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異界のストーリーテラー  作者: バルバダイン
第一部 「イダヴェル戦乱編」
12/65

第十話 「ヴィクセン伯爵領にて」

あれ?オーベイのとこに行くはずだったのにな・・・

 赤の月も半ばとなり、僕たちの旅は日中の暑い時間を避けて早朝出発、昼前に休憩して午睡、夕方出発、日がすっかり暮れてから野営と2部構成で進んでいた。


 だってあっちーんだもの。


 暑いと無言になる。


 機嫌も悪くなる。


 サラと無駄な言い合いが多くなる。


 余計疲れる。


 なのでラテン風にシエスタ制で行ったわけだ。


 結果的には成功だったかな。


 昼間の熱が冷めて夕涼みしながらの騎乗は結構心地いい。

 

 おかげさまでわたくし、一端のジョッキーになりました。


 ケツの皮も逞しさを増し、強行軍でも悲鳴をあげなくなりましたよ。


 アル君も強くなったね。


 あと勉強できるねー。


 僕と違って理系だと思うよ、きっと高校大学とか行ければいい会社に入れたろうに。


 途中から全員に剣術を教えることになった。


 というかサラとランベールはあんまり教えることがない。あとは経験。


 上達を考えるのなら、もう一人のグレイエルフ、放浪の剣士ラザルス・アクシオムあたりに教わればいいんじゃないのかなあと思う。


 でも、あの爺さんスケベだからなー。


 絶対サラもランベールも揉まれるだろうなあ。


 このラザルスというグレイエルフは僕の師匠レイスリー・プロガーンより全然強い。


 もうそろそろ1900年以上生きているというのに、その間ずっと剣の修行だけをしてきた。


 修行はストイックで大陸中央部の古代魔法王国の跡地「忘却の荒野」で数十年も魔物狩りをしたり、バンディオルフ王国の北、北の屋根山脈の氷洞に籠り、黙々と剣技の追求を続けたりする。


 どの国にも与せず、自分の好きなように剣を振るう。住まいは定めず、行く先も定めない。


 と、こう書くと人との関わりを嫌う孤高の剣士っぽいのだが、その正体はエロじじいである。


 おおよそエルフっぽくない薄汚れた老人のなりをしており、重度の女好き。修行で禁欲し続けたあとは大抵無茶な勢いで発散する。


 それもエルフらしくない。


 剣に関しては並ぶものがないと言われる。


 ただし、唯一の弟子であるダルタイシュ・セルワーを除いては、という注釈がつくのだが。



 剣の天才というありふれた言葉では言い表せない男。


 カタラクに立ち寄ったラザルスが才能にほれ込み、弟子に取りたいと自ら言わせた男。


 ラザルスが1000年以上かけて築き上げた技術を5年で吸収しつくした男。


 卒業試験では、かのラザルスから一本とったという。


 「砂塵の覇者」ダルタイシュ・セルワー。




 そうこうするうちにヴィクセン伯爵領にかかろうとしていた。


 予定では、せっかくなのでジーベル・ヴィクセン伯爵に挨拶をして、なんならサラはそこに置きっぱでオーベイのところへ向かおうか、ということになっている。


 主に僕の心の中で。


 旅の間に随分とっつきやすくはなったけど、やっぱりちょっとかったるい。


 そんな無理についてこなくてもイイデスヨ。



 

 さて、ヴィクセン伯とは僕のお話では触れられていない。


 なのでランベールに聞いたものが全てである。


 もともとはバルディスに限らず十王国では半数以上の国で貴族制度があり、制度はどれも似通っている。


 地方委任領主が貴族というシステムだ。


 男爵は出身が豪商や地方の実力者がほとんどで、領土経営や人心の掌握などを認められ貴族に取り立てられたものだ。


 子爵は侯爵、伯爵からの分家で領土を分割されるものが多い。


 有能な次男、三男、または娘婿などが王の許しを得て爵位を得る。


 重臣に領土が下賜されるものは伯爵、中でも功績が極めて多大な者は侯爵に叙勲される。


 公爵は王族であり、姻戚家は公爵ではなく、伯爵となることが多い。


 ヴィクセン家は旧い武門の家であり、東部国境の守護を任されて、この地を治める。


 騎士団もあり、なかなか強い騎士団長がいるそうだ。


「騎士団長は剛直な方なのですが、子息が」


 ランベールは顔をしかめる。


 なんでも結構な小悪党キャラらしい。


 街のゴロツキとつるんで悪事をはたらく、女性にちょっかいを出しては断られると嫌がらせをする。


 父が叱っても一向に懲りないらしく、巧妙に隠蔽したり言い逃れたりらしい。


「お嬢様にも執拗に言い寄っていました」


 おー、坊っちゃんいい度胸してるねー。


 蹴り潰されるよ?


