第二章 平和は尊い、それが偽りでも
第二章
ドラゴンとハインドの戦い見てから六ヶ月がたった。
あれから、ハインドのような私の世界からの製造物は見ていない。
私はまず、魔法に関する書物をあさり魔法について調べることにしたが、半年たっても、成果は何も無かった。
ミーレから貰った資金も底をついたので一度ミーレと話をつけることにした。
重い本を鉄アレイ代わりにしている胸次郎が話しかけてくる。
「おい、ホネ男。今日でちょうど半年だが魔法に関しては何か分かったのか?」
「だめだ。まったく分からん。どんな本を解読しても前提に妖精や神の力を借りることが必要のようだ。そして、妖精や神から力を借りるやり方しか書いていない。つまり、この世界の奴らには本当に妖精や神が見えるとしか思えん」
「俺にとっては、なぜ自らの肉体のすばらしさをもっと使わないか不思議である」
「肉体だけを用いてすべてをやろうとするのは人ではない。それはゴリラだ」
私は、読んでいた本を閉じて胸次郎に準備をするように問いかけた。
「おい、そこの筋肉。町に行くぞ。年増に会いに行く」
「町って、どこだ?」
「ずっと南だ。さて、町に行くから用意しろ」
「甘いな。俺に必要なものはこの筋肉とバナナと鉄アレイだけだ」
「バナナと鉄アレイはすでに尽きたからな。お前は筋肉だけを忘れずにもってこいよ」
「緑太郎こそ、どこに筋肉を忘れてきたんだ?探してこいよ。その痩せこけた体は見ていて痛々しいぞ」
「お前はサルからゴリラへと進化したようだが、私は人間に進化したのだよ」
そこのアホ筋肉はほっといて………
さて、どのように南にある町、サンポールまでいくか……
私は地図を片手にうなっているとドアを叩く音が聞こえた。
ノックの音だ。
私は地図を持ちながらドアを開けるとそこはミーレの部下が立っていた。
「お久しぶりです」
「おお。君はミーレの…」
かまわずミーレの部下は続ける。
「ええ。ミーレ様が呼んでいます。丸眼鏡緑太郎様」
……こいつ、なぜ私の本名を。あまりにも恥ずかしい本名だから常に隠していたんだが。
この世界では、私の本名を探る技があるのか?それとも、私の方法以外に魔法世界から科学世界へ自由に移動できる方法があるのか?
私は、いやな予感がしたが現時点で打てる手は無い。
素直に、笑顔で応じることにした。
ミーレの部下は待っています。という言葉を残して階段を下っていった。
胸次郎も部下についていこうとしたが、私は止めた。
「おい、筋肉。町にいくんだから、とりあえずここの世界の服装に着替えるぞ」
私は城の兵士に言って服を分けてもらうことにした。
城の兵はここちよく衣装ダンスがある部屋に案内をしてくれた。
兵士はお好きなものをお選びください。とだけいって立ち去る。
胸次郎は服を選びながらつぶやいた。
「俺が着られるサイズの服が無いぞ」
「私のサイズの服は女物しかない件について」
「今からでも遅くない体を鍛えろ」
「ほう、出発まで二〇分の間に体を鍛えて体形を服に合わせろというのか」
「俺の場合どうしょうもないからな。だがお前は体さえ鍛えればいける!」
「お前がどうしようもないのは、お前の耳と耳の間にあるものだ」
「鼻?」
私はバカのマジボケを軽く流すことにした。
「ともかく、町に行くならこの服装では目立ちすぎるな」
「目立って、デメリットはあるのか?」
「………無いな。むしろ、科学の民として万人に蛍光灯の光の明るさを示すいいチャンスかも知れない。無知なるこの世界に科学の火を!何が神だ!!精霊だ!!妖精だ!!マナだ!!」
「魔法について何一つわからなかった悔しさはわかるが、そこに当たるのはどうかと思うぞ」
「マジで、初めて私は『分からない』という悔しさを味わったのだよ……」
私は、失意前屈体の形でうなだれた。
胸次郎はそんな私に優しく見つめ語りかける
「そう。君は魔法もわからないようなアホの子なのだよ。ここで全てをなげうって体を鍛えるんだ」
「九九もできない真のアホに言われる覚えは一ピコも持っていない」
ミーレの部下が下で叫ぶ。
「緑太郎さーん。胸次郎さーん。早く来てくださーい」
しょうがない。いつもの格好で行こう。
魔法を理解するのはとりあえず諦めた!
これからは、科学の使徒として万人に石油ストーブとコタツの暖かさを知らしめるのだ。
そういきこんでいると、下でミーレの部下が羽の生えた馬っぽい動物に馬車のような乗り物を用意していた。
馬車には似つかわしくない大きな羽っぽいものが……
私は恐る恐るミーレの部下に聞いた。
「これ……飛ぶの?」
「ええ。サンポールまで遠いですから。ペガサスを使うのが一般的なんですよ」
ほう……こんなチャチなもので空が飛べると?その前に、その馬の顔もきにいらねぇ。
ああ。そういえば、空高くになんか変な馬がとんでいる気がするなぁ。
どう考えても、こんなクソ細い翼で飛べるわけが無い。物理学的に考えても生物学的に考えても、量子力学的に考えても無理だ。
魔法のようなインチキな方法で一時的に飛べたとしても、それが落ちないという保障はどこにも無い。むしろ、落ちるほうが物理学的には正しい。
というか、落ちろ。我が科学のために。
まー、ともかく科学の友である私が取るべきことは一つだ。
私はダッシュで逃げる!!年増なミーレなんか知るか!お前らは、その馬と一緒に落ちて朽ちていけ!
