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早村掌編

向日葵短編

作者: 折角全

久方ぶりの短編。

ヒマワリってあこがれです。

「最近、ヒマワリをよく見るんですよね」

 八月、夏の暑い日。私は夏休みにも関わらず、学校に来ていた。

 私は生物部の部員であり、当番制とはいえ動物の世話をしなければならないのだ。元々人数の少ない部活である上に先輩は受験で忙しいので、当番は頻繁に回ってくる。とはいえ当番がない日は自由に休めるので、運動部よりは楽に違いない。

 今日の当番は私ともう一人、篠生という後輩だ。その篠生はメダカの水槽に餌を入れつつ、私にそんな話を始めた。

「ヒマワリ?」

「ええ、今日も見ました」

「どこか生えてるところがあるの?」

「いえ、摘まれたものなんです」

 篠生の話を聞きながら、エアコンのリモコンを操作する。動物の体調管理の名目で、この第二理科準備室では部活動中のエアコンの使用が認められていた。もっとも、エアコン代は部費から天引きとのことだったが。

「私、部活で当番の日は割と早い時間に来るんです」

「今日も私より早かったよね」

「大体いつも七時に来るんです。七時まで部室に入れませんし」

 本校では七時まで部活動はできない。部室である理科準備室の鍵も借りられない。

「で、七時に来ますと、部室の前にヒマワリの花が置いてあるんです」

 部室の前というと廊下だ。廊下にヒマワリが置いてあるというのは不自然な話である。

「誰か落としたのかしら」

「でもいつもありますし、それに新聞紙の上に置かれているんです」

 新聞紙が敷かれているということは、意図的に置かれているのだろう。しかしその意図が掴めない。

「何か意味があるのかしら」

「分かりません。でもほら、何もないところに花だけあるっていうのは……」

「ああ、お供えっぽい?」

「はっきり言わないで下さいよ。でもお盆も近いですしね」

 メダカに餌をやり終えた篠生がこちらに振り向く。長くて黒い髪がふわりと揺れた。ああいう髪は暑くないのだろうかと思いつつ、私はモルモットのケージの保冷剤を入れ替え始めた。

「今朝もヒマワリがあったの?」

「ええ。普段は捨てたり放置したりなんですが、今日は見せようと思って拾ってきました」

 篠生が机の隅から新聞紙を持ってきた。手を止めてみると、新聞紙にはヒマワリの花が包まれている。この新聞紙の上に置かれる形で廊下にあったのだろう。花は若干萎れ、種がいくつか花から外れて転がっている。

「花しかないわね。茎じゃなくて、花の根元から折ってる」

「これ、どうするべきでしょう?」

「茎があれば花瓶にでも生けられるけど。状態がよくないし、ヒマワリは押し花にも向かないから、ドライフラワーか何かにしようか」

「いえ、そういう正しい意味での利用法ではなく」

 生物部の活動では、植物標本として乾燥標本も時々作っている。しかし彼女が言いたいのはそういうことではないらしい。

「やっぱり部屋の前によく分からないものが置いてあるというのもちょっと不気味ですし」

 篠生の言うことも分からなくはない。私は伝聞だからいいが、実際に部室に来る度にヒマワリの花が置かれているのを見る篠生は私が思う以上に困惑しているのだろう。

 花が置いてあるくらい、というには不可解が過ぎる。

「早村にでも聞いてみようか」

 私一人ではどうにもならない。そう判断した私は、まず友人を頼ることにした。


          ***


「は? 部室の前にヒマワリが置いてあるだけ? それがどうかしたの? 飾りじゃないならお供えじゃないの? ねぇ、サチ、それ私に関係あるの?」

 翌日、わざわざ彼女の家まで出向いて篠生から聞いたヒマワリのことを伝えると、私の一番の友人である早村はつまらなそうにそう返事した。

 椅子をクルクル回しながら全身で関わりたくなさそうにしている。自分が好きでないことにはやる気を示さないのが早村の性格だ。

 とはいえ私だってそれを分かった上で、彼女を説得しに来ている。本当なら早村の家には来たくない事情が多分にあるのだ。

「あんたも生物部なんだから手伝ってよ。篠生さんのためじゃない」

「篠生ってどの子?」

「篠生紗霧よ。一年の」

「あー、シャムか」

 早村は人の名前を自分で付けたあだ名でしか覚えない。篠生の名前はサギリにもかかわらずシャムと呼ぶし、中学の時からの友人である私のことですらサチという愛称でしか覚えていない。