「一度はお嬢様にひどく懲らしめられたのですが、腹いせに金で雇ったゴロツキを十人ほど差し向け、騎士団が出動する騒ぎとなりました」


 ぼ、坊ちゃん邪悪だわー。


 いっそ清々しいほどにブレないね。


 というか騎士団長教育なってなさすぎ。


「ええと、今回われわれが行ってトラブルになる可能性は?」


「そろそろ更生していて欲しいものですが、三つ子の魂百までともいいますし…」


 うわあ、そのことわざってこの世界にもあるのかよ。


「お嬢様の言葉ではありませんが、その様な不逞の輩はメルレン様が無礼討ちにしてしまえばよろしいかと」


 いや、よくないよ!真顔で言うと冗談かどうかわかりづらいよ。


「騎士団長殿のご子息を無礼討ちという訳にもいかないでしょう」


「意外と騎士団長殿も安堵なさるかもしれませんよ」


 だから真顔はやめてください。




「よくぞ戻った、サラよ」


 ジーベル・ヴィクセン伯爵はサラの父親とは思えないほど(失礼)落ち着いた雰囲気のナイスミドルだった。


「即位式以来ですわね、お父様」


「ランベールもご苦労」


「いえ、お嬢様はとても成長なさいました。わたしがお世話することはほとんどありません」


 そうだね、世話というかフォローが多いよね。


 伯爵はこちらに近づくと礼をしながら握手を求めてきた。


「娘の危機を救っていただき礼を言わせて貰うよ、メルレン・サイカーティス殿」


「騎士たれば女性を護るのは当然のこと、礼には及びません」


「それではわたしの気が済まない。せめて宴席でももうけさせてくれ」


「ありがとうございます。正直長旅の疲れもありますので、お言葉に甘えさせていただきます」


 そして僕らは部屋を借りて、ひさびさに手足を伸ばして休むことができることになった。




 おー貴族のパーティーすげー。


 なんか小洒落た料理がてんこもりだぜー。


 家でもランドルフさんの料理は結構なものだったが、宴会料理はレベル違うなー。


「ご主人様、おいしいですねー」


 食べ盛りのアル君に遠慮なくいただきなさい、と言ったら結構遠慮なく食べている。


 ランベールさんはさくっとホスト側になっており、給仕のサポートをしている。


 招かれた客はそう多くないようだった。


 家臣が主になるのだろう、サラの一時帰還記念パーティの感が強い。


 サラは伯爵令嬢らしくドレスアップしており、賓客相手ににこやかに愛想を振りまいていた。


「ああしてると普段のサラとは別人のようですね」


「聞こえますよ」


 地獄耳注意。


 中締めあたりで伯爵が僕を招いた。


「皆聞いてくれ。こちらが栄えある宮廷騎士団に新たに加わった騎士団長代行補佐メルレン・サイカーティス殿だ」


 皆はざわざわと注目する。


 ちょっと恥ずかしい。特に肩書きが。


「グレイエルフながら王国に力を貸してくれ、魔法剣士という実に稀有な才を持っている。ここまでの道中でも娘サラの危機を救ってくれるなど実力も充分だ」


 おお、というどよめき。


「今日は娘を救ってくれた恩人へのささやかな感謝として宴をもうけた。どうか皆もメルレン殿に拍手を」


 満場の拍手。


 これは普通に照れる。


 しかし伯爵に促され手を挙げて応じるのだった。


 こういう洋風のリアクションは慣れないなあ。


 なんかペコペコしたくなる。


 適当に切り上げて席へ戻る。


「ご立派でした、ご主人様」


「ありがとう」


 アル君はまた目を輝かせている。


 これは慣れた。


 僕はふうっと息をつくと料理に手を伸ばした。




「やあやあ英雄殿、ご挨拶させてもらってよろしいかな」


 落ち着いて食べる間もなく声が掛けられる。


 さっきから入れ替わりでそんな調子だったのだ。


 エルフ、しかもグレイエルフ、おまけに剣士というと相当珍しいらしく、見物客が多い。


 しかし今のは中でもやたら大きい声だった。


「わざわざわたしのような者に恐縮です。失礼ですがあなたは?」


 テンプレで返してみる。


「わたしはヴィクセン騎士団に籍を置く、グロウス・ドロアーという者。団長のマーレンはわたしの父です」


 やや大仰に礼をするグロウス。


 これがあの邪悪ぼっちゃまかー。


 でもちゃんと礼してるな。


 更生したんじゃないの?つか邪悪なのに騎士?超スケールダウン版黒騎士?


