第八話 「ダンス ウィズ シーヴズ」
七話掲載時に日間ユニークアクセスが初めて50を超えましたー。
ありがとうございますー。こうやって一個一個目標があるといいですねー。
次は・・・なんじゃらほい?
「そうだ」
翌朝、出発しようという段になり宿の主人が言った。
ピーン!きっとこれはロクでもないイベントフラグだ。
そう直感した僕は、
「それではご主人、お世話になりました」
「ちょっとちょっと!待ってくれよ」
ち、呼び止めんなよう。
「なんでしょう」
「いやうっかり言っておくの忘れてたんだが、昨日あんたがのした奴らの中の数人が性質の悪い盗賊とつながりがあってな」
予想的中、面倒そうなイベントだ。
「周りを煽ったり物騒なこと言ってたのもそいつらなんだよ」
「おやおや雷撃の出力は全開の方がよかったでしょうか」
「やめてくれ!建物が黒焦げになる!騎士で魔術師なんざ初めて聞いたぜ。やっぱ宮廷騎士団ってのはバケモノがいるんだな」
「で?話はそれだけですか?」
「いやな、ここんとこその盗賊団の仕業と思しき隊商の襲撃が続いてるんで、あんたたちも気をつけた方がいいかもしれん」
「ほうほう。盗賊団は何人くらいいるのですか?」
「詳しいことはわからねえが、五十人くらいはいるだろうな」
「わかりました。忠告ありがとうございます」
「気をつけてなあ」
「ということだそうです」
盗賊団襲撃イベント発生の可能性を話してやる。
「……」
サラはまだ怒ってる。
緊急だったとはいえ魔術食らわせたんだものな。
しばらく放っておこう。
つつつーっとランベールに近づいて様子を聞く。
「ランベールさんが、椅子なりなんなりに引っ張り上げなかったのも責任の一端があるとご理解いただいたうえでお聞きします。サラ様、怒ってます?」
ランベールはジト目でこちらを見る。
「前半に関しては返す言葉もございません。メルレン様の右手の魔術発動の兆候と床の水を見れば状況が理解できるとふんだのですが、判断が間違っておりました…。それでですが、お嬢様はまだ大変にお怒りのご様子です。魔術を受けた状況とメルレン様が充分に加減をして生命の危険のないように配慮してくださったことも説明し、段々とご理解いただいてきてはいるようなのですが」
「ですが?」
「あの時、お嬢様を呼び捨てになされたのが気に入らないと仰せでして」
「え?」
記憶を巻き戻し。
『サラ!アル!ランベール!椅子かテーブルの上に乗ってください!』
うん、言ってる。
いやいや導火線そこなの?
ポイントがよくわかりませんね。
「咄嗟の事で失礼いたしました。しかしそれであれほどにお怒りに?」
あれほど、とは具体的にいうと僕に飛び掛り頬にみみず腫れをつくり、ケツに思い切り蹴りを入れてきたことだ。
とんだジャジャ馬である。
「わたくしを呼び捨てで呼んでいいのはお父様、お母様とお兄様だけよ!」
聞こえていたらしい。
『おまえ』呼ばわりされてブチ切れるヤンキーか、君は。
話を総合すると、魔術食らわされてキレたけど話はわかった。
腹立つが仕方ない、しかし呼び捨ては許せん。
ということか。
もう地図書いてもらって帰らせようかな。
しかし、そこはそれ僕は大人かつジェントルですから、無条件で謝ります。
「申し訳ございませんでした。あらためて自分の立場を弁えますのでどうかご容赦ください」
三十度~。
「ふん!」
ちっ。
その後、市場に行って飲み物食べ物を補充。
馬用角砂糖も補充。
ちゃんと練習用木剣も買いました。
そして再び出発。
しばらくは何事もなく進むけど、あれだけ露骨なフリがあると自然と警戒態勢。
みんな警戒態勢、サラ以外は。
ピリピリ三人、プリプリ一人。
気を張って進んでいくとなかなか疲れるものである。
