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異界のストーリーテラー  作者: バルバダイン
第一部 「イダヴェル戦乱編」
17/65

第十五話 「王都への帰還」

早めの更新です。

けどちょっと短めです。

 正直長旅はきつい。


 元の世界にいたら地球一周するのにも飛行機使って数十時間で回れる。


 アフリカの僻地に行くのにも飛行機乗り継いで、車で旅すれば遅くとも数日で着く。


 それをこうやって馬に揺られてもう三ヶ月以上、そんなものはバラエティ番組の若手芸人でも今時やっていない。


 ぶっちゃけて言うとストレスMAX状態が数回と言わずにあり、途中の街で大酒飲んだりした。


 しかし正直酒には相当強いのでちょっと楽しい気分になるだけだった。


 幸いだったのはエルフの体だ。


 グレイエルフ族は長命ゆえに繁殖活動に対して非常に消極的だ。つまり衝動があまりないのだ。


 結構美人な女子三人に囲まれて嬉しいは嬉しいのだが、こうピンクな気持ちは特にない。


 悶々とするエルフ。それはきっとダメだろう。




 しかし!そんな日々ももうすぐ終わる、さっき古の森を通過した。


 ここまでくれば懐かしの我が家はもうすぐだ。


 いや、そんなに長いこと滞在してないけどね。


「もうすぐですね」


 とランベールさん。サラが大人しくなってからは随分と負担が減ったようで、人の往来が多い時は結構リラックスしている。


「ランベールは王都に戻ったらどうしますか?」


「サラ様の御付を続けますよ?」


 当たり前のことを聞いてどうする?というふうに見る。


「剣も結構覚えてきましたし、正式に騎士見習いか騎士になってもよいのでは?」


 今のランベールさんは出発時のサラより強い。アル君も騎士狙えるくらいには上達した。


 二人は素直なので進歩が早いのだ。


 それに放浪の超剣士ラザルスの弟子はダルタイシュが有名だが、実はメルレンの師匠レイスリーはダルタイシュの兄弟子になる。


 魔術は我流、剣はラザルスから学んだわけだ。


 ということはメルレンは孫弟子、サラ、ランベール、アルは正式に弟子にとったワケではないが曾孫弟子になる。


 ラザルスの直系とかいうとハクがつきそうだが、調子に乗られても困るので黙っておく。

 無論調子に乗りそうなのはサラだが。


 とはいえ、孫弟子といってもレイスリーからは剣技を専門的に習ったワケではなく、あくまでも魔法剣士の技術として総合的に学んでいて、アレンジも加わっていると思われる。


 剣道風に言うなら「ラザルス流レイスリー派」だ。カッコ悪いな…


 話を戻す。ランベールさんは考えていた。追撃しとくか。


「単に勿体無いという話でもなく、サラに公務が発生した場合、騎士団に身を置いていた方が同行もしやすいと思われます」


 見習いから正騎士に格上げされた場合は別の任務が当てられる可能性もあるのだが、それは黙っておく。


 実際秘匿性の高い任務にサラが就くとなれば、いくら御付とはいえ民間人が同行できるとは限らない。


 肩書きって大事。僕の肩書きは舌噛みそうだけど。


「そう・・・なのでしょうか」


「わたしは少なくともそう思いますよ。サラも趣味で騎士をやっているわけではないのですし、公私ともにサラについていくにはそれがいいと。わたしが推薦状を書けばすんなり決まると思いますよ」