「これはご丁寧に。わたしは古の森のグレイエルフにしてバルディス宮廷騎士団団長代行補佐を務めます、メルレン・サイカーティスと申します。よろしくお見知りおきください」


 ちゃんと礼を返す。


「メルレン殿はグレイエルフということで、さすがに見目も大変秀麗ですな」


 見た目のおべんちゃらまで言ってくるとはますます更生したんじゃねえの?


「いえいえ、エルフという生まれなだけで取り立てて言うものではありません」


 実際バルテルミには負けてると思うしな。


「サラ様もその美貌でモノにしたのですかな?」


「は?」


 ん?


「あのじゃじゃ馬を飼いならすのは腕力ではいかんともしがたい。さすればその顔で甘いセリフでも囁かれたのでしょう」


 あははは、前言撤回。


 こりゃあブレない邪悪ぼっちゃまのままだ。


「滅相もありません。サラ様はわたしになどまったくご興味を持たれませんよ」


 あと甘いセリフとか言わねえし。


「そうですか?耳にする噂と違うようですが」


「噂ですか?興味深いですね」


 ちょっと口調に剣呑なものを込める。


 が、坊ちゃんは気にしていない。


 気がつかないだけか。


「なにやらヴィクセンの女傑もエルフに骨抜きになった、とか」


 うわー、悪意しかねえな。


 それの発信源って今ここでお前発だろ。


「何やら楽しそうですわね」


 うわーサラよ、このタイミングでお前くるか?普通。


「これはこれはサラ様、ご挨拶が遅れて申し訳ございません。お変わりないようでなによりでございます」


「グロウスか。よい、お前の挨拶など待っていないわ」


 すげー!サラ△!ぶった斬るねー。


 当然グロウスはぐぬぬ、となるわな。


「しかしサラ様もご立派になられました。どこから見ても立派な騎士振り。その日焼けのしようなどは歴戦の古強者もかくやといったご様子」


「なっ!」


 サラは手痛い反撃を受けた。


 いろいろ言ってもはたちの女子。


 日焼け止めがあるわけではなく、馬車で旅をしてきたわけでもない。


 それで日焼けを揶揄されては唇を噛み締め黙るしかない。


 こいつまじで腐ってるわ。


「あ、失礼いたしました。見た目は騎士でも盗賊風情にはおくれをとったそうですね」


 にやにや笑うグロウス。


 これは酷い。


 サラは顔を真っ赤にして震えている。


 ちょっと泣いているのかもしれない。


 こいつだって立派な騎士として実力で爵位を継ごうとして必死なのになあ。


 と、思ったらさすがにムカついてきた。


 騎士団長の息子?関係ねー。


 ビバ!フリーダム!




 高校の時、親しくしていた女の子がちゃらーい男に口説かれたことがあった。


 彼女はそいつのことが嫌いだったので、きっぱりと断った。


 そしたらそいつは彼女が援交してるって噂をバラ撒いて、彼女はしばらく不登校になってしまった。


 その時はさすがにブチ切れて、帰り道でそいつを待ち伏せて、ご自慢の顔を中心に念入りに潰した。



 洗いざらい事情を話したおかげで、学校には両成敗的な処分にしてもらい、ふたりとも1週間の停学で済んだ。


 甘酸っぱい青春だ。


 当然、僕がそんなに怒ったのは彼女に惚れていたからだった。


 彼女は程なくして不登校から立ち直り、別のイケメンと付き合い始めた。


 まあ、そんなものである。




 今回はサラに惚れているわけではないが、こうも目の前で女子に無茶をされると沸々とクるものがある。


 決定。君はお仕置き。


 しかし、普段なら絶対サラがやっちまうと思ったんだが、やはりこういう席では自重するのだろうか。


 いや、席で自重したわけじゃないな。自分の父親に恥をかかせたくないのと、自分が治めるべき場所でむやみに評判を落とせないんだ。


 なんとなくそれがわかった。


 悔しいだろうな…、任せとけサラ。


「グロウス殿、お言葉が過ぎると思いますが」


「ほう、さすがお優しい。さては次期ヴィクセン伯を狙っておいでか?」


 何がどうなったら人間こうも腐れるものか。


 もう口を塞いでしまおう。


 対魔法使いの単体術を食らえ。


 魔法剣士は帯剣してなくても戦える。


薄膜(メンブレン)


