第一章 滅亡ですら口実に
白衣を着込んで天然パーマの丸眼鏡。私の名前は丸眼鏡緑太郎という。
あまりにかわいそうなやせ具合らしく、助手から骨とか皮とかガイコツとか言われているが私はまったく気にしていない。数々の天才的な発明をしているが、ある兵器を盗んだ罪によりすべての国から指名手配を受けている。私は常に「私は二三世紀の知識を持っている男だ。打倒ドラ○もんだよ!」と叫んでいるがなぜか誰も相手にしてくれない。非常に不可解である。夢はさすらいのニートとなって誰も邪魔されずに部屋でギャルゲーをすることだ。
助手は、胸次郎と言い非常に恰幅のよい体型である。
ただ、非常に目立つ筋肉と足りない頭をもっているため私は筋肉とかゴリラなどと呼んでいる。
ある天気の良い昼下がり。助手である胸次郎はこの私を差し置いて堂々とバナナなんぞを食ってやがる。私はそんなダメ助手でも爽やかな笑顔を忘れずにかけよった。それほどうれしかったのだ。
「ついに、完成したぞ」
胸次郎は、バナナを頬張りながら私の方向を見もせずに答える。
「ほう……次は何を作ったんだ?半永久的に動く原子力ネコじゃらしか?それとも、塵も残さない元素分解ハエたたきか?」
「誰がそんなものをつくるか!ついに、携帯型時空移動機が出来たのだよ」
「可哀想に……ついにボケたんだな」
「黙れ筋肉。足し算もできん貴様の唯一の仕事は、『緑太郎様!なんてすばらしいものを作ったんでしょう』という感じに私を褒め称え、そして尊敬することだろう」
「俺には、骨を褒める趣味は無いぞ。俺が褒め称えるのは力強い肉体だ」
「ゴリラに勝ること劣らない頭脳を持つ貴様は忘れたかも知れないが我々は世界中に指名手配されている。これを使えば少なくても指名手配からは逃れることができるのだよ」
「……何!!それでは深夜のエロ本を買うがごとくコソコソとすごさなくていいんだな!」
「貴様の人間的な器の小ささが見て取れるセリフだがそのとおりだ!」
「で、それは本当に確かなものなんだな!」
「ああ。燃えないごみの日で部品を調達し、足りない回路は十円玉を鋳潰して作った。これのどこが不安なんだ?小学生の五郎君でも集められる部品だぞ」
「五郎君か……奴は俺よりも九九が出来るから信憑性は非常に高いな」
「貴様の九九は一の段でとまっているだろう。五郎君は、九九どころか三桁の足し算も暗算できるんだぞ」
「お前よりも、五郎君が作ったほうが信憑性は格段に上がるが」
「言っておくが、私は大学院を一年で卒業したんだぞ……」
「過去の栄光にすがるな。今のお前は犯罪者かつヲタでプーでニートだ」
「そして、貴様はその犯罪者かつオタでプーでニートの助手だ」
胸次郎は軽蔑と嘲笑を表した笑顔で私に聞いてきた。
「んで、その妄想の産物はいつ発動するのだ?」
「黙れ腐れ筋肉。本当なら、ここで美しき発明品で無駄な筋肉に成り下がった貴様を時空の彼方に飛ばしたいのだが、貴様の足りない頭に免じてそれをしないのが分からんのか」
胸次郎は私の偉大な発明品を指差しながら首を振る。
「本当に哀れなのは、そこの多くのゴミという名の発明品だと思うぞ」
「偉大な成果には犠牲がつき物なのだよ」
「無益かつ犠牲が多大なのはどうかと思うぞ」
「貴様、最近本当に無駄に口が回るな。そしていい加減九九覚えろ」
「口で勝てないからってそこにいくのは卑怯だぞ」
「九九は人生の基本かつ応用でかつ全てだ。九九さえ出来れば、彼女もできるし、お金持ちになれるし、大統領に土下座を強要できる。まさに現代のオーバーテクノロジーだ。逆に九九できないとマンホールには落ち、猫は目をそらし、犬には小便をかけられ、幼児にアメ玉を恵んでもらいそれを糧に日々を生きることになる」
「九九ってそんなにすごいものだったんだな。俺始めて知った。確かに五郎君はウハウハだ」
「五郎君は、九九を知っているから世界の王様に等しいのだよ!」
そそくさとちゃぶ台にある九九のドリルに向かう胸次郎。その姿をみて私はそっと微笑む。
「フフフハハハハ………青い青すぎる!口が回るようになったがまだまだ甘い甘すぎるぞ………」
「そこのホネ。何か悪意ある言葉をつぶやいたか?」
「ほらダメ筋肉。ウハウハになりたかったらともかく九九を勉強していろ」
九九を勉強している胸次郎を後ろに私は、ゆっくりと椅子に座り目の前にある自作パソコンをそっと起動させてメーラーを立ち上げた。私の旧友に一通のメールを送る。
せめて、我が悪友にも最後の別れをしておかんとな。
「今宵に発明品を起動させるから九九がひと段落したら用意しろ」
胸次郎は半分涙目になって答える。
「すまん、六の段が覚えられない」
「それだと、やっと人並みの生活だな。ともかく、時間がなくなった」
胸次郎は腕で涙を拭くと自慢の筋肉を膨張させポージングを取る。
「フ、この俺に準備などいらん。必要なのは鉄アレイとバナナだけだ」
「だから、その鉄アレイとバナナを準備しとけというのだ」
私は首を振りあきれた顔で胸次郎に三万円分の紙幣を渡した。
「よっしゃ。バナナバナナー!!」
そのまま、バナナを買いに行く胸次郎。
そして、夜が更ける。
私は、ゆっくりとブラウン管のテレビをつけた。何時の世もやっているものはニュースとバラエティ、スポーツ、歌番組。私はその中でニュースを選んだ。
キーワードは戦争、資源の高騰、森林破壊、人口爆発。
どれも、紋切にこれはまずいと言っている。
確かに、世界の人口は四〇〇億まで増えた。昔は人口が多い国の大体が発展途上国だった。そしていつしか、発展途上国は発展国となった。今は、発展途上国という概念は無い。四〇〇億の人間全てが最大の消費を愉しんでいる。ほとんどの石油は底を付き、代わりのエネルギーもほとんど尽きた。備蓄だけで消費を行っている。期限付きの楽園、それが今だ。
ただ、戦争は限界まで行われることはない。科学が進みすぎて戦争が始まるとおそらく人類は消滅するからだ。
私とあの筋肉バカは、そんな期限付きの楽園を脱出しなくてはならない。
そして、私は最終的に狭い部屋に引きこもってニート生活を営み、残りの人生をギャルゲーやネトゲに人生を費やさなくてはならない。そのためにはこの世界の時間はあまりに少ない。
大丈夫。私ならできる!できない理由などない!