 肩書き大事。


「わかりました。サラ様に相談してみます」


「そうですね」




 王都ヌクレヴァータ。


 ついにその門が見えてきた。


 長かったわー。もやしっこのケツが乗馬マスターのケツとなるほどに。


 結構遠くから門衛が僕達に気がついたようで、城へと伝令が駆けていくのが見える一方で隊長らしき兵が駆け寄ってきた。


「お疲れ様です!」


「わざわざありがとうございます。馬上からで失礼します」


「いえ、とんでもありません」


「身支度をしたら陛下のもとへ拝謁に参ります」


「お伝えいたします」


 門が開かれ、数ヶ月ぶりの王都の目抜き通りに進んでいく。


 このまま解散ということも考えたが、せっかくここまで一緒だったので労うべきだろう。


「皆さん、どうぞ我が家へ来てください。旅の疲れを癒しましょう」


 アル君はうちに部屋がある。リュタンも僕が身許を引き受けざるを得ないので部屋を用意する。


 ランベールさんはサラに準じるので、実質サラへ向けて言っている。


 サラは


「そうですわね。王都での仮住まいは手狭ですし、料理人も常駐しておりません。せっかくですのでお邪魔させていただきますわ」


 ほう。


「では食事は外食ですか?」


「そうですね。あとはランベールやわたくしもたまには腕を奮いますのよ」


 おー意外。


 ランベールを見ると下を向いて暗い顔で小さく首を横に振っている。


 み、見なかったことにしよう。「お嬢様は殺人シェフ」ってのはあまりにもありふれた話だ。


 食事の招待には応じないぞう。





「やあ、ただいま」


 家へつくと、使用人一同がお出迎えである。


「おかえりなさいませご主人様」


 コックニーさん。いやこれは主にメイド喫茶的なことを考えると、エレインが言うべきセリフだろう。


 能力のコックニー、若さのエレインで役割分担して貰わないとエレインの立つ瀬がない。


「おかえりお待ちしておりました、メルレン様」


 カーマインさん。なんか資産運用を許可して欲しい旨の手紙来てたけど…この人凄腕そうだよなあ。


「長く留守にしてすいません。サラ・ヴィクセン様をお連れしましたので、湯浴みと食事の用意をお願いします。わたしは体を拭き清めたらすぐに陛下に拝謁します」


 リュタンを示す。


「マガニア帝国シーリア家のリュタン様です。大賢者様のもとで修行され、名代としてお連れすることになりました」


「これはこれは、ようこそリュタン様。ようこそおいでくださいました」


 カーマインさんすげーな。リュタン・シーリアの名を知らないはずはないだろうにまったく動じてない。


 その証拠に後ではコックニーさんが顔をひきつらせている。ランドルフさんはさっそく仕事にかかったようなのでいない。エレインはポカーンとしている。


「リュタン・シーリアです。図々しくお世話になって申し訳ありません」


「どうか我が家と思ってお過ごしください。メルレン様のお客様は私どもにとりましてはご主人様に等しいお方。なんなりとお申し付けください」


 さすがマスター執事。


「では、コックニー、エレイン。先程のとおりサラ様、ランベールさんに入浴の御支度を、わたしとリュタン様には湯桶と着替えの準備をお願いします」


「か、かしこまりました」


 パタパタ走り出すメイドs。


「アル君、あなたも一息ついて食事には一緒しましょう。それまではお父上のところに顔を出しに行ってはどうですか?」


「はい!ありがとうございます!」


 順調に解散指示完了。


 アル君は馬達を厩につなぎに行った。




 ガシュガシュという勢いで顔を洗う。エルフはヒゲがまったく生えないので助かる。


 いやまてよ?オーベイやラザルスはヒゲモジャだな。


 老化とヒゲが連動しているのだろうか。不思議不思議。


 皮脂も汗も少ない。ワキガのエルフとかいないっぽいもんな。


 胸毛も腋毛もない。より下の方は…まあぼちぼちだ。


 胸毛はいいとして腋毛無いのは違和感あるなあ。


 植物系だっていうんで、自分の話の同人誌とか出たらキツいわ。絶対エルフは受…ゴホゴホ!


 髪を濡れた布でよく拭く。鏡を見ながら櫛入れする。


 フォーマルな服に袖を通して出来上がり。


 といっても騎士なので制服的なチュニックに軽鎧なのだが。


 女子の支度に時間がかかると思われるので、30分ほど休憩してから部屋を出る。


 リュタンにあてがわれた部屋の扉をノック。


「リュタンさん、どうですか?」


「はい。ただいま参ります」


 ガチャ。


 おお~。


 没落したとはいえ貴族筋。荷物の中にあったのであろう衣装をまとったリュタンは見違えた。


 さすがに夜会用のドレスではないが、レース装飾がふんだんにあしらわれたスリムなシルエットのワンピース、同じ意匠でしつらえたつば広のレースがついた帽子。


 とても地味~な印象ではない。


「これはお美しい」


「まあ」


 リュタンは真っ赤になる。いいねえ、サラではありそうもないリアクションだ。


 しかしこのいでだちで徒歩はないわな。


 カーマインさんに言って馬車チャーター。わずか7~8分の場所で歩いても20分くらいだが、これがやんごとなき方々の生活といえよう。



 

「よくぞ戻った、メルレンよ!」


 なんかゲーム再開時のようなセリフに迎えられて謁見の間でグレティル王に会う。


「戻りましてございます、陛下」


 片膝ついてごあいさつ。リュタンも膝をついている。


「さぞや疲れているだろう。今日は手短に済まそう。かいつまんで報告を受けてはいるがそちらが?」


 王はリュタンを見る。


「はい。こちらが大賢者オーベイ殿の名代リュタン・シーリア様にございます」


 途端に気色ばむ傍の大臣。


人間爆弾セルフボマーリュタン・シーリア!陛下!危険です!お逃げください!」


 であえであえー、って言いそうな大騒ぎだ。


 リュタンは悲しげにうつむいている。


 王は大臣を手で制する。


「お前達がそのように騒ぎ立てるから話さなかったのだ。少しは黙れ」


 普段より厳しい物言いに押され大臣は不承不承黙る。めっちゃ睨んでるけど。


「すまないな、リュタン殿。非礼をお詫びしたい」


「いえ!恐れ多きことにございます!すべてわたくしの不徳のいたすところなれば!」


 リュタンは平伏する。やがて立ち上がり礼法に則った礼をする。


「改めまして、お目にかかれて光栄に存じます。イェルモロー・シーリアが娘、リュタンと申します」


「苦労されていると聞く。そなたの才と大賢者殿のご厚意に敬意を表し、厚く遇することを約束しよう」


「過分なお言葉感謝いたします」


 うるうるするリュタン、プルプルする大臣。




 リュタンは先程の馬車で家に帰っていて貰い、僕は残って経緯を説明することとした。


 しかし、あのキチガ○大賢者のことをありのまま話すわけにもいかず、脚色と割愛が必要になった。


「では、大賢者はリュタンの魔力を間接的に操るわけか」


 それだと惜しい。


「どちらかというと、大賢者殿は一定以上の危機をもたらす怪物や敵兵に反応してリュタン様の魔力を自動的に放出するような術式を施したようです」


「さすがは大賢者だ」


「しかしながらリュタン様の限度一杯まで魔術を行使してしまう恐れがあり、万能とはいえません。またリュタン様が我が国の魔術師を指導して魔法兵団のような組織を作り上げることは困難かと思われます」


