第十二話 「大賢者?」
ISO終わってようやくプレッシャー解放です。
更新ペース上げたいな。
「メルレン!」
だいぶぐったりしていたらしく外で待たされていたサラ達は僕の姿を見ると駆け寄ってきた。
「一体何があったのですか!?」
「いや、えーと大賢者の知恵にあてられたと申しますか」
まさか大賢者とはいえ異世界、この場合だと僕らの世界のことまで知っているとは思わなかった。
「どうやって知ったんだ?」
ちょっとキャラが崩れつつオーベイに詰め寄った。
「本を召喚できるんじゃ。それを読むのだ」
「は?」
時はやや遡りぐったりから復帰した先程の小屋の中。
「古代の魔術でもいろいろでな、まあおどろおどろしいものや、国ごと消し飛びそうなもの、死んだものが生き返るなどおおよそロクでもないものから、向き不向きだけで使えるちょっとした魔術まで様々じゃ」
蘇生術ってロクでもないのか…?だって死んだ人が生き返れば、悲しむ人が減るからいいような気がするけどなあ。
いやまてよ?病気で死んだ人を生き返らせても体弱ってるしすぐ死んだりとか、戦争で死んだ人が生き返っても戦争が続いていたらもう一回死んだりとか、そもそも生き返らせる対象が善人とは限らないのか。
やっとのことで討伐された極悪人がサクっと蘇生したらキツいわな。
「で、だ。ワシの会得した魔術はたまたまワシに非常に合っていてな、知的欲求の赴くまま関連してる書物を召喚したり、まったくのでたらめで召喚したりできたわけだ」
泥棒じゃん、もはや。
「あるとき読んだ本がどうにも読めん。まったく見たこともない文字で書かれておってな。くやしいので関連の本を召喚したら辞典のようなものがあって、ようやく文字の法則性に到ったわけだ。そこからは訳したりなんやでいろんな本を読んだ。ある時気づいたのが、『これはこの世界の本じゃない』ということだった。興奮したぞー。」
オーベイは鼻息荒く語る。
「で、関連づけできる本を数珠繋ぎに読んでいったらついにお前の本にあたったんじゃ」
「お買い上げありがとう」
「召喚するときに金なぞ払うワケがなかろう」
「万引きすんな」
「驚いたぞ、われわれの世界が描かれており、ワシまでいるではないか」
無視された。お巡りさんこの人です。
「そこで考えた。この世界はなんなのか。お前たちの世界はなんなのか。来栖瞬によって作られた世界なのか、けったくそ悪い神とかが作って、戯れにお前にそれを描かせたのか」
「神は嫌いか?」
「好きなヤツなんぞおるか!考えなしで独善的で、反省と成長という美徳からかけ離れた最悪の存在だぞ!」
「いや一応聖職者とかいるだろ」
「ヤツらが神が好き!?はっ、大笑いじゃ!あいつらは神の名をちらつかせて無知な民衆を支配し、なけなしの財産を巻き上げることしか頭にないペテン師集団じゃないか!」
こ、個人的恨みでもあるのか?