胸次郎が買い物にでて二時間ほど経過しただろうか。
ふと、私が町の方向に目をやると巨大な黄色い物体が高速で接近してきた。
バナナを大量に買い込んだ愚かな助手だ。
「骨マニアー。帰ってきたぜー」
私はそっと微笑むとポケットの中から白い粉と赤い粉を取り出しそれらを混ぜて家の前の道に埋めた。
笑顔で手を振り、まさにご満悦な胸次郎。そんな男が一生懸命家に向かって走ってくる。
「おーい。ホネ人間!スゲーだろ。すごいだろう。すばらしだ……!!」
家の前にたどり着くと爆発する胸次郎。バナナにまみれた爆音があたりに鳴り響く。
爆風で五メートルほど上に吹き飛ぶバナナと胸次郎。そして、胸次郎はそのまま頭から落ちる。しかし、胸次郎はむくりと何事も無かったように起き上がり、叫びだした。
「バナナがー!バナナがー!!俺の全財産がー!!」
胸次郎は爆風で吹っ飛んだバナナを必死にかき集める。その必死さは私の涙を誘う。
「哀れな………」
私は情けなさで涙を流した。
「貴様は、バナナと己の身どちらが大切なんだ。というか、いい加減まともになりたまえ」
胸次郎は、貴様にだけには言われたくないという態度で返す。
「家の前に地雷を設置する緑太郎は馬鹿にされて然るべきだが、俺とバナナと鉄アレイは馬鹿にするな!」
「そこの脳髄筋肉よく聞け。トイレの戸を壊したの貴様だろ。私が何度悲劇的結果に終わったかわかっているのか?え?脳内筋肉さんよ?」
「しかし、トイレの戸を壊しただけで対人地雷を家の前に設置するのもいかがなものか」
「一度や二度ならいい。これで八度目だ。そのたびに私は涙を飲んだのだ」
「いや、ドアノブを逆にひねったらとうなるかと……」
「ほう、やはりワザとか」
しばし、お互い静寂が流れる。
「さて……ところで……」
「さて……ところで……」
私と胸次郎の声をそろった
場の空気が確実に凍りついていくのが分かる。
「時にホネ魔人、我々は爽やかに殺される布陣で五八人に囲まれているぞ」
「私のすばらしき発明品を見せ付けたくてな。私の旧友にメールをだしたんだ。奴は、我々を狙っているからな」
胸次郎はびっくりしたような顔で私を見つめる。
そして、私の両肩をつかむとこう言い放った。
「本当に俺たち狙われていたのか?ホネ天パの妄想じゃなかったのか!」
なんて助手だ。私のことを何も信用していないにもほどがある。
「貴様は哀れな筋肉のカタマリだが、私は二三世紀の知識を持つ男だ。狙われてしかるべきだと思わないかね?」
気配だけだった一つの部隊が一気に展開して叫ぶ。
「フリーズ!!!!!」
私と胸次郎は一斉に銃を持った迷彩服姿の男たちに囲まれた。
右に銃。左に銃。前に銃。後ろに銃。
木の上にもおそらくスナイパーがいるだろう。完全武装だ。
「同志よ。任務ご苦労」
野太い声とともにゆっくりのったりと歩く太った男が現れた。
私は、軽蔑をこめて太った男をにらみつける。
「久しぶりだな。デブヲタ」
太った男は薄ら笑いを浮かべて答える。
「ホネ男、変わってないな。その様子だとみすぼらしいものしか食っていないようだな?」
胸次郎が私の耳にささやく
「あのタダのデブ誰だ?」
「奴の名は陳列山、私の同期だ。腐っているが中国共産党のナンバー二だぞ」
ごほん。と陳が咳払いをする。
「そこの馬の骨、何か勘違いしているか分からないがわしが用あるのは貴様ではなく隣にいる男だ」
「ほう、一度も私に知識で勝ったことの無いただのデブが私に用がないとな」
「そんなことはどーでもいい。なんでわしにメールをよこした?こうなるのは分かっていただろう」
「一応、不幸なことに貴様とは長い付き合いだからな。挨拶くらいしてもいいだろう」
「さて、さっさと本題に移る。なんで、あの兵器を盗んだんだ?あれさえあれば軍事バランスは崩れずにここまで混沌とならなかったろうに」
「あれや私の知識が無いくらいで世界が滅ぶなら滅んでしまえ」
「わしもそう思う。だが、お前は月にでも住むつもりか?まだ地球しか住むところはないぞ」
「固定概念に縛られた哀れなデブよ。貴様にも僅かな知識があるならば地球のほかにすむところがみつけられるだろうに」
「ほう、それはそれは興味深い。だが、今の目的はそれではない。胸次郎君。君、中国にこないか?」
胸次郎はきょとんとして陳をみている。そして、困った顔して私を見る。
私は、ただ黙っていることにした。
「俺?なんで?」
「中華人民共和国が総力をあげて君を歓迎したい。ちなみに、断るとここの兵隊がどう判断するだろうかね?」
銃弾が胸次郎の頭の近くをかすめる。木に配置されているスナイパーが撃ったようだ。陳は言葉を続ける。
「分かりやすく言うと、歓迎されるか死ぬか選べ」
胸次郎はゆっくりと左右に首を振った
「知らない人の話を信用するほどアホではない。それに、九九は五の段までいける俺を舐めるなよ!」
スナイパーは胸次郎を撃とうと構える。
しかし、陳は首を振りながらそれを合図で止める。
「無駄玉を使うことは無い」
私は、陳に語りかける。
「さて、そろそろいいかな?こいつはただのダメ人間の鑑だが私の助手だ。どこにもやる気は無い。そろそろこれを起動するぞ」
「ああ。どこにでもいけ。お前に我が中国が世界を掌握するときを見せられなくて残念だ」
「アカ臭い貴様の顔を見ることもうはないと思うが、早くやせろ」
「貴様の顔見ていると飢餓で苦しむ人民を連想させられる。さっさと消えろ」
陳の不敵な笑みが気になる。なんか、またすぐに会えるよ……と言わんばかりだ。
しかし、追ってこれるものなら追ってみるが良い。私の発明品は時空を飛ぶのだからな!
そう思いながら私は携帯電話型の装置を操作した。
そのとたん周りの色が崩れる。景色もゆがみ、音が削られる。
そして、陳たちの姿が消えてゆく。
私の理論の正しさを実証できた。しかし、美しい世界だ。横の筋肉がいなければもっとすばらしい世界だっただろう。
私が時空の狭間にいる快感を味わっていると横の筋肉が口を出してくる。
「あのデブ男、なんで俺に来いといったのだろう?」
「あいつ、筋肉フェチだからな。贅肉の筋肉フェチということで同期の中では恐れられていた」
「マジで?俺の筋肉にほれ込んだのか。そいつぁ悪いことしたな」
「ああ……奴の犠牲になった男たちは涙無くては語れない末路を……」
さっきのデブオタの恨みつらみとあること無いことを吹き込もうとしたら胸次郎が突然話題を変える。空気よめよ。
「しかし、このよくわからん世界を生み出した発明品は五郎君も作れるんじゃなかったのか?」
「真理であればあるほど、単純なものなのだよ」
「ならば、俺は真理に一番近いな」
「百歩譲ってバカが真理だとしよう。だが、バカに真理の尊さは分からないから激しく無価値!」
胸次郎は、私に殴りかかろうとしたがすぐにその腕を止めた。
そして、すこし耳をすました。
「緑太郎……女の声が聞こえないか?」
「何をバカなことを………時空の狭間にいくのは有史以来………下手したら宇宙史以来はじめてのはずだぞ………」
「だが………間違いない」
その声は私にも確実にも聞こえるほど大きくなった
「………信じられん。あの理論を私とあのデブ以外に……」
急に目の前に二人の女性すごい勢いで近づいて来る。
「なんで………ここに人がいんのよ!」
「ほらー、イレミちゃん。怒らない怒らなぃ………」
二人の女性は、私たちとすごい勢いですれ違う。
新しい世界が見える。
それは、今までの世界と同じように緑が見える。
そして、多くの人たちの足音が聞こえる。
爽やかな森の香りが漂い、人々の声が聞こえる。
「奴らはどこに消えた!!!」
「あいつら……また魔術を使いやがって!!」
この声を聞いて私と胸次郎は血の気を失う。
「ボケー!ホネー!シネー!!!どこが、違う世界だ!たわごとは三八キロという体重だけにしろ!」
「馬鹿な!この伝説の私がぁ!!!!やっぱり銅線足りなくて鋳潰した十円玉を使ったのがわるかったのか!!!」
しかし、追跡者たちの服装を見て誤解がとけた。
追跡者たちが持っているのは、アサルトライフルではなく槍。
迷彩服ではなく鎧。ナイトスコープではなく鉄仮面。
ぼーぜんとする私と多くの鎧騎士たち。そして、前も後ろも右も左も私たちに槍を向けている。
ゆっくりと時が流れる。
私は騎士たちにたずねた。
「……さて、ここはどこですか?」
私は一応英語で聞いた。
ラテン語訛りの言葉が返ってきた。
「……カメリア王国だ」
「なんで……皆さん私たちに槍を向けているんでしょう?」
「お前らは、イレミとヴィナではないのか?」
「違います。私たちはあなたたちに科学というものを教えに来た者です」
胸次郎が私の耳元でささやく
「緑太郎……そんなはったりで大丈夫なのか?」
「まかせておけぃ。奴らの服装を見ろ。どうみても中世レベル。そして、つくりのよさからたぶんそこそこの階級だろう。お前は槍とアサルトライフルどちらが優れていると思う?つまり、この世界の科学はそこまで発達していない。もちろん科学が発達しても私の知識は負けんがな」