私は瞬間的にそう考え、走りだそうとした。
しかし、馬鹿と筋肉の代名詞である胸次郎に瞬間的につかまった。
「ほう。緑太郎、貴様逃げる気か……」
「当たり前だ!あんなものが浮かんでたまるかぁ!!」
「飛行機が怖かった俺と同じセリフを吐くなぁぁ!むしろ、飛行機のような鉄の塊が飛ぶほうが怖いわ!!むしろ、こっちのほうは動物が引っ張ってくれるという安心感があるぞ!!」
「飛行機は力学的に飛べると証明できるからいいんだぁぁ!!あんな形の馬車は飛ぶどころか一歩もうごけてたまるかぁぁ!!」
「ええい。魔法が理解できないからなんだ!俺は常にすべてが理解できない状況にあるのだぞ!!」
「バカはいいよな!非科学的な説明されても科学的な説明されても理解できないから納得できて!」
「俺はどんなことがあっても自分の肉体で乗り越えられるという絶対的な自信があるからな!たとえ、飛行機が落ちようとも馬車が粉みじんになろうとも俺だけは絶対的な肉体で生き残るのだ!」
ミーレの部下が我々に話しかけてきた。
「あの……そろそろ出発したいのですが」
胸次郎は少し考えると、軽く手を叩いた。
「そうだ。こうすれば万事解決だ!」
まずい。こいつのアイデアにまともなのは無い。
どちらにしても、最善の手は逃げることだ。
私が再び逃げたそうとした瞬間、胸次郎が見えない速度で私の首筋に手刀を食らわした。
私は、がっくしと意識を失った
「ほら万事解決!」
この言葉だけが頭に響かせて………
南の都市サンポール。
貿易や商売が盛んなカメリア王国の都市らしい。
この世界では、サンポールが一番重要な都市のひとつになっているようだ。
私の世界では、ニューヨークに当たる都市といったところか。
多くの国の代表が集まり、そして、多くの国の企業が集まる。
城のような巨大な建築物。空にはドラゴンのようなものから私たちが乗っている馬のような生物が何か荷物のような物を運んでいる。
間違いなく、この世界の技術や経済は我々の世界と同じくらいまで発展している。
私は、輸送技術の発達からそう確信した。
空飛ぶ馬車の中でミーレの部下にいろいろ話をすると、王国は名前だけで本当は議会制民主主義が取られているということ。
もっとも、ミーレの国である中央共亜国は一党独裁のようだが。
空飛ぶ馬車の中で私はふと思った。
「おい胸次郎」
「なんだ?」
「私はいつも引きこもりニートになりギャルゲーに生きるために日々を生きてきたが、ちょっと、考え方を改めた」
「ほう。お前はそんな堕落するために日々を生きてきたのか」
「半年かけても魔法のことが何一つ分からなかったからな。魔法を科学的に知りたくなった」
「引きこもりよりははるかによいことだな」
「ここの世界が私を歓迎してくれたら、私はここの人のために技術を提供してもいいと本当に考えている」
「どうしたんだ?お前の技術は人を不幸にするから封印するのではなかったのか?」
「いつかは、発見されてしまう技術だ。この程度の技術で不幸になるならなってしまえ。それに、魔法と科学があわせたら何ができると思う?なんでもできるぞ。人類は究極の豊かさを手に入れるといえるだろう」
「究極の豊かとは?」
「究極の選択肢だ」
「究極の選択肢とは?」
「人類全滅と人類が働きから開放され芸術活動だけで生きていくことの両方の可能性を手に入れること」
「ニートか死か。それかそのままか」
「そうだ。いつか、誰かの手で究極の豊かさを実現されるなら、今、ここで実現してもいいと思わないか?」
「それは、魔法を理解してから言うんだな」
「私なら人を幸せにできる。幸せにできるのに、それをしないのは罪ではないかと思のだよ」
「止めはしないが本当にそれが人の幸せになるのか?」
「幸せとは選択肢の多さを言うのだよ。豊かさも幸福も意味は同じだ。選択肢の数でそれらは測られる」
私たちが、空港のようなところについたとき、そこにはすでに多くの人で埋め尽くされていた。
私たちが科学の世界から来た人ということで歓迎してくれるのだろう。
私たちに向かって、多くの人たちが見つめいている。
私は歓声を期待した。もし、魔法と科学の技術が合わさればたぶんいろんなシナジー効果で技術は数世紀進む。おそらく私の技術は簡単に追い抜くだろう。
私は人々を見た。
私を受け入れてくれた世界。私は世界の技術をすべて渡そうと考えた。そうだ。こんなに多くの人に歓迎され、必要とされるこの世界になら私は技術くらいいくらでも出せる。
尊敬する科学者アインシュタインは「人は人を幸せにするために生まれてきた」といっている。
私は今まで多くの過ちを起こしてきた。しかし、今この世界ならいくらでも人々を助けてあげることができる。人々に希望の技術を。より多くの幸福を。より多くの雇用の確保を。科学と魔法の調和を。そうだ、私の知識と魔法があればいくらでも幸せな社会、豊かな社会は作れる。
私は希望と未来を胸に馬車から降りた。
だが、待っていたのは罵声だった。
罵声は歌うように憎しみのコールになり、最終的に一つの言葉となった。
帰れ
帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。帰れ。
いつまでも続く、帰れコール。
この罵声とともに、私はミーレの待つ城に向かった。
何が、どうおきたのか。私と胸次郎は何もできず、あっけにとられるだけだった。
腐った卵が私に向かって投げられた。私は何もできずに卵を頭でうけとめることしかできなかった。
胸次郎は叫んだ。
「お前ら、なんでこんなことをするんだ!」
「胸次郎、喋るな。今は耐えろ。罵声の原因を作るな」
「だが………」
「黙れ」
私は胸次郎を諭した。
私は、過去に同じように罵声を浴びそして胸次郎のように叫んだこともある。
しかし、それはすべて逆効果に終った。敵に材料を与えることは無い。
ミーレに聞かなければ。一体どうなっているのだと。
ふと空を見上げると、一面の大きな垂れ幕。私はそれで全てを悟った。
「科学は敵だ。野蛮な技術に神の裁きを。」
そうか…戦争が始まるのか。
ミーレが言っていた戦争の相手は、私のいた科学の世界のこと。
だから、軍事を優先して聞いていたのか。私の世界の軍事を知って対策を立てるために。
ウソはこの世界でイレミしか出来ないといっていた時空移動。
私達は大きな城に入りミーレの待つ部屋に通された。
ミーレは深く頭を下げて我々を迎えた。
「すまない。マスコミにリークされた。」
「すまないではない。あの調子だと我々は殺されていたかもしれない」
「それはない。マナが動けば我々も察知できる」
「私が殺された後の容疑者探しには困らないだろうな」
「で、君は喧嘩を売りに来たのかな?マルメガネ リョクタロウ君」
「………胸次郎。外で待ってろ」
胸次郎は怪訝な顔して答える。明らかに不快感を示している。
「なぜだ?」
「ここからは、軍事機密になる。お前が一言でも情報を漏らすと人が死ぬぞ。本当にもらさないと誓えるならここにいろ。だが、その時点でお前も人殺しだ」
すまない。胸次郎、この秘密はお前には知られるわけにいかないんだ。
そして、私を信頼してくれ。どんなことをしても、私はお前を守るから。
胸次郎は私の必死な表情を見抜いて自ら部屋を出て行った。
すまない。胸次郎……
私は、ミーレをにらみつけた。
「さて、ミーレ。お前どこまで知っている?」
「お前もイレミのように最終兵器を盗んだようだな。そして、その最終兵器を盗んだままこの世界に来た。違うか?」
「ここまでは、肯定しよう。他には?」
「最終兵器とはなんだ?」
良かった……このレベルか。
このレベルなら胸次郎を外に出すことはなかったな。
あれだけは……誰にも知られるわけにいかない……
「最終兵器は、すでに処分した。あれを使うと自分も死ぬ可能性が高かったから」
「ウソだね。最終兵器って君の身近にいないか?胸次郎君とか。確か一年半前に盗まれていたんだよね。最終兵器って」
「さてね」
ミーレはニコリと笑う。非常に腹立たしい。
本当にどこまで知っている?
