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異界のストーリーテラー  作者: バルバダイン
第一部 「イダヴェル戦乱編」
11/65

第九話 「一方その頃的なこと」

いったん休憩回です。補強でしょうか。

 サラのデレフラグはそのまま一挙に崩壊、というわけにもいかなかった。


 ただ、態度は軟化したようなのでなにより。


呼び捨てで呼び合う様にランベールさんがちょっと、いや大分驚き、


「まさかお嬢様と、そ、そういう関係に・・・?」


 というアストロな質問をしてきたりした。


「まったくそういうことはありませんのでご安心ください。わたしの懸命な救助活動に何やら感じるところがあったのでしょう」


 実際のところサラはおそらく、「わたくしが認めた強い男ならちょっとはなびく」タイプなのだと思う。


 いやどんなタイプだよ。


 しかし、あれ見てヒかないのは余程強い男というか能力好きなんだな。


 「あれ」というのは僕vs盗賊首領戦で、僕が剣も使わず相手を切り刻んで口に蹴りを入れた「あれ」だ。


 個人的に婦女子を手に掛けようなどという不届き者は死んでしまえばいいと思っているので、どうということはないのだが女子的にはあまり凄惨なのはNGかと思っていたんだが、サラはいたく感動したらしくランベールさんとアル君に嬉々として様子を語っていた。


 ま、まあ格闘技見てエキサイトする女子も少なからずいるわけなので、そういうタイプの延長だと思えばいいか。




 そんなわけで、事後処理のため僕らを残して一旦ランベールさんはファークスの街へ戻った。


 僕らは待機、しているわけにもいかず、森の中で腱切って転がしていた奴らに応急処置して事情を教えてやったり、アジトでの焼死体を埋葬したり、火傷患者の治療、首領の応急処置と忙しく動き回った。


 ちなみにやはりというべきか、アジトに戻ったとき意識のある者は僕の姿を見て失禁した。失礼な。


 首領に尋問しようと思ったのだけれど、歯が全部折れていて激痛があるらしくまったく会話にならない。


 これはあとでファークスの衛兵に一任してしまおう。


 アジトには金銭や糧食も多くあった。


 冒険者なら戦利品になるのだが、主持ちとしては手を触れるワケにはいかない。


 すべての小屋を見て回ったが、ちょっと想定していた捕われの人なんかはいなかった。


 襲撃によって金銭、物品を強奪するのみで、さすがに営利誘拐や人身売買を日常的に行っているわけではなかったようだ。


 あくまでもサラの身分を知って、急遽起こした犯行計画だったわけだ。




 アジトは焦げ臭いし埋葬者もいることなので、夜には野営地に戻り夜を明かす。


 今日もアル君と打ち合いをする。


 アル君は頭がいい。


 こないだの数学入門の講義を交えながら教えると、どんどん吸収していく。


「アル君はスジがいいですね。この調子ならすぐに王都騎士団に入れます」


「本当ですか!?ご主人様に教えていただくとすごくわかりやすくて楽しいです」


「騎士団に入ったらめでたく従者卒業ですね」


 と、言ったらピタリと手を止めるアル君。


「それは困ります・・・ご主人様のもとで騎士を続けさせてもらうことはできないのでしょうか?」


「そう言われましても、騎士には任務もあるでしょうしねえ」


「あら、わたくしは騎士ですがこうやって旅を供にしていましてよ」


 いや、あんたのは主命じゃないか。


「そうですね!なにか方法がありますよね!」


「ええ、諦めてしまうのは愚者のすることですわ」


 むう、励ますとかサラの意外な一面を見た。


 それとも丸くなったのか?