一日中それをやっているともうぐったりだ。
おまけに地形的に怪しいところがあるとランベールさんか僕が偵察に行ってから進むのでペースもガタ落ち。
仕方なく夕方近くなって見通しの利く場所で野営の準備を始める。
「コンヤガヤマダ」
「え?ご主人様何かおっしゃいましたか?」
「いえ、こちらの話です」
火の傍で車座になり作戦会議。
「わたしはエルフなので夜目がききます。夜襲をかけてくる可能性が高いですが、火を見ず暗闇に目を慣らしておいてください。襲撃があったら即座に火を消して対応します」
「はい」
頷くランベールさん。
あとは僕は鎖帷子を脱いでアル君に着せる。
ちょっとダブダブしてるな。
「ご主人様、これは?」
「わたしは機動力と夜目を活かして撹乱しながら殲滅戦を展開します。その時鎖帷子だと音がして邪魔なので、防御を固めるためにもアル君に預けます」
「わかりました」
サラは…まあいいか。
夜も更け交代で見張りに立つ。
最初は僕が担当。
ランベールさんは落ち着かないようでキョロキョロしている。
アル君ももぞもぞ。
サラは身動きしていない。
うーん、擬似生物作成で周辺警戒でもさせようかなあ。
などと考えていると、
「!」
視界の端に動くものを見つけた。
北側200m先、森の木がきれるあたり。
人間だ、二人か。
「ランベールさん」
「はい!」
すぐに起き上がる。
アル君も起きる。
「敵を発見しました。どうやら斥候のようです。後に本隊が来る可能性があります。斥候が戻るのを阻止してできれば情報を聞き出します」
「わかりました」
「お気をつけて」
「はい」
ゆっくりと火の傍を離れて暗闇に潜む。
そして走り出すと徐々に加速していく。
「あ!おい!」
さすが斥候に出されただけあって残り50mで気づかれた。
二人は森の中へ逃げ込んでいく。
しかし舐めてもらっては困る、こちらは森の民エルフだ。
抜刀し、切っ先に魔力を込める。
「空刃」
変化型空刃は剣を振った刃風に魔力を乗せて目標に向かって打ち出す。
射程に変化はないが動作分威力が増大する。
「うわあっ!」
遅れていた男が両方の足の腱を切られてもんどりうつ。
こいつはとりあえず放置。
もう一丁。
先行している男はやや足に自信があるらしく木の間を巧みにすり抜けていく。
目標が絞りづらい。
「さてどうやって仕留めるか」
通常魔術では詠唱してる間に逃げられそうだなあ。
「それならば・・・幻体」
自分まるごとの幻影を作り出す、幻手のオリジナル版だ。立ってるだけの自分を映し出す雑な魔術なので幻手よりも制御が簡単だ。
後にいるはずの僕が目の前にあらわれて男は思わず足を止める。
いただきー。
両足の腱を切る。
こうしておけば行動不能だ。
さまよってきたモンスターに見つかってしまった場合はお気の毒だが。
さて情報でも聞き出しますか。
「盗賊団の方とお見受けしますが」
「へへへ、お頭の読み通りだ。今頃は伯爵令嬢は攫われちまってるぜ」
全身が総毛だった。
まずい斥候じゃない、囮だった。
僕一人を警戒し、おびき出すためか。
迂闊だったな。
すぐに取って返す。
野営場所が目に入ると乱戦になっていた。
竜咆を使うにはまだ距離がある。
仲間の姿を探すと、ランベールさんがアル君をかばうように戦っている姿が見えた。
敵の数はおよそ二十。
側面からの接近となる。
近づけばこちらに殺到してくる。
仕方ない、ちょっと手荒にいこう。
手加減していてはランベールさんがもたない。
すうっと息を吸って、一旦足を止める。
居合いの構えだ。
鞘ばしらせながら魔力量を瞬間的に最大にする。
「断空!」
横薙ぎの剣風は巨大な刃となり盗賊の一団を襲う。
「ぐわあ」「ぎゃあああ」
悲鳴があがる。
やや下目に放った真空の刃は十人以上の膝から下を切り離す。