だが、ここは笑うところだ。笑って否定するところだ。
「君は素直でいいよ。でも、今はそんなことを言いに呼んだわけではない。君、この世界の国際魔法軍の参謀になってくれない?君の世界と戦争が始まるから君の世界を知っている人を参謀にしたい」
「私にも質問がある。今までの経緯はどうなっている。なんで私の世界と戦争になるんだ」
「この世界のマナが尽きたからさ」
「マナって何だ」
「生物の元だ。マナが沢山集まってはじめて生物ができる。そして生物が死ぬとマナは開放されるんだ」
「マナは増えないのか?」
「聖地には沢山あるが、それを切り売りして今の繁栄を続けている。だが、今は期限付きの楽園にすぎない。いつか、聖地を巡って戦いになるはずだった」
どこかで、聞いたセリフ。
私の世界も資源が尽きるまでの期限がついた楽園だった。
そして、もう資源はすべて尽きる。
僅かな資源を巡って悲惨な戦いが起きるのが誰の目でも明らかだった。
そして、それも嫌だから私はこの装置でここまできたのに……
「それで、科学世界まで行って戦争か。誰があの時空をわたる装置を作った?」
「イレミもお前も自分のことを過大評価しすぎだ。マナを無尽蔵に使えばできないこともない。もっとも、ほとんどエネルギーを使わずに移動できるお前らはさすがだが」
「科学でまともにやると、時空を移動するには都市が賄えるだけの資源が必要だぞ」
「そうだよ。お前らの世界に行くためだけに、国を一つ生贄にした。このために映画、新聞、映像、世論、全て操作して君達を敵にしたんだよ。我々、魔法の民には選択肢は無い。殺すか死ぬか。二つに一つだ」
一番の不幸。それは選択肢が無いこと。まさに、私が逃げたこの世界も不幸だった。
ミーレは新聞を私に手渡した。昨日の新聞だ。
ベチット国消滅。マナの動きが無い恐怖の侵略者。
写真は、死に絶える人たちの群れ。嘆き、悲しみと怒り。
そして、復讐を。
これ以上は、記事内容を見る必要は無い。
事実は自作自演で国を一つ生贄にして、戦争の通行料のためだけに皆殺しにしたということだけだ。
ミーレは続ける。
「ベチット国民を皆殺しにしてマナを手に入れる、そして未知の侵略者の恐怖から大衆の心は一つとなる」
「一石二鳥の良いアイデアだな」
私は皮肉を言った。
「お前達の世界の資源とは違い、マナはただの資源ではない。生命そのものなんだ。マナが無くては肥沃な土地でも作物は育たない。生物が生まれないのだ。所詮、生物になる予定の力を前借しているにすぎない。もう、ほとんど赤子すらうまれなくなっている。我らの神が殺して生きろというのなら、喜んで同胞を皆殺しにしよう」
「だが、言っておくが、科学の世界の住人も同じことを言うぞ」
「というと?」
「資源が尽きたからさ」
「資源とはなんだ?」
「物質の材料さ。資源ができてはじめて科学は商品として力を持つ。そして、商品が壊れたときまた資源となる」
「資源は増えないのか?」
「ある地域には沢山あるが、それを切り売りして今の繁栄を続けている。だが、今は期限付きの楽園にすぎない。いつか、資源を巡って戦いになるはずだった」
「だが、資源はマナのようにいくら使っても生物が生まれなくなることはあるまい。科学の世界では汚れた川にも、腐った土地でも草木は育っている。虫も沸いている」
「だが、すでに虫も草木も生えていない土地が地表の五〇パーセントを超えた。生物はいくらでも生まれるがすでに生きていける環境は限られている。もう、増えすぎた人口はどうすることもできない。もう、本当にあと少しで戦争が始まる予定だったんだ」
「そうか……やっと、奴らが我々と同じ笑顔である理由が分かったよ。我々とおなじように戦争ができると喜んでいたんだな。我々と同じように絶望しか見えない未来の中に生きる希望ができたのか」
もう、魔法を使おうが、科学を使おうが人類はすでに詰まれていた。
戦争に勝ったものが生き残り、負けたものは皆殺し。おそらくどちらが勝ってもそうなるだろう。
魔法と科学の知識を持った私には正確に未来を予知できた。
壮絶な引き分け。もう、塵も残らない未来が。
これが、現時点の状況。
おもむろにミーレはテレビのような映像機器をつけた。
そこには、元帥のような偉そうな人が演説している。
「我らは科学という魔法を使わない野蛮な人間に攻撃を受けている。マナも精霊も使わずまったく未知の道具を使い我々を苦しめている。我らは無礼な態度の科学の民に使者を送った。神と魔法の英知を授けるためにだ。その使者は殴られても、撃たれても、切られても、そして犯されても平和と友好を叫んだ。そして、最終的に崖から突き落とされた。これが、許されるだろうか。魔法と科学の違いは分かる。でもそこを分かち合うのが人間だろう。使者達は相手が人間だと思いそして裏切られた。奴らは我らを下等動物だと思い込んでいるのだ。もう、礼は尽くした。少し礼儀が良すぎたかも知れない。友好の地として招待したベチットはたちまち科学の軍隊が展開して住民は皆殺しにされた。我らは本当に黙っていていいのだろうか。良いわけがない!我らは人間なのだ!人間として生きるために我らは戦わなければならない!奴らこそ悪魔の化身なのだ!」
下手な演説だ。落第点だ。二〇世紀のヒトラーに演説の仕方を学んで来い。
自作自演の癖によくもこんなことをのたまえるな。
毎度のことながら、戦争の裏側はいつも吐き気がでてくる。
私はミーレに映像を消すように言った。
ミーレは映像を切った。そして、頭を下げた。
「反吐がでるだろ?でも、もう本当に後がないんだ。わたしは少しでも長く生きたいんだ。わたしだけではなく、みんなそうだ。もう、科学の民を殺すしか道はないんだよ。科学の世界はお前を拒絶したんだろ。調べたから分かる。隠さないでくれ。わたし達は決してお前達を拒絶しない。お願いだ。助けてくれ」
すでに、拒絶された私たちをよくそのような言葉でごまかそうとするよな?
だがこのままでは、間違いなく未来は塵も残らない。
戦争にはルールがある。圧倒的に勝つか、圧倒的に負けるかの二つに一つ。
僅かな差が圧倒的な勝利と敗北を生む。
私が加わることで、引き分けが防げるならそこから未来はつむがれる。
人の歴史はここで終らないかも知れない。
もちろん、本当のベストはお互いの技術を分け合うことなのだが…
私は力を貸すことにした。
科学の世界で受けた地獄。それはもう耐えられないものだったから。
ギャルゲーとネットゲーに逃避するしかない世界。私が覚えている記億のほとんどが残虐行為。楽しかった記億はすべて一年半前から始まった。胸次郎との生活から始まったんだ。
次は、科学の世界との戦争。なれない魔法兵器で。
相手はどこだろうか。アメリカ?中国?ロシア?日本?