「ほう……科学?科学とはなんだ?」
騎士長らしき女が私にたずねる。
「科学とは、万人が使える知識であり技術でございます。そして、我々の世界の誇りです」
「では、科学でこんなことはできるのかな?」
騎士長は鉄仮面を脱いだ。背の高い褐色の妖艶な女性だ。
部下たちに槍を下げるように言う。そして、近くの岩に指を刺す。
騎士長が槍に力をこめるとどこかしら槍が光りだす。騎士長は聞き取れない単語を発した。
そのとたん爆音とともに岩が砕けた。私の頭に小さい破片が当たる。
「さて、科学とやらはこんなこともできるのかな?見たところ魔力はまったく感じないが……」
私はたちまち青くなった。
「マテ……胸次郎なんだあれ?」
「知るか。ともかく、ここで岩でもぶっ飛ばさないと科学の価値が奴らには何一つ伝わらないぞ」
「……しょうがないな」
私はにやりと笑いながら懐からダイナマイトを取り出した。
「ホネ道楽……んなもの持ち歩いていたのか?」
「予期できる不幸は不幸ではないからな。バナナをもっていくより有意義だろう」
私は大きな岩に指を刺した。
そのまま、ダイナマイトに火をつけると岩に投げつけた。
激震とともに崩れ行く岩。岩があったところには穴が開いた。
「これが、科学クォリティ」
騎士長たちは驚きとともに言葉を失う。
「……マナや精霊の力を使わずに……あのクソガキでもマナ無しではこれは……失礼……わたしの名前はミーレ。イレミという極悪な魔術師を討伐に来た。ふざけた女で指名手配の癖に自らの潜伏先を念報で知らせてきてな。やっと追い詰めたら奴らが消え、そして君たちが現れたのだ。本当に君たちはイレミとヴィナではないのか?」
「違います。私たちは科学を伝えにきただけですから。貴国の発展を願ってね」
私の眼鏡がキラリと光る。
「よく、ここまで堂々とウソつけるな。こいつ…」
「だが、君たちはまだ自由にできない。これから我らの城に連れて行くことになる。君たちが不審なのは事実だしな」
「当然ですね。ともかく、私たちもあなた方のことをもっとよく知りたいですから」
私と胸次郎は手錠をはめられた。そして、馬車に乗ってそのまま城に連れて行かれるようだ。
馬車の中、私は胸次郎にコソコソと話しかける。
「おい、違和感ないか?」
「……違和感だらけだ。なんだあの鎧。コスプレってんじゃねーよ年増。それに、なんだこの手錠二秒で破砕できるぞ。もっと丈夫なものはないのか」
「うっさい。筋肉ボケ。私が言いたいのは土がいいのだよ」
「土……?」
「木はどのくらいあった?」
「なんか、若い木は無かったよな」
「あれだけ肥沃な土なのになんであんなに木がすくないのだ……」
「そーゆー気候ではないのか?」
「湿度もそこそこあるのだが……生態系が違うのか?」
「まー、そー言われると虫や獣の気配があんまりしなかったな」
「……来たばかりだしな。違和感も何もないか」
私は馬車の窓を覗き込む。
畑、風車、そして牧場。そして城壁に囲まれた町と大きな城が見える。
「しかし……中世だな。緑太郎はこんな世界だと思っていたのか?」
「いや……正直、あまり変わらない世界を想像していた。時間軸変わらないはずだし、基本的に何も変わらないはずなのに……」
「基本的に変わらないなら、この世界もまずいんじゃないか?」
「まーな。だが、身を隠すことを考えるとこちらのほうがいいだろう。私はあちらの世界を救う気は無いし、あのデブにも会いたくない」
「あと、あの年増がつかった技はなんだ?どう見ても魔法にしか見えないが、魔法って本当にあるのか?」
「んなものあるわけ無いだろう。我々を愚弄しているのだろうな。もう少ししたら年増のトリック暴いてやるぞ」
「しかしお前、その手のものは今まで三秒でネタ見切っていなかったか?」
「………ああ。今のところマジで分からん。火薬だとしてもその臭いはしなかったし……」
「一番不可解なのは、あの程度の岩を壊すのに自らの肉体を使わないことだ」
「人類はゴリラではないからな」
門を通り、町に入る。
町は石つくり。我々は城の中に連行された。
城の中は、きれいに掃除されておりその中の一室に私と胸次郎はほうりこまれた。
電気は無いようだが、なぜか回りは非常に明るい。
一室にはベッドがふたつあり、机もある。
ミーレが我々に話しかける。
「今日は、この城で泊まりなさい。詳しい話は明日聞く」
そういうとともに、ドアをやさしく閉めた。
私は胸次郎に話しかけた。
「おい。とりあえずこの光の動力源がわからん。電気、火、放射能……どれでも違う……」
「ほへはふぁはふはぁふぇはひはほ」
胸次郎はバナナを口一杯にほうばっていてしゃべられないようだ。
「…………」
私はすかさず胸次郎の鼻をつまむ。みるみる顔が青くなる胸次郎。
三〇秒後。胸次郎の口から爆音とともにバナナがはじけ飛ぶ。
「ぶほぅ!!……殺す気か!!!!」
「人が真剣な話をしているのにバナナなど食べて至福の時をすごしているからだ」
「ああ……俺の命に等しいバナナがー」
「ひとふさ百円の命とは儚いな」
「だが、ホネの命より重いぞ。お前はどーみてもキロあたり三円だろ」
「よく九九も出来ずにそんな減らず口が叩けるな。私のはダシがとれるからまだいいが貴様は筋だらけでトンあたり四円がいいところだろ」
「筋というのは骨などと違い調理しだいでいくらでもなんとかなる」
「………料理しないくせによくそんな小ざかしい知識を」
「ともかく俺は寝る。一日十二時間睡眠の記録をここで途絶えたくは無いのだ」
「永久に寝てろ。そうすれば世界記録だ」
そんなやりとりを繰り返しているうちに本当に胸次郎は寝てしまった。
本当になんて使えない助手だろうか。
目の前のバナナを全て腐らせたい衝動にかれらるが、まー、そこは私の宇宙より深い情けで勘弁しておこう。ただ、むかついたので半分は腐らせるが。
さて、思案するか。
私が、考えるべきことは……
現時点での生活の保障を得ること。世界を知ること。状況を知ること。やることは沢山ある。
私とそこの筋肉バカはこの世界でこれから生きぬかなければな…
そして、我が最終目的であるニート生活三食昼寝つきを是が非でも達成しなくては!
次の日の朝、私がベッドの中で同人誌を読んでいるとノックの音が聞こえた。
年増のミーレだな。
「入るぞ」
私は胸次郎が寝ているがかまわずにどうぞと答えた。
ミーレ目を覆いは迷惑そうにこういった。
「おい、相方が寝ているぞ」
「奴は、寝ていたほうが役にたつのですよ」
「つまり、役にたたないのだな」
「そうともいいます」
ミーレは笑いながらうなずく。そして、近く椅子に座って話す。
「何もしない無能よりも、使えない奴は多いからな」
「彼は、無能ではありませんが今は役に立たないのですよ」
「と、言うと?」
「あなたは、我々の技術に興味があってここにきたのでしょう?彼は技術には疎いですからね」
「まぁな。今日はあなた方に話がある。まず、一つ、君たちの技術。二つ、君たちの世界について、三つそれらは自由に行き来できるのか?」
「私も、質問があります。一つ、あなた方の技術。二つ、あなた方の世界について、三つ目の答えはNOです」
私とミーレの間の空気が変わり始めた。戦闘する寸前の空気。
私はどんなことをしてもこの世界の協力者が必要だ。有力者にとりつけていけば私の夢であるニート生活、できれば毎日ネトゲの希望がでる。
どーせ、横で寝ているバカもろくなことをしないだろうからこいつも私と一緒にニート生活でいいだろう。
さて、年増の顔つきが険しくなってきたぞ。さて、どーするか。
「本当に行き来できないのか?」
「できません」
「では、君の技術を見せてくれないか?」
「あなたはどんな技術が見たいですか?医療、兵器、工業各種取り揃えていますが」
「示せるもので」
私は、懐から一つの拳銃を取り出した。
そして、そのままミーレに向かって発砲した。銃声が当たりにとどろく。
ミーレは瞬きもせず避けようともしなかった。
弾丸はミーレの頭を掠めたまま、壁に弾痕があく。
ミーレはただ一言
「すばらしい。本当にマナがまったく動いていない」
とだけ言った。
正直、本当に当てて逃げようかと思ったが、どのみち私の腕だと三十センチまで近寄っても当たらないのだ。いい脅しになってくれると助かるが。
私がそんなことを考えているうちにミーレは杖を取り出した。
「さて、わたしの番だな。この世界の技術である魔法を見せてやろう」
いくつもの光の帯が重なって私に襲いかかる。幸いにも光の帯は壁に当たり壁が崩れた。私は突然のことで反応すらできなかったが、笑顔を絶やさないことでごまかした。
「ほう、瞬きすらしないとはな」
ボケ。避けられるか。動けるわけ無いだろ。私は小学五年生の五郎君にタイマンで敗北する人間だぞ。反射神経は小学三年生並だ。冗談は垂れた乳だけにしろ。この年増!!技術だけはやるからさっさと私に三食昼寝付きのグータラ人生を歩ませろ!!!