「メルレン様!」
加勢に気がついて動揺する盗賊達と勢いづくランベールさん。
目の前の二人を片付けると僕の横にアル君とつく。
「サラは!?」
「面目ありません。急襲を受けて乱戦になり、その最中に拉致されたようです」
「わかりました。まだ遠くへは行っていないでしょう。こいつらをさっさと切り倒します」
「はい!」
ランベールさんは手加減なく急所を狙い、僕は手や足の腱を狙って残りを悠々と片付けた。
尋問でアジトを聞こうと思ったが情報の信憑性を確認するのももどかしい。
「擬似生物作成」
魔術でフクロウを八羽呼び出した。
退路を欺瞞している可能性を考慮し、八方向へ索敵を飛ばす。
「おそらく守りを固めているでしょうから、一人でいきます」
「お嬢様を助け出すのはわたしでなくてはいけません!」
必死の訴えをするランベールさんを押しとどめる。
「夜間の、多分森の中を高速で移動しますので、わたし一人のほうが早く目的地に到達できます。サラの居場所の見当がつき次第、奇襲をかけ大半を無力化します。その後拠点を制圧してサラを救出します」
「ですが!」
「森の中の盗賊に尋問した時に『伯爵令嬢』と口にしていました。今回は単なる人攫いでなく、伯爵令嬢であるサラに標的を絞った身代金目的の略取であると推測されます。その場合はヴィクセン伯爵になんらかの形で接触するまではサラの無事を確保しておく必要があります。ゆえに当面サラの身に危険が及ぶことはありません」
訥々と理論で諭す。
ただし大半は希望的観測だ。
命さえ無事なら構わないと酷い目に遭わされるかもしれない。
短絡的に殺したあと髪の毛でも切って伯爵に送りつけて交渉するかもしれない。
いずれにせよ時間が惜しい。
憔悴したランベールさんから離れてアル君のところへ、
「申し訳ありませんご主人様。僕がいたせいでランベールさんの注意が分散してしまいました」
「心配いりません。サラは今晩中に無事連れ戻します。わたしが行く間、ランベールさんを頼みます」
「ですが、僕で役に立つでしょうか」
「大丈夫、落ち着いて。アル君はすでに先程一度戦いを生きて切り抜けました。これは勝利です。生き抜くことを重ねればよいのです。あとはランベールさんの動揺を鎮めるためにミルクを温めて、ブランデーを少し落としたものをあげてください」
「はい」
「頼みます」
北西側のフクロウが戻る。
見つけたらしい。
一時間が経っていた。
他のフクロウを解除して、その一羽に案内させることにする。
「では行って来ます」
「お嬢様をどうかお願いします!」
「ご無事で!」
「万が一朝になっても戻らなければ、ファークスの街まで行って早馬で王都とヴィクセン伯爵につないでください」
「はい!」
闇を衝いて走り出す。
びょうびょうと耳元で風が唸り、木々の間を駆け抜ける。
最短距離だ、馬の通りやすいところばかりではないから馬を置いてきた。
ただ直線で目的地を目指す。
「あれか」
森を抜けたところに切り立った崖があった。
崖を背負うようにいくつかの小屋と大きい建物が粗末な造りながら並んでいる。
敷地には高い柵が回されており、一定の間隔をおいて歩哨が立っている。
「さすがに厳重だな」
大きい建物が首領のものだろう。
そこにサラが捕らえられているかどうかだが。
「窓からみえるところにサラがいるかどうか見ておいで」
フクロウを飛ばす。
フクロウは大きい建物の周りを飛び回ると、一番崖に近い窓辺にとまる。
「あそこか・・・」
敷地の一番奥。
柵を乗り越えている間に発見されれば、増援を呼ばれて大人数を相手にすることになりそうだ。
と、すれば
柵から離れて森に戻る。
盗賊の敷地を迂回して高さ30mはあろうかという崖に取り付く。