「時空のゆがみが激しくなっている場所がある。そこに向かってくれ。皮肉にも旧ベチットに敵が出現すると考えられる。一週間以内に現地で待機しておいてくれ。馬車は用意する」
ミーレはそういって私を送り出した。私は、ミーレに丁重に頭を下げて部屋を出た。部屋の外では胸次郎が不機嫌な顔で待っていた。
「何を話していたんだ?」
本当のことはとても言えない。私はうまくごまかすことにした。
「あの年増が私に愛の告白をしたのだよ」
「何!!!軍事機密ではないのか!!」
「あの年増がホネフェチだったのだよ。そこで、権力を使い私に会いたがっていたわけさ。すまんな、説明不足で」
「良かったな。お前なら画面の中の人にしか好かれないと思っていたぞ」
「残念だな。私は妹属性だ。年増にはまったく興味は無い」
「それではなんで、年増の愛の告白でこんなに人が襲い掛かって来るんだ?」
「年増はこの世界のアイドルだからだ。こいつらはその親衛隊だよ。年増が私に告白するということをマスコミがリークしたらしい」
胸次郎は納得してくれたようだ。しかし、こんなウソでだまされるとは我が助手ながら本当に頭が弱いな。
外には、まだ沢山の群集がいる。
再び罵声が始まる。より多くの罵声が飛んだ。
私達が外にでると二、三人が警備員を振り切って私達に襲いかかってきた。
あの皮膚の色と瞳の色はベチット出身の人だろうな。半年の勉強の成果は魔法以外のところで発揮されるとは。
我々を親の敵、友の敵、恋人の敵、子供の敵と思って必死の形相で殴りかかってくる。
魔法を唱える余力もないようだ。
胸次郎はその暴徒を見えない一撃で次々と気絶させていく。
あまりの強さで群集の罵声は途絶えた。そして、悲しみがあたりに広がった。
「どうして、そんなに強いんだ」という声が辺りから漏れ出す。
そりゃ、強いさ。こっちの世界の最終兵器だったのだから。
私は胸次郎に早く馬車に乗るようにせかした。
「早く行くぞ」
「ああ……」
空飛ぶ馬車に我々は乗り込んだ。足早に空に飛び上がる馬車。
どんどんと群集が小さくなっていく。
馬車の中胸次郎は私に話しかける。
重苦しい空気。目の前の助手が疑問を持っていることがよくわかる。
「緑太郎。少し話がある」
「なんだ」
「俺は、お前に会う前はなんだったのだ?」
「お前はお前だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「質問を代えるぞ。一年半前以上の記億は俺には無い。その記億はどこに行ったんだ?」
「お前は、昔から私の助手だったんだ。実験の事故で記億を失った」
「本当にそうか?」
「誓ってウソは言わない」
事実は後から理由がついたものだけが事実となる。
ウソはあとからいくらでもつじつまを合わせて真実となることができる。
確かにお前は最終兵器として多くの人を殺して国をほろぼした。
だが、今は私の助手として人間として生きている。
昔はどうあれ今は人間だ。人間に兵器の記億は要らないだろ。
お願いだから過去を気にしないで未来だけを見つめていてくれ。
胸次郎は
「わかった」
とだけ言った。
馬車はサンポール過ぎて大海原の空の上を走っていた。
しばらくの沈黙の中、私は運転手に到達場所の変更を頼んだ。
「運転手さん。ベチットの前にすまないが私が半年間居た城にまで行ってくれないか?」
「どうしたんです?」
「まさか、外国に行くことになるとは思っていなかったから城でそれ相応の準備をする」
「分かりました。しかし、一週間という期限がありますのでそれをお忘れなく」
「分かっている。そうだ、少し見てみたいものがあるから城の少し北の小屋まで運んでくれ」
胸次郎が話に加わってきた。
「小屋なんてあったか?」
「ああ。我々がこっちの世界に来たときにミーレ達に囲まれただろう。そのそばに小屋があったんだ」
「なんで、そんなところにいくんだ」
「一度、我々の世界に戻る。科学世界も戦争一色か調べる必要がある。」
「戦争?戦争ってどういうことだ」
「うっ……しょうがない。もう軍事機密をしゃべろう。ミーレは愛の告白のほかに私に科学世界が戦争を仕掛ける可能性を示唆してきたんだ。ありえないとは思うが一応、科学世界も見て回ろうと思ったのだよ」
「最初から、そういえばいいのに。お前はウソをよくつくがどれもよくボロがでるぞ」
「貴様だけには言われたくはない。私が楽しみにしていたプリンを食べたの貴様だろ。食べてないとウソつきやがって」
「馬鹿なことを言うな。俺が食べたのは自分のプリンだ。それをおかわりしただけだ」
「ええい!二個あるプリンで一つお前のでもう一つは私のだろ!」
「名前書いていなかったからな。俺の名前を書いて食べた」
「漢字で書いておいたぞ。緑太郎って」
「すまん。漢字は読めん。むしろプリンが食べられなくなるので読む気も無かった」
「やはり、確信犯か」
しばらく、そんなやり取りを続けて空の旅を楽しんでいるとやがて目的地であるカメリア王国の北の小屋についた。
私と胸次郎は運転手に礼をいった。
運転手は、半日後に迎えに来ることを約束して、空に消えていった。
私は胸次郎にこれからの計画を話した。
「これから、科学世界に向かう。私達の生まれた世界だな。そして、できればイレミに会うぞ」
「イレミ?ああ。あの変な世界ですれ違った奴か。」
「そうだ。正直年増は信用できない。イレミに会ってこの世界のことをよく聞かなければ戦争どころではない」
「戦争が起きることは、決まったことなのか?」
「少なくても、年増はそういっていた。だが、我々をどうしたいのかまだ分からない。分かったのは、この世界も限界が近いということだ」
「科学世界も魔法世界も、どちらも限界が近いのか……」
「世界をそのまま交換すれば、どちらも幸せに暮らせそうだが……さて、では時空移動の機械を発動させるぞ」
「ああ」
私は、携帯電話型の時空を移動する機械を作動させた。
たちまち、景色が乱れていくこと分かる。
「ほねぇ!前!前!!」
胸次郎がなにやら叫んでいる。前に何かあるのか?