そんな罵詈雑言が頭を掠めたが私はそんなことをおくびにも出さずこの世界と技術のことや今の魔法のことを聞きださなくてはならない。質問を考えろ。適切な質問は答えより大切だ。
私が必要な答えは……
問一、この年増の地位は?
どこまでできる人物か?決定権の無い人間と話してもロクなことはない。まず付いていく人を探し出さなくては。
問二、技術のレベルは?
どこまで技術が進んでいる?戦国時代レベルなのか?現代社会より上か?それともそれらをはるかに超越しているのか?私の持っている科学と見比べて優位か不利かを考えなくてはならない。
まず、問一からはじめるか。決定権を持っているか調べなくては。
私は、笑顔でこうミーレに話しかけた。
「しかし、いきなり槍構えているのでびっくりでしたよ。そういや、イレミとかいってしましたよね」
「ああ。これは軍事機密だから何もいえない」
「しかし、この国は寒いですねー。ミーレさんの国はどうですか?」
「そーでもないぞ。中央共亜国はもっと寒い」
「上司の命令でここまで来るのは大変だったでしょう?」
「将軍の直接命令だ。拒否は許されない」
これで分かったことは、ミーレという年増は中央共亜国という国の軍事関係でのナンバー二~十位であること。さもなくては将軍から直接命令は下らないだろう。
地位は十分と考えられる。決定権を持っていると推測できる。
また、他国にあれだけ武装した人間をいれるという事は、よほどイレミという人間は重要人物だったのだろう。しかし、なぜこの国の人間が捕まえなかったのか疑問があるが、そこは私には関係はない。
次に問二である技術のレベルに関しての質問をしなくては。
「そういえば、この世界に死人が沢山でる伝染病はないのですかね?」
「難病奇病はあるが、そんなに死人がでる伝染病は今の世の中では多くはないぞ」
「やっぱり薬の力は偉大ですな」
「いや、それよりも祈りと理解が必要だ」
最低でも二十世紀レベルの技術力はあるようだな。
二十世紀レベルの技術が無ければ麻疹やペスト、コレラ、梅毒などの病気がここででるはず。特にこれは隠す必要もないだろう。
ただ、これらを防ぐのに薬を使わないなんてどんな魔法を使っているんだ?
文字通りの魔法だが。次に魔法とやらを聞いてみるか。
「ところで、魔法とは何ですか?」
「お前には見えないかもしれないが、この世界には沢山の妖精や精霊がいる。彼らの力を借りるのだ。では、同じ問いを。科学とはなんだ?」
「あなたには、理解できないかも知れませんが、この世界には沢山の法則や規則があります。それらの力を借りるのです。では、どうやって妖精や精霊から力を借りるのですか?」
「マナを使うんだ。マナとは、生命の根幹だ。全ての生物はマナから生まれている。マナが無ければ生物は成り立つことはなくなる。では、科学の法則や規則から力を借りるにはどうすればいいのだ?」
「熱を使うんです。熱とは物質のエネルギーそのものです。全てのものはエネルギーでできているのです。このエネルギーが無くて物質は成り立ちません」
魔法というものはマナというものが無くてはならないということ。
マナというものは、生命の根幹を成すことということが分かった。ただ生命の根幹の意味は分からないが。ここでは、たいした答えは得られなかった。生命という定義に何か特別な意味があるのか?それとも、私が理解できない感覚を有しているのか。どちらにしても大切なのは現時点では理解はできないということだ。
事実は、さっきの杖からの攻撃などは確実にこの年増が操作しているということ。そして、それが理解できないということがとりあえず分かった。
だが、目的はあくまでニート生活。部屋に引きこもってウハウハのギャルゲー三昧。このためなら私は人間をやめてもいいくらいだ。
魔法の理屈は流離のニート野郎になってからその後でじっくりと料理しよう。
しかたない。そろそろ、年増に提供できそうな技術の話にするか。
「あなたはところでどんな技術がほしいですか?」
「軍事がほしい。これから間違いなくひどい戦いが起こる」
「たとえば、自動車のように時速六〇キロ以上で走る乗り物などありますがね」
「いらん。今、必要なものは軍事用品のみだ。軍事に必要なものは新しい技術。民間利用は軍事の二の次でよい」
「しかし、ここで我々の技術による商品を作りそれを他国に輸出し、外貨を得ることは軍事に勝るのでは?」
「今が、平和ならそれもあるだろう」
「あなたが他国でイレミを捕まえるために軍隊を引き連れたのは平和だからできることだと思いますが」
「皆、平和だと思っているだけだ。もし、我らがいきなり戦争を起こせばそれは平和ではなくなる。まだ、誰も引き金をひいていないにすぎない」
取りつく島すらなしか………他にも、ペットボトルや飛行機、自動車、電機機器など聞くべきものの単語を発したがそれに関してはあまり興味がないようだ。即時性の強い兵器ばかり聞いてくる。
軍事関係の職業だからか?それとも他に意味はあるのか?
むしろ、こいつの国が率先して何かを仕掛けざるを得ない状況下に置かれているとしか思えない。
とりあえずは兵器の技術に関しては適当に流しておくことがベストだ。
兵器を作ることで、平和になることは無い。むしろ何も出来ないということがどれだけ平和だったかということを私は知っている。他人から恨まれるニートは平和な引きこもりライフを万人から阻害される。兵器には手を出すべきではない。
魔法がどんなものか分からないが今は手の内をあかすことは無い。
そして、一番大切なのはこのクソ年増がいくつか嘘をついていること。
何かは分からないが嘘を言っている。
ミーレは突然話題を切り返した。
「わたしの要求ばかり言うのもなんだ。お前の要求も聞こう」
ここで、ニートになりたいとは言えん。
ギャルゲーよこせというのも不自然だ。そもそもギャルゲーはこの世界にあるのか?