 まあ、それ以上は僕からは何も言うことはなく稽古を続けた。




 翌日、はやくもランベールさんが衛兵の先遣隊を連れて戻る。


 こりゃ夜を徹して走ったんだろうな。


 サラとアル君に支えられるようにして馬から下りるランベールさん。


「ご苦労さまでした。ゆっくり休息をとってください」


「お気遣いありがとうございます」


 ランベールさんの回復を待つとして出発は明日かな。


「宮廷騎士団の方のお手を煩わせ大変申し訳ありません!」


 びしっとした敬礼。


 衛兵の責任者の人だった。


「行きがかり上仕方なく、ということでしたのでお気になさらず」


「しかし、奴ら50人以上を皆様で倒してしまったのですか・・・?」


「いえいえ、大分逃げた者もいるようですし、そちらの判断で山狩りや追撃を行ってください」


 責任者の物言いがちょっと畏れを含んでいることを感じ取り、フォロー気味に言ったのだが、


「実際に盗賊を倒したのはランベールさんが3人ほど、あとは全てご主人様が倒しました」


 アル君援護射撃ありがとう。


 全然いらないけど。


「ジーベル・ヴィクセンが娘、サラ・ヴィクセンも証人としてメルレン殿の戦果を証明いたしますわ」


 サラ、余計なフォローますますありがとう。


「なるほど、承知いたしました。現場を検分し賊どもを尋問したのち、王都へと報告いたします」


「ああ、事実だけを報告してくださいね」


「そうです!ご主人さまの多大なる業績を」


「わたくしが証明いたしますわ」


 もういいや。




 ランベールさんもほどなく回復し、後始末は衛兵団に任せ、ようやく僕らは旅へと戻った。


「しかし、年若き女性が2人混じって旅をしているという光景は奇異に映るのでしょうか」


 目立つことを危惧して発言してみる。


「不逞の輩が現れたらメルレンが無礼討ちにすればよいでしょう」


 信頼度が上がったのはわかった。


 しかし他がダメだと思う。


 まあメンツ変えるわけにもいかないし、このまま行くより他にはないんだけど。


 隊列は結構やたらになった。


 今はサラとアル君が並行し、僕とランベールさんが並んでいる。


「ランベールさんは乳姉妹というと随分長い付き合いなんでしょうね」


 サラは結構地獄耳なので、間隔に注意して話かける。


「生まれてこの方お傍に控えさせていただいております」


 声を掛けたものの何と聞いていいのか、自分の頭の中でもまとまらない。


 黙っているとランベールさんが話し出す。


「ヴィクセン伯ジーベル様はとてもお優しい方です。お嬢様をお産みになってまもなく奥方様は亡くなられました。その後は後添えを迎えられることなく過ごしておられます。お世継ぎはいらっしゃらないのでサラ様が婿様をお迎えするよりほかにヴィクセンの家を継いでいく方法はありません」


 サラの事情が語られ始める。


「しかし将来迎えられる婿様というのはどのような方になるのか想像がつかないわけです。諸侯の次男、三男とのご縁談もありましたが、いずれもヴィクセンの家を盛りたてるには役者不足とお嬢様は切り捨てられ、その代わりにどのような婿を迎えてもご自分が家を切り回していけるように様々な努力を積んでこられました。剣術、領土経営、社交界へのパイプなど」


 むう、ああみえて苦労してんだなあ。


 たしかまだ20歳だろ?僕の去年といえば小説、学校、合コンくらいだぞ?