「毎日エーミールと虫捕りに行くのに忙しい」

 篠生とは別の後輩の名前を挙げて断ろうとする早村に溜息をつきながら、私は現状早村が抱える最大の弱点を突く。

「あんた、生物部の飼育当番サボってるんだから、こういうところで仕事しなさい」

「私動物の世話とか苦手だし。というか興味ないし。サチ得意なんだからサチがやればいいよ。私は私が得意なことするからさ」

「言い訳は結構よ。調べ物に付き合ってくれるのかどうか。得意なことをやるってんならやってくれるのよね」

 語調を強めると、早村は肩を竦めた。

「ま、やれっていうならやるけどさ」

「あら、意外と聞き分けいいじゃない」

「内容はどうでもいいんだけど、サチの言うことだから、たまには聞いてあげようかなと。ま、やるからにはきちんとやるし」

 そういうと早村は机の上に置いてあった携帯電話を手に取った。

「とりあえず今日の予定はキャンセルしよう。この辺りのセミはあらかた取ったし」

「セミなんか採ってたの?」

「昆虫標本にして、ついでに今回はレポートでもつけて学校に提出する。たまには成果をアピールしないと、部費が貰えないからね」

 自由研究だよ、と早村は言う。こうして生物部の活動は行っているのが、早村に無理やり動物の世話をさせられない理由でもある。

 早村はメールを打ち込むと次は外出の準備を始めた。

「せっかちね。頼んでおいてあれだけど、そんなに急がなくてもいいのよ」

「早く終わらせて早く遊びたい」

「そういえば夏休みの課題は早く終わらせてるんでしょうね」

「七月には終わったわよ」

 変なところで真面目な友人は、すぐに準備を済ませると机から何かを取り出した。

「そういえばさっき言ったセミの標本。いくつかもう出来てるんだけど」

「見せるな!」

 私が早村の家に来たくない理由。引き出しの至る所に昆虫標本が入っているのだ。棚に置かれたトカゲとかネズミの標本はいいのだが、虫は困る。

 虫嫌いの私に性懲りもなく昆虫標本を見せようとする早村に背を向け、私は部屋を飛び出した。


          ***


「学校に来たの、久しぶりだよ」

「全然部活に来なければ、そうなるわよね」

 学校の敷地に入りながら呟く早村に少し皮肉を込めて返す。しかし早村は私の話を聞いているのかいないのか、運動場のソフトボール部を見ていた。夏の暑さが鬱陶しいが、暑さに強い早村は変わらず飄々としている。

「とりあえず学校に来たけど、どうするの?」

「さぁ? 急に家を出て行ったのはサチだし」

「あんたが追い出したようなものじゃない。学校に向かったのは早村だし」

「冗談は置いといて、まずは聞き込み」

 早村が歩き出したので、とりあえずその後ろをついていく。

「この方向は部室?」

「手始めに、ね」

 生物部の部室は第二理科準備室を間借りしている状態だ。そして第二理科室は運動場に隣接する第二校舎にある。

 それほど広くもない高校だ。数分で理科室前の廊下に着いた。

「ここに、えーと、どうやって置かれてたの?」

 早村が廊下を指差す。篠生の話では、ヒマワリはこの廊下に置かれていたはずだ。

「そこまで確認してないわ」

「無造作に置かれていたってことでいいのかな」

 廊下をざっと眺め、早村は理科準備室のドアを開けた。中にいた生徒が跳ねるようにこちらに振り向く。

「おっと? 先輩たちじゃないっすか」

「今日の当番は肥田野? もう一人は?」

「半田先輩っす。今はカメの散歩に行ってますけど」

「あの子も物好きね。カメからは絶対に目を離さないから大丈夫だろうけど」

 半田は私や早村の同級生で、爬虫類をこよなく愛する少女だ。この部に先日カメを持ち込んだのも彼女である。

「まずは肥田野がいればいいよ。今朝、ヒマワリを見なかった?」

 早村が無造作に切り出す。肥田野は一瞬不思議そうな表情を見せたが、疑問も挟まずに答え始めた。

「ヒマワリっすか? いや、この辺りじゃ見ないっすね」

「じゃあ、今日は何時ごろに部室に来た?」

「えーと、八時っす。半田先輩は私のすぐ後でした」

 休日の生物部の活動時間は決まっていない。当番の部員は朝から仕事があるが、その開始時間も決まっていない。七時に来る篠生は早すぎるくらいで、肥田野のように八時を目安にしている部員が多かった。私も大体八時に来る。