私は機械の操作を中断し前を見た。
ぐぎゃあ。
目の前には少女の膝があった。膝が眉間にクリティカルヒットだ。
私の愛すべきプラスチックの丸眼鏡が無残に粉々になっていく。
ああ……私の一〇〇円ショップのお気に入りが……
そして、私は薄れ行く意識の中で少女の姿を見た。
前に時空のハザマで見た顔だ。イレミに間違いない……
おのれ、このクソガキ……あとで覚えておけよ………
私が意識を取り戻すと、あたりに木の葉が舞っているのが見えた。
どうやら私を木陰に寝かしておいてくれたらしい。
ゆっくりと、私は体を起こした。
あのクソガキはイレミだな。
隣の女性はたぶんヴィナという人だろう。
そして、ダメ助手胸次郎と仲良く談笑している。
胸次郎が得意げに何かを喋っている。何を喋っているのだろう。
「緑太郎はすごいよ。何がすごいって妄想力がすごい。常日頃から、私は天才だといっているからな。天才か朝っぱらからギャルゲーやっている暇ないだろう。と思っていたら難攻不落のキャラを一巡で落としたとか言っているからな。ギャルゲーの天才かよ」
「イヤー!!!変態!!!」
「すごいんだねー」
「他にも、あの小学生の女の子は私の妹にふさわしいとか言って、その彼氏に決闘を申し込んだとか。いや、相手は五郎君という小学五年生なんだけどな」
「ねぇねぇ、その後どーなったの?」
「五郎君にぼこぼこに負けた。負け惜しみに『私は二次元が好きなのだ。貴様らなんか誰が見るか!!』って強がっていたな。そして、さらに殴られていた」
ほう………このクサレ筋肉が……
私は九八度の味噌汁が入った魔法瓶を開けると胸次郎の頭にかぶせた。
「ぎゃあああああああ!!」
地面にのたうつ胸次郎。
「よくもまぁ、こうウソばかり話せるものだな。私が五郎君に決闘を申し込んだのは他でもない。五郎君に強くなってもらいたいという思いから自信をつけさせるために戦ったのだ」
胸次郎はちゃちゃを入れる。
「半泣きだったくせに。それに、ギャルゲーの話は三日前の話だぞ」
「ほう、さらに味噌汁を頭に被りたいようだな」
さて、初対面の印象はこのクソ筋肉のせいで最低最悪になってしまったが自己紹介をするか。
「私は、緑太郎。科学世界では、宇宙最高の知識を持っていると自他共に認める超科学者だ。そして、頭に味噌汁を被っている哀れな男は胸次郎という私の助手だ」
少女と女性は立ち上がって挨拶をした。
「あたしは、イレミ。魔法世界では、天下最強の魔力を持っていると自他共に認めるスーパー魔術師よ」
「ヴィナは、イレミちゃんの助手をしているよ。よろしくね」
自らスーパーという奴を誰が信用できるか。このクソガキ。魔力は知らないが知力を上げろ。
「私に致命的な膝蹴りを食らわせたイレミは知らないが、ヴィナ。よろしく」
「よろしくー」
やはり、少女がイレミ。女性がヴィナだな。
時間は限られている、すぐに本題に入らないと
「さて、時間はあまり無いから本題にいかせて貰うぞ。イレミ、ミーレという年増を知らないか?」
イレミの顔が曇る。
「中央共亜国のミーレでしょう?シワの数まで知っているわ。あんたは陳というデブ知らない?」
「………知っている。それも嫌になるほど。奴のウェストから体重まで」
やはり、奴と会っていたのか。まずいな。
イレミは少し考え事をしてヴィナに言った。
「ヴィナ。ちょっと、あっちで草むしりしてきて」
「いいよー。食べられそうな草とってくるねー」
一応、私も胸次郎を遠ざけるとするか。私には、胸次郎に知られてはいけない秘密がある。イレミが知っているとは思えないが一応遠ざけておこう。
「そこの筋肉。ヴィナちゃんと共に草でもむしっていろ」
「だるいぞ」
「草むしりは、腰の筋肉を鍛えるために非常に有効だ」
「分かった。ここらの草木を全て刈り取って砂漠にして見せる」
さて、バカを人払いできたな。
「では、イレミ。本題といくか」
「ええ」
「私達の世界はどうなっている?」
「戦争一色になっているよ。世界中で。そっちは?」
「同じく。私はミーレから国際軍の参謀を命じられた」
「あたしも、国連軍の参謀を陳から命じられた」
「どこにいくように命じられた?」
「あたしは、アメリカというところに行くことになった。そして、イランという国が犠牲になった。すべて、資源の獲得と魔法世界を敵にするためだけのプレゼンテーションのためにね……」
「こちらは、ベチットという国がなくなった。マナの獲得と科学世界を敵対するための情報操作のためにな」
両方の世界の状況は魔法と科学という技術の違いはあれど、あとはほとんど一緒だった。一つずつ状況を確認したがまったく相違点は見つからない。
イレミは私に問いかけた。
「ねぇ、科学世界はもう本当にダメになるの?」
私が事実だけを答える。
「ダメだ。いくらあの世界でいやな目にあったからとはいえ、僅かでも希望があったら私はこちらの世界に移動はしない。本当に限界なんだよ。科学世界は……」
「そう……」
「なぁ、魔法世界は本当にもうダメなのか?」
「ダメよ。いくらこの世界でいやな目にあったからって僅かでも希望があればあたしはあの世界に移動しない。本当に限界なのよ。魔法世界は……」
長い沈黙が続く。そして、二人一緒にため息をついた。
本当に万策尽きたかもな。
私はごろりと横になった。
そして、仲良く草むしりをしているヴィナと胸次郎を遠目に見ながら戯れにイレミに聞いてみた。
「なぁ、お前が盗んだ最終兵器って何なんだ?」
「あんたも盗んだんでしょ?最終兵器」
「……ああ」
「お互い隠さないでしゃべりましょう。何かしらのヒントになるかも」
「そうだな。では……」
「いえ。あたしから言うわ。最終兵器は察しの通りヴィナよ。彼女は元々『忌み人』だった。通称は災厄のホムンクルス」
「忌み人?」
「マナを開放するためには、生物を殺めればマナは開放される。でももっと効率がいいのは神と人と精霊のつながりを完璧に絶つこと。これはヴィナしか出来ない。でも、この世界の人間は必ず神と精霊や妖精と関わって生きている。ヴィナがいなければマナが足りなくなるにも関わらずヴィナを必要以上に恐れたのよ。そして、幾重にも張り巡らせた呪術で彼女を縛ったの。そして、抵抗も何もできない状態で開放する聖地に投げ込まれ神と人と精霊を断ち切って生きてきた。ヴィナっていい名前でしょ?あたしがつけたのよ。忌み人には名前がないの。かならず、『あれ』や『それ』」と呼んで物扱いにしなくちゃならない。決して人扱いしてはいけないの。人扱いすると呪術が解けちゃうから……」
