決着
「…間に合った」
愛が思わず、その場にへたり込んだ。
「ギィィィィィィィィィイイイイイイイイイイイイ」
鋼鐵は、赦式に捕らえられ、見る見るうちに小さくなっていく。
「遅いよ~、陰陽師」
瞬が屋根の上の翔を見上げる。
「ふん、陰陽師は陽の力を必要とするんだよ。…夜だから発動に時間が掛かっただけだ」
「天下の久遠家が、言い訳かい?」
「ほっとけ」
ニッ、と片頬だけ上げ、笑みを浮かべる瞬。
その笑みに、皆が肩の力を抜いた、その時。
「まだだぁぁぁああ…まだ終わっていないぃぃぃいい」
鋼鐵が再び邪悪な気配を放ち始める。
「おいおい…」
(まだ動けるってのかよ…!?)
内心動揺する瞬。
「しぶといわね…」
疲労しきっている様子の砂雪。
その砂雪を上回る勢いで、鋼鐵は妖気を放つ。
「まずいな…」
現状でまともに動けそうなのは、ざっと周りを見るに、瞬一人だ。
「死ぃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええ」
鋼鐵が再び瞬たちに襲いかかろうと、近寄ってくる。
「お前は、ここにいろ。いいな?」
「うん…。だけど、お兄ちゃんは?」
瞬はその言葉には答えず、子供の頭をそっと撫でると、子供の周りに淡い緑色の正方形が出現した。
「結立」
瞬の言葉と共に、子供の周りに結界が張られた。
(妖なのに、結界を張った!?)
目を瞠る翔と愛。
「大人しくしてろよ?そこなら、絶対に大丈夫だから」
ニッ、と瞬は笑うと、子供に背を向け、鋼鐵と向かい合う。
(さて、どうするか…)
鋼鐵の妖気はこうしている間にも、再び膨れ上がっていっている。
「参ったね…」
苦笑する瞬。
癖なのか、前髪をかきあげる瞬。
両目に巻かれた包帯があらわになる。
「ジネェェェェェェェェエエエ」
「そういうわけには、行かないんでね~」
ハッ、と短い呼気とともに、口を開いている鋼鐵の刀身に右足で回し蹴りをきめる。
そのままの勢いを利用し、さらに飛んでいく鋼鐵を追い、膝蹴りを入れる。
このたった二回の蹴りで、鋼鐵の刀身は、折れた。
「ふぅ…。こんなことやったのなんか、久々だぁ~」
「おじさんみたいなこと言わないの」
砂雪があきれ半分の口調で言う。
「へいへい~…」
折れた鋼鉄から、妖気の塊があふれ出す。
「お、おのれぇぇぇぇぇぇ!!」
「あれは何だ?」
屋根から降り、瞬の横に並ぶ翔。
「本体さ」
「えらく可愛らしい本体だな…」
妖気の塊は、段々濃い紫色のウサギへと姿を変えてゆく。
そして―――――
「よう、ウサギさん?随分なことやってくれたじゃねぇか」
真っ黒な…先ほどの鋼鐵より黒いオーラの笑みを浮かべる瞬。
怯えたウサギは逃げようとするが、如何せん。
瞬がそのウサギの影を踏んでいるせいか、ウサギは動けない。
何かしらの術だろう。
「影踏み…意地が悪すぎるぜ!!」
笑いながら言う炎龍。
「そうかな~?これぐらいのことで、意地が悪いなんて言ってたら、僕とはやっていけないよ?」
太陽が昇り始める。
「ま、ウサギさんは、僕が適当に処理しとくから。――――――――――――安心して、陰陽師さん?」
意味深な笑みを浮かべる瞬。
その言葉に、顔をしかめる翔。
「…喰えない奴だな」
「そう~?僕は至って普通だと思うけど~?」
わざとらしく微笑む瞬。
「というわけで、君もお疲れ様」
と、愛の正面に立ち、ぽん、と頭を軽く叩く瞬。
「な…」
唖然とする翔と愛。
「じゃ、また。いつか会わないことを祈るよ~。滅されちゃ嫌だからね~」
「好きねぇ、そういうの」
「ふふふっ。
――――――――でも、罰は受けてもらわないといけないからね、このウサギさんには」
「あ、わわわわわ…」
ウサギは、気がつくと泡を吹いて気絶していた…。
「ありゃりゃ…つまんないの~」
「主…そろそろ…」
「あぁ、分かってるさ。――――――――じゃあね~」
そう言い残すと、瞬は突風と共に姿を消した。
お久しぶりです。
久々の更新となります。
次は、正直、いつになるか分かりません…。
では、また。