「そうか」


 王はちょっと渋面になった。王が大賢者を呼びたかったのは別に迎撃兵器が欲しいからではない。


 魔術学校を作って体系的に魔術教育をバルディス王国に広めたかったのだ。


 それはわかるが、イダヴェルやマガニアで全土の人材をかり集めてきたという事情もある。才能の無いものにいくら仕込んでも時間の無駄ともいえる。


 気が長い作業になる。一世代で完成する事業ではない。しかし一歩を踏み出さなければ何も変わらない。


「わたしの見たところ大賢者殿は知識の蓄積に特化した魔術師です。本人の興味もそこに偏っております。ご本人をお連れしてもやはり指導者には不向きだと考えます」


「メルレンの見立てならば間違いあるまい。では当初の予定通りいくしかないか」


 ざわっ。


 嫌な予感がした。


「メルレンよ、お前が魔術学校の指導者を兼任せよ」


 アイター。


 そりゃ、結構魔術かじってるし普通の魔術師と同じ行程踏めば上級魔術もこなせるよ。


 でも騎士に魔術師やらせるのは酷だよなあ。


 メルレンの本体もこもって魔術の探究とかするのが嫌で魔法剣士になったっぽいしな。


 それにここで魔術学校作ってもイダヴェルの侵攻がある。


「そ、そう言われましても陛下、わたしは魔術の素養は凡庸で魔法剣士ゆえに精密で高速の魔術の行使に特化しております。指導者としては格が不足するのではないでしょうか。それに一人では満足なことはできません。指導者、習得者共に才能を吟味して充分な規模を用意する必要がございます」


「慌てるな。余とてすぐにやれと言っているわけではない。ただ余の手駒ではお前が最も魔術に精通している。魔術学校を設立することを念頭におき、校長であるとか、魔術の素養を持つ若者をこころがけておけという意味だ。指導者の一人としてたまに指導するくらいなら問題あるまい」


「そういうことでしたらわたしにもお断りする理由はございません」


 これが次の任務ってワケだなあ。




 さてそろそろ大事な話をしなくては。


「陛下、恐れいりますが内々にお耳に入れたきことがございます」


「構わぬ、そちらはしばらく下がれ」


 大臣や小姓が謁見室から追い出される。


 必要なことを最小限に確実に伝えねば。ただし嘘八百で。


「わたしが個人的に大賢者にお会いした理由なのですが」


「うむ」


 気になっていたようで、王は身を乗り出す。


「拙いわざなれど、多少星を見ることができます。するとこの国に戦乱の気配が見えました」


「イダヴェルか」


「南より迫る軍氣なればおそらく」


「それを確かめにいったというわけか」


「さようです」


 大嘘だ。しかしこれなら説明がつく。


「わたしの勘違いであればよいと思っておりましたが、今年のうちには動き始めると、大賢者殿のお見立てでした」


「むう、早いな。早すぎる」


 それはそうだ。これほどの短期間に軍を再編して秩序だった訓練と組織と装備を実現した。


 イダヴェル皇帝、バシュトナークの才能、人望、恐怖、それらが成し遂げたものだ。


「眠り湖同盟の二国、コルベインとミクラガルドからも随分物資を吸い上げているようです」


 これは僕自身が知っていること、というより書いてたこと。


 眠り湖という大湖に接するイダヴェル、コルベイン、ミクラガルドは争っていた時期もあったが、もう数十年も同盟を結んでいる。


 似たような立地、似たような農業国同士の相互不可侵条約だったものが、イダヴェルの台頭によりイダヴェルの軍事力を支える同盟へと様変わりした。


「もともと肥沃な土地にあるのが災いしたな。糧食や戦費の蓄えは十二分というわけだ。で、どう見る」


 ズバリ聞いてくる王。言いにくいなあ。


 しばらく逡巡していると、


「構わぬ、率直に申せ」


「では、恐れながら…」


 前置きする。


「我が国に勝ち目はありませぬ」


「言うのう」


 苦笑する王。


「我がバルディスへの進軍は、その背後にあるマガニアまで意識したもので主力の部隊があたってくることが考えられます」


「アークロイガー第一軍か」


「はい。アトラーヴェイからも千は魔術師が出るのではないかと」


「止まらぬな」


「止まりませぬ。それでですね…」


 僕は一国の王に対し、道中で考えてきた無茶苦茶な案を述べた。

皆様いつもありがとうございます。

エネルギーいただいております^^

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