「それに我慢ならなかったのか」
「うん……あたしはね。あまりにも魔法が出来すぎて誰からも相手にされなくなっちゃんだ。そして、ヴィナが報われない仕事をもくもくとやり続ける姿を見るとね。この一緒に世界を出よう、と思ったの」
「僅かも希望があれば移動しないんじゃなかったのか?」
「希望があれば、あんなこと不毛なことをさせられるわけないじゃない。ヴィナはあたしが作ったんだから。彼女には忌み人の悲しい記億は必要ないから一年半前よりも昔の記億は全部消している。でも、今は彼女を恐れないで。今の彼女はただの人間だから。ちょっと頭が弱いけどね」
イレミは涙を流していたが、私に笑顔を向けた。
「では、次に私の番だな。最終兵器とはそこにいる胸次郎だ。通称は最強の人工人間」
「やっぱり、そうなのね」
「昔々、ある若い科学者がいたんだ。その科学者はとても有能でどんな物でも作り出すことが出来たんだ。だけどかなり自分勝手でね。そこで、若い科学者は思ったんだ。自分の全知識とひらめきを元に最強の兵器を作ってみよう。銃にも負けない、戦車にも負けない、大砲にも負けない、核にも耐え切れる最強の兵士を作ってみよう。ただの好奇心だったようだよ。そして、苦心して一人の兵士を作り上げた。その兵士はとても強く、そして丈夫だった。暴動に対しても戦争に対しても、暗殺に対しても、ただ真正面に向かうだけで目的を達することができた。明らかにオーバーテクノロジーだった。戦術核を直接に当てられたけどまったく意に返さなかったのだから」
「それが、胸次郎なの?」
私はイレミの問いに答えず話を続けた。
「若い科学者は、オーバーテクノロジーを扱えることを誇りとして、直接攻撃のできる人口衛星。常温超伝導物質、擬似太陽、挙句のはてには反陽子で作った物質まで作り上げた。そのうち、これらが他の人に渡るととても困る人たちが出てきてね。若い科学者は閉じ込められたよ。これ以上何かを開発されて、他の国に行かれると我々の優位はなくなるとね。若い科学者は、そこでは言葉では言い表せないくらい酷い目にあったんだ。そして、一年半前に自分の作った兵器を奪って逃げ出したんだ。でも、閉じ込めた奴らはどこまでも追ってくる。そして、現時点の世界の状況は資源が無く環境もほとんどが破壊しくされていた。もう、世界を移動することしか考えてなかったようだよ」
「そして、その若い科学者はあたしの隣にいるわけなのね」
私は何も答えなかった。
この話は、ウソではないが本当でもない。
あくまで、自分に都合の良い事実を述べたに過ぎない。
私が、しでかしたことはもっともっと重い。
そして、私は話を続けた。
「今、胸次郎はまったくの無害だ。兵器として活動していた一年半より前の記億をすべて抜いてある。人間に人殺しの知識はいらない。普通の人より丈夫で馬鹿力でどこまでもアホなだけだ。私にはともかく、胸次郎にはやさしくしてやってくれ」
イレミは胸次郎とヴィナを見ながら私に一つの疑問を出した。
「若い科学者はなんで、自分の作った兵器を人にしたのかしら?」
私は、少し微笑んで答えた。
「若い科学者には、家族がいなかったみたいだよ。それと、兵器を作ったことを恥じたんじゃないかな?」
イレミは私の答えに微笑みで返した。
「胸次郎には今の話を言わないでくれ」
「ヴィナにもいわないでね」
私とイレミの視線の先には胸次郎とヴィナが仲良く草むしりをしている。
私は味噌汁を飲みながら二人に近づいた。そして、ヴィナと胸次郎の近くでイレミと共に腰掛けた。
ヴィナは胸次郎にやさしく問いかける。
「ねーねー、胸くんってよんでいい?」
「激しくいいぞ。ヴィナさん」
「ダメ、ダメだよ。ヴィナってよんでくれなきゃダメ」
「了解だ。ヴィナ」
ヴィナはにっこりわらって元気よく答えた。
「うん。それでいいの!」
私とイレミと違って、胸次郎とヴィナは仲良くやっているようだな。
イレミの表情は相変わらず暗い。そして、私も気がめいっている。
次の戦争の相手はたぶん中国だ。正直アメリカよりも相手にしたくは無い。
果たして、どこまで権限があるか。どのようなことをすればいいのか。勝利条件は何なのか。本当に勝利条件は戦いで得られるものなのか。ここは慎重に考えないといけない。
こちらの世界と科学世界は当然協定を結んでいない。つまり、核や化学兵器、生物兵器が自由に飛んでくることを意味している。早く、こちらの兵器で防御方法を確立し、停戦にもっていかないと人類全滅で引き分けになる。そして、科学に魔法を、魔法に科学を取り入れればまた歴史はまた再びつむがれる。歴史をつむぐには二つの選択肢がある。
回避か圧倒的勝利か。圧倒的勝利は大虐殺への道、できるだけ避けなくてはならない。
味噌汁をすすりながらそんなことを考えていると、ヴィナが胸次郎に笑顔で話しかけた。
「ねー、胸くん。ヴィナと結婚しない?」
「んー。いいよ」
ブフォ!!ゲフォ!!
鼻から吹き上げる味噌汁。ワカメが私の鼻に入って暴れてだした。失意前屈体となった私は呼吸を整えるのに精一杯である。
イレミも飲んでいるミルクを鼻から噴出したようだ。
私は味噌汁にまみれた手でヴィナに
「ちょwwwヴィナwwwおまwwww」
と、不覚にも草を生やしながらでつっこみをいれてしまった。
イレミもヴィナの突然の言葉に驚いているようだ。
「ヴィナぁ……あたしですらステキな王子様の影も形も見られなのに結婚?羨ましい……」
こら、そこのクソガキ。突っ込むところはそこではないだろ。指をくわえるな。王子様って貴様何歳だ。
「えへへー。イレミちゃんにはじめて勝ったー!」
そこ、喜ぶな。
「緑太郎は羨ましくないようだな。そうだよな。二次元キャラと結婚したといつも真顔で叫んでいたものな」
胸次郎あとで貴様のメシに画鋲を盛ってやる。
ようやく、イレミが気を取り戻したようだ。
「ヴィナ。結婚するといってもどうして会ったばかりの胸次郎なの?」
「だって、胸くんはヴィナと同じで一年半しか記億ないでしょ?」
私は胸次郎に聞いた
「おい。お前自ら言ったのか?」
「いいや。ただ、俺はヴィナと草を刈っていただけだぞ」
イレミがヴィナに続けて問いかける。
「でも、いきなり結婚だって……いいの?この子は王子様には見えないよ?」
「イレミちゃん、違うよ。ヴィナはもう一八だよ。それなのに一年半しか記億がないんだよ。ヴィナは何もかも足りないんだよ。胸くんも一年半しか記億ないでしょ?だからね」
