最終話 俺らの未来は俺らのものであり、誰も変えることはできないということ
俺らの未来は俺らのものであり、誰も変えることはできないということ
こんな世界でも楽しいことはあるもんだな。
奏に出会ってからずっとそう思ってた。
奏と話すとき。
奏の笑顔を見るとき。
奏と一緒に歩くとき。
俺がそう思っていたときは必ず奏がいてくれた。
いつしか、奏は俺の大切な人へとなりつつあった。
「なあ、奏これもお前の思い通りなのか?」
奏は寝ているので答えは返ってこない。
俺は苦笑し奏と一緒にベットに入った。
「なあ、奏。俺でもお前の事を好きになってもいいのか?」
もちろん答えは帰っては来なかった。
だが、奏の顔はいつもみたいに笑顔だった。
俺はそれが嬉しくて奏を抱きしめたくなった。
しかし、それをやってしまってはただの変態だ。
それから俺は三十分くらい奏の寝顔を見てからゆっくりとまぶたを閉じ眠った。
次の日。
また、朝がやってきた。
この頃気づいたんだが俺は朝に弱いんじゃなく朝日に弱いらしい。
専門家は朝日を一日何時間か浴びないと骨粗鬆症という病気になるというがそんなのは関係ない。弱いものは弱いのだ。
「おはよ。今日も早起きだねぇ」
呑気な声が俺の耳に入ってくる。
「早起きなんじゃない。早くに起こされたんだ」
目を開けると奏が俺にまたがっていた。
「あはは。それもそうだねぇ」
奏の笑顔が視界に入った。
ああ、やっぱり笑ってんのな。
俺も釣られて笑った。
「あれれ? なんで笑ってんの?」
「お前が笑ってるからだよ」
俺たちは笑ってた。いつまでも笑ってた。
「ねえ。今日はどこ行く?」
「は? 異世界はいいのかよ」
「そうだねぇ。じゃあ、今日は異世界を散歩する?」
俺はため息を吐いていた。
「お前はなんで俺を手下にしたんだよ」
「え? だって、仲間がいたほうが面白いでしょ?」
また、お前はそんな理由で俺を手下にしたのか。
「楽しいのか?」
「うん。荒木くん只者じゃないって感じでとっても楽しいよ」
奏はいつものように笑っていた。
「なあ。そんなに笑ってるのはなんでだよ」
「え? だって、荒木くんが笑ってる私が欲しいって言ったからじゃん」
また、笑顔になった。
はあ、完敗だよ。お前にはいつまで経っても勝てる気がしないよ。
「さ、行くか。目的地はお前が教えてくれるんだろ?」
俺は立ち上がりクローゼットを目指す。
奏も立ち上がり俺の先頭に着く。
「うん。今日は昨日より面白いところに行きますよー」
俺は手を引っ張られながら指揮を任せる。
まあ、人生なんてこんなもんだ。
死のうと思ってた俺がこんな少女に助けられ今をのうのうと生きている。
世界ってのは理不尽だ。思ったこととは斜め上の方向に進んでいく。
時間は勝手に進んでいく。
そんな理不尽の中で誰もが悩みながら生きていく。
「なあ、奏」
「うん? なんだい、若造」
「呼び方に疑問を浮かべるがまあいい。お前はあと何年生きられる?」
「前に言ったじゃん。八十年。もっと生きたいけどみんなそんの位で死んじゃうよ」
俺はクローゼットから異世界の空を見上げた。
「八十年か。短いな」
「だよねぇ。だから、一日も無駄にせず二人で生きていこうよ。そう約束してくれたし」
後ろからで奏の顔は見えないがきっと笑っているのだろう。
なぜか、俺にはそう思えた。
「なあ、俺なんかがお前を好きになってもいいのかよ」
「何を今更。片思いならいいよ。それが成就するのは私の気分かな」
「なんだよ。それ」
「あはは。嘘だよ。私も大好きだよ」
そう言って俺の手を強く握った。
「ずっと一緒にいようね」
世界には神様なんてものは存在せず理不尽だけがはびこる今日この頃、たまには理不尽もいいことをするらしい。
こんな腐った世界にも、こんな腐った人間にも幸せは訪れるらしい。
違うか。人は皆、少ない幸せを噛み締め次の幸せに向かって時間に身を任せるのか。
俺はそれができていなかっただけか。
「ああ、そうだな。一緒にいよう。ずっと一緒にな」
運命なんてものは今でも信じちゃいない。
だって、このセリフさえ運命によって決められているとしたらこんなのは嘘になってしまうからだ。
未来さえも運命によって決められていると思ってしまうからだ。
そんなのはつまらないじゃんか。
だから、俺は未来ってのは自分たちに選択肢があってそこから選ぶものだと思う。
人生ってのはみんながみんな頑張って作った個人の歴史だと思う。
そして、俺は今日からこいつと歴史を刻んでいく。
いつまでも、いつまでも。