「それって悪魔と悪魔崇拝の方みたいだな」
「あっちのほうがまだフェアじゃろが。なにせ神に敵対して人間を堕落させるってはじめから言っとるぶんマシとは思わんか!?」
「ああ…まあ…そうかもな……」
「話が逸れたわい。考えてみたが、最初に言ったようにお前が作ろうが神が作ろうが同じだし、どうでもいいという結論になった」
どうでもいいのか。
「そういうことを考えてるワシがいる。なんかあったじゃろコギトエルゴスムとか」
「デカルトかよ!」
「あれはデカルト本人の言ではないぞ。訳者でそうなったらしい」
「やかましいわ!」
「他にもあったじゃろ、おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ、とか」
「今度はニーチェかよ!しかも意味全然違うよ!ていうかボケるなよ!」
「お前なかなかツッコミが鋭いのう」
「は・な・し・を・す・す・め・ろ!」
こいつ絶対最初はキャラ作ってたな。
「というわけでだ。お前と近い位置からワシもこの世界を俯瞰できる。ただしワシには物語る才能はまったくない」
けっこう柔軟な頭してそうなクセに何言ってやがる。
「大魔術もロクに使えぬので、ワシをヌクレヴァータに連れて行っても特に働きは期待できん。大軍を追い返すような奇策を持ってもおらぬし、奇門遁甲八陣とかも使えぬ」
こいつツッコミ待ちにも程がある。
「だから助言は先程の内容で終わりじゃ」
「世と物語を欺けってヤツか」
「そうだ。あとはお前が描けばよい。いつもどおり、その紙にな」
オーベイは肩懸け鞄を指さす。
「そうか・・・。まああんたが来てくれるかは怪しいところだったしな。なんとか知恵を絞ってみるさ」
「そのほうがよい」
「もう一個頼まれてくれ」
「なんじゃ、面倒じゃな」
そしてこの怪しい大賢者とのやり取りで消耗しつつも、サラ達にもなんかご褒美的なものをと思ってオーベイを連れて出てきた。
「せっかく来たのだからと、大賢者殿が一つだけ問いに答えてくれるそうですよ」
オーベイは滅茶苦茶嫌がっていたが、メルレンの話で悪口書かれたいのか?と脅したら渋々承知した。
意外と自意識はあるらしい。
ただし、「ワシは占い師じゃないから結果は知らん」とのことだ。
まず最初はアル君だ。
「大賢者様、僕は立派な騎士になれるでしょうか?」
オーベイはじっとアル君を見つめた。そしてもったいぶったように瞑目してから話はじめる。
「お前の行く末は決して楽なものではない。数々の困難が振りかかり自分の進むべき道も見失いそうになるかもしれん。しかしお前がそれでも努力を続けるならばお前の望む道はきっと開かれよう」
うわー、典型的などうとでもとれて、逃げ道があって、なおかつお客を不快にさせない占い師トークじゃねえか。
こいつまさか占い本まで読んでるんじゃ…
「ありがとうございます!大賢者様!お言葉を胸に刻んで精進します!」
アル君の素直さがあれば何やっても結構いけると思う。
続いてはランベール。
「大賢者様、わたしの望みはお嬢様、サラ様の幸せでございます。それはかなうものなのでしょうか」
ランベール…なんか忠誠心高すぎないか?信憑性はともかく大賢者占い(?)だぞ、ド○ゴン○ール7個あつめて他人の望み願うパターンか!
「主の幸福を願うとは見上げた心がけ。お前の主はお前を得た時点で幸福だといえよう。そしてお前がこの先さらなる幸福を願い、尽力する限り主には幸福がもたらされよう」
おー、いいこと言ってるように聞こえるけど、当たり前の内容だぞ。しかしランベールは目を潤ませ深く頭を垂れた。
「お導き感謝いたします、大賢者様!」
さて、サラだ。
「はじめまして大賢者様。わたくしはジーベル・ヴィクセンが娘、サラと申します」
「伯爵殿は壮健かな?」
「はい。おかげ様を持ちまして病ひとつしておりません」
「それは何より。歴代の御領主と比しても大変仁君であられるようだ。ぜひご自愛されるよう」
「たしかに伝えます。それで…」
「そなたの聞きたいことはご自分の伴侶のことかな」
ボンッと赤面するサラ。下を向いてボソボソなにか言っている。
「そ、そのとおりですわ」
「よいよい。ワシには見えてしまうのだから」
どんどん新興宗教の教祖みたいになってくるな。こいつ人に会わないとか言いつつこういうの好きだろ、絶対。
「いま憎からず想う異性がおるな」
「……はい」
サラはますます赤面しながらこちらに一瞬視線を寄越す。オーベイもチラリとこちらを見てニヤーと笑った。
お前らはっ!
「しかしその殿方は類稀なる朴念仁だな。これはそなたがよほど積極的に働きかけぬ限り思いが伝わることはないの」
いやこれもう文句言ったほうがよくないか。
「積極的にですか!?」
「そうじゃ。夜這いも辞さぬ覚悟でおれ」
またニヤーと笑うオーベイ。じじいちょっと待ちやがれ。
危うく歩き出そうとしたところにサラが続ける。
「その方はよき領主になれますか?」
サラはそれまでとは違う懸命な目でオーベイに問うていた。
そう、サラはなんというかまっすぐなんだよなー。そこは結構ぐっとくる。
しかし僕は所詮この世界の人間じゃない。
「能力でいえば充分だ。知力、胆力、理性、公正さ、およそ領主に必要な資質は備えておるよ。しかし」
オーベイは言葉を切る。
「その殿方は数奇な運命を背負っておる。世界の命運に関わるかもしれぬ。そうなればひとつところに留まることはないであろう」
そうです、ひとつ世界には留まれません。
「それに随分と美男子のようだ。頭もキレる、腕もたつ、顔も良い、ではこれから先ライバルが増えるかもしれん」
なにー!?ハーレムルート開放ですかー!?いやいや異世界でそれはどうなのよ。
オーベイはニヤー。おい!嘘かよ!
