【番外編】とあるネトゲの制作秘話
ある晴れた昼下がり。
ひとつの開発室から叫び声が聞こえる。
「よし、完成したぞ!!」
「うん。完成だわ!」
緑太郎とイレミは、同時に居間にいる助手たちにその喜びを告げた。
しかし、助手たちの表情はその喜びは伝え切れなかったように怪訝なものだった。
胸次郎はバナナを口に含み、一目イレミと緑太郎をみるとやる気がなさそうにつぶやく。
「今度は、何を作ったんだ?光速に到達する反陽子チョロQか?それとも超強力な磁力でくっつく超電導レゴブロックか?」
緑太郎は発明品が理解できていない助手にたいして憐れみをこめて答える
「誰がそんなものを作るか!ついに自立型仮想現実シミュレータができたのだよ!」
イレミも続けて説明する。
「そう。これは召喚獣を呼ぶ魔術とコンピューターのシミュレーションの合成技術なのよ。今、まさに人類は新しいステージまで昇華しちゃったのよ!あたしの無限の魔力と可能性を恐ろしく感じるわ!」
「召喚獣を呼ぶシステムは、必要な動物を作るため魔術で仮想の世界を組み上げ、その仮想の世界からその動物を呼び出し使役するという心底ふざけた技術だったが、それゆえマナの使用量も半端なくて制限も多くてな。これ、実はAIのシミュレーションで精度とコストの問題が解決したのだよ。で、今度は召喚獣を呼ぶのではなくその構築した世界に人も入れるようにしてみたのだ!」
ヴィナがため息をつきながら緑太郎とイレミに質問をする。
「で、どうしてそんなものを作ったの?ヴィナは今が一番幸せだから、緑くんもイレミちゃんもここにいてほしいよう」
緑太郎は威張りながら続ける。
「本音はただ個人的かつ不純な妹欲求をみたしたいだけなんだが、表向きは復興が一段落ついて、魔法と科学の合成技術の発表をしなきゃならないのだよ」
「そうよ!どうせ何か開発するなら無限に増える王子様とともに戯れられる世界を構築できる技術を開発したいじゃない!主にあたしの夢と欲望のために!」
「ついでに、私もイレミも世界の復興というブラック労働に疲れた。異世界転生をする手段があるならちょっと転生したくなるだろう」
「ああ……これで白馬の王子様どころか、真の逆ハーレムの世界も夢じゃないわ。小さい男の子の恋人をもってる男の人がついに仮想だけど現実になるのよ!!」
「まぁ、とりあえず私が愛するネトゲという形の世界を構築してみた」
「そして、あたしはその世界のGMにガチガチに自我と意思の魔法陣を刻んだわ。男のNPCには念入りに細かく股間まで祝福を!」
「イレミちゃん、機械触れなかったのによくそんなことできたね。できないことを避けるためだけに、全てを台無しにするあのイレミちゃんが少しはまともになってくれたんだね」
「あたしと緑太郎は対称だから、実は考えるだけでテレパシーとほぼ同じことができるということが分かったのよ。だから機械とかプログラムとか分数の足し算みたいなどーでもいいことなんて、触らなくても理解しなくても問題ないの」
「そう!魔法という非科学的で祈りとかマナなど再現性の確認できない野蛮な手法はすべてイレミに考えるだけで押し付けることに成功した。今なら陳とミーレが一ダース単位で現れても問題なく対処できる」
緑太郎とイレミはお互い手を取り合ってグルグル回っている
ヴィナと胸次郎は白い目でそのグルグル回っている二人を見つめている。
「この究極のネトゲAIをイリアと名をつけたのだ!」
「イレミの『イ』!緑太郎の『リ』!合わせ技の『ア』よ!完璧すぎて涙が止まらないわ!」
助手の二人は頭を抱える。
「だせぇ。ありえねぇ」
「イレミちゃん。緑くん。頭だいじょうぶ?お布団ひこうか?」
胸次郎が呆れた眼差しでイレミと緑太郎に話す。
「おまえら……本当にそんなもの作って大丈夫なのか?前回もロクなことにならなかっただろう」
「ヴィナと胸くんはもう人になっちゃったんだよ?今度は助けられないよ」
「安心しろ。多次元コンピューターで連結してつながっているとはいえ、それでも処理する情報は多大だ。無限にエネルギーを吸収する方法がない限り問題はない」
「安心して、自我と意思をもっているとはいえ、一つの次元にとどまっているかぎりは吸収できるマナに限りがあるの。多次元に連結してない限り問題はないわ」
緑太郎とイレミはお互いの顔を見つめる。
助手の二人は、呆れながら開発者の二人を見つめる。
「おい」
「まって」
「おまえら、まさか」
「イレミちゃん、緑くん……」
顔面蒼白になった緑太郎が、ポケットから赤いボタンを取り出す。
「き、緊急停止ボタンがここにある。予期できる不幸は不幸ではないからな」
「そ、そうよ。今すぐ止めれば今まで通り幸せな毎日が続くわ」
緑太郎が緊急停止ボタンに手をかけた。そのとたん緑太郎の周りがモザイク状の空間に変化した。
「テキセイセイリョクカクニン。タダニチ、マッサツシマス」
緑太郎が叫ぶ!
「なんだこれは!これは次元移動の前兆ではないぞ!」
「なにこのモザイク?ちょっと式神来て!」
イレミが魔法世界の人にしか聞こえない言葉を放つとどこからともなくオウムが現れた。
「リョクタロウヘンタイ、リョクタロウヘンタイ」
そういいながら緑太郎の頭を激しくつっつく。再び緑太郎の天然パーマが毟られる。
「現れたなクソオウム!!こいつとだけは一緒にいたくないわ!!」
「どこに行こうと、あたしとオウムは連絡が取れるわ!こっちでもなんとかするから、とりあえずあんたは生き延びて!!」
こうして、緑太郎はモザイク状のはざまに取り込まれた。
怒り心頭といった感じのヴィナと胸次郎。
「イレミちゃん……なにやっているの?」
「緑太郎またか……またやらかしたのか……」
イレミはあっけにとられながら、胸次郎とヴィナに必死に弁明する。
「だ…大丈夫よ!対称のあたしが生きてる限り緑太郎は死なないわ!たぶん……」
こうして、また一つの物語がここから始まる。
「廃神様と女神様Lv1」に続く……