フリークライミングなど経験はないが、メルレンができそうだったので行くことにする。
わずか十分ほどで易々と崖を上りきる。
少し腕が痺れた。
「ふう」
息を整える。
ワガママお嬢さんだが、捕われて窮地にあるのはやはり胸が痛む。
あのクソ生意気なサラが恐怖におののいているかと思うとかわいそうだ。
あとちょっと見てみたい。
「さてヒヨドリ越えと行きますか」
奇襲の定番。
絶対来そうもないところから攻める。
このアジトも崖をつかって防御の方向を絞り込んでいる。
なのでそこを突く。
タッとためらいもなく30mの崖から身を躍らせる。
重力に引かれ落ちていく。
でも目は閉じない。
残り3m。
「空壁」
身体と地面の間に空気の壁を作る。
僕の身体はその見えないクッションのうえで軽くバウンドし、音もなく地面に降り立つ。
フクロウがとまっている窓まで10m。
窓からの灯りを避けるように近づくと、
「離しなさい!生まれてきたことを後悔させてあげますわ!」
聞きなれた声。しかも、
「めちゃめちゃ元気だな…」
なんか脱力した。
あの元気なら手荒な真似もされていないだろう。
そっと窓から覗く。
サラは後ろ手に縛られて両足も縛られ床に転がされている。
部屋の中には三人。ドア付近に二人。
偉そうにふんぞり返っている巨漢が首領だろう。
サラはずっと騒いでいるらしく、首領はうんざりした顔だ。
ご愁傷様です。
「おい!猿轡かませろ!」
首領の声が響く。
当然の処置だ、僕でもそうしたいくらいだもの。
言われて部屋の二人がサラの方へと動く。
「やめなさい!わたくしを誰だと思っているの!下賎の者は見るのすら無礼にあたるわ!」
ちょっとげんなりした。
が、全員の注意がサラに向いている。
今がチャンスだ。
小さめの横すべり出し木窓だがこれなら充分通れる。
つっかえ棒を跳ね飛ばしながらするりと室内に飛び込む。
一回転して抜刀。
サラにとりついていた二人に斬りかかる。
ここは最小限の犠牲はやむを得まい。
一人目が振り返るより早く、延髄に剣を入れ一瞬で絶命させる。
二人目が声をあげようと口を開けたところに刀身を突き入れる。
必要最小限まで刺し込み素早く抜く。
血を振り払って首領に向かって構える。
その時にはさすがに首領も立ち上がり肉厚のシミターをぶら下げていた。
「てめえか。魔術も使う騎士ってのは。騎士の戦いっぷりとは違うようだが」
「騎士といっても新米騎士でしてね。まほ」
うけんしがほんぎょうで、と言ってる途中で、
「遅すぎますわ!おかげで縛られるわ、こんな薄汚いところに押し込められるわ、散々でしてよ!これはあなたの責任ですわ!」
首領登場シーンなんだから空気嫁。
「申し訳ありません。すぐ助けます」
「先にわたくしの縄をほどきなさい!」
死にたいのか?こいつは。
首領と僕はしばし毒気を抜かれ沈黙。
いやいや気を取り直さないと。
「いい度胸だが、ここにはまだ四十以上の手下がいるんだぜ。ただで帰れるとでも思ってやがるのか?」
「ああ、それについてはあまり心配していません。四十人でわたしに斬りかかろうとすると渋滞してしまいますので。まあどちらにせよ、自分への攻撃をかわして相手への攻撃を命中させればいいだけのことです。実にシンプルです」
「ふざけやがって・・・殺すぞ!」
「先にほどきなさーい!!」
聞かないようにしよう。
首領の腕力、体力は相当なもののようだ。
しかしまったく関係ない。
達人級の剣士相手でもなければ、魔法剣士はタイマンで遅れをとることはない。
並みの相手なら剣を抜く必要もない。
なんでもあり。
それが許されるいわゆる真剣勝負。
そこにおいて魔法剣士は無類の強さを発揮する。
距離2m半。
一歩で間合いに入る。
魔法剣士ならその間に二発撃てる。