サラは愕然とした顔でこちらを見て、ジト目になっている。おい!嘘だぞ!てゆうかお前とどうにもなってねえじゃんか!
「そなたの望む未来はそなたの努力によって手繰り寄せられるものだ。ゆめゆめ忘れてはならんよ」
「心得ましたわ、大賢者様!」
ひでえペテン師だと思うぞ!
みんな気が済んだ(僕は不満だらけですよ)ので食事や休憩をしてから出発となった。
一応軽く見送りに来たオーベイは急にポンと手を打った。
「あ、忘れておった!」
なんだよー、なんか嫌な予感がするよ。
「王の名代で来て手ぶらで帰ってはお主の栄達に差支えよう」
いや、別に気をつかってくれなくていいです。
「ワシの蔵書整理のために虚数空間に図書館を作ったまではよかったのだが、分類が面倒だったのでちょうど来た弟子志願の人間を放り込んだ」
うわあ、気が狂いそうな仕打ちだな。
「あいつなら魔術の才能もピカイチだし、連れていって好きに使え」
あ、その設定思い出した!
「ちょっと待てよ」
オーベイはドアに向けて何事か念ずると、ドアを開けた。
するとそこはさっきの小屋の中ではなく、巨大なスペースが広がっていた。
「おーい!こらー!弟子ー!出てこーい!」
名前覚えられてないんだ、あいつ……。
「お師匠様ただいま参りますー」
パタパタと足音がして入口に女性が現れる。
やや小柄な身体。盛大なタレ目。覇気のない声。
これぞ西の十王国物語 第二巻「魔術師の素質」主人公、リュタン・シーリアだ。
バルディスの北に位置する大国、帝政マガニア。
十王国の中でも最も古い歴史を持つ国で、強大な軍事力を擁するものの覇権を求めたことはあまりない。
軍事力の中心となるのは練度が高く兵力も巨大な通常兵力を中心に海軍力、そして組織だった戦闘を得意とする魔法兵団ミスカーチュの存在が大きい。
古代語で「隠秘」を示す名を与えられた魔法兵団は団長のルロイス・ボードハウアをはじめ有名な魔術師が数多く在籍する。
中でもアルフォンゾ・シーリア、エルシェス・シーリアという兄妹の魔術師のことは、若さもあいまって知る人が多い。
代々有力な魔術師を輩出してきたシーリア家、中でもこの兄妹の力は高かった。
リュタンはそのシーリアの末妹だ。
兄たちの才能のせいでリュタンは非常に期待されていたのだが、蓋をあけてみるととんだポンコツだった。
魔物が怖くて魔術の詠唱ができない。パニックになると魔術のターゲットがランダムになって味方に被害が出る。
ついた渾名が「人間爆弾」。
兄は「裂地」、姉は「複合竜巻」なのに…。
出力は兄達を凌ぐものがあるもののほぼ制御不能。リュタンはミスカーチュに入ることができず、シーリア家にも居づらくなってしまう。
めげずに修行の旅を続けるが、行く先々ではほぼ迷惑。最終的にはオーベイの元に身を寄せ多少は制御できるすべを身につける。
やがてマガニア領内に手負いの古代竜が迷い込み大被害が出る。ミスカーチュにも甚大な被害が出て、シーリア兄妹の部隊も向かうことになる。
窮地のシーリア兄妹を救うべく現れたリュタンは、大量の触媒と3人の合成詠唱という荒業で天変地異の魔術を使用する。
古代竜はかくして撃退されるが、地と火の合成術型の天変地異によって現場には巨大な火山ができてしまった。
責任を取らされる形でリュタンは追放される。兄妹は寛大な処置を受ける。
そして出戻るようにオーベイのもとに戻ってくるのだが、扱いに困ったオーベイは教授料の代わりにと無限図書館の司書としてリュタンを使うことにする。
要は自習だ。
物語の結びではリュタンはのんきに「本がたくさん読めます」と喜んでいて、「再びリュタンが活躍するのは別のお話」としておいた。
それが今っすか!?
