妖遠の妖-どちらでもない存在-
「遅かったね、陰陽師」
フゥ――――――――
瞬がキセルの煙を吐きながら言う。
「少し準備に手間取ってな…。そんなことより、何か分かったのか?」
「当然~」
(さすがは妖…)
「これぐらいのことは、出来て当然でしょ~?」
「!!」
瞬が出の心の中を読んだかのように、そう言った。
「お前…覚か!?」
フゥ―――――――――
煙を吐く瞬。
「答えろ!」
「…愚問だね。そんなことは、自分の頭で考えてよ」
あくまで白を切る瞬。
「…まぁいい。それで、何が分かったんだ?」
話を本題に移す翔。
「僕たちが集めた情報を、もとにすると~…」
瞬が少し下を見る。
「今日にもそいつは、修羅の妖になるよ」
瞬が言い切った。
「…それは本当か?」
「こんなことで嘘をついて、なんになるっていうの~?」
飄々と構える瞬。
「…だとすると、早く始末しないといけませんね…」
今まで翔の隣で黙っていた、愛が口を開いた。
「うん。次に奴が出てきそうなところは、既に分かっているよ。
―――――――あとは、そこに行くだけ」
瞬がそう言い切った。
「ほう…。奴は必ずそこへ来る、と言っているようにも聞こえるが?」
「奴は必ず来るよ」
(尚も言い切るか…)
「分かった。そこへ案内しろ」
「言われなくとも」
瞬たちは二人の陰陽師を引きつれ、その場所へと向かった。
●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○
月明かりが、闇夜を照らす。
「十六夜…いい月だ…俺がになるには最高の月だ…。
天までもが俺が神になるのを、祝福しているようだ」
血色に染まった刀を手に、男は言う。
「ぃ…、いぃ…」
男の前で、首を横に激しく振る幼い子供。
その横には、首のない女の死体が転がっている。
「よぉ、ガキぃ。久しぶりだなぁ?俺のこと、覚えているよなぁ?」
ぎゃははっ、と下品に笑う男。
「さ、相模…大、二郎…」
「ぎゃははっ、そうだぜぇ!お前を殺そうとした、役人の相模大二郎様だぜぇ!!」
後ずさりする子供。
だが、恐怖で体がうまく動かず、その場に倒れこむ子供。
「死刑執行と行こうじゃねぇか、ガキぃ!!」
相模が、血色に染まった刀を振り上げた。
「あばよ、ガキぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
(神様…!!助けて!!)
恐怖で動くことも、叫ぶことも出来ない子供は、ただ祈るしかなかった。
と、その時。
バァァァ―――――――――――ン!!
一つの銃声が聞こえ、相模は手を止めた。
「間に合ったようだな」
フ―――――――
屋根の上に立ち、口に銜えたキセルの煙をはく瞬。
瞬の右手に握られている拳銃の銃口から、煙がたなびいていることから、先の銃声は瞬が鳴らしたものであろう。
「役人が辻斬りとは…。しかも、幼い子供を殺して何になるというんだ?」
翔が言った。
下では翔と愛が、それぞれ式神を出し、構えている。
「役者はそろったぁぁぁぁぁ!!」
不気味な笑い声と共に言う相模。
「役者…だと?」
瞬が問う。
「十六夜の月、陰陽師、そして…」
瞬を指差す相模。
「お前だ、妖遠の妖!!」
フゥ―――――――
「妖遠の妖…ね…」
「お前の血、陰陽師の血、そして十六夜の月…この三つがそろったとき、俺は最強の妖になれるんだ!!」
「妖遠の妖…?それが瞬、お前なのか…?」
翔の真剣な眼差しが、瞬を捉える。
「妖遠の妖…ってのはな、人でもなければ妖でもない…。
いわばどっちつかずの存在だ。…僕はそのどっちつかずの存在。どっちつかずには理由がある。
いや…すべての物事には理由がある。僕という奇異な存在が、生まれてしまった理由にも…ね」
「ま、とりあえず。子供は返してもらえたから、よしとするかな」
そういう瞬の右手には、先ほどまで相模に殺されかけた幼い子が抱かれていた。
「お前、いつの間に…?」
「さてな…」
飄々と質問をかわす瞬。
(まぁ、いい…。それより今は―――――)
「お前を滅する方が先だ」
相模を見据える翔たち。
フゥ―――――――
翔がキセルの煙をはいた次の瞬間には、戦闘が開始されていた。
長くなってしまい申し訳ない…。
「妖の巣食う屋敷」は年内最後の更新となります。
来年もどうぞよしなに。