「雷撃、空刃」
魔法剣士として使う雷撃は威力こそ小さいが、着火と違い抵抗することが難しい。
熱いのは我慢できてもいきなり武器に電気流されたら、つかんでいることは難しい。
魔法抵抗のある武具や護符などを身につけていれば別だが。
「うわあっ!」
雷撃で剣を取り落とし、空刃で利き手の腱を切られた。
普通なら勝負あっただが、念をいれておく。
「空刃」
三つの空刃を作り出し、手足の腱全てを断裂する。
「く、くそおっ」
ドコオッ。
倒れて悪態をついた口に爪先を叩き込む。
ほとんどの歯を折られて首領は気絶した。
やれやれ。
さあ、やかましいお嬢様はと、
「……」
あれ?黙ってる。
「今のは何?」
「何と言いますと」
「戦いよ」
なんだか呆然としている。
雷撃の流れ弾でも当たったかな?
「魔法剣士の技で戦ったのですが」
「全然違うじゃない」
「何と違うのですか?」
「わたくしと戦ったときよ!」
あー、今回は攻撃術ばっかりで組み立てたからびっくりしたわけだ。
「手加減したの?わたくしの時は」
「いえいえ、そんなことはありません。魔法剣士の技は魔術を織り交ぜるのが特徴ですが、時と場合においてどのように戦うのが最善かを判断しながら使用することこそが真髄です。城での試合において攻撃術を放って、相手を傷つけるのが正しいですか?それでは試合前に毒を盛って相手を殺めることと違いがありません」
随分飛躍した論理だが、どうだ!?
「そ、そんなこと・・・」
お、効いてる効いてる。
「それに手加減したのはあなたもそうでしょう」
「そ、それはそうですけど」
「騎士は獣ではありません。分別を持ち剣を抜き戦う相手は誇りと名誉を守るために選びます」
「む、無論よ」
「今日はあなたの安全を最優先に戦い、二人殺しました。後悔はありません。これは騎士の戦いです」
「わかりましたわ、縄をほどいて頂戴」
「はい、ただいま」
さて、敷地内にはボス撃墜を知らない四十人くらいが残っている。
サラをつれて突破するのは少々しんどいなあ。
ボスの建物を家捜しすると、半地下の倉庫に明り用の獣油があった。
触媒につかえるかなあ。
うーん、あれは普通は硝石でやるんだよなー。
まあ、複合魔術にアレンジすればいけるだろ。
使えるものは油だろうが、サラだろうが使う。
「お願いがあります」
「何よ」
「ちょっと魔術を練りますので時間稼ぎと挑発と警告をしてください」
「どういうこと?」
敷地内にサラの声が響く。
「聞きなさい!下劣な賊どもよ!あなたがたの首領はすでに倒れたわ!」
サラってお偉いさんの血が入ってるんだなあと実感。演説うまそう。
国民も立ちそう。
盗賊どもは色めきたつ。
「知ってのとおりこちらにはバルディス王国宮廷騎士団団長代行補佐メルレン・サイカーティスがいるわ!彼の魔術で首領は手も足も出ずに地を舐めたのよ!」
手も足も動けないようにしてある。
あとやっぱ肩書クソ長いな。
「おとなしく去り、二度と悪事に手を染めぬならば神にも等しき慈悲を持って見逃しましょう。しかしよもや手向かいするのなら、吹き荒れる魔術の嵐によって物言わぬ屍に変えて差し上げましょう!」
さあ、どう出る。
全員撤退なら詠唱中止。
盗賊どもはがやがや話している。
が、充分なやる気を見せてこちらに向き直った。
どうやら相手が二人と見てなんとかなるとふんだらしい。
ならば連続魔術発動。
使う魔術は全部で四つ。
詠唱7分30秒の威力を思い知れ。
後半二つは防御呪文だけどね。
サラは手筈どおり入口まで運んであった獣油の樽をおもいきり押して外へぶちまける。
詠唱完了。
「煉獄!」
範囲攻撃用の火属性魔術。
硝石を触媒に使うことが多い。
魔方陣を併用して長射程化、高威力化も可能。
ゴオッ!
