言うねえ。中指も立てた。どうやらさっきのがその1、今度がその2の理由って意味らしい。
「ここにいる連中も凄い強い人になら従うっス」
これははじめる前に言ってたことだ。その3もあるらしい。
「あとはウェズレイ隊長が一回は勝ってこいって言ってたんで・・・」
あはは、またあの馬鹿か・・・。
「だから本気で行くっス。自分が勝ったら御輿になって欲しいんで」
おー言うねえ。冷静沈着なタイプかと思ってたけどアツイ魂を内包しているらしい。
「まだ、やれるっスか?」
また聞いてきた。
「無論です。全開でお相手します」
ニヤーと笑うとダナードもニヤーと笑った。
さて、そうなれば小細工で小技が得意な魔法剣士なれど、王国最強の一角を完封しなくてはなるまい。
本当にバルテルミに悪い。
しかし加速以外のバフ(強化系魔術)というと筋肥大なんだけど、あれは加速との相性が悪い。
それに筋肥大したところでダナードのパワーと正面から打ち合うのは無理だ。
まあ、攻撃魔術しかないだろな。
ただし霧散かレジストはあると思われるので、いろいろかまさねばなるまい。
幻惑とかなんやら。
でも基本ゴリ押しで勝つ。そう決めた。
ポーチを探ると火薬発見。
触媒にして大きめの術使おう。他は、と見回すが特にない。いや道だし石畳があるな・・・地属性やっちゃうか?合成しちゃうかあ?
まずは火薬を回りにざあっとまき散らした。
詠唱いるなこれは。
「地の地なりし冷たき巌よ。汝は太古に天空より来たれり到達者なり。今汝に昔日の姿を与えるは我、調停者なり。我が敵を滅ぼす紅蓮となり今一度疾く駆けよ」
はしょったけど詠唱長いな。
ダナードは油断なく構えている。
正直詠唱中断されなくて助かった。いくぞー派手な攻撃魔術。
石畳がふわーっとはがれて浮遊し、その後急激に上昇して見えなくなった。
はい予想どおりのアレです。ちょっと小規模ですが。
「隕石召喚!」
無数の小隕石が降り注ぐ。地上で流星雨が顕現したかのような騒ぎだ。
距離をとっていたギャラリーも悲鳴を上げて逃げ惑い、間断なく続く炸裂音で付近の住人も何事かと窓を開けて凍りつく。
でもダナードは耐えている。
「断空!」
ギャラリーに注意してデカい風の刃も飛ばす。
その攻撃はガイーンと派手な音を立ててダナードの鎧に阻まれる。
ただしこれには大きくよろめいた。
よし追撃だ。
「筋肥大」
力技を選択。
倒れそうになるダナードはグレイブを振るってくる。
ガキイン!
重い一撃。しかし不安定な体勢からの攻撃は腕力のみで振り回されたもので、筋肥大した僕は余裕をもって受け止める。
「空壁、爆裂」
今日はこのコンボばかりだが、剣を更に爆発力で押し込む。
ゴキッ
物凄い音がした。容赦なくパワーバフをかけた魔術的力押しによりダナードのグレイブの柄が破断してしまったのだ。
一瞬「これは弁償か?」とも思ったが、ちょっとハイになっていた僕は拳を堅く握りこんで追撃を仕掛ける。
「空壁、爆裂」
ゴンッッ!
グレイブを折られ呆気に取られていたダナードの頭を兜ことブン殴る。
さすがに陥没はしなかったが、兜が変形する。
「空壁、爆裂」
ゴンッッ!
剣の柄で殴る。
「空壁、爆裂」
ゴンッッ!
殴る。
「メルレン!いけませんわ!」
サラの声が聞こえた。
ハッと我に返る。
見ればダナードはすっかり白目を剥いている。
グレイブは折れ、兜はベコベコだ。
頭蓋は大丈夫だろうが、ハンマーのフルスイングを左右から食らい続けたようなものだ。完全に意識が飛んでいる。
や、やりすぎた・・・
目的どおり完封はしたものの相当泥臭い、いや血なまぐさささえ漂う展開になってしまった。
隕石召喚で機先を制したまではよかったが、後がなあ・・・
断空はもしダナードに魔術防御がなければまっぷたつだし、力押しは文字通り力押しになってしまった。
ダナード戦の筋肥大は腕力としてはオーガーを凌ぐパワーになっていた。
サーベルでは剣がもたないが、樫の棍棒でも持ってくればちゃんと正面から打ち合えたなあ。
今日は追い込まれる場面が多かったので、ついやりすぎになってしまった。
反省。
アル君が水を持ってきたので、ダナードを抱き起こして飲ませてやると気がついた。
「こんな負け方は初めてっス。手も足も出ないとはこのことっス」
「怪我はないですか?」
「大丈夫っス」
言って立ち上がるとダナードは僕の手を取って高く差し上げた。
「メルレン殿の強さは見ての通りっス!俺達を率いるのにふさわしいと思う者は残れ!認めない者は去れ!」
しばらく静まっていた周りからパラパラと拍手が起こり始め、やがて割れんばかりとなった。
歓声は隊だけではなく野次馬にまで伝播し渦となっていった。
ダナードは僕に向かってウインクして言った。
「うまくいってよかったっス」
「ははは・・・」
当然、次の日にはバルテルミから呼び出しがあり、久々に他人にマジで説教されるという経験をした。
ダナードの武器防具は予備のものだったので構わないと言われたが、サイカーティス商会に一揃え発注し完成次第届けてもらうことにした。
ちなみに破損した石畳や傷んだ町並みも商会の責任で補修することになった。
四戦中二戦が拳によるノックアウト勝ちというところがクーリアとテスカの琴線に触れたらしく、クーリアは「アニキ」と呼び、テスカは「お頭」と呼ぶようになったことも付け加えておく。
さあ明日は珍しく出張、明後日は雨のようですがカンパチ狙いで釣りにいきます。
秋はいいですね~
暑さもやわらぎ、魚も美味しい!
一番好きな季節です。
誕生日がやってくることを除いては・・・