「ん、それだけでいいや。ありがと、ひだのん。サチ、行こう」

「もういいの?」

「必要なことは聞いたし」

 何が必要で何が不要なのかも分からないが、早村にはもうここに用はないらしい。私は生物部で飼っているモルモットの一匹を撫でると、先に出て行った早村に続いて部室を出る。

 廊下を歩く早村の横に並び、今の一幕について聞いてみる。

「聞きたいことがなくなっただけ? それとも何か成果があったの?」

「むしろ成果がないことからちょっと分かったかなって。ひだのんはヒマワリを見なかったんだね」

「気付かなかったってこともあるんじゃない?」

「何もない廊下にヒマワリが落ちてれば気付かないってことはないんじゃないかな。しかも部室の前ってことは、その前で一瞬立ち止まるわけで」

 早村がポケットから財布を取り出し、試しに廊下に落とす。暗い色味の財布でも、充分に目立っていた。

「じゃあヒマワリは今日は置かれていなかったのかしら。でも篠生が部室に来たのは七時だから」

「それが微妙だよね。ひだのんは八時に来てるから、一時間の差がある」

「もしヒマワリを見たのが篠生だけだった場合、篠生を直接狙っているか、或いは七時から八時の間に取り除かれている可能性があるということね」

「情報から推測するとそうなるのかな」

 財布を拾い上げて埃を払う早村の横で、何気なく窓の外を見る。隣接する運動場がよく見えた。

「ソフトボール部?」

「みたいね。そういえば大会近いから学校に許可貰って六時半から練習って聞いたわ」

「大変ね。サチなんか八時まで部室に行かないのに」

「早村に至っては部室にも来ないのにね」

 予想していた返しだったのだろう、早村は気にもしていない様子だった。

「ん、半田だ」

「え? ああ、あの木のところ」

「見つけたからには半田からも話を聞いて行こう」

 早村がまた歩き始める。今日は付いていくばかりだと思いながら私もその後を追った。私が早村の前を歩くことなんて元からほとんどないのだけれども。

 外に出て、一直線に半田の方へ向かう。本校は土足可だから、靴を履きかえる必要はない。

 近づく途中で半田もこちらに気付いたようで、ひらひらと手を振ってきた。足元には彼女が溺愛するホルスフィールドリクガメがいる。

「早村がいるなんて珍しい」

 半田は早村の方を見て、薄く笑った。早村と半田はあまり仲が良くない。具体的に言うなら早村があだ名を使わないレベルだ。早村曰く、性格以上に趣味が合わないらしい。しかし一年半近く同じ部活にいるために、互いに互いのあしらい方は心得ているようだった。

