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異界のストーリーテラー  作者: バルバダイン
第一部 「イダヴェル戦乱編」
16/65

第十四話 「帰り道」

酷暑の夏、皆様いかがお過ごしでしょうか?

夏休み中にダラダラしすぎて、確実に太りました。

平常運転に戻し更新もちゃんと週一以内にします!

 リュタンが目を覚ましたのは翌々日の昼頃だった。


 案の定記憶はない。


 大賢者とか言われてるイカれたじじいにはどこからツッコんでいいのかわからないほどだが、連絡の取りようもない。捨て置くしかないだろう。


 モナスの街は被害皆無で、死体の後片付けすらほとんど不要な状況だった。


 粉砕された食人鬼(オーガ)の死体は大多数が燃え滓に近く。攻撃が高エネルギーの火炎属性だったことがわかる。


 魔弾(マジックミサイル)と違って物理的な衝撃ではなく、高熱の飛翔体を対象に打ち込んで焼き尽くし、急激に酸素と爆発的な反応をするのか?


 少なくとも同名の某兵器みたいに最終シークエンスでポップアップしなくてよかったよ。


 そこまでふざけてたらいかな温厚な僕でも来た道引き返して、全力で非難したよ。


 いやもう既に非難されるべきなんだが…





 そのままリュタンの回復を待つためにもう一日逗留することにした。


「あれが大賢者様の秘策ですの?」


 とサラ。


「そのようですね。リュタンさんの魔力を予め準備した大賢者殿の制御式で操るようなものです」


「結局、爆弾としか思えませんわ」


「うん、ほぼ正鵠を得ています。おそらくリュタンさんのできることはあれだけです」


「どういうことですの?」


「遠隔操作、つまりリュタンさんを大賢者殿が遠くから操っているといっても直接こちらの様子を見てやっているわけではありません。敵と判断されるものが決められた範囲に入ったら決められた魔術をもって攻撃する、という約束事がリュタンさんに暗示されているのです」