ギャルゲーの有無をこの年増に聞くわけにも行かない。私も科学も誤解される。
しょうがない、働いたらそこで人生終了の哲学を持つこの私だが、そこそこの地位とお金を得てからニートになるすべを探すことにするか。
「私に、地位と名誉とお金を得られる場所は無いですか?」
「わたしの部下になれ」
「しかし、私は自分の能力より下の人につきたくはありません。そこで、一つゲームをしませんか?」
「わたしが勝ったら?」
「私の持っている全ての情報を惜しみなくあなたに謙譲します」
「お前が勝ったら?」
「あなたの権限で、いろんな資材を使わせてくれませんか?」
「分かった。勝負のルールは?」
「三日後、この部屋のこの場所で一時間私と話してください。あなたが一時間で気を失わなければあなたの勝ち。あなたが気を失ったら私の勝ちです」
あんまりのゲームの内容なためかミーレは驚きを隠せないでいる。
そして、ミーレは大声で笑った。
「これはこれは……勝負にかこつけて私の部下になりたいだけじゃないか」
「それは、勝負に勝ってからおっしゃってください」
「安心してもいいよ。わたしはあなた達を邪険に扱わないよ」
「勝負を受けてもらったことを光栄に思います」
ミーレは、席をたつと共に紙を取り出した。
「リョクタロウ、といったな。忘れないうちにこの紙に勝負の内容と勝ち負けの内容を書いてくれ」
私はその紙に勝負の内容とその勝ち負けの条件を以下のように記した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
三月三日一一時
カメリア王国 シャンパニア市 二-二-五 シァンパニア城 二〇五号室
三月六日一三時によりミーレ及び緑太郎は決闘を行う。
決闘のルール
シャンパニア城二〇五号室内でミーレと緑太郎は同席する。
暴力などはいっさい行わないとする。
一時間ミーレが意識を保っていたらミーレ勝利とする
緑太郎がミーレと三回呼びかけてミーレが返事をしなかったらミーレは意識を失ったと判断し、緑太郎の勝利とする
ミーレ勝利の暁には緑太郎の知っている情報を全て譲渡する
緑太郎勝利の暁には、中央共亜国の資材をミーレ権限で自由に使える
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私が書き終わるとミーレはその紙を奪い取った。
そして、にんまりと笑った。
「もう、修正はできないからね?」
ほう、ブリッコまで使うとは恐るべき年増だな。
そこで、使えない助手の胸次郎が目を覚ます。そして、ベッドのから上半身だけあげてよりによって本音を叫びやがった。
「なんで、ここに年増が!!」
私はすかさず
「馬鹿野郎!!この年増はみかけによらず偉そうなんだぞ!本音はこいつが消えてから言え!!」
と、私も本音を言ってしまった。
「ほう………」
半分キレているミーレが私の後ろに立っている。
「ボケホネモドキぃ!!本音は隠せー!!」
「あ………」
「とりあえず、貴様。情報すべて吐き出してから覚えておけよ。どんな手段を使っても貴様の技術吐き出してもらうからな」
ミーレはあまりの怒りで顔がすでに赤黒くなって体が小刻みに震えている。
そんな状況でも先ほどの光の杖を振らないところを見ると、どうしても私の技術がほしいようだ。
「はっはっは!!敬語もういいや!減らず口はゲームに勝ってからいいたまえ!!」
こうなったらしょうがないので素に戻ることにした。
どんなに尊大な態度をとっても年増にとって私の技術が必要な以上我々の身の保障は大丈夫だということだ。
「今度からは、その口の利き方をいましめてもらうからな!!」
ミーレは捨て台詞と共にいきおいよくドアをしめて退室していった。
さて、私はそこのバカ筋肉に説教をしなくては……
「さて、そこの無駄筋肉。そこに座れ」
「ああ」
「貴様のせいで、偉大な科学者のイメージがすべて総崩れだ」
「それに関しては、万人がすでに崩れた瓦礫しかイメージを持っていないから安心しろ」
「そしてあの年増は外国の要人だ。つまりとてもえらいのだ。貴様はそいつの気分を害したのだ」
「で?年増がえらいとなんかメリットあるのか?」
私も少し考えた。あまりないかも知れない。
「………とりあえず、この世界の金と情報を得るために必要だろう。それに奴らの気分を害すとどんなめんどくさい弾圧がくるか分かっているのか?」
「正直、そんな偉そうな奴と関わらなくても普通に生きられる環境はできると思うが」
「そうでもない。一応我らは不審だからな。早かれ遅かれ軍や国とは切っても切れない関係になる」
「そういうものか?」
「そういうものだ。どの道我らは技術を売りにして生計を立てるしかない。そして、技術というのは国の運命を左右するものだからな。いつかは必ず関わることになる」
「なら、嫌われたほうがいいんじゃないか?弾圧されるとしてもこの国じゃなければ弾圧はされないだろう。違う国にいけばいいだけのことだ」
「どうだろうな。こればかりはわからない」
さて、三日後に始まるゲームのために用意するか。
私は、リュックサックを片手にとり外に行く準備を始めた。
「おい。ホネ。どこにいくんだ」
「貴様の無駄な筋肉を使うときがきた。かなりの重い荷物を運ぶ。ともかくお前もさっさと着替えて外に行く用意をしろ」
「了解。とりあえず着替える」
「重い荷物を運ぶという言葉が聞こえなかったのか?鉄アレイはおいていけ」
「でも、行きは手ぶらだ。体なまるぞ」
「………そうか。あと、バナナも持っていけ」
「よっしゃ、バナナバナナ!」
しかし、説教のつもりがうまくごまかされた。会話を妨げる手段ばかり発達しおって………
やはり、腹いせにバナナを腐らせて正解だな。
相手が予想もできない嫌がらせをセコセコとするのがこの私だ。 そんな自分を誇らしく、そして愛らしいとすら思える。
そんなことを思ってバナナを手に取るがバナナは腐っていない。
私が確かに腐らせる菌を植えたんだが………
胸次郎が叫んでいる。
「どーした!早く行くぞ!」
「ああ。すまぬな」
一応、すべての外出許可証や身分証などはミーレがやっておいてくれたらしい。
兵士が、私に身分証と城の部屋のキーを渡してくれた。そして、こう私たちに忠告してくれた
「城の周りは、何もありませんから自由に散歩してもいいですよ。ただし、森には絶対にいかないでください」
「分かった。忠告感謝するよ」
城の出入りも自由のようだ。見張りが一人だけいるようだが。
城の外に出て、城の周りも回りながら胸次郎と話しながら郊外に出る。
「緑太郎。付いている奴がいるぞ?どーする?」
「ほっとけ。今とりにいく部品はそんなに貴重ではないし、何よりも奴らには絶対に使いこなせない。そして、使いこなせても大きな意味はない」
「で、緑太郎。お前が言っていたゲームとはなんだ?」
私は何も言わずゲームの内容を書いた紙を胸次郎に渡した。
胸次郎は思わず絶句し、あきれながら私に答える。
「おい、ボケホネ!!勝てるわけねーだろ!!」
「はっはっは。こーでもしないと、年増が乗ってこないだろ」
「それに、万一お前が勝ったとしても年増が約束守るのか?」
「そりゃ、守るさ」
「なんで?」
「ミーレは私の技術がほしいからな。私はどこの国に行ってもいいが、ミーレにとっては私の代わりはいない。なおかつ、その中で貸しを作る。これだけで交渉は十分に有利に進む」
「それは勝ってはじめていえることだろ。それに、勝率はどのくらいだ?」
「魔法の意味や効果は分からないが、トリックに気が付かなければ一〇〇パーセント私の勝ち。そして、万一トリックに気が付いても後の祭りでやっぱり私の勝ち」
「そんなに自信あるのか……」
私は笑顔で答えた。
「分かっていないな。私は勝てる勝負が好きなのだよ。良い勝負するという根性は私には備わっていない。そして、敵の提案をそのまま受けるミーレは軍人の素質は無いということだ」
「とりあえず、お前の自信は分かったがどこにそのゲームに勝つための部品があるんだ?まさか、そこらの草や石というわけではないだろ?」
「ああ。もちろんだ。実はこっちの世界に実験をかねて私の研究資材をいくつか飛ばしているんだ。その一つを回収する」
「ほう……そんな用意周到さがあるなら、牛丼屋でサイフを忘れる失態を四回も行って欲しくはないところだが」
「私はやる時にしかやらない男なのだよ」
「で、どこにその資材があるんだ?」
「ちょっとまってろよ………常に場所は無線で発信してあるからな」
私は無線の受信機を操作して資材の場所の割り出しを試みた。
資材の割り出しにてとまどっいると胸次郎が私の受信機を覗き込んだ。
「おい。このヲタボネ。同人誌二〇〇〇~二〇二〇年。二〇〇〇冊っていうのはなんだ」
「私の夢であり、誇りであり、過去のすべてだ」
「そんな個人的な恥を送らなくてもいいんじゃないか?他にもっと有意義な物を送れよ」
「それは、全人類が果たせなかった夢である時空旅行にバナナと鉄アレイしかもっていかない奴が言うセリフではないな。せめて着替えくらいもってこい」
機械的な電子音と共に無線機からの返答が来た。
資材の場所は………この森の中のようだ。
私は磁石と無線機を持ちながら森を指差した。
森は不吉な感じにどんよりとした霧が辺りを覆っている。
そして、不気味にカラスの鳴き声がこだまする。
「おい。胸次郎いくぞ」
「ちょいまて、五分前に行くなといわれていた森だぞ」
「仕方ないだろ。ここにしかあの資材はないのだ」
「おい。まさか探している資材は同人誌じゃないだろうな」
「はっはっは。どーだろーね」
私は笑ってごまかすことにした。
万一、資材の内容が年増にばれると厄介だからな。
このアフォに教えるのは同人誌ということにしておこう。
私と胸次郎は森の中をどんどんと進んでいく。しかし、整備されていない森を歩くのはしんどい。胸次郎は私の後ろにつきながらもくもくと歩いている。
二時間ほどあるいただろうか。胸次郎が私に声をかけた。
「おい。緑太郎大丈夫か?」
「すまんな。さすがにこの体だと体力がない」
「しょうがない。休もう」
私と胸次郎は木陰で休むことにした。辺りには古い木々が沢山生えており、年季の入ったコケもところどころに生えている。そんな景色に感動することもなく胸次郎はもくもくとバナナを食べている。そして、右手に鉄アレイを握りしめている。
森を歩くのに本当に鉄アレイを持っていくとは真性のアフォだな。
そんな体力バカはどうでもいい。私は少し呼吸を整えなくては。
呼吸を整えている間、ふと思った。
もし、ここが私たちの生まれた世界ならどこらへんだろうか、と。
気温は五度。森に生えている木は針葉樹。
針葉樹があるということは、そこそこ寒い地域ということ。もし、ここが北半球ならば緯度は私たちがいた場所からそんなに離れていないだろう。もし北極星を確認できれば正確な緯度が分かるな。
私の時計と太陽の位置からしてそこまで時間は違わないように思える。そこまで経度もずれていないだろう。私たちがいた場所からポイントだけは変わらないようだな。
そんなことを考えていると胸次郎が私に声をかけた。その声がとてもうざいくらい無邪気な声だったのがとても気になる。
「なーなー。あの動物なんていうんだ?すげーかっこいいぞ。」
私はメガネを拭きながら胸次郎の指差す方向に目を向けた。どれどれ……
真っ赤な色。沢山の牙。つりがった目。大きな翼、体長三メートルはありそうな大きな体。爬虫類といえばいいのか恐竜といえばいいのか。小さい前足だけがチャーミングだ。
どうみてもドラゴンです。
本当にありがとうございました。
我々に気がいたのかそのドラゴンは私たちに向かってゆっくり歩き出した。そして、突然叫び声を上げた。
「まずい。縄張りに入っていたのか。逃げるぞ」
私が後ろを向こうとすると突然辺りが光だした。なんか、髪の毛がこげるにおいがするような………
私は自分の頭を触ってみた。私の天然パーマが微妙になくなっている。幸運にも光線ははずれたようだ。
「………ひ、火を吹くのか」
「逃げられそうもないな」
「胸次郎、時間をかせげ!」
「勝算はあるのか?」
「当然だ。私はドラ○もんに勝つべくして生まれた男。緑太郎だぞ!」
胸次郎はドラゴンの前にゆっくりと近づく。
ドラゴンの標的が私から胸次郎に移ったようだ。
私に向けたのと同じ光線が連続で胸次郎に襲い掛かる。
しかし、胸次郎は紙一重でその光線を避け続ける。
「ほねぇぇぇ!さっさと行け!」
「バカ筋肉!!やられるなよ!」
無線機によるとあと一〇〇メートル先だ。
五〇メートル。三〇メートル。一〇メートル。
あった!!あの小屋だ!