たしか一年くらいはここにいたはずだけど、魔術の制御はもうできるようになったのか?
「これはワシの不肖の弟子だ」
「はじめまして皆さん、リュタン・シーリアです」
戦慄が走る。無理もないよなー。
「人間爆弾リュタン・シーリア!」
「マガニアの天災・・・」
「なんだかひどいこと言われてる気がします」
いやだいたい合ってる。ギロリとオーベイをにらむ。
「大賢者殿、魔術師の手を借りたいのはやまやまですが、リュタン殿はそのう、魔術の制御は可能なのですか?」
「いや無理じゃ」
あっさり白状するオーベイ。
「お師匠様ひどいです。少しはできますよ」
「できるうちに入らんわ。結局こいつは魔力の出力が大きすぎて微妙なコントロールがうまくいかん。修行しても先に寿命がきそうなのでワシが代わりに特製の制御式を組み込んでおいた」
「どういうことですか?」
「まあ、説明しても伝わらんと思うので省く」
おい。
「とにかく、ざっくりとおぬしが命令者であること、国のピンチには制御式を発動することが書かれているから心配はいらん。きっと役に立つ」
「大賢者殿がそういうならば……」
すごく不承不承なおかつすげえ不安なんだが。
「ん?お師匠さま、わたしはこの方と一緒にどこかへ行くのですか?」
「まあ、そういうことじゃ。麗しの都見物でもしてこい」
「ヌクレヴァータですか!?楽しみです」
楽しそうにはしゃぐリュタン。うん設定どおりのドジっこ天然だ。
やや展開についていけない他三人だが、アル君はいいとこだけかいつまんだようだ。
「ご主人様、これで主命が果たせたということですか?」
「うん、まあそうなりますね。大賢者殿の代理として助力していただくのですから」
「そうですか!一刻も早く王都に戻り陛下にご報告しましょう」
ランベールはリュタンの悪名が気にかかるらしい。
「メルレン様、大丈夫なのですか?」
「大賢者殿が大丈夫というのであれば信じるよりほかにありませんよ。それに魔術の力ならばわたしなど大きく凌ぐのはご存知のとおりです」
「ええ、そうですね……」
サラも不安そうな顔をしている。
「大賢者様」
「なんじゃ?」
「まさか、まさかとは思いますが」
「なんじゃ?」
「こちらのリュタン様が先ほど言っておられたライバルなのですか!?」
おい!そっちの不安かよ!
「さあ?わからんぞ?」
にやー。
お前らいい加減にしとけよ!
マジでいい加減にしておいて帰路につかなくては。
リュタンは馬に乗れるが、馬の数が足りないので僕がアル君を乗せ、アル君の馬をリュタンに貸してヴィクセン伯爵のところで馬を調達することにした。
「なんじゃ、お主がリュタンを乗せてやればよいものを」
「それならば、わたくしがメルレンと乗ってわたくしの馬をリュタン様に!」
「いやサラは甲冑着ているのでわたしの馬が潰れてしまいます」
「わ、わたくしが重いとおっしゃるのですか!?」
「いやサラではなく、甲冑だと言っていますが…」
「メルレン様の馬かわいいですね。わたしはこの馬に乗りたいです」
「なりません!」
とかいうゴタゴタがあったことを付け加えておく。
というわけで往路が終わり折り返しだ。
旅の仲間は一人増え五人となった。
しかし、オーベイ酷いキャラだったな。
いろいろ無茶苦茶だ。
ただ、ふざけているだけではない。真理が含まれている、ような気がする。
特に「生み出すこと。見ること。その違いにどれほどの意味があろう。ありはしない同じことだ」という言葉が妙にひっかかり、また僕の心を楽にしてくれた。
僕は物語を生み出したかもしれないけど、個々の人物のすべてを詳細に追っているわけではない。
むしろほんの一部を切り取っているだけだ。
世界は一部とその他たくさんで回っている。今その中にいる僕はそれをあまり気にする必要はないのではないか。そんな気になった。
肩懸け鞄の中のルーズリーフには僕が見たことだけを書いていくしかない。
見ていないことは書けないのだ。
さあ帰ろう。
そして思うままに行動してみよう。
そしてそれを書き留めていこう。
いつもと同じように。
いつもご愛読ありがとうございます。
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