「じゃあ、オークや盗賊がきてもあんなことになりますの?」


「いえ、おそらく一定以上の敵の強さが決められていると思います。そして『爆弾』ですから使えばそれっきりです」


「え!?もうリュタンさんはああいうことができないと?」


「うーんそうではないのですが、また使えるようになるまで何日か休まないと無理だと思います」


「ああ、それはわかりますわ」


「もし、戦が起きたとするとリュタンさんの使いどころはとても難しいと思います」


「戦が起きますの!?」


「たとえば、の話ですよ」


 そうだ。戦が起きることはオーベイも知っている。


 そのための助力としてリュタンが寄越されたのだが、あれでは局地兵器だ。


 多分敵国兵を千や二千は吹き飛ばすかもしれないが、それで戦局をどうこうするには不安が残る。


 しかも我々、いや僕は「神の眼」を欺くようにうまく負けなければならない。


 誰も死なせたくはないが、そうはいかないだろう。


『奇跡的に少ない人的被害で済んだ』


 と、後に言って貰えるように全力でやるしかない。





 ----カーマイン目線----



 わたくしが出した手紙の返事がご主人様から届きました。


 ヴィクセン伯爵の御館に送っておいたものです。


 お預かりしたご主人様のお給金は、まだまだ多くはありませんでしたので、わたくしの勝手な判断ではありましたが少々リスキーな運用をさせていただきました。


 短期間で変動の激しい希少金属相場でございます。


 数年ぶりでしたので少々不安はありましたが、このジェラード・カーマイン「取引所の悪鬼」の異名は伊達ではありません。


 何度か緊迫する場面もありましたが、元手を20倍にまで増やすことに成功しました。


 そこで今後の運用方針についてご主人様のご意見を伺おうとお手紙を差し上げました。


『北から鉄と鍛冶屋を集めて武器、防具の生産にあたらせて欲しい』


 なんと、ご主人様はわが国に迫る戦乱の気配を感じ取ったということですか。




 この老骨にはわかっておりました。


 こたびお仕えするご主人様の偉大さが。


 バルディスの雷神と称せられた前のご主人様はそれは素晴らしい方でした。


 まだ右も左もわからぬ若輩者だったわたくしを取り立ててくださり、礼儀作法から常識、学問にいたるまで学び、それを活かす機会を下さいました。


 戦ばたらきを得意とされるご主人様に代わり、わたくしは奥方様を補佐し懸命に所領をおまもりしてまいりました。


 なりふり構わず領土の経営というお仕事をするうちに、やがて「豊作請負人」、「兵站確保の魔術師」、そして先程の「取引所の悪鬼」といつの間にか呼ばれておりました。


 懸命にそして楽しかったご主人様との時間はご主人様の死によって終わりを告げ、ゼフィア様の御付をしていたネヴェ・バンドワールにわたくしの全てを引き継ぎました。


 あとはただ思い出を楽しみながら朽ちていくだけのつもりでした。


 最初は陛下のお召しも恐れながらお断り申し上げたのです。


 しかし、どうしてもということでメルレン様にお会いしました。


 わたくしは目を疑いました。


 これはエルフではない、と思いました。


 わたくしの知るエルフ族とはおおよそ生に倦んでおります。


 戦士の立場に身を置く者ですらそうです。


 ましてやグレイエルフだというではありませんか。ありえないことです。


 千年を超える時は尋常の生き物にとっては永過ぎるのでしょう。彼らの目は総じて目の前のものを見てはいるのですが、見ておりません。


 必ずどこかに虚ろなものを含んでいるのです。


 しかし、メルレン様は違いました。五百年余を生きて尚、その目は少年の輝きを宿しているのです。


 陛下はわたくしに向かって微笑まれました。


「気は変わったか?カーマイン」


 わたくしは深々とお辞儀をして拝命いたしました。


 このメルレン様こそ、わたくしの先の短い命をお預けするのにふさわしい方だと直感しました。




 ご主人様の命を受けわたくしはただちにあらゆる手段をもって鍛冶の手配をしました。


 バルディスでは永く大戦がなく、装備は行きわたっているものの型が古かったり、替えが少なかったりという状況です。


 各国境の砦ではおおよそ問題ありませんが、王都近辺はあまり装備を潤沢に準備しておりません。


 北の鍛冶を連れてくるということは、メルレン様が予見している戦の火種は南から、おそらくはイダヴェル。


 バシュトナーク帝即位から僅か一年あまり、まさかもう動き出すまでに軍備を整えているのでしょうか。


 ともあれ、ヒヤルランディやキャルバルルートからも鉄を調達するように手配し、鍛冶師をできるだけ王都に呼び寄せました。


 商会に振り分けて面倒を頼もうかとも思ったのですが、人数があまりにも多かったため、陛下とギルドに許可を申請し、ピアーズ候らからもご融資をいただき、「サイカーティス商会」を設立いたしました。


 設立にあたり陛下には内々に詳細をお話しましたところ、王都騎士団、王都衛兵団の装備として買い上げたいとのお話をいただきましたので早速鍛冶師達には働いてもらっています。