小屋ごと転送しておいたのがこんなことになるなんで……
早くしなければ胸次郎がやられるかも知れない。
私は小屋のドアに手をかけると共に重大なことが頭をよぎった。
カギがねぇ………
「しまったーーーー!!!!!」
私は大声で叫んだ。
胸次郎の悲痛な叫びが聞こえる。
「まだかー!!!ほねーー!!こっちマジ死ぬ!!てか、二体目きたー!!!って、四体目もきたぞ!!さらに増えて三体目に!!!!」
うわぁい。群れですか?その前に何体ですか?
私は一生懸命ドアを開けようとするがにっちもさっちもいかない。
くそう。私は意を決して思ってきり扉を殴ったが右の手首に鈍い音がなるだけだった。
手元にあるのは、拳銃とダイナマイト。
だめだ。こんなの使ったら小屋の中にある薬品が反応してすべてが粉みじんと化す。
何より、さっき小屋の扉を殴ったおかげで右手が痛く拳銃はおろかダイナマイトすら使えない。
こうなったらしょうがない。
「胸次郎!!すべて引き連れてこっちこい!!!!」
「二体いるぞ!!大丈夫か?」
「なんで減っているんだ!!!いいから、早く来い!!」
よく生きているな胸次郎。さすがは我が助手だ。
「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
胸次郎は猛スピードで私のところに突っ込んできた。
早い。早いすぎるぞ胸次郎。
すぐ後ろには、八体のドラゴンが我々に向かってきた。
「バカ野郎!!三の次は四だ!!そして、四の次は五だ!!」
「今は算数の時間じゃない!生きるか死ぬかだ!!!ともかくどうするのよ!!!」
「能書きはいいからこのドアを蹴破れ!!」
「よっしゃ!!!」
胸次郎がドアを蹴破ると爆音とともに、ドアが粉みじんに吹き飛んだ。
私は液体窒素のボンベと目的のボンベをさがしだし胸次郎に渡した。
私の転送したこの小屋は各種のボンベを貯蔵する小屋だ。
「このでかいボンベは目的のボンベだ。これを持ち帰る!あと、この液体窒素は逃走用だ」
胸次郎は片方一〇〇キロはあるだろうでかい二つのボンベを軽々と持ち上げた。
私も二つの五〇〇mlの薬品とスプレーをポケットに入れた。
「よし、行くぞ!!」
私と胸次郎が外にでると八体のドラゴンが待ち構えていた。
「筋肉!!風上にいくぞ!」
一匹のドラゴンの光線が私に向かって放たれた。
まずい。この軌道はあたる!
その瞬間、胸次郎は私を蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた私の体から嫌な音がぁぁ!!薬品とともにふっとぶ私。息を絶え絶え私は胸次郎にお礼を言った。
「筋肉。助けてくれてありがとう。だが死ね!!」
「急所じゃないのになぜそんな致命的なダメージを!!!!」
胸次郎のおかげでドラゴンの光線には当たらなかったが、すでに私はボロボロだ。
これ以上ドラゴンと対峙していると胸次郎かドラゴンのどちらかに殺される。
次の瞬間、胸次郎は私の首根っこをつかんで強制的に風上まで移動した。
「よし!よくやった!!だが首はつかむなぁ!!」
「だって、細くて持ちやすいから」
「ほう、やはりわざとか!!」
「で、どうすればいいんだ?」
「とにかく液体窒素のボンベだけおろすんだ」
胸次郎は液体窒素のボンベを下ろすと同時に私はドラゴンに向かってボンベから液体窒素を吹き付けた。これでドラゴンが退却しなければ、私の身が持たない。ドラゴンよ、お願いだから逃げてくれ。
白い煙とともに、ドラゴンたちは叫び声を上げながら少し後退した。
そして、一匹冷たさに耐えかねたのか白い煙で私たちを見失ったのか一匹退却した。
一匹、また一匹と少しずつ退却しはじめた。
「助かった……………」
私は安堵のため息をした。
「ホネ男。なんてところに資材を転送するんだ」
「仕方ないだろ。座標しかいじくれなかったんだ。しょうがなく行くだろう場所にランダムに送るしかなかったんだ」
「まぁ、無事だったからいいけどな」
「私は無事ではないぞ」
胸次郎は前方の煙をみながらつぶやいた。
「みろよ。液体窒素の煙がはれそうだぞ」
「まだ、ドラゴンがいたらお笑いだな」
「あはは、まったくだ」
そして、二人の笑い声とともにゆっくりと液体窒素の煙が晴れだした。
煙が切れて初めて私と胸次郎は理解した。まだ二匹のドラゴンが戦闘態勢だったということを。サー……と私の顔と胸次郎の顔から血の気が引くのがわかる。
私と胸次郎はお互いの顔を見て頷いた。そして、同時に一目散に逃げ出した。
「やってられるかぁぁぁぁ!!」
「ホネ!早く走れるんじゃないか?お前やればできる子だろ!!」
「今はそんな軽口を叩くべき状態ではない!!おい、最後の手段だ!この薬品を奴らにぶつけてくれ!!」
「まかせろ!!!」
私は薬品のビンを胸次郎に手渡した。
胸次郎は薬品のビンをつかむと同時にビンを握りつぶした。
無常にもビンの破片が地面に落ちる。
「なにぃぃぃぃぃ!!!」
「ぼけぇぇぇぇ!!なんてやわらかいものをよこすんだ!!もっと丈夫なものに入れろ!!」
「てめぇぇぇぇ!!こんの腐れ筋肉ぅ!!!力こめすぎだ!!」
「もう一個あったろ!とりあえずよこせ!」
「また割ったら、貴様の頭も割ってやる!!」
胸次郎は薬品のビンを受け取るとそのままドラゴンにぶつけた。
叫び声とともに一匹のドラゴンは瞬く間に退散していった。
「ドラゴンが退散するような薬品が俺の手にかかっているが大丈夫なのか?」
「これは、臭いだけだから大丈夫だ」
残りあと一匹だ。
どうする?私の手元にはもう拳銃とダイナマイトしかない。
満身創痍の体かつ左手だけで正確にダイナマイトを制御できるか?
