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妖の巣喰う屋敷  作者: 雪りんご。
一章 -辻斬り-
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無音氷砕―むおんひょうさい―


「避けてばかりじゃ、なんにも出来ねぇぜぇ――――――!!」

血色に染まった鋼鐵(こうてつ)を振り回す相模。


一方瞬はというと、右手に幼い子供を抱きながら、余裕で相模の剣戟をかわしている。


「おぉ、怖。でも、当たらなきゃ意味ねぇよな?」

余裕綽々といった表情で、ひたすらかわす瞬。

「調子に乗るなぁ!!」

相模が大きく振りかぶった。

      ドッカァァァァァァァァァン――――――――――――――――――――――!!

激しい轟音と共に、振り下ろされた鋼鐵は、城下の地面を大きく抉りながら、瞬をめがけて真っ直ぐ斬り進んでゆく。


「あ、やべぇ」

そういうか否や瞬は、屋根の上へと急いで上っていった。



「ふぅ…、危なかった…」

「おい」

「ん?なんだ、陰陽師」

「先ほどから貴様は何をしている?」

「何って…奴の攻撃をかわしている…?」

疑問系になった瞬に言葉を返すわけでなく、睨みつける翔。


「冗談はこれぐらいで…」

「貴様が言うと冗談に聞こえん」

「お褒め頂き光栄です…ってな」

コミカルな笑みを浮かべる瞬。

その反対に、一層睨む翔。


「さて、本当に冗談はさておき…。あれ(・・)妖刀だな」

「あぁ。しかも、かなり使い込まれている」

「うーん…とな、あれは元は普通の刀だったっぽいんだよなぁ…」

「普通の刀だと?あれほど大きな妖気を発しているのに、か?」

「あぁ、おそらく憑依型(ひょういがた)の妖だろうな」

下で酔いしれながら、刀を振舞い続ける相模。


それを必死に相手する、瞬が率いる妖たち。

      フゥ――――――――――――――――――

キセルの煙をはく瞬。


「煙たい」

「これは、失敬~」

瞬は悪びれた風もなく言う。


「見た目と言葉に、そぐわない習慣だな」

「キセルを吸っていることが、か?」

「あぁ」

確かに、その通りである。


「人それぞれということさ~」

「妖のくせに」

「るせぇ」

口調が崩れる瞬。


「先ほどまでと、随分口調が違うようだが?」

すかさず突っ込む翔。


「気のせいだろ~?」

飄々とかわす、瞬。



「さて。話を戻すよ?

 ―――――『憑依型』は、対象に憑依することで、己の妖力を発揮する…。

 俺のとこにもいるが、こんな奴(・・・・)は久しぶりに見たな~」

「こんな奴?」

「はっ、最近の陰陽師は…これだから僕たちに、なめられるんだよ~」

「ほっとけ。――――――で、お前の言うこんな奴(・・・・)というのはなんだ?」

「アイツは、『憑依型』の中の稀に生まれる、『(じゃ)の目』って奴だよ~」

「傘のあれか?」

      ぶほっ!!

煙が変なところに入り、むせ返る瞬。


「か、傘て…。お前、本当に陰陽師か~?」

腹を抱え、場違いなくらいの大きな声で笑う瞬。


「『邪の目』っていうのはな、憑依型で言う悪い方の奴、と言えば一番分かりやすいかな?

 対象に憑依することにより、幸運を授けるのを『(さち)の目』。

 幸の目の代表的なのは、座敷童子とかだね~」

首をかしげる翔。


「座敷童子?あれは憑依しないだろう?」

「する奴もいるのさ~。家とかに、ね。

 で、『邪の目』の代表的な奴は、座敷荒しとかだね~」

「なるほどな…。で、あれが『邪の目』なのは分かったが、どうすればいいんだ?

 憑依してるとなると…あの刀ごと滅するか?」

「んなことしても、奴はもう刀から出てこないよ~」


「なら―――」

「まぁ、そう焦んないの~」


      フゥ―――――――――――――――――――


「煙たい」

「は~い、失敬~」

適当にスルー。


「奴を引っ張り出すにはな、陰陽術であるだろ?