 ゆくゆくはこれらがメルレン様の活動の原資となれば幸いです。


 お戻りの時にメルレン様が驚かれるように商会を盛り上げて行きたいと考えております。





 ----リュタン視点----



 目が覚めたら結構酷いことになっていました。


 けれどもわたしには記憶がありません。


 火山ができるよりはよっぽどマシです。


 結局あの火山はシーリア火山と呼ばれるようになってしまいました。


 おにいさま、おねえさまはそりゃあもうカンカンでした。


 今回は大丈夫です。メルレン様も誰も怒ってません。心配さえしてくれるのです。


 お師匠様におまかせして正解でした。


 わたしはお師匠様の本をどれだけ読んで練習しても、ちっとも魔術がうまくならないままでした。


「才能ではなく心の問題じゃ」


 と、お師匠様は言ってました。


 うんうん、わかります。


 わたしはダメダメです。


 どうしてもあわあわしちゃうんです。


 失敗すればするほどあわあわしちゃいます。


 こんなことなら魔術師なんかにならなければよかったです。おとうさまが喜んでくださると思っていたのに、がっかりさせるばかりで。


 お師匠様は怒ったりしないのですが、あまり構ってくれませんでした。


 メルレン様はご一緒してから日が浅いのですが、とてもお優しいです。


 わたしのことを知らないわけではありませんが、他のサラ様、ランベール様、アルタイ様と同じように接してくださいます。


 とても嬉しいです。




 メルレン様によるとお師匠様の制御式によってわたしは意識を失い、知らない間に食人鬼オーガの大群を滅ぼしてしまったようです。


「いくら大賢者とはいえ、このやり方は非道です。断固抗議します」


 メルレン様はわたしのために本気で怒ってくださいました。


 たしかに勝手に体を使われるのはいい気持ちがしませんが、それでも今回は街の人に感謝されています。


 味方に誰も傷ついた方がいませんでした。


 それはとても嬉しいです。


 でも何よりもメルレン様がわたしのことを真剣に心配してくださったことが一番嬉しいです。




 サラ様はメルレン様のことが好きなようです。


 わたしがこんなことを言っては失礼にあたりますが、サラ様はとても不器用です。


 メルレン様はそんなサラ様のアプローチをうまーくかわしておいでです。


 気づいていないような、気づいているような。


 それともメルレン様はサラ様がお嫌いなのかしら。あんなにお綺麗なのに。


 サラ様はちょっと勝気なところがおありですが、とても可愛らしいお嬢さんです。


 わたしのおうちは貴族といってもおにいさま、おねえさまが活躍なさって名声を取り戻すまでは長く没落していました。


 一方サラ様は生粋の貴族のお生まれです。


 ひとつひとつの動きに気品があります。


 しかも貴族なのに館にこもって着飾っているばかりの方々とは違って、騎士の位までもっておいでなのです。


 伯爵様より領土と領民を受け継いで、立派に治めていこうという理想をお持ちで努力を続けている素晴らしいお方です。


 メルレン様がサラ様をはぐらかしているのにはサラ様ではなくメルレン様自身に理由がありそうな、そんな気がするのです。


 とても直接お聞きすることなどできませんが。




 わたしはメルレン様のことが好きになっていますが、サラ様とは違うかもしれません。


 まだわたしたち家族が小さい頃、みんな貧乏だったけれど仲良く暮らしていた頃、その頃のおとうさまとメルレン様が重なって見えるのです。


 メルレン様はエルフなので見た目はおとうさまよりずっとお若いですし、実際のお歳はおとうさまよりずっと年上なのですが。


 わたしはわたしがダメダメなせいで、あちこちで追放されたり、石を投げられたりしてきました。


 旅といえば逃げることで、辛いことのほうが多かったです。


 でも今は楽しいです。


 メルレン様や皆様のおかげです。


 ずっとこんな旅が続けられればいいなあ、なんて思ってしまいます。


 ヌクレヴァータでは大丈夫でしょうか。


 わたしのことを知っている人がわたしを怖がったり、石を投げたりしないでしょうか。


 ちょっとだけ心配です。


 メルレン様が守ってくださると思いますが、できればご心配やご迷惑をおかけしたくありません。


 心配です。