 自分の将来の心配でも手に余るくらいだった。


 それを家、領民とか気を回してなんて、偉いなあ。


 バカ娘なんて思って正直スマンかった。


 高貴さは責務を伴う(ノブレッソブリージュ)、か。


「お嬢様は常に自分にも他人にも厳しくしていました。いえ、そうしなくてはならなかったのです」


「それで、わたしにどうしろと」


「…わかりません。ただ、メルレン様の強さを見てお嬢様には何か思うところがあったようです。ここまで他人に興味を持って近づかれるのはバルテルミ様以来かもしれません」


「従兄弟くらいしか心を許しませんか」


「なくなった伯爵様の奥方様がピアーズ侯爵の妹でしたが、それほどの交流はなかったのです。王都騎士団に入るにあたり剣術の指南を受けてから心を許されたのです」


「強さがひとつの基準なわけですか」


「それもあると思います。男性より強くなければならないと、お嬢様は考えておいでです。圧倒的な強さを持つ男性は、お嬢様のその頑なな心の琴線に触れるのでしょう」


「なるほど。ランベールさんはサラを大切に思っているのですね」


「ランベールとお呼びください。お嬢様を呼び捨てでわたしがさん付けでは問題になります」


「わかりました。ではランベール、あなたはサラ以上に剣の腕がたつようですが、それはどういった経緯で?」


「わたしは侍女としてお嬢様に仕えましたが、お嬢様の意思を知り、少しでも助けになればと思い剣術を学びました」


 しかし一見して町道場あたりで鍛えられるレベルじゃない。


 騎士団に入っても十人隊長くらいはすぐこなすだろう。


 おそらくはひとかどの師について相当な修練を積んだのだろう。


 なんやなんやええ話やないか。


 わがままお嬢様と苦労してそうな侍女、という認識はあらためよう。


 リスペクトだ。


 凜とした強い意志を持った女性と忠義の侍女だ。


「メルレン!喉が渇いたわ、先に街まで走って新鮮なフルーツを買ってきて頂戴」


 リ、リスペクトぉ。





 バルテルミ・ピアーズ目線

 


「これはなんとも派手な道行だな」


 ファークスの衛兵団から早馬があり、我らが新任代行補佐殿に関する報告が届いた。


「宿屋で騒ぎを収めたあと、近隣を悩ませた盗賊団の首領はじめ68名を壊滅に追い込む。なおそのほとんどはメルレン代行補佐単独の働きによるもの、か。いやいや痛快ですらあるな」


 魔法剣士の技は一対一で真価を発揮するが、対多数の戦いにおいても使えるものがある、とメルレン殿は言っていたがよもやこれほどとは。


 おそらくは技術もそうであろうが、それを効果的に使用する知略というか機転に優れているのだろう。


 今は対峙する者にとっては未知の技術なので、それを最大限に生かしているようだ。


 この先手の内があかされていけば、きっと勝負に駆け引きを多く用いるのであろう。


 実に楽しみだ。


 彼の戦いは対峙していても、こうして伝え聞いてもとても心が浮き立つ。


 また是非手合わせしてみたい。


 できれば全力の彼と、しかしそれはかなわぬであろう。


 全力を出してはわたしが斃れてしまう、彼はそれを知っているがゆえに。


「こうしてはいられない。王にご報告だ」



 

 報告書に目を通す陛下は、やはり目を輝かせている。


「これはこれは愉快な旅のようだ。見れば盗賊団の死者は思いのほか少ないらしい。一方的でなおかつ手加減しているのだな」


「左様です。まだその力は充分に余裕を残しているのでしょう」


「正面からの剣技ではゼフィアやおぬしと同格とみた」


「御慧眼です」


「魔法剣士の技を加えればこの通りというわけか。まったくたいした補佐殿だな。このように領民の生活に寄与するのであればメルレンの取立てに眉をしかめていた者も納得せざるを得まいよ」