「うおおおおおお!!飛んでけぇぇぇ!!!!」
私がダイナマイトに手をかけた瞬間、胸次郎は鉄アレイをドラゴンに投げつけた。
とてつもないスピードで飛んでいく鉄アレイ。
鉄アレイはドラゴンの頭に当たり、まったく減速せずにどこか遠くに消えていった。
ドラゴンは大きな体をくねらせて倒れた。私は呆気にとられてつぶやいた。
「まさか、鉄アレイなんかで………」
「これが、体を鍛えし者の実力だ」
「さすが馬鹿を司るだけあるな。馬鹿なだけではなく馬鹿力とは」
「はっはっは。ホメすぎだ」
「バカにしているのだよ」
「なぁ、鉄アレイ回収しにいっていい?」
「死ね。今、心からそう思った」
私と胸次郎はあたりを見回した。今度こそ、周りに生物の気配は無い。
良かった……たすかった……
「今度こそ助かったな……」
「まったくだ。もう日がくれる。早く戻ろう」
安全を確認した瞬間、私のひざが折れた。
息が切れる。動機が著しく早い。
まずい。運動しすぎたか………
呼吸すらままならん………
そのまま、私は地面に倒れこんだ。
胸次郎が私に問いかける。
「おい。大丈夫か?」
「すまぬ。私は、喘息と高血圧と成人病と糖尿病と気管支炎と腰痛と自律神経失調症の持病もちでな。しばし休ませてもらうぞ。本当に………運動はできないのだ」
「安心して寝ていろ。俺がちゃんと城まで連れて行ってやるからな」
「分かった………ありがとう………助かる」
私は意識を保っているのが精一杯だったため、助手に帰還を任せることにした。
そして、かろうじてつなぎとめた意識を失った。
もっとも、私が目覚めた時まだ森の中で迷っていることはそのとき思いもしなかったが。
そしてようやく、城に戻れたのはミーレとの勝負の日になろうとは想像すら出来なかった。
よく晴れたある日、私と胸次郎は城の前にかえってくることが出来た。
胸次郎の奴、まさか私を担いで鉄アレイを探しに行くとは本当にバカの考えることはわからんな。
まぁ、出られた今気にすることは無い。あとで、胸次郎のバナナの皮を接着剤で固定して剥けないようにしてやる。
しかし、もう限界だ。足が動かん。息も切れている。
胸次郎は別だった。丸二日一〇〇キロはあるだろうボンベを担いでまだまだ余裕があるようだ。元気いっぱいに笑顔で城の人たちに挨拶をしていた。
兵士が私たちに問いかける。
「あなたたち!!どこいっていたんですか!!!!!」
「森が……あんまりにも………きれいだったもので……」
「まさか、森にいったんじゃないでしょうね?あそこには聖なるドラゴンがいるんですよ。生身で行くには危険すぎです」
「先にそういえよ……」
私は力なくそう答えるのが精一杯だった。
さて、ミーレとの勝負に向けて早く用意をしなければな。
私は胸次郎に指示を出した。
「そのボンベを……私の部屋に持っていて………」
「こいつのバルブを緩めるのだな。了解した」
「バルブを……開けたら……部屋から…」
「分かった、分かった。空けたらさっさと部屋から出ろというのだな」
胸次郎は片手で一〇〇キロあるだろうボンベを持ち上げてさっさと階段を上っていく。
なんで、奴はあんなに元気なんだ……恐ろしい奴だ………
誰かが私の肩を叩く。振り向いたら小しわのある顔が見えた。ミーレだ。
「よう。てっきり勝負から逃げたかと思ったぞ。探した、探した」
「……馬鹿いえ……私が……勝てる勝負を……逃す……」
「無理してしゃべるな。でも、勝負は勝負だ。一三時にまた会おう」
このクソ年増……一三時が待ち遠しいのは私のほうだ。
私は、城の端にあるベンチに座ると共にしばしの眠りについた。
少しの時間がたった気がする。
目が覚めたら、靴の裏が見えた。
ミーレの足蹴りと共に、目が覚めたようだ。
「おいホネ男。ゲームするんじゃなかったのか?もうすでに一三時だぞ」
ミーレが怒り心頭という形で私の前にいた。
「ああ……すまん……」
「さて、ゆくぞ」
私は体を引きずりながらゆっくりと階段を上がる。よし、良い感じに息が切れて酸欠状態になったぞ。
胸次郎が部屋のドアの前で座って待っていた。
「おい、緑太郎。俺は部屋に入ってはいけないのか?」
「声をかけたら入ってきてくれ……もし……声がかからない場合は私の負けだ……」
ミーレは一人の部下を連れてきた。
「わたしも、一人部下を連れてきた。ゲームの内容は私と二人っきりだったな。ありえないと思うが私が負けた場合は私の部下も証人となる」
私とミーレは声をそろえた
「では……勝負を……始めようか……」
「では、勝負を始めよう」
私とミーレはいっしょに部屋に入る。私は、部屋の周りを見渡した。さすが、胸次郎だ。ボンベを隠すことなく部屋のど真ん中においておくとは……
普通隠すだろう。ちゃんと、シューという音もでている。ボンベの中の気体がこの部屋に充満している証拠だ。
まぁ、今回に限りあれでいい。バルブが力で折れ曲がっているのがかなり気になるが今回に限り許しておこう。さて、ポケットの中のスプレーのボタンを押すか。
私はここの空気を胸いっぱいに吸った。少し力が回復した気がする。少なくとも息は整った。
ミーレは不思議そうに私に聞いてくる?
「おい。緑太郎あれはなんだ?」
「あなたを倒すためのただの最終兵器ですよ」
私とミーレは机を挟んでお互い顔を見つめながら席についた。
私は、ミーレが質問するだろう答えをあらかじめ答えておいた。
「もし、この鉄が毒物だとしたら私は一緒にこの部屋に入ることはないだろう」
「確かにそうだ」
「さて、しかしミーレさん」
「ミーレでいい。敬語もめんどくさいからいわなくていいぞ。だが年増とは言うな」
「分かった。では何でこんなばかげた勝負を受けた?」
「お前の技術に高い評価をしている。こんな勝負だけで、お前らという人材が手に入るなら勝負をうけるメリットは高い。そして、負けたとしてもここでお前らとの関係が切れるわけではないからな。勝っても負けてもデメリットは無い。そして、勝つのはわたし。全力は尽くすからそのつもりで。お前にとっても勝負というより科学とやらのデモンストレーションじゃなくて?」
「ばれていたか。こんな勝負で全てが決まるわけがない。科学の知識を知るにはまず実際に体験しないと。だが、私が勝つ。さて、一つ疑問がある。拳銃やダイナマイトに匹敵するものはこの世界にあるのになんで私の技術に興味を?」
「マナを使えばあのくらいのは難なくできる。だが、正直マナに頼りすぎるのもどうかと思ってな。なによりお前、違う世界から来たろ?あれ、我が世界では一人しかできない。それも、三日前に初めてできた技術だ。それに興味を持たない奴がいるか?」
「それが、イレミですか」
「ああ、そうだ」
「イレミについて、いろいろ聞いていいか?」
「もう、あのクソガキはこの世界にこないだろうからな。奴はわたしと同期だ。そして、この世界の最終兵器を持って逃げだしやがった。それに、イレミを見つけたのもイレミ自身が私に念報を送ったというまぬけな話だ。で、行ってみたらその最終兵器と共に逃げ出したのだ」
あれ?どっかで聞いた話だな?