 グロウスの鼻と口を不可視の膜で文字通り塞いでやる。


 通常は口だけ塞いで詠唱を止める。鼻まで塞ぐ場合は窒息を狙う。


 魔術的な膜で覆われるので呼吸だけでなく音声も完全に遮断される。


 というわけで無音暗殺(サイレント・キリング)にも応用できる。


 僕が小さく呟いたのを聞いてサラはハッとこちらを見る。


 グロウスはすぐ違和感に気づいた。


 自分の口元に手をやる。


 しかし何も触れることはできない。


 目を開いて何か言おうとするが言葉にならない。


「メルレン、あなた!」


 僕は手で軽く制して、グロウスの耳元で囁く。


「わたしの魔術ですよ。ちょっと息を詰まらせました」


 グロウスはぎょっとした顔でこちらを見て、僕の腕をつかんできた。


 よけてやる。


「おっと。触らないでもらえますか?汚らわしい。サラ様に対する汚い物言いも聞くに堪えなかったのでね。もう息ができないようにしてしまえ、と思いまして」


 そう言ってできるだけ凄惨な顔で笑ってやる。


 ひいいい、と声が出れば言ったかもしれない。


「このまま死んでしまっても何の証拠も残らない。料理でも喉に詰まらせて死んだ、ということで片付くでしょう」


 フルフルと顔を振るグロウス。


 段々と青黒い顔色になってくる。


「どうします?死にますか?」


 もう涙でひどい顔になっている。


「死にたくないですか?」


 ぶんぶんと大きく頷くグロウス。


 その頃には周りもなにやらおかしい様子にチラチラ見始めている。


 公開処刑!ってわけにもいかない。


「では、魔術を解きます。ですが・・・」


 握手をするかのように手を握り、ギリギリと強く力を込める。


「このことは他言無用ですよ。あとサラ様や町の人への狼藉もこれまでにしていただきます。でないと・・・いつでも殺して差し上げますよ?」


 グロウスの目がグルっと白目になった。


 足元には何やら湯気の立つ液体が広がっていく。


 アンモニア臭。


 うわこいつ漏らしやがった。


「誰か。グロウス殿が体調を崩されたようです」


 魔術を解除してから呼ぶと、ランベールがスッと近寄ってきた。


「お見事でした」


「いやいや」


 ばっちり見てたな。


 ランベールが他の人間を呼び、ぼっちゃんは退場した。


 これで大人しくなるといいね。




「メルレン…、ありがとう」


「すいません。せっかくの席で。ちょっとやりすぎましたかね」


「いいのよ、あんな奴!」


 サラのデレ度が上がった。


「騎士団長のマーレン殿も苦しいところがあったのです。出来の悪い息子とはいえたった一人の後継ぎ、どうにか更生させようと苦心していたけれど…。親の心子知らずとはよく言ったものね」


 なんかサラが言うと笑いそうになるけれど我慢しておく。


 サラはちゃんと親のこと考えてるもんな。


 そこは素直に尊敬するわ、僕はとても及ばない。


「でも魔法剣士の魔術ってたいしたものですのね」


「そうでしょうかね、一流の剣士相手だと分が悪いですよ。目で動きが追えないようではちゃんと狙えませんし、弱い魔術ばかりなので魔術防御の手段をもった相手には苦戦します」


