第一話 人生ってのはきっとつまらないことの連続なんだと思う
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人生ってのはきっとつまらないことの連続なんだと思う
俺は朝河荒木この前まで高校生だった。
中退したんだ。
つまらなかった。何もかも。
友達、いない。
娯楽、つまらない。
人生、退屈だ。
人には絶望し自分には失望した。
小さい頃は俺はどんなものにだってなれると信じてた。
だが、それはあまりにも無謀だ。
仕事にはセンスがいる。
専門職には技術がいる。
俺はそれを知って絶望した。俺はなんてちっぽけな存在なのだと。
だから、今日俺はこの世界を旅立つ。
「俺が死んで誰かが長生きできるのならそれは英雄かもな」
俺はドナー申請をする紙に全て丸をし今ビルの屋上で旅立つ準備をしている。
さよなら、世界。
さよなら、つまらなかったモノたち。
さよなら、自分という存在。
「ただ、死ぬんじゃ面白くない。だから、ドナーでもするの?」
不意に後ろから声が聞こえる。
だが、俺は構わず足を進める。
今更、やめさせたって意味はない。俺は絶望の中で生きるのは苦しすぎるんだ。
「そんなに絶望した世界なの?」
後ろから絶えず言葉が放たれる。
声からして女子だろうか。まあ、そんなのは興味ない。
「俺は旅立つんだ。世界から。この人間社会(群れ)から。つまらないものを切り捨てて何が悪い」
俺の声はとても暗い。
もし、自分が後ろの女子の立場ならこの声を聞いた時点で逃げ出していただろう。
だが、この女子は違った。
「なら、私のために生きてみない? 私と一緒に戦ってみない? 世界を変えるために。こんな腐った世界なんて私もどうでもいい。こんな世界で生きるくらいなら死んだほうがマシ。だけどただ死ぬんじゃ面白くないと思わない? 革命でも起こそうよ」
革命。それを聞いたとき俺の中にあった空洞に風が通る。
気づくと俺は足の動きを止めていた。
「なんだよ。それ。テロでも起こそうってのか?」
俺は問う。
たぶん、そんな気はないだろう。今の言葉は俺を立ち止まらせるためのデマだ。
「テロじゃない」
ほらみろ。そんなの二人じゃ起こせないんだよ。
「でも、変える方法はあるよ」
再び俺の中の空洞に風が通る。
「異世界にね。世界を変えるための戦いがあるの。信じられないだろうけど。信じて」
異世界?
まさか。アニメじゃあるまいし。そんなもん存在しないんだよ。
「ホントにあんのかよ。そんなとこ」
俺はもう飽き飽きしていた。
この女はきっと俺の英雄姿を妬む敵なんだ。
「あなたの力を聞いてここまで来たの。成績優秀、腕力脚力その他諸々の筋肉が世界で最強と謳われる力、そして、その容姿。すべてが完璧な人間がいるって」
そう、俺は天才とよく言われる。かっこいいとよく言われる。
これまで女子からもらったラブレターは星の数ほど、金メダル級の選手を追い抜いてきたのも星の数ほどあった。
だが、それが何だと言うんだ。
天才、もう学ぶことがない。
最強、戦う敵がいない。
イケメン、うるさい女たちが取り囲み落ち着く暇もない。
完璧っていうのは案外つまらないんだ。
つまらなくてつまらなくて死にたくなるほどつまらないのだ。
「人生に飽き飽きしているなら私の執事になりなさい。世界に興味がないなら私のいる世界に興味を持ちなさい。私のためだけに生きて死になさい。どう? 面白そうでしょ」
その言葉は俺が生きてきた中で初めて聞いた言葉だ。
俺はいつも誰かを助けてお礼を言われてきた。
だが、こんな挑戦的なことを言われたのは初めてだ。
こいつなら、俺の生きる全てを託してもいいんじゃないか?
俺は頭でそんなことが思い浮かぶ。
しかし、そんなことを心が許さなかった。
「お前が言っていることはわかった。だが、それには賛成できない」
そして、俺はまた歩き出す。
あと数歩歩けば死ねる。ホントにあと数歩のところだった。
「私、死ぬんだよ。もう、長くない」
俺は立ち止まる。
「そんな私の最初で最後の願いを踏みにじるんだね」
人が死ぬのは見たことがない。
もちろん自分が死ぬところだって見たことがない。
「私は戦うよ? こんな理不尽を与えた世界と。あなたは戦わずに逃げるの?」
こいつなら、俺の生きる全てを託してもいいんじゃないか?
再びそんなのが浮かんだ。今度は頭じゃなく、心に。
「死ぬのになんで世界を変えるんだよ」
俺は振り返る。
そこには髪の長く、可愛らしい姿があった。
「だって、足掻かなきゃわからないじゃん。変えられるチャンスがあるのに試さない方がバカみたいじゃん。たとえ、私が死んで世界が変えられたとしても私が喜ぶわけじゃないけど、少なくとも私と、私たちと同じことを考えている人たちは喜ぶと思わない? それってきっと英雄扱いだよね」
少女は笑顔で俺に言う。
その笑顔が儚くて、可愛くて、俺は世界がどうとか、人間がどうとかどうでも良くなった。
「どう? 一緒に来てくれる?」
俺は頷いていた。
無意識に頷いていたのだ。少女の笑顔に釣られてか、少女の野望に釣られてかわからないが頷いていた。
「ありがとう。私は浅間奏」
「俺は、朝河荒木だ」
質素な挨拶を交わして俺たちは知り合った。
「一つ、聞かせてくれないか?」
ん? と奏がこちらに疑問符を浮かべ見る。
「お前の余命はどれくらいだ?」
俺が言うと奏はバツが悪そうに笑った。
「あと、八十年くらいかな」
は? と思った。
「八十年?」
まさかと思った。
「長くないでしょ? こんなけじゃたくさんのことはできないでしょ?」
そう、俺は騙されたのだ。
長くないとはそう言う意味だったのか。
俺は苦笑した。
騙されたことに対してじゃない。少女のそんな騙し方にだ。
「で? 異世界ってのは楽しいのか?」
「うん。たくさんいるよ。面白い人たち。きっと、荒木くんも楽しめると思う」
そうか。そう言って歩き出す俺たち。
いつしか俺が考えていたことはどこかに消え去り俺は新たに奏のために生きようと考えていた。
それが俺たちの出会いだ。
世界なんていつだってそんなものだ。出会いがあって別れあって。
それが俺にはほかの人より少ないだけなんだ。
俺は実に久々に笑っていた。