「どうした。微妙に顔がひきつっているぞ。何か心当たりでもあるのか?」
余計なことにばかりに気がつかないでくれ。
まさか、あのデブもイレミという女と会っていたりしてな……
確か、私の来た世界とこの世界とでは移動したときの座標点はあまり変わらないようだから十分にありえる。
むしろ、私と同じように大勢に囲まれて、そのままデブと話がすすんでいるかもしれない。
それは、考えすぎか……あのデブは猜疑心を具現化したような男だしな。女の与太話に耳を傾けるとは思えない。万一会っていたとしても、イレミ自身はこの世界に戻ってこられないみたいだしな。
そんなことを考えているうちにミーレの顔が険しくなってきた。
息が上がっているようだ。
「おい。なんでお前はそんなに顔色がいいんだ?さっきまで死人のように土気色だっただろう!!」
「私は何もしていませんよ」
さて、やっと利いてきたか。
私はニヤニヤとして答えた。
ミーレの顔にかなりの焦りが見える。
「まさか、わたしの生命力を奪ったのか!!」
焦れば焦るほど、この効果が上がる。
「いや。何もやっていませんが」
そこで、私はブツブツと呪文っぽい言葉を発してみた。
「オレイン酸テレフタレートによる、界面活性剤の効果的な……」
ミーレはそれにビクっと反応して苦しそうに顔を上げると聞き取れない言葉を発した。
ミーレの体の回りに光の帯が滞在する。
「これで、物理的や魔法的なことは………すべて……跳ね返せる……」
いや、物理的なことも魔法的ことは何一つやっていないし。
「はっはっは。もう遅い!!ちなみに、私は力百倍ですよ」
一応、私は白い歯を見せて笑っておいた。
実はそこまで体力は回復していないが、勝利宣言できるほどのカラ元気を出せるまでは体力が回復した。
さて、あと一息だな。止めを出すか。
ミーレは苦しそうな顔をしながら椅子から崩れ落ちた。息が相当上がっている。
「ミーレ、いい加減に降参しろ。命に関わるぞ」
本当はぜんぜん命に関わらないんだが、尊敬するアニメの主人公のように一度こういってみたかった。
そういうと、ミーレは笑顔で降参した。
「分かった…降参だ…あとでタネ明かしたのむ…」
というと、ミーレは意識を失った。息はひどく荒い。
さて、ここからが本当の勝負だ。
「胸次郎、息を止めて入ってこい!!部屋にいる間は息をするな!!」
ドアを蹴破りながら胸次郎は入ってきた。
「息は吸うな。返事もするな」
「了解だぜ!!」
返事するなっていっただろ。この腐れ筋肉。
こいつはたぶん大丈夫だろうが念のためこの空気は吸わせないほうがいい。
「ミーレを部屋の前まで運んでやってくれ。私には重くて運べない」
「よっしゃ!」
胸次郎はいせいのよい言葉と共に運び出した。
胸次郎がミーレを部屋から運びだしている間、私は部屋の窓をすべて開けた。
ミーレは意識を失ったまま、ピクリとも動かない。
私はミーレの部下に指示を出した。
「おい!!そこらのコンビニからビニール袋もらってこい!!早くしないと大変なことになるぞ」
ミーレの部下はおそるおそる私に聞いてきた。
「コンビニって何ですか?ビニール袋って何ですか?」
三人はお互い顔を見回した。
「……………」
「……………」
「……………」
ゆっくりと静寂の時間が流れた。
「なにぃぃ!!ここには、コンビニがないのかぁぁ!!」
胸次郎は私に問いかけた。
「おいホネ!城の周りに何も無かったのをお前は覚えていないのか!」
「なんということだ!どんなことをしなくてもミーレに自分の呼吸をすわせなくてはならないのに!!」
ミーレの部下は答えた。
「麻でできた袋はありますが……」
「空気が漏れるからだめだ。水を入れる袋はないのか?」
「馬の膀胱で作った水筒ならあります」
「よし!その中で一番でかいやつを持ってきてくれ。急げよ!」
「分かりました!」
胸次郎が不思議そうにして話しかけてきた。
「一応、あのルールでお前が勝ったわけだがどうやったんだ?」
「それは、ミーレが目覚めてからゆっくりと説明する」
三分くらいでミーレの部下が大きい袋をもって上がってきた。
「これで、どうでしょうか?」
「よし。たぶん大丈夫だろう」
私は、その膀胱で作られた水筒の先をハサミで切りミーレの頭にかぶせた。
ミーレの頭を袋でかぶせた後、私は一応ミーレの脈をとる。
大丈夫だ。脈はあるな。
胸次郎は不思議そうな顔をして私に質問する。
「おいおい、そんなことをすると自分の呼吸で窒息しないか?」
「筋肉の分際でその疑問にたどりついたのは褒めてやろう。だが、それもミーレがおきてから説明する」
「なぁ、これだと前が見えてないだろうから、目の部分だけ穴開けていいか?」
「前言撤回。お前の何一つ理解しないその鉄の信念はどこから来るんだ」
「へへ」
「褒めてないからな」
ミーレの荒かった呼吸はしばらくすると落ちついた。意識も取り戻したようだ。
そして、自分で上半身だけ起き上がると自分の被っていた膀胱の水筒を取り出した。
「ふう……」
私は、ミーレに声をかける。
「おい。大丈夫か?」
ミーレは笑顔で答える。
「ああ。大丈夫だ。感謝する」
「それは良かった。さて、タネ明かしといくか」
「ああ。できるだけわかりやすく頼むよ」
「さて、ミーレ。酸素というのは知っているか?」
「いえ……分からないわ」
「空気の入れ替えをしない部屋に閉じこめられたら、人は酸素が足りなくて窒息するだろう?」
「その場合は、死神に取り付かれるのだぞ。その死神やら妖精はお前らに見えないのか?」
「……そんなのは何一つ見えん。まぁ、とりあえず進める。酸素は生物が生きるのに必須だが沢山ありすぎると毒にもなる。取りすぎると過呼吸となって酸欠と同じような症状になる」
実は、過呼吸が起きやすくなるように興奮剤のスプレーもポケットの中で散布していたんだが、これは黙っていてもいいだろう。タネを明かしても、その考案者しかできないというのが手品というものだ。私にはこの程度の薬はきかないしな。
ミーレは質問を続ける。
「お前は、回復していったように見えたが」
「私の体にはあらかじめ酸素が足りなかったんだよ。喘息の症状もでていたからな。だが、お前は健康体だ。健康体で過剰量の酸素は毒物でしかない」
ミーレは納得いかないように首を振った。そして、聞こえるようにつぶやいた。
「お前が魔法や神を見つけられように、わたしもお前の話は理解できないな」
「そのようだな」
そこで、胸次郎が横槍を入れた。
「俺も何一つ理解できないぞ」
「お前はまず九九を覚えろ。話はそれからだ」
ミーレはこう私たちに話しかけた。
「分かった。とりあえずゲームはわたしの負けだ。お前らに最大限の援助をしよう」
「ありがたい。ミーレ」
「だが、必要になったらお前らの技術を分けてもらえないか?」
ミーレは深く頭を下げた。私はそれに応じるように答える。
「よろこんで」
よし!これで磐石な権力者が私の後ろに付いた。
もしニートや引きこもりになれなくても、この世界で十分やっていけるかもしれない。
今度こそ、社会から追われない形で生活しないと。もう、あんな形で人々から恨まれたり疎まれたりするのはまっぴらだ。
「では、ここにある程度の金とわたしの連絡先を置いておく。金が足りなくなったらわたしに言ってくれ。そしてこの部屋は好きに使うがいい。では、わたしはここで失礼する」
そういって金の入った袋を私たちに渡し、その場から立ち去った。
私と胸次郎は、兵士に部屋のドアを壊してしまったので部屋を代えてくれるように頼んだ。
兵士は心地よく、代わりの部屋を用意してくれた。
私は新しいベッドに体を沈ませると、すぐにまぶたが重くなってきた。
胸次郎はもくもくとバナナを食べている。そんな胸次郎を横目にみながら少しずつまどろんできた。
明日から、魔法の研究でもしようか。
それとも、しばらくギャルゲーを楽しもうか。
私たちなら、なんでもできる。
だが、決してやりすぎてはいけない。
やりすぎは、自分の身を危うくする。
過ぎたるは及ばざるが如し。私はもう同じ失敗はしない……
次の日、辺りが非常に騒がしい。
胸次郎が私の体をゆすっている。
「おい、おきろ。そこのガイコツ。変な音が聞こえないか?」
私が目をさめると、もうすでに夕方だった。
確かに慣れ親しんだヘリコプターの音が聞こえる…
ヘリコプターに乗っているときはろくなことをしなったよなぁ…
ヘリコプター?
ヘリコプターだと!!
私は、叫んだ。
「胸次郎!!あの音はなんだ!」
胸次郎は不思議そうな表情をしながら
「やっぱり、ヘリコプター…だよな?」
とだけ答えた。
ヘリコプターだけではない。ヘリについている対地砲の音も聞こえる。
そして、私たちが戦ったドラゴンの叫び声も……
嫌な予感がする。
とてつもなく嫌な予感がする。
「胸次郎!!城の最上階に走るぞ!!」
「おお!!」
城の最上階の空気は澄んでいてとても気持ちが良かった。
真っ赤に輝き沈んでいく太陽。
大きな山。少し離れたところには海も見える。
広く緑の森が一望できた。
そして、その森で巨大なドラゴンと戦っているロシア製の戦闘ヘリ。
私は、胸次郎につぶやいた。
「なぁ、最新ハインドと伝説のドラゴンどちらがつよいと思う?」
胸次郎はただ一言
「さぁ」
とだけ、答えた。
夕日がきれいだった。
第一章完