「今日の当番は肥田野だったと思うけど」

「そのひだのんと、ついでに半田に用があって来たの」

「私に? 早村が? 本当に珍しいこともあるものね」

 私が半田に事情を説明すると、半田はつまらなそうな顔をした。それが私に何の関係があるのかという、言ってしまえば初めに事情を説明した時の早村の顔である。

「ま、半田はひだのんより後に来たみたいだから大して聞くこともないんだけどさ」

「それなら何も聞いてくれなくていいのだけど」

「何で一々水差すかな。なんか心当たりないの?」

「あるわけないでしょう。私はいつも通りに学校に来てこの子の世話をして、この子と散歩に出かけてるだけよ」

 半田はそう言いながらカメの甲羅に手を添える。 

「あ、カメ以外の世話全部ひだのんに押し付けたのね」

「全部押し付けてるお前が言うな」

 語調を強めた半田に早村は一瞬黙り込んだが、今のは半田が怒っても文句は言えないだろう。

「ふん、やっぱり半田に聞くことなんかないもんね」

「だったらもうどこか行きなさいよ。せっかく私がこの子とのデートを楽しんでるのに」

 カメを抱きしめる半田に口を尖らせて早村が背を向けると、丁度そこに知らない女の子が走ってきた。

「半田さん! 今日もカメ見せてもらっていいですか!」

「ああ、またあなた。いいわよ」

 走って来た女の子は半田に許可を貰うと、半田が抱いているままのカメの前にしゃがみ込んでカメを眺め始めた。

 私がその様子を見ていると、半田が説明してくれた。

「そこで活動してるソフトボール部の子らしくて、休憩時間に私がいると、こうして撫でに来るのよ」

「はい! ソフトボール部一年八田咲と言います!」

「あー、生物部の山吹です」

 彼女のテンションについていけず、短く名乗り返した。早村は興味のない様子で傍観している。

「ソフトボール部って忙しいと思っていたけど」

「ねっしゃびょー対策とかで、休憩もいっぱいあるんです!」

 八田さんはカメを見ながらも律儀に返してきた。

「カメ、好きなの?」

「動物が好きなんです。犬も猫ももちろんカメも」

「部室にはモルモットとかいるけど、今度見に来る?」

「半田さんからお聞きしたことあります! あ、でも……」

 急に八田さんは元気をなくした様子で肩を落とした。

「ソフトボール部の練習がありますから。私ソフトボールも好きですし」

「あ、ごめんなさい……えっと、いつでも来ていいから、その、また空いてる時に。ね?」

「か、必ず! 時間ができたら必ず!」

 必死な様子の八田さんを微笑ましく思いつつ、練習が再開するからと戻っていく彼女を見送った。

「純真でしょう? 散歩の時にはあの子が見に来れるように、ここでしばらく待つようにしているのよ」

「半田ってああいう子、好きなの?」

「カメが好きな子が好きなのよ」

 どこまで行っても半田は爬虫類好きなのだなと思えば、彼女らしい行いだ。

「サチ、そろそろ行こうよ」

 退屈に痺れを切らした様子の早村が急かす。

「じゃあね。二人とも。私も部室に戻るわ」

 カメを連れて部室に戻る半田に対し、早村は勝手に校門の方へ向かった。当然逆方向に向かうことになり、私は早村を追いかける。

「あまり収穫はなかったかしら」

「んー、もう大体分かったんだけど」

 早村は簡単にそう答えた。

 私は早村ならそういうこともあるだろうと思っていたので、あまり驚かなかった。

「明日ちょっと答え合わせしてくるから、その後教えてあげる」

 早村がそういうので、私たちは翌日まで謎のヒマワリについて話すことはなかった。


          ***


 翌日はまた私が動物の世話の担当だった。

 ヒマワリのことが気になっていた私は七時に学校に来てしまった。職員室で鍵を借りて、部室に向かう。

 部室の前に着くと、足元を見た。黄色いヒマワリが新聞紙の上に一輪だけ置かれている。

「これかぁ……」

 ヒマワリを拾い上げ、ためつすがめつする。

 特に変わった様子もなかったので、ヒマワリは新聞紙の上に置いたまま、部室に入った。

「ん、サチじゃん。なんでいるのさ」

「……こっちのセリフ」

 部室には早村がいた。早村が部室に来ていることもおかしいし、時間帯もおかしいし、なにより私が鍵を持っているのになんでこいつは部室にいるのだろう。

「昨日ひだのんに頼んで部室の鍵は開けっ放しにして貰っといた。職員室で鍵借りるの面倒だし」

「戸締りは部活の義務だってのに。純真すぎるのも考えものね」

 私がひとりごちると、早村はニヤリと笑った。

「サチ、今いいこと言ったよ。部室の外のヒマワリは当然見たと思うけど、あれはつまりそういうことだと思うんだ」

「そういうこと?」

「純真すぎるのも考えもの」

 早村が座っていた席の対面に私が腰かけると、早村は部室内を指し示した。

「ここには何の動物がいる?」

「トンビの剥製は含めるの?」

「ピーちゃんは別枠。生きてる奴で」

「メダカ、トカゲ、モルモット。それと最近カメ。ホルスフィールドリクガメね」

「洒落た言い方してるけど、ヨツユビリクガメじゃん。でもこの際重要なのはモルモット」

 早村がモルモットのケージを指差す。一匹暑そうに寝転んでいる子がいたので、保冷剤を入れ替えることにした。作業をしている私を見つつ、早村が話し始める。早村が考える、ヒマワリの謎の解答。