ヴィナは一生懸命に何かを伝えようとしている。
イレミはヴィナの目を見ながら答えを聞こうとする
「つまり?」
「イレミちゃん。ヴィナは普通の男の人と結婚するとその男の人はすごく苦労するんだよ。ヴィナはなんにもできないもん。でも、同じ期間の記億しか持っていない胸くんはおなじくなんにもできないんだ。ヴィナは人に頼るよりもいっしょにがんばりたいよ……」
イレミは、ため息をついてヴィナを諭す。
「うん。ヴィナの考えは立派だよ。でも、結婚するにはまだまだ経験が不足すぎだと思わない?」
「でも……だって……」
「だから、婚約という形でどうかな?」
「いやだよ。いやだよ。次いつあえるかも分からないのに約束だけだなんていやだよ!」
私は、横で聞いていてウンウンとうなずいた。なるほど、これが女の人の会話か。私がこの筋肉の化身と話す内容とは大違いだ。
その筋肉の化身はよけいなことを私に聞いてくる。
「なぁ、そこのガリ男。俺は、腕立て一〇〇〇〇回とかできるのになんでヴィナは何もできないというのだ?」
「その考え自体がすでに何も出来ない証拠だ」
私がとりあえず正論を言っておいた。
イレミが私に意見を求める。
「ねぇ、ガリ男……どうしようか?」
こらクソガキ。貴様までガリ男というか。
「奴らの人生は奴らのものじゃないのか?」
自分で言ったことを思い出させるように私はイレミに言った。
イレミはそのことを察知したのかすこし目をそらす。
「そうだったね……あたしはまだまだだなぁ」
「一〇代前半がなにを言っているんだ。それでもこの世界を代表する魔術師だから少しは誇れ。そして、私の眉間に膝蹴りしたことを大いに恥じろ」
「失礼ね。あたしは二二よ」
「ほう、では二二の癖に王子様とか言っているのか。寝言ポエムは寝てから言え」
「仮想の女性にうつつを抜かすよりはよっぽど現実的」
イレミと私はそんなやりとりを続けている間ヴィナと胸次郎は平和に話を続けている。
胸次郎がヴィナに聞いている。
「なぁ、結婚ってなにをどうするんだ?」
「二人でどんなときも生きていることを喜びあうんだよ」
「それだけでいいんだ。それなら、俺と緑太郎も結婚している気がするぞ」
「ヴィナもイレミちゃんと結婚しているようなものだけど、ちょっと違うんだよ」
「非常に不可解だな」
「ヴィナもわかんないや。たぶん、イレミちゃんと緑くんもみんなで笑うといいと思うよ」
二人の将来が非常に不安だ。激しく不安だ。
だが、これだけはいっておかないと。
「おい、筋肉」
「なんだ」
「結婚はいいがお前にはまだ仕事がある。ベチットに行くという仕事だ。それにイレミとヴィナは連れて行けない。彼女らこの世界では犯罪者だ。そして、私達は元居た世界には戻れない。そこでは我らが犯罪者だ」
「では、どうすればいいのだ」
「そのうち、酷いことがおきる。その後結婚すればいい」
「酷いこと?」
「それを起こさせないためにベチットに行くんだ」
ちょうど、イレミもヴィナに何か話している。
おそらく同じことを話しているのだろう。
ヴィナはしょんぼりとして胸次郎近づく。
そして、胸次郎の指に何かをはめている。
「ヴィナが記億あったときのつけていたものをあげるね」
イレミの顔が暗い。
そして、胸次郎もヴィナの指に何か指輪らしきものをつける。
「俺も昔から持っていた指輪がある。これをあげよう」
……胸次郎が昔持っていた指輪?
まさかアレか?なんであいつあれ持っているんだ!
決して知られてはいけないあの指輪をなんであいつは持っている?
「緑くんもイレミちゃんも顔怖いよ」
今は弁解してはいけない。必ずこの指輪の由来をきかられるから。
私の罪の多さは絶対に誰にも知られてはいけない。
必死の作り笑いでこの場をしのぐ。
広い広場で行われた緑の指輪交換。
こうして行われた災厄のホムンクルスと最強の人工人間の擬似結婚式。まさかこんなことになるとは……
イレミがため息をつきながら私に話しかけてきた。
「おもいがけず、指輪交換されちゃったね」
「されたものはしょうがない。出来るだけ祝福してやろう」
ヴィナは草刈して集めたシロツメクサを束ねて作ったブーケを空高く空に飛ばした。
私はイレミに言った
「おい。拾わなくてなくていいのか?」
「いい。あたしは結婚できないから。それだけのことをしでかしたから」
ヴィナは自分で投げたブーケを自分で拾いイレミに手渡した。
「イレミちゃん。拾ってくれると思ったのに……」
イレミは思いがけず涙を流してそれを受け取る
「ごめんね……」
といいながら。
ただ一人胸次郎はなにが起こったかわからずポカーンとしている。
こいつには、九九以前に教えないといけないことが多すぎるな……
平和な時間が流れる。
こんな時間がいつまでも続くといいのだが、それはありえない。
刻一刻と、戦争の準備は整えられている。
私はイレミに携帯電話を渡すことにした。このクソガキはダメ人間にしか見えないが少なくてもミーレの話を聞く限りでは天才だ。そして、時空を通ってきたことも事実だ。これからも連絡を取り合わないと。
この携帯電話は私の時空移動機の応用版。これで電波だけを時空の向こう側に飛ばす仕組みになっている。そして、そちら側の基地局に繋がって向こう側と連絡ができる。
「おい。イレミ。これを授けよう」
「なにこれ?」
イレミは涙を拭いて答える。
「伝説の携帯電話を模した電話だ。これでいつでも私と連絡がとれるようになっている」
「いらない」
明らかにイレミの顔が引きつっている。私と連絡を取り合いたくないというよりも携帯端末をおそれているようだ。
「……まさか、使い方が分からないのか!貴様、一応この世界では天才のはずだよな?」
ギクリとした表情を見せるイレミ。そして、ひらきなおって言い返してくる。
「分かるわけないでしょ!妖怪も関わっていない器具は触れられないわ。そこで、念話すらできないあんたのために天才的なあたしはこんなのを用意したのよ」
イレミは、そういうとよく分からない言語を唱えた。するとオウムが出てきた。
「この子はあたしの念話を仲介してくれる。あんたがこの子と一緒にいれば解決ね」
私は明らかに嫌そうな顔をした。
私はナマモノが嫌いだ。犬には頚動脈を噛み切られ、ネコには鼻を噛まれ、鳥にはフンをかけられ、サルには食い物を取られて今まで生きてきた。そんな私がいまさら鳥なんぞと一緒に生活などできるわけない。そこらへんをイレミに説明しないとまたフンにまみれた生活が予想できる。どんな言いがかりでもいいから断らなければ!