 ----ザックラー視点----



 あのエルフとは思えない面白いあんちゃんが出かけてもう何ヶ月かな。


 エルフといえばスカしたいけすかないヤツばっかりだったが、あのあんちゃんはサイコーだ。


 ボケればつっこむし、イジればいい反応する。


 腰は低いし、エルフ特有の見下したような喋り方もしない。


 教えればなんでも真面目に覚えようとする。


 要はすっかり気に入ってる。


 陛下もバルテルミもおんなじだな。あのあんちゃんは魅力的だ。


 オマケにエンフィールド公爵の懐刀だったジェラード・カーマインもあんちゃんが気に入ったらしく、昔みたいに精力的に動いてるらしい。


 「サイカーティス商会」とか作って、ほとんど悪ふざけに近い。


 北方一の鍛冶師グルミエまで呼んだっていうのを聞いて思わず新しい武器を発注しちまった。


 有り金ひっつかんで商会の窓口まで行ったはいいものの、慌てていたので何も考えていなかった。


「どんな武器にしますか?」


 グルミエの弟子に聞かれて思い出した。何造るかまったく考えてねえ。


 大剣は去年作ったし、槍はお気に入りがあるし、戦鎚は使わないまま埃かぶってるし。あ、そうだ斧槍にしよう。


「おう、斧槍頼むわ」


「騎士様は体格がよろしいようですから、3.5mにしますか?」


「構えた時に頭ひとつ抜けてると目立つしかっこいいから4mにしてくれ」


「重いですよ?」


「構わねえよ」


「材質はどうしますか?」


「んーミスリルあるか?」


「ございます」


「じゃあミスリルのインゴットから一体成型で叩き出してくれ」


「……」


 弟子は黙った。呆れたようにこっちを見ている。


「んだよ」


「いえ、4mもの斧槍を叩き出して鍛えるような設備がありません…」


「カタいこと言うんじゃねえよ」


「そう言われましても…」


 そんな押し問答を続けているところに丁度カーマインがやってきた。


「どうしました?」


「こちらのお客様が」


「おう、邪魔してるぜ」


「これはこれはウェズレイ様、このような日の浅い鍛冶屋へようこそおいでくださいました」


「グルミエが来たって聞いてよ、これは武器マニアとしては一本作ろうと思ってな」


「これはありがとうございます。どのような武器をご所望ですか?」


「斧槍だ。ただし4mで総ミスリルにしたい」


「柄もですか?」


「ああ、柄もだ」


「並の三倍はありますよ?」


「重さか?金か?両方余裕だろ」


「ははは、さすがウェズレイ様です。グルミエを呼びましょう」


 カーマインは弟子に言ってグルミエを呼んでこさせた。


「できるぞ」


 グルミエは即答した。


「炉が小さい分は天井に滑車を吊って振り回して突っ込んでやればいい。どっちみち刃の部分は別に作って貼ってから鍛えるんだ。問題はない。ただし三倍じゃ無理だ、五倍くれ」


「構わん」


 俺は金貨二百枚を積んだ。


「多いぞ」


「カーマイン、残りでそれに魔術付与してくれ」


「かしこまりました。どんな魔術を付けますか?」


「耐久増加、できれば不壊がいいな。あとはつけられたら魔術防壁破壊もな。足りるか?」


「充分でしょう」


「付与成功したら名前付けるわ」




 二週間で仕上げてきた。


 きっちり注文どおり、いや注文以上の出来栄えか。


 全長4m10、重さは並の斧槍の三倍、ただし重心がうまく取れてるので振り回しやすいし突きやすい。


 付与魔術は不壊に魔術防壁破壊。


 あまりにも完璧だったんで、王都デビューのグルミエの宣伝になればいいと思ってかっこいい名前をつけてやることにした。


 しかし、よく考えたら俺はそういうセンスがない。


 バルテルミに相談して名前を考えてくれと言ったのだが、


「自分でつけた方が愛着が湧きますよ」


 と言われ、それもそうかと思い直した。


 うーむ。


 結局名前は「皆殺しエクスターミネーター」にした。


 それを聞いたバルテルミ、カーマイン、グルミエは一様に下を向いて首を左右に振っていた。


 お前ら失礼すぎるぞ。

皆様いつもありがとうございます。

お気に入り、評価、感想、拡散などが原動力になります。

よろしかったらお願いします。

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