第四話 いつか見た夢の続きをもう一度
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いつか見た夢の続きをもう一度
夢とは意味を二つ持つ。
一つは将来何になりたいかの夢。
もう一つは寝た時に見る夢だ。
前者は忘れてしまった。もう、思い返すことすら不可能なくらいに消え去った。
だが、後者は違う。俺はたまに同じ夢を何度も見ることがある。悲しい夢だった気がするが覚えていない。
大会が終わった夜。
俺はまた奏の眠いと言われ抱っこして帰ってきた。
案の定奏は離れなかったので一緒のベットで寝た。
その夜、俺は夢を見た。
いつもと同じ悲しい夢だ。
違いをあげるなら出てきた人物に奏がいたことだ。
奏が泣いていたことだ。
体が冷たくなり指一本動かない。奏が叫ぶが聞き取ることはできなかった。奏が泣いていた。俺は何もできずただ睡魔に打ち負け眠りにつこうとする。だが、奏に体を揺らされねることができない。
俺は最後の力を振り絞り奏が叫んでいる言葉を聞き取る。
『死なないで! 死んだら、死んだら……』
そこまでが限界だった。
俺は睡魔に負け完全に眠りに着いた。
そこで目が覚めた。
なんてこった。夢の中で寝たら現実で起きるとは。
まあ、こんなこともあるだろう。
俺は起き上がると横に奏が気持ちよさそうに寝ていた。
「まだ……起きてなかったのか」
俺は再び横なった。
奏が起きてないなら飯はできてない。俺は料理はできるが勝手に材料は使えまい。
俺は再び眠りに着いた。
また、夢を見た。
今度は立場が逆だった。
奏が血まみれで倒れておりそれを俺が抱きかかえ叫ぶ。
『死ぬな! 死んだら、死んだら……』
俺の生きている価値がなくなっちまうじゃんかよ!
ああ、あの時、俺の夢の中で奏は同じことを言ったのだろうか。
俺は冷たくなった奏を抱きかかえ言葉にならない叫びを上げることしかできなかった。
今度は起こされた。
うぅ、朝はやはり苦手だ。
「大丈夫? なんか、うなされてたみたいだけど」
奏の声が聞こえる。
起き上がると目の前に奏の顔があった。
奏はとても心配そうにこちらを見つめる。
「あ、ああ、大丈夫だ。心配ない」
俺はさりげなく奏の肩を触り生きているかの確認をした。
暖かかった。とても暖かくでこれが人のぬくもりだと再認識した。
「そうなんだ。ならいいんだけど。困ったことがあったらなんでも言ってね」
そう言ってベットから降りる奏。
さっきの夢の話をするときっと奏はバカにする。だから、俺はあえて言わないようにしようと心に誓った。
「今日はあっちに行かないのか?」
俺は飯を食べながら聞く。
奏はパンをかじりながらうんと頷く。
「だって、毎日行ってもお金にならないしね。それに今日は頑張ってくれた荒木くんのためにデートしてあげようと思ってねぇ」
俺はデートという言葉を聞いた瞬間咳き込んだ。
「だ、大丈夫?」
苦笑気味に奏が聞いて来る。
「お、お前のせいだろうが。……てか、なんでデートなんだよ」
俺は咳き込みながらも聞き返した。
「え~。だって荒木くんそういうの乏しそうじゃん。だから、かわいいところ見れそうだし。だからだよ」
結局、面白さ重視なわけか。
俺はため息を吐き食べるのに集中した。
「ねぇねぇ。どこ行きたい? って、これは普通男の子が言うんだよ? ねぇねぇ」
妙にハイテンションな奏を無視し俺は食事を進めた。
「グスンッ。荒木くん私のこと無視したぁ」
嘘泣きならぬマジ泣きしそうなのでしょうがなく俺は聞いてやった。
「何処行きたいんだよ」
聞かれるやいなやぱあっと明るくなった表情がどこにでも行きたいと物語っていた。
「はあ」
俺は再びため息を吐いて急いで飯を食った。
その日俺たちは近くのデパート、公園、遊園地と激しくどうでもいいところへ行った。
日が暮れ始めあたりがオレンジに彩りつつある景色。
「なあ」
「ん? 何?」
「もう一つ行きたいところがあるんだがいいか?」
奏は黙って頷いた。
俺が行きたかった場所は海だった。
俺はなぜここに来たのかわからなかった。
ただ、思い出したのだ。いつか見たあの楽しかった夢を。
その夢は俺が生まれた中で一番不可解で、それでいてとても楽しい夢だった。
内容は対したものじゃない。目の前にある海を前に奏によく似た女の子と話したのだ。
「確か、この場所だったはず」
俺は目の前の海を見てそんなことを言っていた。
「ねぇ」
不意に奏が声を上げる。
「私ね。ここ知ってる。夢でね。荒木くんとよく似た人とこの海を見ながら話したの。何を話したかは覚えて無いけどとても楽しかったの。それだけは覚えてる」
俺は驚いた。
俺だけでなく奏も同じ夢を見たことがあるなんて。
「俺も」
「え?」
「俺も同じ夢を見た。今日じゃなく、ずっと昔に。俺は楽しかった。とても、とても楽しかった。だからだろうな。ここに来たくなったんだよ」
俺は奏を見なかった。
夢では見たはずだがその運命じゃつまらないと思った。
だが、運命には逆らえないのだろう。俺は簡単に奏の方を見てしまった。
「なら、私たちって結構運命通りに生きてるんだね」
奏が笑顔で俺を見てくる。
「それじゃあ、つまらないか?」
俺は案外冷静に聞く。
「うん。つまらない。だけど、それ以上に面白いよ」
奏は最後まで笑顔だった。
「そうか。面白いか。はは、なんか俺も面白くなってきたよ」
やっぱり俺はコイツのことが好きなんだな。
俺は自分の気持ちに再認識させられため息をつきたくなった。
「くちゅん」
奏がくしゃみをし始めた。
そういえば寒くなってきたな。辺りも気づけば暗くなっていた。
「帰るか」
「うん」
そう言って奏は両手を広げた。
「また、抱っこするのか?」
「うん」
俺はため息をついて奏を抱っこしてやった。
奏はすぐに寝息を立てて寝てしまった。
その寝顔がとても可愛くて俺はおでこに静かにキスをしていたのだった。