 人に取り付いた妖を祓う奴が」

赦式(しゃしき)を使うのか?」

「そうそう、それそれ~」

「あれは発動するにあたって、手順を踏まなければならない…」


「その時間を、僕らが稼いであげる。だから―――――」

「俺はその間に組み上げろ…ということか」

「分かってんじゃないの~」

ニッ、と笑う瞬。


「いいだろう。十分…いや、五分稼げ。その間に組み上げる」

「出来るの~?」

翔を挑発するように言う瞬。


「最近の陰陽師の力、見せてやる」

一瞬面を食らったような顔になったが、瞬は急に笑い出した。


「はははははっ、こりゃ傑作だ。ここ数年で一番笑ったかもな~」

と、瞬は言うと出に真っ直ぐ握った拳を向けた。

「ほら、成功させるんでしょ~?」

「当然だ」

そういうと、翔も瞬に拳を向け、コツン、と音を鳴らした。


「やっとお出ましかい。作戦会議はもう済んだかぁ?」

相模が舌をたらし、そこからよだれではなく血が滴る。

「さて…始めるとするか…」


無音氷砕(むおんひょうさい)


瞬の言葉と共に、瞬の右手に握られている一丁の銃から、冷気があふれ出す。

瞬は銃口を相模へと向け、静かに引き金を引いた。


音の存在しない世界。


銃声が鳴らずに、弾だけが真っ直ぐ相模に向かって飛んでゆく。


「ほら、避けねぇとお前――――――――――――死ぬぞ?」

銃弾は真っ直ぐ相模に向かって飛んでゆく。


時が流れるのが遅くなったような…そんな感覚の世界で、音もなく銃弾は相模を貫く。


「グァーッ!!」

弾は相模の右腕を貫き、氷らせていく。

右腕を押さえる相模。


「貴様ぁ…!!何をした!!」

「別に、少し砂雪の力を借りただけだ」

「何ぃぃい!?貴様ぁ、まさか既に契約を交わしているのか!?」

「だとしたら?お前はここで滅びる。決定事項だ」

そう言うと、瞬は再び銃を構える。


左手に握る銃から、冷気を帯びた弾が繰り出される。



「あ…あの…」

と、先ほどまで口をかたくなに閉じていた子供がはじめて開いた。

「ん?どうした?」

「お兄ちゃんたちは、怖い人…?」

「ははっ、そうかもな」

顔をこわばらせる子供。


「安心しろ、僕たちは、お前を殺す、なんてことはしない」

黙り込む子供。

「それでも怖いってんなら、あの姉ちゃんとこに行け。アイツは、人間だ」

その言葉に、首を左右に振る子供。

「…お兄ちゃんといる。いてもいい?」

「あぁ、構わない。しっかり摑まっとけよ」

「うん!」


力強く頷く子供を一瞥し、瞬は相模に近寄る。


「頭が狂ったかぁ!?ここは、鋼鐵のテリトリーだぁぁぁぁああああ!!」

鋼鐵を大きく振り上げる相模。


瞬は、その好機を見逃さなかった。


「装填。我は望む、ソナタと共にいることを!!」

がら空きになった相模の懐に踏み込み、心臓に銃を当てる瞬。




氷冷波(ひょうれいは)




「ぐ、ぐわぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!」

氷付けになっていく相模。


そして、銃を静かに下ろす瞬。


「うせろ、目障りだ」


パリィィィィィィィィィィィィィィィィィィン

というけたたましいが、綺麗な音と共に、相模は砕け散った。


が、刀は…鋼鐵は砕け散ることなく残った。

「陰陽師、僕の役目は終わったよ~」



「あと少しだ!!もう少し待て!!」

(くっ…思っていたより時間が掛かっている…)

翔の視線の先には、黒いオーラを帯び、妖しく光る鋼鐵。


「もう少し待て、ね…」

「お兄ちゃん…」

瞬にきつくしがみつく子供。

その子供の頭を、優しく撫でてやる瞬。


「大丈夫だよ。僕がいる。僕を信じて。――――――――出来るよね?」

「うん」

震える声で言葉を返す子供。

(とはいっても、だ…)


不気味に、妖しく光る鋼鉄は、瞬には見えていない。

両目を包帯で覆っているため、感じるのは空気を押しつぶそうとしている妖気だけだ。


(まずいな…妖気が順調に大きくなっていってやがる…)

と、次の瞬間。

「妖遠の妖ぃぃ…陰陽師ぃぃ…私を…私に……」

急にしゃべり始める鋼鐵。

(…なんだ……?)


「私に喰われろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!」

と言い、近くにいた瞬に、襲い掛かってくる鋼鐵。


「な!?」

瞬は目を見張った。

なぜなら、鋼鐵…つまり、刀の刀身が、刃と峰の間のところで裂け、口を開いた怪獣のような状態で瞬たちに襲い掛かってきたからだ。


「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええええええ」

瞬たちに襲い掛かろうとした、そのとき。


「赦式、創送曲第17番」

が唱える赦式が発動し、瞬たちに届く一歩手前で鋼鐵は止まった。

遅筆ですみません…。


これからもよろしくお願いします。

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