「私はそんなのといっしょにいるとクラジミアにかかりそうで嫌だ。何より、フンの後始末とエサ代はどうすればいいのだ。そんな前近代的なこといっていないで素直に携帯を持て。幸せになれるぞ。しかもだ、この携帯端末のモデルは伝説のアンティークモデルであるあの京ぽんを模したデザインなのだよ!万人が泣いて拝む一品だ。どうだ、欲しくなってきただろう!」
そうだ。携帯電話の歴史のすばらしさでこのクソガキを丸め込むしかない。
「なにいってんのよ。なんかこの機械は嫌な電波ながれているじゃない。それにこの子はオウムでも特別天然記念物のオウム。この子の賢さはこの世界でもトップよ。そして、羽の気品さ優雅さがあなたならわかるわよね?お願いだから分かって!」
イレミは私を、芸術品すら理解できない田舎者を見るような目つきで私を見下す。そこには、必死さというか哀れさがにじみ出る。
こいつ……まさか機械を扱えないから必死なのか?だが、私も必死だ。助手だけではなく鳥にもバカにされる生活はさけなくてはいけない。
「この電話はとても簡単だぞ。小学五年生の五郎くんですら扱えるんだぞ。偽りとはいえ二二歳の貴様が扱えない理由は皆無というか激無だ」
「ウソよ!私は半年いろいろ試したけどダメだったんだから!それより、あんた偉大な生物学者でもあるんでしょ。なんで動物が扱えないの?」
「私はハムスターにすらバカにされる男だぞ!知識と実務は違うのだよ」
「あたしだって、駅の改札口すらろくに通れなかったんだから。こんな高性能カラクリつかえるわけないじゃない!」
「それは、切符を買わないからだ」
「みんな素通りなのになぜかあたしだけひっかかるのよぅ……」
話はいつまでも平行線だ。私もイレミも半泣きだ。お互い必死で避けたいものを押し付けあっているのだ。
不毛な議論が交わされている中ヴィナが私に声をかけてきた。
「ねー、緑くん。その携帯電話かしてね」
「おお。ヴィナが使うか?」
「イレミちゃんがダメなものがヴィナには使えないよ。でもね……」
ヴィナが私から携帯電話を取り上げるとオウムを呼び出した。
「緑くん。この子なら携帯電話使えるかもしれないよ。この子に教えてあげてよ」
「一時的に近づくくらいなら、大丈夫か……」
だが、私がオウムに恐る恐る近づくとオウムはくちばしで私を激しく突っつきだす。
そして、私の愛らしい天然パーマがくちばしでむしられてオウムはどこかにとんでしまった。もう二度と鳥類なんかに近寄るか。
「イレミみたか。これが貴様の言っていた賢いオウムの姿だ」
「きゃははは!あんたの頭マジすごい!なんか鳥の巣みたい……プッ!きゃははは!!」
イレミは私のむしられた頭を見て笑い転げている。
ほう、マジで喧嘩売っているようだな。貴様が連れてきたケダモノのだろう。
ヴィナは困った顔をしながら再びオウムを呼び戻した。
「ねぇ、胸くんはこの機械の使い方は分かる?」
「二〇〇四年版アンティークモデルの初代京ぽんか。あそこの鳥ガラ男が嫌になるほど使い方を披露していたからな。そして嫌になった。だから使い方は嫌になるほど分かる」
オウムは胸次郎だと攻撃もせずにすなおに携帯電話の使い方を聞いている。
そして、器用に前足でいろいろと電話やメールを使いこなしているようだ。
しばらくたって、教えてもいないのに私の携帯電話に着信が入った。
私は電話に出てみた。
「もしもし?」
「リョクタロウヘンタイ。リョクタロウヘンタイ」
オウムからだ。もう容赦しねぇ。鳥類ごときが人類最大の知識をもつこの私を愚弄するとは!人類代表としてすぐさまヤキトリにして食わずに捨ててやる!!
私のハエも止まるストレートがオウムに向かって放たれる。
オウムはすかさずストレートをかわすとまた髪の毛をくわえてどこかとんでいってしまった。
散々わらっていたイレミが私に謝る。
「ごめんなさいね。あの子はひとの品性で態度変わるから……」
そういった瞬間、イレミはオウムに頭を蹴られた。
ふっとぶイレミ。そして、叫ぶ。
「くぉらー!ご主人様に足蹴りとはなんだ!マテこのクソオウム!!」
「品性の無い奴に使われるオウムが本当に哀れだ」
こうして、携帯電話はオウムが持つことなり私とイレミは無事にホットラインを構築できることとなった。
ベチットに向かう時間がせまる。
「イレミ、ヴィナ。そろそろお別れだ」
イレミは答える。
「ええ。あたし達もそろそろアメリカに向かわなくてはならないわ」
「正直、講和にもっていって平和的に解決するといいのだが」
「あたしもそれを願う」
「どちらにしても、一戦は避けられないだろう。できれば連絡は密にしないか?お互いの世界の近況を知るだけでも無駄な戦いをしなくて済む」
「そうね……」
ヴィナが口を挟む。
「イレミちゃん。緑くんを疑ってはいけないよ。イレミちゃんと同じくらいこの人は大きな罪と悲しみを背負っているの。だから、信じて連絡を取り合おうよ」
「ヴィナ、あたしはね、今はそんなに悲しみを背負っていないよ」
うんそうだったね、といいたげにヴィナは笑ってうなずいた。
胸次郎も口をはさむ
「緑太郎、イレミは信用できる。なぜならお前と同じくらいアホだからだ。アホはアホをだますほどバカではない」
「誰がアフォだ」
「誰がアホよ」
イレミと私は同じタイミングで反応してしまった。
ヴィナは笑いながら
「仲いいねー」
と一言いった。
夕日が沈みかけてくる。時間が無い。
私は一つイレミに忠告した。
「イレミ。陳には気をつけろ。奴は賢い。目的のためにはどんなこともするし、それを行うだけの権力もある。何よりも恐ろしいのは奴には守るものがないんだ。国も人も一つの手段、道具としか見ていない。そして、奴の目標は世界征服だ」
イレミも私に忠告してくれた。
「緑太郎。ミーレには気をつけて。彼女は本当に狡猾なの。目的のためにはなんでもするし、それを行うだけの魔力もある。何よりも恐ろしいことに彼女は恨んでいるの。国も人もすべてを恨んでいる。彼女の最終目標は復讐よ」
そして、イレミは科学の世界に戻るための魔法を唱えた。
景色がゆがみだした。色彩が薄れていく。
ヴィナが胸次郎に向かって叫ぶ。
「浮気しないでねー。約束だよー」
胸次郎もそれに応じるように叫ぶ。
「まかしとけ!!ヴィナは俺のお嫁さんだ!!」
そして、辺りは私と胸次郎だけとなった。
薄暗い広場の中ゆっくりと空飛ぶ馬車が見える。
私は胸次郎に聞いた。
「なぁ、あの指輪どこで手に入れたんだ?」
「よく分からないが、最初から持っていたよ。ただ、『緑太郎にだけにはこの指輪を知られてはいけない』というよく分からないイメージがあったから隠していた」
「そうか……」
次の戦場は、ベチット。そしておそらく相手は中国共産党。陳の軍隊だ。
なぜだか分からないが、中国と戦うという確信が私にはあった。
第二章完