「でもやりようはあるのでしょう?」


「そうですね。剣も魔術も所詮武器ですので、より巧く効果的に使うかが重要です」


 同様に魔術防御も鎧と同じ、直接被害を与えられないのであっても、目くらまし、欺瞞、陽動などやり方はいくらでもある。


「あなたには助けられてばかりですわ」


「女性を救う名誉は騎士の本分です」


 サラははあっと大きく息を吐いた。


「どうもその軽口が信用ならないのだけれど」


 こうして悪党成敗が日常業務になりつつあるが、今回の騒ぎはごくうちうちに収まった。




「宮廷騎士団の方にご迷惑をおかけして大変申し訳ありません!かくなるうえは息子ともどもわたしの首を刎ね飛ばしてください!」


 うわ!リアル土下座だ!初めて見た!じゃなくて。


「いやいやいや顔をお上げください。騎士団長殿に非があるわけではありません」


 いや、実際は親の責任もあるとは思うがね。


 うちうち、の内容は僕ら一行、マーレン騎士団長、ヴィクセン伯爵、グロウスの粗相を片した数人の侍女。


 これはグロウス終わったな。


 侍女はきっと疫病のように今回の話を噂で広げるに違いない。


『おもらし坊ちゃん』


 この渾名がついたらキツいな。


「わたしも少々キツく言い過ぎてしまったことをお詫びします。ただグロウス殿も充分に反省していたご様子でしたので、ことを荒立てないようにいたしましょう」


「マーレン、メルレン殿はこう言ってくださっておる。グロウスにはお前からも更に充分に言い聞かせよ。それで今回はよしとする」


 基本伯爵も甘いんだなあ。


 まあもうたっぷり脅したからそうそうは坊ちゃんも暴れないと思うけど。


 おもらし坊ちゃんに暴れる権利など与えられないと思うけどね。


「メルレン殿の寛大なお心に感謝いたします!」


 マーレン団長は床が摩擦で焦げそうな勢いで平伏している。


 騎士団は実力こそまあまあの者はいるが、統率力、人望を備えたのは、このマーレン・ドロアーを除いて代わりを務まるような人材がいないらしい。


 伯爵も団長本人もそれが悩みであり、息子の不祥事を明らかにしたり、またそれを理由に更迭してしまっては騎士団が機能不全に陥る恐れがあるらしい。


 グロウスはそうしたジレンマをも知って強気に出ていたらしい。


 まあ、あの息子じゃどうあがいても団長はできんだろうなあ。


「騎士団の人材不足についても王都に伝えておきます」


「重ね重ね申し訳ありません」




 ヴィクセン伯からサシ飲みの誘いを受けた。


「本当に手を煩わせてしまった」


「お気になさらないでください」


「正直言ってほっとしているよ。あのグロウスの扱いには困り果てていたからね」


 ノーコメント。


「それにサラも変わったようだ」


「サラ様が?」


「ああ、いつも気を張って、ついでに肩肘張っているばかりだったが、メルレン殿といるところを見ると少し柔らかくなったようだ」


「そうですか」


「あれは、わたしが男子に恵まれなかったせいで生き方を狭められてしまった。次期領主として、それどころか騎士団までも自分で率いようとしていた」


 陣頭に立つ女領主ってすごい絵面だなあ、過労死しそうだけど。


「もって生まれた気性も激しかったかもしれないが、親やまわりのことをよく考えてくれるいい娘だというのは親の欲目だろうか」


「いえ、サラ様がお優しい方であることは充分わかっているつもりです」


「手を煩わせるついでにもう一つ頼まれてくれないだろうか」


「わたしにできることであればなんなりと」


「サラだよ、あれを妻にする気はないかね?」


 えーーーーーー!?


「そ、それはご本人の意思などもありましょうし」


「ヴィクセンは貴族の家柄だよ。本人の意思などもとより関係ない。それにサラはおそらくまんざらでもないと思うがね」


 いやいやいやいやまてまてまてまて、落ち着け僕、考えるんだ。


 異界に飛んで数ヶ月で婚約はまずいだろ。


 帰ったら責任取れないし、そもそも僕はメルレンじゃないし。


 パニった。


 いい酒飲んでたはずなのに酔いが吹っ飛んだ。


 何か何かここを切り抜けるいい知恵PLZ!


 あ!閃いた。


「わたしはエルフですよ」


「わたしは気にしないがね。おそらくサラも気にしていないようだ」


 気にしろよー!


「しかし、サラ様の伴侶となれば領民の手前、エルフが領主か領主の連れ合いということになります。きっといらぬ反発を招くことになりましょう」


「ううむ」


 ふいー!切り抜けたか!?


「少し性急すぎたか。すまんなメルレン殿」


「いえいえサラ様を思えばこそでしょう」


「もう少し領内の意見を拾い、調整してみることにするよ」


 いや諦めてー!


「差し当たりサラのこと、これからもよろしく頼むよ」


「はい?」


「無事に主命を果たしてくれることを願っている」


 はい?連れてけって?


「あれも騎士としてひとかどになるまでは帰らんと言っておるしな」


 そうか、まあそうだろな…仕方ないか。




 こうして伯爵のビックリオファーとかがあって慌しい夜は暮れていく。


 何故か伯爵の部屋出たらすぐにサラが歩いてきて、


「お父様となんのお話?」


 と超含みのある感じで聞いてきた。


 まさかコイツ…


「おいしいお酒をいただき、道中のお話などをいたしました」


「それだけ?」


「ええ、なにかありましたか?」


「な、なんでもありませんわ!」


 怒った。


 有罪確定。


 デレたのかー、それ自体は喜ばしいことなんだろうけどなあ。


 とりあえずエルフなので無理です路線維持しよう。

次回こそオーベイのとこいきますよってに


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