瞬と子ども
「…で、主よ」
「はい~?」
ネコ娘が、瞬に問う。
「その人の子を連れてきて…。一体どうするおつもりか?」
目をパチクリ、とさせる瞬。
今は包帯が取れていて、瞳が露となっている。
左目は、濃紫。右目は、蒼の瞳だ。
「え?愚問だね~」
「…瞬、本当にどうするつもり?」
当の子供の方が、妖だらけのこの空間で、強張ってしまっている。
「そんなの、屋敷に連れて帰って、僕たちで育ててあげるに決まってるじゃん~」
炎龍を筆頭に、妖たちが固まった瞬間だった。
「兄様」
愛が少し先を歩く、兄に声をかける。
「なんだ?」
翔が止まることはせずに、意識だけ愛へと向ける。
「瞬は、あの子供を、どこへ連れて行ったのでしょうか?」
沈黙の翔。
しばらくして、返ってきた言葉は、
「知らん」
そんなそっけない言葉だった。
●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○
「改めまして~。
僕は、久遠瞬だよ~。よろしくね~」
先ほど、城下で拾ってきた子供に、自己紹介する瞬。
「ちなみに、僕、半分妖、半分人間だから~。
そこんとこ、よろしくね~」
「ぼ、ぼく…あ、あの…」
あたふたする子供の頭を、そっと撫でる瞬。
「名前、名乗るの嫌か?」
先ほどまでとは違い、真剣な眼差しで問う。
「…う、ん。
かあさまが、なまえは大切なものだから、人にかんたんにおしえちゃダメって…」
「分かった。
ん~と。じゃあ、俺たちと暮らすの、嫌?」
瞬が口調を変えて問う。
「いや、じゃない、よ?」
「へぇ~…。妖だよ?怖くないの?」
子供は、小さい体をさらに小さくさせて、
「相模さま、より怖くない」
そう言った。
「じゃあ、これからよろしくね。
名前は、そうだなぁ~…」
瞬は後ろに居る、妖たちを見据え、
「名前急募」
と、言った。
「瞬、あなた自分で考えなさいよ」
砂雪が一言。
尤もな意見である。
「え~。俺ネーミングセンスないし?」
あっけらかんと、そう言う瞬。
「では、礫という名はどうであろうか?」
ネコ娘が提案する。
「…石ころ?」
瞬が問う。
「磨けば、ヒカル石ころ。という、意味です」
「へぇ、お洒落ね、ネコ娘」
砂雪がこのっ、と肘でネコ娘をつつく。
「う、うるさいのです!」
頬を赤らめ、ネコ娘は反論する。
「いいじゃないか。
じゃあ、今日から、お前は礫だ。
母親にもらった名は、真名として誰にも言わずに大切にするんだぞ?」
瞬が礫の頭をくしゃっ、とまぜながら言う。
「うん!よろしくね!!
―――――みんなに、いっぱい質問、いい?」
言葉をゆっくり、言葉を並べる礫。
瞬や妖は、それをあたたかく見守る。
「良いわよ、なんでも答えてあげる」
砂雪がニコっ、と微笑む。
「えっとね、しゅんは、この前と話し方と、かみの毛の色と、目のほうたいと、目の色と…
なんで、時々?色々違うの?」
グサ―――――ッ
瞬がその場に崩れ落ちる。
「あぁ…。誰もが触れたかったけど、触れなかったその話題」
凛がボソッと呟く。
「知ってるっすけど…」
煉が語尾を濁し、瞬を見る。
「うん…。ね。…色々あるんだけど、ね…。うん…。ね…」
瞬がブツブツと、繰り返しそう呟く。
礫はと言うと、今か今かと答えに期待し、目を輝かせている。
「…瞬、早く答えてやれ」
氷狼が大きな前足で、瞬をつつく。
「はい…」
瞬は、そう一言答えると、礫と向き直った。
「あのね、難しい話なんだけどね、聞いてくれる?」
「おしえてくれるなら、聞く!!」
眩しいほどの笑顔のキラキラが、すべて瞬に突き刺さる。
(刺さってるわね…)
砂雪が他人事のように、瞬を見る。
それはもう、心底哀れむような目で。
「えっとね、長くなるんだけど~…」
本当に長かった。
日が暮れるほどに。
話が始まったのは、正午過ぎだったはずなのに。
まとめると、
・通常は、濃紺の髪に、左目が紫色、右目が蒼色。
・妖の力を借りてたり、半妖だから自分の妖力を使ったりしてるときは、
白銀の髪、左目が紅色、右目が薄水色。
・陰陽術は、どちらの時でも使える。
・話し方は、場合に応じてコロコロと。
と、いう話だった。
それを話し終えた瞬は、たいそう疲れきった様子だった。
「って、感じかな~」
瞬がそう締めくくる。
(長い説明だったわね…)
(今の時間で瞬、大分やつれたな…)
(お疲れ様なのです…)
妖たちは、心の中でそう呟いた。
「じゃあ、かみの毛長くて、くくってるのは?」
瞬の髪を指差し、そう言う礫。
「あぁ…。これはね、陰陽師の髪型、的な?」
「瞬の髪型は、髪を指輪型の髪飾りで留めているのよ」
砂雪が答える。
「正確には、和紙で結んだ上から、大き目の指輪を通してるだけだけどね~」
と、自分の髪を指差す瞬。
「へぇ~。しゅんって、面白いね」
「そうでもないよ~」
と、なんでもない会話をしている時だった。
どかぁぁぁぁぁぁぁあああああんんん!!
「なんだ!?」
煉が勢いよく障子を開け放つ。
その先には、城下町が見える。
「なっ!?」
白虎が、驚きの声をあげる。
それもそのはず。
つい今朝方までいた城下は、火の海と化していたからだ。
お久しぶりです。
更新が一年ぶり(?)になります。
しばらく、更新できるかなと思います。
これからも、よろしくお願いします。