「例えば動物好きな生徒がいたとする」

「仮定?」

「とりあえずね。で、その子は生物部の動物に興味があったけど、別の運動部に入っていたから生物部には入れなかった」

「うちの学校は兼部できないしね」

「でもその子は生物部の動物に何かしたいと思い、とりあえず動物の餌をやってみようと思った」

「え、じゃああのヒマワリは、餌? ヒマワリの花じゃなくて、ヒマワリの種ってこと?」

 早村の言葉に思わず聞き返すと、早村は苦笑いを浮かべた。

「私たちはモルモットにヒマワリの種はよくないって知ってるけどさ、知らない子から見ればハムスターと一緒だと思うんじゃない? 齧歯類だし」

 ハムスターにもあげすぎちゃいけないんだけど、と早村は付け加えた。

「でも、そんな回りくどいことするかしら。ヒマワリをやりたいなら、直接部員に話しかけてくれれば」

「さっきも言ったけど、たぶんその子は別の部に入ってるんだよ。夏休みの間は忙しいんじゃない? そしてその子が生物部にモルモットがいることを最近聞いたとしたら?」

 思わせぶりな早村の言葉に、早村が誰の事を指しているのかようやく気付く。

「ソフトボール部のあの子……八田さんのこと? 確かに彼女は半田さんを見て生物部のことを知ったって言ってたし、夏休みになってから生物部に興味を示した可能性はあるけど」

「大会直前のソフトボール部で一日休むことはできないだろうけど、あの部は夏場ってこともあって頻繁に休憩を挟んでる。朝部活が始まる前にヒマワリを置いて、そして休憩時間に様子を見に行く。七時を過ぎてヒマワリがなくなっていないなら、受け取られなかったものと見なして自分で回収する」

「だから七時にはあって、八時にはなくなっていた?」

「私はそう考えてる。朝六時半から始まるソフトボール部の生徒としては、登校時間が平均八時なんて部活は想像もできなかったんだろう。だから朝が早い篠生しか、ヒマワリを見かけなかったんだ」

 早村のいうことに証拠はないけど、彼女なりには確信があるようだった。

「純真なんだよ。生物部には行けないけど、餌を送り続ければ動物と関わりが持てると思ったんじゃないかな。でも遠慮があって、部員に直接手渡すことはできなかった、と」

 そして早村は視線を部室の扉に向けた。

「ま、今ヒマワリはそこにあって、八時になったら消えるんだ。誰かが回収してるのは間違いないわけで、そのタイミングを押さえれば答え合わせはできるって寸法」

 早村が手に持った糸を見せてきた。糸の先端は部室の外へと続いている。外に置かれているヒマワリには何も付いていなかったから、新聞紙の方に繋がっているのだろう。回収しようとすれば部室の中の早村にも伝わる。

 私は餌のパッケージを開けるためのハサミを手に取ると、糸を真ん中から切断した。

「あー! なにするのさ、サチ!」

「やめときましょう、詮索は。だって犯人は純真なのかもしれないんでしょう?」

 私がそういうと、早村は少し眉をひそめて、納得したのか、切られた糸をゴミ箱に捨てた。

「サチに頼まれたことだから、サチがいいならいいけどね」

「篠生には適当にでっち上げの話でもしておく。本当にお供えの花ってことにしようかしら」

「サチは純真とは無縁よね」

「早村もね」

 いつも通りの時間、八時まで別の場所で時間を潰すことにして、私と早村は部室の外に出た。その際、外に置かれたヒマワリを部室の中に入れておく。早村の言う通りなら

これで彼女は今日もヒマワリは受け取ってもらえたと思うのだろう。

 純真な気持ちを傷つけないように。

拙作をお読みいただきありがとうございました。お疲れ様です。

仲間内の夏休み企画で「ヒマワリ」をテーマに書いたものでした。

なお過去作の続編に当たりますが、そちらを読まなくても大丈夫なように書いたつもり。

最近ヒマワリってあまり見ませんよね。

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[一言] 執筆お疲れ様でした。 拝読しましたので感想をお伝えいたします。 良い点・悪い点としては自信が無いので、一言にまとめさせていただきます。ご了承下さい。 感想としましては、「ヒマワリ」に囚われ…
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