獣油を触媒にして火炎の嵐が巻き起こる。
ただ燃えすぎだ。
サラの足元の油にまで引火する可能性が高い。
混合させて韻律を唱えていた二つ目の魔術が発動する。
「旋風!」
下級風属性魔術。相手の歩行を困難にする、または吹き倒す。
強風をもって火の向きに指向性を持たせる。
炎の向こうがわでは逃げ惑う盗賊達が見える。
「頃合です。扉を閉めてください。」
サラは扉を閉める。
僕はその扉に向かって10秒詠唱。
「放水」
単に水を掛ける魔術だ。
飲料水の確保や、火事の時、火属性魔術を発動しようとしている相手に放つとまあまあ効果がある。
扉は水びたし。
最後の魔術だ。
10秒詠唱。
「氷結」
水を凍らせる魔術。
生物を凍らせることはできないので、冷気ダメージを与えるには適さない。
それは中級魔術雪嵐などを使う。
ドアが凍った。
カチンコチンだ。
これは火を防ぐためと、施錠がわりだ。
万が一前方に逃げてドアに殺到した敵に突入されることを防ぐ。
それから1分ほどで魔術の効果時間が切れる。
ドアはカチンコチンのまま自然解凍まちなので、窓から外をうかがう。
熱気がまだ残っているが静かだ。
そおっと出てみる。
建物前方に回りこむと数人の焼死体があった。南無ー。
ただ大多数は逃げたようだ。
生まれてはじめて魔術見た者がほとんどだろう。
よほどのパニックを起こしたに違いない。
火傷や逃げるときの混乱で動けないものもいたが戦意はなく放置しておいて平気そうだった。
しかし、魔術で何人か、剣でも最低2人、人を殺してしまったなあ。
何やら去来するものはあるが、ひどくショックを受けているわけではない。
メルレン補正か?てことはメルレン、結構殺してる?
(……)
何か言えや。
新たにフクロウを呼んで哨戒させながら夜が明ける前にランベールさんとアル君のもとへ帰る。
道中サラは大人しく、なんか変なものでも食ったのかと思うほどだ。
「ねえ」
ランベールさん達が見えてくる直前に呼びとめられる。
「なんですか?」
「認めてあげますわ」
「はい?」
「あなたが、わたくしを呼び捨てにすることを」
は?
これは、デレたのか?
「た、ただしわたくしもあなたを呼び捨てにしますわよ。対等の立場として認めてあげるのだからありがたく思いなさい」
おー!デレたよー。
完全攻略っつうか、デレフラグくらいだけど。
やっぱ助けるもんだなあ。
「なにをニヤニヤしていますの!?なんとかおっしゃったらどうです!?」
いけね。
「光栄です、サラ」
「一応お礼を言っておきますわ。ありがとう…メルレン」
なんだなんだイイカンジじゃねえかオイ!
そうして長かった夜が明けようとしていた。
寝不足だったので、そのまま昼まで寝た。
本当はもっと首領とやり取りしたかった気がしますが、まあこんなとこでこらえてください。
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なんかツッコミたい、言ってやりたい、奇特にも応援したい場合はコメントを。
えーい面倒だ、という場合は評価をお願いします。