「宮廷騎士団本来の任務とは離れておりますが、盗賊団征伐が咎められるものではありません」


「うむ」


 ゼフィア様が国を離れたことは既に周知となっていた。


 動揺はなかったが、人気、知名度とも高い騎士団長の不在は、どことなく不安を感じている者もいた。


 メルレン殿はこれらを払拭するよい報せを運んでくれたといえよう。


「わざわざ民に報せるのもいやらしいな。噂ということで広めよう」


 陛下も同じ考えのようだ。


「バルテルミ、すまんが噂はこうなるぞ。『バルテルミを手合わせで破ったグレイエルフの騎士がファークスで100人近い盗賊団を一人で潰したらしい』とな」


 にやにやされている陛下。


 人数の上乗せの加減がなんともいえない。


「勝負の結果は火を見るより明らかです。わたしは負けを悔いますが、恥とは思いません」


「意気やよし」


 実際は悔いすらあまりない。


 今度は勝ってやろう、というよりは次はどんな戦いができるのか、と思う。


 不思議な男だな、メルレン殿は。




 しばらくしてヌクレヴァータ城下にグレイエルフの騎士の噂が流れ始める。





 コックニー目線



 サイカーティス家は仕事のし甲斐がまるでありゃしない。


 そりゃ人間楽するほうがいいに決まってる。


 けどね、楽することと暇を持て余すのはまるで違うんだよ。


 毎日、ぴしっとお勤めして、家の方に喜んでいただいて、それでお給金をいただく。


 それが真っ当な人間の生きる道だよ。


 ところがこの家のご主人様は、わたしが奉公に入ってからというもの最初の少しの間だけしか居なかった。


 なんだかヴィクセン伯爵領までお仕事に行っているのだそうだ。


 しかも相当お強いらしくファークスの街で盗賊百人を一人で退治したっていうじゃないか。


 そんな宮廷騎士様は初めて聞いたよ。


 ヒヤルランディの英雄王みたいな人なのかねえ。


 でもどんなに偉くたって、ダメだってお仕えするご主人様には違いない。


 家にいないお人に仕えることはできないよ。


 毎日新品のシーツを交換し、家中を掃除して、花壇の手入れをして、それでおしまい。


 お料理は自分たちの分だけなのだから、コックのランドルフも腕の奮い甲斐がないと嘆いていた。


 料理当番を代わろうかと言ったら、仕事を取るなと怒られたわ。


 でも、暇ではない者もいるのよね。


「エレイン!あんたいつまでかかってるの?ってシーツそれ裏返しよ!?」


 もう一人のメイド、エレインは正直いって出来が悪い。


 真面目で一所懸命なんだけどそれだけでご飯たべられたら苦労ないわ。


「す、すいません、コックニーさん」


 この娘にとってはご主人様の不在はありがたかった。


 何度も同じことをやらせて体で覚えさせないと、いざご主人様が帰ってきたときにきっと呆れなさるわ。


 ご主人様のベッドで、たくさんのシーツを持ってきて、ベッドメイクをしては片付けるということを毎日二十回はやっている。


 ついでに翌朝それを洗って干すのもエレインの仕事。


 でもこの娘ったらちっともうまくならない。


 あちこちに皺は寄るし、掛け布団にベッドカバー掛けるし、どうしたもんだろね。


 教育不行き届きでわたしのほうが叱られそうだよ。





 もうひとり忙しそうなのが、ご主人様不在の間の責任者、執事のカーマインさんだね。


 このお人は以前は長いことエンフィールド公爵の筆頭執事だったらしい。


 それがなんでこんな騎士の執事になったんだかねえ。


 あ、こんなってのは言葉のあやだね。


 わたしらのお給金はご主人様じゃなくて王宮が払ってくれてる。


 ご主人様も王宮から俸禄貰ってる身分だ。


 結構な金額を貰うらしいが、金に頓着にない人らしく全額をポンとカーマイさんに預けて行ってしまったらしい。


 カーマインさんはそれを「自分を信頼して預けてくれた」と思ってるらしい。


 わたしゃきっと違うと踏んでるんだ。


 ご主人様は剣は強くて、お優しいが、きっとお人よしで出世しないタイプだ。


 お金も持っていくのが面倒だとか、使うアテがないとかいう理由で預けたんだと思う。


 けどカーマインさんは張り切っているようで、商人のもとへ行ったり、呼びつけたりして品物の相場や遠くの町の様子なんかを聞いている。


「エンフィールド公は戦場では強かったのですが、領土の経営に関してはあまりご関心がなく、わたくしが貿易や産業への投資を一任されておりました」


 カーマインさんはすこし自慢げに言っていた。


 昔取ったなんとやらだ。


 ご主人様の俸禄を元手にして貿易やら商売をするらしい。


 失敗しなきゃいいけどね。ま、いいさ。




 なんにせよご主人様がいなくちゃわたしらも働き甲斐がなくて、暇で困るってことさ。


 早く帰ってきてくれるといいね。


さあて次回のストーリーテラーは

そろそろ途中を早送りして大賢者のとこへいきましょうか。

いや、だって街道旅してるんだし、そんな事件たくさんないよね?w


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